中村が提案したクリスマスパーティは中村の家ですることになった。

 面子は中村に青島。俺と支倉、翔治に信。そして……みなほ。



「みなほちゃん久しぶりに逢いたいし。あ、でも受験かぁ。大丈夫かな?」

「ああ。あいつ、なんだかんだ言って学力は充分足りてるから、大丈夫だとは思うよ」



 中村の不安そうだった顔が明るくなる。

 あの妹にどうしてそこまで逢いたいのか……。そう言えば初めて逢った時に弟と勘違い

してからかなり仲良くなってたような気がする。



「そう言えば、どこを志望してるの?」

「ここだよ」



 青島の問い掛けに俺はすんなり答えた。そして場に沈黙が落ちる。

 周囲を見てみると、誰もが驚いた顔をしてる……そういえば言ってなかったよな。



「じゃあ、来年は俺達の後輩になるのか」



 支倉はそう言って、自分の発言にはっとした表情になった。

 何か切ないような嬉しいようなという、そんな表情だ。



「思えばさ、俺達もう少しで二年生だな」

「……そうねぇ。あと三週間もすれば来年だし、三ヶ月もすれば二年生ね」



 支倉の言葉に続いて嘆息交じりに言う青島。

 つい最近まで中学生だと思ったのに、いつの間にか高校生活も四分の三も過ぎていて、

後輩が入ってくるんだ。



「そう考えると、あれだな。俺達、もう少しちゃんとしないとな」



 俺は自然とそう呟いていた。

 俺の発言に、場の空気が凍りついた。

 何か急に冷え込んだ気がするが、ふと気が付くと暖房が止まってるから寒くなるのは当

たり前か。

 でも……その事よりも俺の発言にみんな凍りついているようだ。



「高瀬……悪いものでも食べたか?」

「高瀬君、面白いこと言うね」

「明日は雨が降るかしら」



 三者三様の視線の意味を考えようとして、バスがやってくるのが見える。

 学校に来るバスは五分ほどバス停で止まってるから、ここからすぐ向かえば乗れる。そ

れだけに、追求する時間はなかった。



「ま、高瀬のことはほっておいて、クリスマス会は……中村さんに任せていいんですね?」

「そうだね。任せておいて〜」



 そう言いながら前を歩いていく中村と支倉。

 青島と俺が自然とその後ろを歩くことになる。

 そこで青島が前の二人に聞こえないように声を潜めて俺に話し掛けてきた。



「最近、渚の様子変わってきてない?」

「うーん……ま、変わってきてるだろうけど、中村は中村だろ」



 俺は思ったことをすんなり言った。青島は俺の言葉に少し驚いていたけれど、やがて笑

って中村の隣へと走っていった。



(そう。しっかりしないとな)



 二年になるのもそうだけれど、中村のことを支えられるような男にならないと……いけ

ないだろうな。高校生ももう後数ヶ月もすれば中盤に入るんだし、あと一年経ったらもう

大学受験まで考えなくちゃいけなくなる。

 多分だけど……中村と同じ大学に行く事はないだろう。

 中村は多分文系だろうし、俺はおそらく理系に進むはずだ。同じ大学の違う学部と言う

ことも考えられるけど……。



(どちらにせよ、高校の間に、決着はつけたいかもな)



 ただの友達で終わるか、その先に進むか。

 そんなことを思いながら、俺も小走りで三人へと近づいていった。



* * * * *
 今年もあと二週間となって、授業を受けている俺達も大分気が抜けてきていた。それが 授業している先生も分かるのか、どの時間の先生もいらつき気味になってる。 「はい。じゃあ、ここまで」  チャイムが鳴ると共に、少し呆れた調子で古典の高田先生が言った。金曜日の六時間目 が終わると言うことは、もう週末の二日を過ごすだけだ。そして、俺にとっては今までよ りも楽しい週末になる。  ホームルームも上の空で過ごして、掃除もそこそこに終わらせると、俺はすぐさま学校 から出た。  明後日の日曜日にはいよいよ中村の家でのクリスマスパーティだ。その時に渡すプレゼ ントを買わないといけない。 「何にしようかねぇ……」  あんまり高いものを買うのも、ということで百円ショップに売ってる物と限定されたか ら、ここはセンスを要するだろう。  一番の強敵はやはり支倉だ。何を買ってくるか予測がつかない。  俺は……どうしようか。 (ネタに走らないことでネタにするか)  つまり普通にプレゼントを買うって事にした。  しばらく歩いてデパートに着くと、クリスマスまであと一週間だからかどこもクリスマ ス風の空気に包まれていた。  どこもかしこも雪を表すモコモコしている物がついていたり、サンタの人形が飾られて いたりしていた。心なしかカップルの姿も多い気がする。 (どういうことだ。普通、恋人のプレゼントは一人で買いに来るんじゃないのか?) 「あ、高瀬っち」  かけられた声に驚いて後ろを振り向くと、その声の主がにんまり笑ってる。 「翔治……お前もプレゼント買いに来たのか?」 「うん。もう買ったよ」  そう言って翔治は袋を掲げた。中味は微妙に見えない。  百円ショップの袋はどうやら他のところよりも素材が厚いらしい。 「高瀬っちは何を買うの?」 「それを言ったらネタにならないだろう」  と言いつつ、俺の足はある場所で止まっていた。今までクリスマスの飾り付けを見なが らショップの全部を回ってみたけど、俺を刺激するのは目の前にかかってるこれしかなか った。 「……高瀬っち、こんな趣味があったの?」 「もちろん、俺に当たらないことを祈る。皆には内緒だぞ」  俺は覚悟を決めてそれに手を伸ばした。
* * * * *
「クリスマスパーティーファイヤー!!」  中村が叫びながら手に持ったクラッカーを鳴らす。  俺達もほぼ同時に持たされていたそれを鳴らした。中に入っていた紙ふぶきが散らされ て火薬の匂いが部屋を包む。  中村の部屋に俺を含めて六人と言うのはちょっと手狭だけれど、圧迫感を感じるほどじ ゃない。みなほを入れれば七人になっていたかと思うと、少し安心する。 「でも、残念……みなほちゃんに逢えないのは」 「当人も珍しく勉強してるからな」  少し寂しそうに呟く中村にフォローを入れてみる。フォローと言ってもその通りだから 仕方が無い。何だかんだ言って、あいつはちゃんと勉強している。立派な受験生だ。 「いや、みなほちゃんはいつも結構勉強してるぞ。俺が部屋に行ってもしてる時あるから な」 「お義兄さんは黙っとくれ」 「誰が義兄だ!」  信も中村の落ち込みを察したのか少しおどけた口調で口を挟んでくる。俺はそれに応え て冗談で返した。何か本気で恥ずかしがっていたように見えたのは気のせいだろう。  中村も俺と信のやり取りに笑って、すでに寂しさは無い。俺はそこで、あらためて部屋 を見回した。  この部屋に入るのはもう何度目かにはなるけれど、やっぱり緊張する。 「というわけで、ちょっと早いクリスマスと忘年会を始めます!」 「わー!!」  大声を上げて強く拍手をする支倉。その顔が赤く染まっているのはけして酔っているわ けじゃない。  ……でも、言動は酔っている人みたいだ。  ガラナが始まる前からもう二本空いていることが原因なんだろうか。 「さて、もう少しで今年も終わりですが、頑張っていきましょ〜」  ……何故か中村も今日は異様にテンションが高い。  部屋に充満するガラナ臭のせいだろうか? 「……ねえ、換気しない?」  青島が口元を抑えながら俺に囁きかけてくる。同意して、俺は無言で窓を開けた。 「高瀬君寒いよ〜」 「寒いが俺はこの部屋の匂いに耐え切れん」 「何を言う! いずれ鼻腔は何も感じなくなるぞ!!」 「それが嫌」  中村と支倉二人の抗議を遮って、俺は窓を全開にした。しばらく間を置いてから窓を閉 めると、部屋は冷えたけど匂いは消えていた。 「じゃあ、早速料理食べようよ!」  その瞬間を待ちわびたと言わんばかりに翔治が言った。  視線の先には丸テーブル。  その上に置かれているいくつかの料理だ。  お寿司に骨付きの鶏肉などなどたくさんある。部屋に入って、これを見せられた時は驚 いたものだ。 「翔君の言うとおリ食べようか!」 『いただきます!』  こうして、クリスマス会と言う名の食事会が始まった……。  食事の時間もけっこう過ぎていた。  その間に話すのは四月に初めて会った時からの事。  五月のゴールデンウィークに初めて遊びに行ったことや、体育大会での事。学祭や夏休 みの間に起こった出来事など……いろんなことを話している間に二時間はすぐに過ぎてし まった。 「ぱぁ……げふ」  支倉の息が凄まじくガラナ臭を帯びている。  すでに缶が五つ空いていた。普段から三本飲むと致死量だといっている支倉なのに、自 分で限界を破っている。その影響からかかなり目が血走っていた。 「だから……ガラナはな、コーヒーの三倍のカフェインがあるのだよ……だから飲みすぎ るとやばい……がふ」 「いいからお前休め」  俺の言葉に支倉は横になった。そのまま転がっていって部屋の端にぶつかる。皆が「し ょうがないな」という視線を向けていたが、そのまま支倉は寝てしまった。 「じゃあ、支倉君を起こすのもなんだし、プレゼント交換しちゃおうか」 「何気に酷い〜。なぎっちゃん」  中村の言葉に笑いながら反応する翔治も酷いとは思うが……。  とりあえず誰も反論はないのか、自分が持ってきたプレゼントを取り出し始めた。  みんな百円ショップで買ってきたのか袋が一緒なのが面白い。動く範囲は同じと言うこ とか。 「はい、じゃあ、みんな円になって! 今から歌を流すから一番が終わるまでプレゼント を回し続けるよ〜」 「俺を……混ぜ忘れるな!」  中村に従って円になったところで、支倉が復活してきた。俺と中村が隣同士になってい たところへと割り込んでくる。折角良い位置だったのに……。 「じゃー、ミュージックスタート!」  中村がCDプレイヤーのスイッチを押すと、軽快な音楽が流れ始めた。  ラッパがメロディを奏で、ボーカルが一気に叫ぶ。 【スターダストボーーーーーーーーーーイズっ!】 「な! 何だこの歌!」 「ほら、高瀬君回して回して!」  横から来るプレゼントの袋をせかされて回す。  一つ、凄く妙な感触がする袋が回ってきて、即座に感じた。 (これだけは嫌だ!)  見なくてもそれが完全なネタの物であり、支倉が持ってきたであろう事が分かる。  隣の支倉が俺の表情が変わったことに含み笑いしたこともそれを確信させた。  そして、プレゼント交換は瞬時に戦場と化した。


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