『どこから見ーてもスーパーマンじゃない! スペースオペラの主役になれない、危機一

髪も救えない! ご期待通りに現れなーい!』



 ノリがいい割には後ろ向きな歌詞に即されて、俺達はプレゼントを回し続ける。中村は

楽しそうに笑いながらスムーズに回していく。他の面々もとにかく外れを引かないように

ととりあえずはすんなり回しながら、いつタイミングをずらすかと牽制しあっていた。

 そんな中でこういう奴もいた。



「はっははは! 回しているぞ〜」



 お約束のごとくプレゼントを自分の前で支倉させる支倉。

 それが俺の隣でやるものだから、次々とプレゼントが俺の手の中に溜まる。

 流石にプレゼント周回が止まったので皆が非難の視線を向けた。俺はそれに後押しされ

て支倉へと叫ぶ。



「支倉! いい加減進めろ!」



 そう言って支倉の両手に一気にプレゼントを乗せた。支倉は焦って全てをその場にぶち

まけてしまう。



「馬鹿!」

「早くしないと一番終わるわよ!」

『駄! 目! じゃーなーい! 駄! 目! じゃーなーい! スター! ダースト! 

ボーイズ! 駄目じゃない〜』



 どうやらサビに入ったようだ。このままでは支倉が全てのプレゼントを受け取ることに

なる。危機感を感じた物は……俺の手元にあった。



「支倉! 早く回せ!」



 支倉は中村へと律儀に一個ずつプレゼントを渡していく。最初に支倉から中村に手渡さ

れたプレゼントが回って……俺のところにやってきた。



『スターダストボーイーーーーーーーーーーーーーーーズ!』



 一番最後の絶叫が響いたと同時に、俺は手にあった危険物を支倉の手に押し込んだ。



「はい、終了〜」



 中村が立ち上がり、音源を止める。

 支倉は最後の足掻きで手の中のプレゼントを中村に手渡し、その次の青島へと送ろうと

思ったのだろうが、ちょうど中村が立ってしまったために危険物を持ったまま虚空に泳が

せる。その顔は罠を仕掛けて自分ではまってしまったと言う、正に今の状況にふさわしい

ものだった。



「じゃあ皆、何をもらったのか開けてね〜」



 元々プレゼントは円になった順に回っていたから、本当ならば自分の持ってきた物がそ

れぞれに当たるはずだった。でも、支倉が引き止めたせいでほどよくばらばらになったら

しい。俺が持っていたのは俺が持ってきた物じゃない。



「じゃあ、まず私から〜!」



 そして中村は袋を開けた。

 ……俺が持ってきたプレゼントを。



「私のは――」



 縛られていたビニール袋の口を開けると中村は硬直した。

 何故か口が開けられたことで袋が薄くなったかのように、中に入っている物の色が見え

るようになる。

 中村は少し顔を引きつらせたまま、中身を取り出した。



「……サンタさんスカート」



 中村の手にはスカートが握られていた。

 商標は『サンタッ娘スカート』

 サイズはMサイズ。真っ赤な生地が目に痛い。全員が中村の手によって吊り下げられて

いるスカートを口を半開きにしたまま見ていた。

 いや、翔治だけは口元に手をあてて笑いを堪えている。



「いやー、なんか見た瞬間これだ! って思ったんだよなぁ。だってクリスマスだし」



 俺は場に流れる不穏な空気を察して、早口に喋った。でも五人の視線は、俺から零れ落

ちていっている大切な何かを見ているのように、どこか空々しい視線を向けてきている。



「……すみません」



 いたたまれなくなって、正直に謝っていた。

 そこでようやく視線が外されたのか、一気に気分が楽になる。

 中村もスカートをまじまじと見つめて、やがて笑顔になった。

 そのまま青島のプレゼント発表へと続くかと思った時、異常な事態が発生した。



「着替えてくるね」

「まじで!?」

「な、中村さん!!!」



 俺と支倉の声が被る。支倉なんて顔を真っ赤にして何か鼻血が出そうだ。

 俺達に笑顔を向けてから、中村はスカートを持ったまま部屋から出ていった。なんと鼻

歌まで歌って。部屋のドアが閉まった後で静まり返る室内。

 ネタとして受け取ることは予想範疇だったが、まさかすぐさま穿きに行くとは誰も予想

していないだろう。青島でさえ中村の行動に唖然としている。支倉は口元を抑えて声を押

し殺しているらしかった。目元が笑っているから、多分笑い顔を見られたくなかったんだ

ろうが。

 何か気まずい静寂を破ったのは、青島だった。



「じゃあ……私も開けるね」



 袋を開ける青島。手に握られているのは……サンタの人形だった。



「あ、それは俺のだ」



 信が手を上げて報告する。

 特にひねることも出来なかったのだろう。というよりも、あいつの場合はみなほへのプ

レゼントを考えることに必死だったんだろう。

 受験勉強のために来てないみなほのために、すでに買ったはずだ。



「まあ、特にひねることも考えつかなかったから……これでいいだろう?」

「そうね。充分だよ。ありがとう」



 青島は嬉しそうに人形を眺めている。そこで空気に和やかなものが入った。

 これならすんなり進みそうだ。



「じゃあ、次は俺――」



 次に翔治が袋を開けようとした時――



「おまたせ〜」



 中村がやってきた。かなり、いいタイミングで……。

 中村は確かに俺が持ってきたサンタスカートを身につけていた。

 そして、上もスカートに合わせて赤いカーディガンを着ている。

 よって目に刺激が強い配色の服を着た女の子が一人出来あがった。



「どうかな? 似合うかな?」



 スカートの端を軽く握って首をかしげる中村。立っている彼女に対して俺達は座ってい

るから、少し移動したら中身が見えてしまうだろう。それがやけに恥ずかしくなって、俺

は中村から少し離れた。一方支倉は少しずつ近づいている。



「な、な、なななななな中村さん! そんな破廉恥な格好をしてはいけません!」



 言っていることは正しいが、やっていることは中村への接近と不埒な気配を感じさせて

いる。支倉はどうやら男の性に負けているらしい。他の男二人はどうかと思ったが、彼女

がいる二人は唖然とはしていたけれど、特に何の行動もしてない。



「じゃあ、プレゼント発表を続けようよ」



 中村は足を横にして座った。スカートは短くてまた中が見えそうになるけれど、絶妙に

隠している。

 それから翔治と信がそれぞれ袋の中身を確認し、最後に支倉の順番となった。

 中村の格好にもみんな慣れたからか、もうさほど気にしてはいない。

 気にしなくなるのが早い気もするけれど。



「……俺のはいいだろ?」

「いや。開けてくれ」



 すでにみんなの視線は中村よりも支倉に集まっていた。

 自分で持ってきたものにも関わらず、支倉は躊躇っている。俺は思わず、支倉の持って

いた袋を取ってしまった。



「あ!」

「ぱぱっと開けよう……って……」



 袋の口が開いて、中から現れたのは……名前は忘れたけど用途は分かるものだった。

 一つ例を出すと……焼肉屋で肉を掴むあれだ。



「……さすが支倉だな。狙うところが違う」



 そしてそれを自分でもらってしまうとは……不幸な星の元に生まれたものだ。



「ふはは! これで肉も取り放題よ!」



 笑いながらそう言って、支倉は自分のむなしさをごまかしていた……。



* * * * *
「……さて、もうそろそろお開きだね」  時計を見るともう十時を回っていた。  支倉が残っていた料理を、自分のもってきたプレゼントで強引に食べようとしたりなど また楽しめた。  時間が経つのは本当に早い。 「もうこんな時間か……青島、大丈夫?」  流石にこの時間、女の子一人で帰るのは危なそうだ。でも青島は携帯電話を取り出して ウインクしてくる。 「大丈夫よ。親召喚するから」  そう言ってメールを打ち始める。文字を打つ親指の速さは凄まじい。俺は思い切り背伸 びをするとコートを着始める。と、そこで中村が俺の前に立った。 「? どうした?」 「はい」  中村が差し出した手の上には、一個の飴玉が乗っていた。俺が素直に受け取ると、中村 は支倉や翔治にも近寄っていく。  どうやら個人的に皆に対してのクリスマスプレゼントのようだ。 「じゃあ、私は親が来るまで待ってるから、男たちは帰った〜」  青島がさっさと行けとでも言うように手を振ってきた。  まあ、全く悪意がなかったから気にはしないけれど。  支倉は名残惜しそうに中村に話し掛けていた。 「いやー、それにしても残念。本当のクリスマスを中村さんと過ごしたかったです」 「支倉君はガラナクリスマスを過ごしてよ」 「その名前はちょっと嫌ですね……」  そして、その場は解散になった。  家に帰ってベッドに横になっていると、メールが届いた。  着信音は中村のものだ。  地味に一番仲がいいあいつらの着信音は全て違うのに変えてある。 『今日は楽しかったよ〜。そうそう。私、終業式から家族で外国旅行に行くから、新年は 一緒に祝えないから。残念〜。帰るのは一月三日だから、そこから初詣行こうね〜』  メールの文面まで中村っぽい。  でもそうか……なんかはじけてると思ったら、しばらく日本にいないのか。  さすが英語家族。 (……ていうか、この文面)  何か、二人で祝ったり初詣行ったり出来ないことを謝るような文面のように感じた。 「まさかね」  おそらく俺の希望だろう。  そんなことを考えながら、俺は疲れた身体を休めるために風呂に入る準備を始めた。  ポケットから中村にもらった飴玉を取り出して、口に入れながら今日のことをぼんやり と考える。  どっと疲れが出たけれど、今日みたいなパーティもいいなと、素直に思った。 「……さーて、風呂入るか」  変えのシャツと下着とタオルを持って、飴玉を舌の上で転がしながら俺は部屋を出た。


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