200X年9月2日 午前十一時 北海道、鈴木匡の家
「という話を考えてみた。今度の大学祭で放映でもしようか」  朝から家に来てテレビの『鉄道戦隊ヒカレンジャー』最終回を見終えた後、田中士郎が 話したストーリーを聞き終えて、鈴木匡はため息をついた。随分長い間話された割には、 何か空虚さが残る話であったからだ。 「ていうか、俺死ぬの?」 「それをぼかすところがこのドラマのいいところだ! 人の想像力により無限に膨らんで いく! そうすれば続編を希望されるはずだ!」 「続編作るの?」  士郎が突拍子もない事を言うのはいつもの事だ。  以前、『富士山に登りたい』と言って二人で登山しに行った時は富士山に入る直前にな って『カキ氷を食べに行こう』と北海道へと舞い戻ってしまった。  また『鈍行に乗っていけるところまで行こう』と言って準備を整えた次の日に、『今日 はなます斬り忍法帳の発売日だ』と出発を取りやめた。  ……つまりは士郎は気分屋なのだ。  しかも、ただの気分屋ではない。 (常に本当にやるかもしれないってことが問題なんだよな……)  士郎は不可能に近いことでも平気でやろうとする男だった。だからこそ、いきなり突拍 子も無い事を言って笑っていた友人達が、本当にそれをしたことで何も言えなくなったと いう光景を何度も匡は見てきた。  そんな士郎を許せる匡だからこそ、大学まで付き合いが続いているのだろうが。  現に、今日も旅に行こうという話だったから匡は旅の用意をしたのに、九時に家に来る と同時に士郎は『ヒカレンジャー最終回がいきなり今日やってやがる!』と言って匡の家 で見たのだ。その後に士郎は旅に出る事をキャンセルし、旅を題材にした映画でも作ろう と言い出して一時間半にも及ぶ話を匡に聞かせたのだった。  普通ならばこの気まぐれさに人は呆れるだろうが、匡はいつもの事だと諦めていた。 「なあ、作ろうではないか! キャストは俺達二人。あと二人くらいアシスタントが欲し いな。俺達が出演しているからカメラを回す奴と、出来れば金管理とかいろいろしてくれ る奴が。考えた中ではあまりしてなかったけどいろんな企画とかして見る人を楽しませる 物を作りたいんだ!」  目を子供のように輝かせて士郎は言う。その情熱が真っ直ぐ向けば、大学でもいい成績 を取れるだろうに、と匡は気付かれないようにため息をついた。  ドラマと言うより紀行ドキュメンタリーと言う感じだろう、と突っ込もうにも勢いが激 しいため、士郎の勢いを落ち着かせるために違う言葉を匡は挟んだ。 「で、作るとしたらなんてタイトルにするんだ?」 「ああ。それなんだが、いろいろ考えていた。シンプルでかつ、独創的。人々がどんな内 容なのかを想像し、ドキドキワクワクするようなタイトルを。そして考えついたタイトル は……これだぁああ!!」  士郎は持ってきていたリュックからわら半紙を取り出した。そこに習字で使う筆で書か れた文字がある。素人から見てもあまりに凄い達筆であり、士郎の気合の凄さが伺える。 「すまん。達筆すぎて読めない」 「なにぴー!? しょうがないな! 読んでやるから耳をかっぽじって良く聞けぃ!」  左手を顔の横に持ってきて掌を力一杯広げる。右手はわら半紙を俺に突きつけ、右足を 前に出し、左足は後ろですり足をしていた。どこかの奉行か歌舞伎の真似のようである。  首を軽く三回転半ほど回してから、士郎の口からタイトルが紡がれた。 「こんなんでどうでしょう」  それが、名前だった。 『こんなんでどうでしょう・終幕』


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