ヴェリアリスからの攻撃は益々激しさを増していく。その合間にヴァイ達は攻撃を仕掛

けるがヴェリアリスの攻撃と相殺されるか、当たっても再生能力のためにダメージをなく

されるかのどちらかだった。

「『白』き咆哮!」

 ヴァイの放った光熱波はヴェリアリスの光線とぶつかりあう。どちらも譲らずにしばら

くいた後に大爆発を起こした。巻き上げられた地面の破片を吹き飛ばして更なる光線がヴ

ァイに殺到する。

「『白』壁!」

 横からヴァイの前に飛び込んできたマイスが魔術で防壁を張る。光線は光の壁にぶつか

ると消滅した。

(マイスの魔力が上がっている!?)

 以前と比べて明らかにマイスの魔術の力が上がっていた。前までなら光線をそのまま貫

通させていただろう。

「先生! なるべく激しく攻撃してください!」

「どういう事だ?」

 更に迫ってきた光線を避けながらヴァイとマイスは横に走る。

「あいつにさっきの攻撃を出さすんです。そうすればレイ達が何とかしてくれます!」

 マイスの口調には確かな自信があった。ヴァイは躊躇わずに頷く。

「分かった。全力でいく」

「いいだろう」

 別の声が爆風の奥くから聞こえてくる。いつのまにかミスカルデとスフィーダがヴァイ

達の眼の前に来ていた。

「ゴーダ達が何をする気か知らないが……、手並みを見せてもらおう」

「同じく」

 荒れ狂う光線の嵐の中、四人はヴェリアリスへと向き直り、その場にしっかりと立った。

「喰らえ……」

 ミスカルデの両掌に凄まじいまでの電流が集束する。

「『白』き……」

「『白』……」

 最大威力の一撃を打ち込むために精神を集中させるヴァイとマイス。

「全ての力よ、結集せよ……」

 両腕へと風を纏わりつかせるスフィーダ。

 一瞬訪れる、静寂。

 何も見えない、聞こえない。

 辺りを包む爆音も、光線の軌跡も、熱風も。

 全てが引き伸ばされ、現実感を失う。

「おおおおおおお!!」

「咆哮!」

「光!」

「はぁああ!!!」

 最大威力を秘めた四人の一撃は進行方向からくる光線を全て薙ぎ払い、光に包まれたヴ

ェリアリスの本体へと直撃した。

『ぐっぐががががっがぎゃあああああ』

 ヴェリアリスの叫び、それは明らかに絶叫。痛みのための絶叫だった。

『お、おのれぇ!!!!!!』

 その言葉と同時にヴェリアリスの胴体が真っ二つに割れていく。そこにははっきりと見

える、白く輝くクリスタル状の物。

「「今だ!」」

 そう叫んだのはレイとゴーダだった。

 シュンッ、と音がしたかと思うと次には剣と硬いものがぶつかりあう耳障りな音。

 その音と同時にヴェリアリスも悲鳴をあげる。

 ヴァイはそのクリスタルへと向かっていくゴーダを見た。凄まじいスピードで一瞬にし

てその場所へと姿が現れた。

「とどめだ!」

 ゴーダはスピードに乗った一撃を剥き出しの『核』へと叩き込んだ。それと光線がゴー

ダの腹を貫くのはほぼ同時。

「が……ふぅ!」

『グオオオオオオ!!?』

 お互いの苦痛の絶叫を聞きながら、ゴーダは辛酸な笑みを浮かべる。

「このくらいじゃぁ……しなねぇよ!!」

 口から、貫かれた腹から血を流しながらも立て続けに拳を叩きつけるゴーダ。その間も

『核』からの光線は発射されつづけ、ゴーダの体を貫いていく。

 ゴーダは左腕を振り上げた。しかし異様に軽い手応えに腕を見ると、肘から先がない。

「ゴーダ!」

 珍しい、自分を呼ぶ声が聞こえる。ミスカルデのようだ。もう、声の判別もできなくな

ってきた。それでも殴りつづける。その一つ一つは一撃で地面を抉るような威力を持っている。

「これが俺の最後の仕事だ! 黙ってみてろ!!」

 すんでの所で躱した光線が左眼を抉っていった。

 直後に右足が吹き飛ばされる。

 右胸にも穴が開いた。

 それでも、全身からおびただしい量の血が噴出しても、ゴーダは攻撃を止めなかった。

『お、おのれぇえええええ!!』

 ヴェリアリスがしがみつくゴーダを振り切ろうと力を集中した。その間に光線の爆撃がなくなる。

「今だ!」

 レイの剣が伸びて、その刀身間の鋼の紐をゴーダが残った手で掴む。勢いに乗せて離

れた所にヴァイが魔術を放った。

「『銀』の翼!」

 空間転移。それも、『ヴァルレイバー』を、だ。

 一撃必殺の武器となった『ヴァルレイバー』はピィィィイン、という小さな金属音を立

ててヴァイとヴェリアリスの対角線上に現れる。その一瞬後、『核』に大爆発が起こった。

『!!??????????』

 ヴェリアリスは声が出ない。自分を形成している『核』が粉々になり、自分の形を維持

できずに崩れ落ちていった。

『ああああああああ!! に、にんん、にんんげげげげげんんんごごごごごごごごと……』

 遂には言葉さえもなくなり、崩れ落ちていく。

 やがて、『古代幻魔獣・ヴェリアリス』はただの肉の塊となってヴァイ達の目の前に転がった。

 邪悪な気は完全になくなっていた。

「……倒した、か」

「そうだな」

 ヴァイはすぐさまレイの傍に倒れているゴーダの傍へと駆け寄った。既に助からない事

は明白だった。今にも永遠の旅に旅立ってしまいそうである。

「……決着、つけ損なっちまった」

「ああ」

 その声は意外としっかりしていた。ヴァイは静かに頷く。ゴーダは笑った。笑ったよう

な気がした。

「後は頼んだぞ。ヴァイ、ス……」

 ゴーダの瞳が閉じられる。ゴーダが二度と目を明ける事はなかった。





「アルスラン様は幻獣達からこの世界を支配する『古代幻獣王』の事を聞き、真の創世記

を読んだ。その後、幻獣達から譲り受けた『古代幻獣の遺産』を使って『我々』を創り出した」

 アインとライはシールの告白を黙って聞いていた。それはただ聞いただけなら到底信じ

られない事だったが、今までの経緯から『古代幻獣の遺産』の力は知っている。目の前に

力なく座っている女性は自分達と変わらない人間に見えたが、『創られた』存在なのだ。

「『最終章』を……滅亡を終わらせる存在なら、どうしてわざわざ進んで『古代幻獣王』

を復活させようとしているんだ? つじつまが……合わないじゃないか」

 ライが少し躊躇したように言葉を詰まらせる。何か自分がひどくきつい事を言っている

ように思えたのだ。

「どうしても『最終章』は止める事はできないのか? それが起こる事を」

 シールはアインの問に反応を示した。

「ない。『最終章』が起こる事は……陳腐な言い方をすれば運命なんだ。けして変える事

はできない。だから、手段は二つに絞られる」

「「二つ?」」

 ライとアインの声が同時に出る。それにシールは苦笑した。疲れたような、もう何もか

もがどうでもいいような、そんな笑み。

「封印するか、滅ぼすか」

「……なら、なおさら自分達で目覚めさせてどうするんだよ?」

 シールに対しては二度目の問。シールは、今度は無視をしなかった。

「わたし達は『最終章』を止めるために創りだされた。どんな事をしても。手段を選ばず

にただ、滅びを止めるために生まれてきた。そしてアルスラン様は……」

 シールは一度言葉を切ってから再び話し出す。

「わたし達の意思は、わたし達を創った存在、アルスラン様の意志でもある。あの方は誰

よりも、何よりも『古代幻獣王』を憎んでいる。どんな犠牲を払っても全力で滅ぼそうと

している」

 シールは俯いていた顔を――いつのまにか下を向いていたのだ――を上げた。目の前に

はアインとライ、二人の姿。

 自然と言葉は出ようとしていた。

「たとえ――」

 地震。

 凄まじい爆音を伴った地震が城を直撃した。あまりの揺れにシールは言葉を切り、アイ

ンとライは近くにつかまる。

 アインは最初、地震だとは思わなかった。あまりにも地震にしては大きく、爆発音が聞

こえていたからだ。四つんばいになり窓の傍まで寄っていき、外を見る。

 そして、アインは見た。

 遥か彼方、雲間に隠れてはっきりとは見えなかったが吹き上がる火の柱があった。

 黒い雲を突き破り、空に垂直に立っている。

「オレディユ山、だ……」

 アインは底知れぬ予感を止める事ができなかった。背筋を冷や汗が滑り落ちる。

「嫌な……予感だ」

 アインの傍にライが寄ってきて呟く。体は震えていた。地震の揺れのためではなく、自

分の体の内から震えているのだ。

「始まる」

 シールの小さな呟きが二人の耳に入ってきた。





「何だこの揺れは!?」

 ラーレスはあまりの揺れに馬車を止めた。大地が脈動している。この揺れの中では馬車

で進む事はもちろん、歩いても移動は難しいだろう。

「――始まった」

 フェナが顔を青ざめさせて言ってくる。ラーレスはそのただならぬ緊張感から察した。

「バハムートが目覚めたのか?」

「ええ。そして『最終章』の始まり……」

 フェナはラーレスには聞き取れないような小さな声で呟いてから、雪のブラインドで覆

われている前を凝視した。微かに見えるシルエット。

 オレディユ山は目の前だった。

「ラーレスさん。馬車はもう無理でしょう。歩いていきます」

「だが、歩いていくのも無理だぞ?」

 ラーレスの悲壮さが漂う顔を見てフェナは微笑んだ。見るものを安心させる不思議な笑顔。

「大丈夫です」

 フェナはそう言ってラーレスの手を握った。自分より何歳も年下にも関わらずラーレス

は妙に緊張してしまった。

「行きましょう」

 フェナが言った瞬間、ラーレスは体が宙に浮く感覚を得た。

 実際に彼等の体は宙に浮いていたのだ。

 ラーレスとフェナを包む薄い桃色の光。それに包まれての浮遊感はラーレスに心地よさを与えた。

「こ、これは……」

「私の魔力で創りだしたフィールドです。空気抵抗をカットできますから、一気にオレデ

ィユ山まで着けます」

 フェナが言った後すぐにフィールドは動き出した。加速によって生じるはずの慣性力も

働かず、周りの景色だけが動いていく。

(待っていろ、ヴァイ。必ずお前の力になってやる……)

 ラーレスは知らない。

 そう思っていても、自分の心の中に微かな絶望があるという事を。

 そしてそれは徐々に彼自身の中で大きくなっていっている事を。


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