「なるほど、それでややこしくなったって訳だ」

「はい、そういうことです」

「二人とももっと速く走りなさいよ! フェナを絶対取り戻すんだから!!」

 レイとマイスと気がついたルシータ三人は暗闇の中、道を正確に辿っていた。走ってい

る間にマイスは簡単にレイに現状の説明を済ませ、レイも簡略化してだが自分の関わって

いた事件のあらましを話していた。

「でも、レイさんの関わっていたのが連続殺人事件なら、フェナの探していたのが彼だっ

たって事だよ。フェナの目的は彼を助ける事だから、大丈夫だと……」

「馬鹿!」

 ルシータはマイスに向かって大声を上げた反動で息を切らせてしまい、その場にバラン

スを崩して倒れこんだ。つられてレイとマイスも止まる。肩で息をしながら何とか立ち上

がりルシータはマイスを鬼気迫る眼で見据えた。

「マイス、フェナの眼を見てなかったでしょ! フェナ、ミスカルデに言われた事がショ

ックだったのよ。あの眼は……憎しみに染まってる眼だわ! それも、あたし達が体験し

た事もないような!」

 以前、憎しみを持ってルシータ達に向かってきた敵がいたが、その時とは比べ物になら

ない憎しみをフェナは持っていた。同じような感覚を持つ自分だから、フェナの変わりよ

うが一番敏感に伝わる。フェナは今、憎しみに自分を暴走させているはずだ。

「今フェナが殺人犯を助けるとしたら、止めさせるんじゃなくて手助けするはずよ! 殺人の!!」

 ルシータはそう叫んで再び走り出した。慌てて二人も追いかける。

「急がなけりゃならねぇな。でも行き先はわかるのか?」

「ええ」

 レイの問いかけにルシータは即答した。

「あの森よ」





 ヴァイは満天の星空を見ながら考えていた。

 どうやって、眠気を誘おうか、と。

(星をずっと見ていたら眠れなくなったなんて、ルシータにでも言ったら笑われるかな)

 ヴァイはそんな事を考えつつ体を起こし、視線を真直ぐ前に向けた。

 自分よりもはるかに大きな窪みの底にある遺跡。今まで誰の目にも触れられる事のなか

ったその遺跡は今、ようやく調査を終えた調査員達の起こす喧騒から逃れてひっそりとそ

の場にあるだけだった。

 とりあえず今日の作業は終了し、残りは明日――正確には日が昇ってから再開する予定

である。ヴァイは交代制で調査隊員たちの警護をしていた。今はレティワズの番で、ヴァ

イは睡眠をとるための休みだった。そのため早く休まなければならないのに先の理由から

それができないでいた。実際はもう一つ理由がある。

(体が緊張している。体が眠るのを拒んでいるんだ)

 ヴァイの体はいつもよりも緊張感を保っていた。どういうわけか体自体が眠ろうとしない。

 まるですぐに活発に動き出せるように準備をしているかのごとくヴァイの体は日中時と

変わらない体機能を維持していた。そしてこんなときはとんでもない事が起こる。昔から

の経験からしてそうだった。それはこの夜も当たることになる。

 ヴァイの耳に本当に小さな音だが、草の擦れる音が聞こえてきた。咄嗟に戦闘態勢をつ

くり、ヴァイは気配を周りと同調させる。草を踏んでこちらに迫ってくる足音は二つ。ど

ちらもかなりの速さで走っているようだ。どちらかと言えば前を走る人物がもう一人の手

を取って走っていると言った感じだ。

(妙だな)

 ここに来る道から大きく外れたところを走っているとはいえ、番をしているレティワズ

が簡単に見逃すとは思えない。ヴァイにも聞こえるくらいだからレティワズの耳にも当然

駆ける音は入ってきているはずである。

(何か嫌な予感が……)

 ヴァイは即座にその場から離れた。その刹那、ヴァイの立っていた所に剣が突き刺さる。

見覚えのある剣だ。そして茂みから出てきた人物がその剣を地面から抜くのを見て確信に変わる。

「レティワズ……」

 その人物――レティワズはふざけた笑みを絶やさずに剣を構えた。そしてからかうよう

な口調で言ってくる。

「やっぱり、かわされたかい。まあ、予想通りだねい」

「何の真似だ?」

 ヴァイは騒ぎに気づいた何人かの調査隊員達が起きだすのを恐れたが、その不安を晴ら

したのは以外にもレティワズだった。

「他の連中には眠り薬を投与してる。朝まで眼はさめねえさ」

 レティワズはその言葉を皮切りにヴァイへと猛然と突進してきた。上段からの渾身の振

り下ろし。ヴァイはその一撃を紙一重で避けながらレティワズへと接近しようとした。と

ころがレティワズの渾身の一撃――見た目からその威力では地面へと突き刺さると思って

いた――は途中で軌道を横薙ぎに変えてヴァイを襲う。

「!?」

 ヴァイはたまらずその場から大きく跳躍してレティワズから距離を取る。

「今のを躱すなんてたいしたもんだなぁ。やっぱ面白くなったぜヴァイス=レイスター」

「《蒼き狼》か……」

 ヴァイの眼に宿るものが倒す、から殺す、に変わる。凄まじい殺気がレティワズの体を

振るわせた。

「一体何のつもりだ? やはりこの遺跡の『古代幻獣の遺産』を狙っているのか?」

 ヴァイの問にレティワズはわざとらしく肩を竦めて言う。

「いや、俺の任務はお前を監視する事さ。お前を監視していれば、いずれレイン=レイ

スターが接触するかもしれないってね」

「姉さんが?」

 ヴァイの声色に分からないといった感触があることにレティワズは満足したのかニヤニ

ヤと厭らしい笑みを浮かべて更に言ってくる。

「ああ、今やレイン=レイスターは《蒼き狼》にとって第一級要注意人物だからな。見つ

け次第実力行使で捕らえ、場合によっては殺す対象なのさ」

 その瞬間、レティワズは何が起こったか分からなかった。何が変わったと言う事はない。

強いて言えば、空気が変わった、と言える。レティワズは周りの空気が何か薄くなるよう

な気がした。なんとなく息苦しい、それは目の前から来るプレッシャーのせいだと分かる

のはヴァイの魔術が発動してからだった。

「『銀』の深淵」

 それは自然にヴァイの口から出てきた。滑るように、小さく呟くように出てきたその言

葉はレティワズには単なる独り言のように思える。だが、実際に周りの空気が薄くなった

時点でレティワズは悟った。自分は触れてはいけないものに触れてしまったと。

「空気……が……」

「お前の周りの空間をこの世界から分断した。やがて空気はなくなり、お前は徐々に死に近づく」

 何の感情も持ち合わせない声がレティワズの耳に入ってくる。レティワズは自分の心臓

の音が徐々に大きくなってくる事に平静を保てなくなっており、その言葉はすり抜けていった。

「た、助けてくれ!」

「お前は死んでたんだよ、俺にあんな事を言った時から。俺は怒りで自制を失わないほど

できた人間じゃないんだ」

 実際、ヴァイは十分自制はできた。この《蒼き狼》を殺さずにいる事も可能だったが今

見逃す気はなかった。

 ヴァイは《リヴォルケイン》時代から任務で人を殺す事はメンバーの中で最も少なかった。

 それは死に至らしめなくても任務遂行の障壁を取り除けるという桁外れの実力を備えてい

たこともある。しかし、一度殺すと決断した時は躊躇なく実行できたのもヴァイだけだった。

それが、ヴァイが最強の戦士と言われた理由だった。

 ヴァイは魔術の精度を上げてレティワズの周りの空間を速さを上げて真空へと近づけて

行った。その時、草むらから影が飛び出してきた。

「……?」

 それは一組の男女だった。男は治安警察隊の戦闘服を着ている。少女のほうは珍しい容

貌をしていた。緑色の髪に緑色の瞳。その瞳は一瞬ヴァイを見てからすぐに視線を転じる。

その先には遺跡の入り口があった。

「あそこよ!」

 少女が叫び、男は速度を速めた。ヴァイは突如出てきた二人を何故か優先して止めよう

と思った。ヴァイの中の何かが警告している。

(止めないと、大変な事になる!!)

 だが二人に気を取られた一瞬、魔術の効果によって分けられた空間に綻びが生じた。そ

の隙を突いてレティワズは空間の結界を脱出する。そしてそのままヴァイへと斬りかかっ

てきた。ヴァイは腰から剣を抜きその一撃を受け止める。

「さすが《蒼き狼》。空間を隔てたところから脱出するなんてな!」

「楽しいな! 楽しいよ! ヴァイス=レイスター!!」

 二人の剣の鍔迫り合う耳障りな金属音が辺りに響いた。





「なんだ? あの二人は……」

 カルアはフェナを連れて遺跡に入ってからこの遺跡に走りこんだ時に争っている二人が

いるのを目撃していた。だがその興味もすぐに失せる。先ほどとは変わってフェナの案内

による遺跡探索は、じめじめした空気とそのための息苦しさのためにそれどころではなく

なったからだ。

 実際カルアは古代幻獣の遺跡を見るのも入るのも初めてだった。

 小さい頃からどんなところなのか憧れさえも抱いていたが、現実はただのかび臭い古ぼ

けた空洞と言った感じしか受けない。

 だがその印象も次の瞬間百八十度変わる。

「これは……」

 カルアは言葉を失った。突如視界が開けたかと思うと、そこは目が眩むほどの光が錯綜

している場所だった。その原因がその部屋を覆っている水晶のような金属に光が反射して

いるからだと理解するのにカルアはしばらくかかった。

 ようやく落ち着きを取り戻し、視線を転じると中央には祭壇のような物がある。

 その上には水晶球が飾られていた。カルアはそこに近づき、フェナはその後ろをゆっく

りとついていった。

 祭壇の傍まで来て、カルアは水晶球をじっくりと見た。

 水晶球は徐々に透明な色からどす黒い、心の内の嫌悪感を刺激するような色へと変わっ

ていく。むろん、ヴァイ達が最初に見た時には起きなかった現象である。

「これはなんなんだ?」

 カルアは傍らにいるフェナへと尋ねた。だがフェナは横で床へと倒れていた。カルアが

それを見た時、視界に人影が見えた。

「誰だ!?」

 カルアは反射的に剣を構える。

 視線の先にいたのは街から出る時見た、立ち竦んでいた男の後ろにいた女だ。

 黒髪、ショートヘアーでピッタリとしたボディースーツ。

 美しいのだがそれは外見からのそれではなく、内から染み出てくるようなそんな美しさだった。

「『それ』の名前は《ガリアルブ》。はるか過去の幻獣達が創った兵器」

 女はカルアの質問を無視して水晶球を指差して言った。カルアはきょとんとした表情になる。

「これが、兵器?」

 カルアは改めて水晶球をじっくりと見た。何の変哲もないただの水晶球だ。こんなもの

では人一人さえ殺せない。

「それは起動キーだ。それを手にキーワードを言えばお前は力を手に入れる」

 女はカルアの内心の疑いを晴らすかのごとく魅力的な言葉を言ってきた。

『力』

 そうだ。俺は力が欲しかった。自分の愛しい人を殺した奴を殺せる力。殺されるきっか

けになった襲われた年寄り。そんな奴らを抱えているスーラニティの街。

 全てを滅ぼすだけの力が欲しかったんだ……。

「さあ、それを手に取れ! そして叫ぶのだ! 『力を我が手に』と!!」

 女の声に呼応するかのようにカルアは手に水晶球を取るとその言葉を叫んだ。

「力を我が手に!!」

 そしてカルアは水晶球が放つ光に飲み込まれていった。それに合わせて部屋も崩れていく。

 フェナは以前気を失ったまま。女は――ミスカルデは部屋いっぱいに響き渡る嘲笑

を続けた。





 光が立ち昇った。

「あそこ!?」

 ルシータはどうやってかは知らないが暗い夜道を正確にフェナの家へと向かっている最

中だった。カーバンクルのレーテがフェナへと力を与えてくれるのではと思っていたのだ。

しかしその闇夜に最も相応しくない光の柱は耳障りな唸る音を上げて天に立ち昇っている。

「とにかく急ぐぜ!!」

 レイはルシータ達を引っ張るようにして方向を転じ、光の柱のほうに向かった。





 光が立ち昇り、遺跡全体が地響きに飲み込まれていった。少しづつ、少しづつだが地鳴

りは大きくなりやがてその場に立っていられなくなる程に。

「なんだこりゃ!!」

 レティワズがたまらず体勢を崩す。視線はヴァイに向けたままだがいくら戦闘のプロ、

《蒼き狼》のエージェントでもここまでの天災に対応できるのはほんの一握りである。レ

ティワズはむろん、その他大勢のほうであった。

「どうやら、争っている暇はないようだ」

 ヴァイがそんな事を呟いたのをレティワズは理解しただろうか。少なくとも彼にはそん

な余裕はなかっただろうし、これから聞く機会も次の瞬間には永遠に失われる事になった。

 光の柱が突如巨大化し、噴き出ている部分からヴァイ達の元に閃光が襲いくる。

「!? 『銀』の翼!」

 ヴァイは咄嗟に空間転移の魔術を発動させてその場から逃れたが、レティワズはそうは

いかなかった。凄まじいまでの速度と規模を誇る閃光は、レティワズが逃げようと認知し、

体が反応する前に全てを飲み込んでしまった。ヴァイが魔術を発動させたのがまさに奇跡

的なのである。ヴァイは閃光が地面を凪いだ位置からかなり離れた場所に姿を現すとすぐ

さま閃光が出てきた部分に魔術を放った。

「『白』き咆哮!!」

 今までのように威力を押さえたのではない、最大威力の光熱波は地面を抉り、その位置

へと炸裂した。地面が焦げ、空気が焦げる。揺れている地面が更に外部からの衝撃によっ

てその激しさを増した。光熱波が途絶えるとヴァイはその場に膝をついた。体からは汗が

噴き出し膝が笑って立つ事ができない。

「……」

 ヴァイは無言で前方を見つめていた。光が噴き出す穴を。ヴァイの光熱波はまったくと

いっていいほど何の影響も与えてはいなかった。焦燥が募る。

「調査隊のみんなを起こさなければ……、殺される!?」

 ヴァイは渾身の力を振り絞り立ち上がる。だが、より激しくなる揺れに対して立つのが

やっとという状態だ。と、そこへ声が割り込む。

「あれは、どういうことですか?」

 ヴァイが後ろを振り返るとそこにいたのはボスキンスだった。ヴァイと同じく姿勢を保

つのに精一杯といった感じの若者は大して驚いた様子もなく、単なる確認といった感覚で

ヴァイへと聞いてきた。

「分からないが、言える事はこの場から逃げなければって事だな」

「分かりました」

 ボスキンスは言わなくても生命の危機にさらされているのを理解したのか、よろけながら

も他の調査員達のところに駆けていき、次々と起こしていく。ヴァイはなんとなく釈然と

しないものを感じながらも注意を光の柱に向けた。

 そして、光が立ち昇るのが止まった。地鳴りもその瞬間にストップし、ヴァイはその反

動で転びそうになるのを何とか耐えた。一時の静寂。起き上がる人々の息遣いだけが空間

に響く。嵐の前の静けさとも言えるものが流れる。そこに何かが流れた。

 静かな、しかし確実に耳に伝わる、物悲しげなワルツ。

 ヴァイは空気が変わる瞬間を見極め、最大規模で魔術を開放した。

「『白』き螺旋!!」

 最大範囲、何十筋もの光が描いた螺旋が調査隊員達を全員包み込むようにして広がる。

そして、空間が爆砕した。

 そうとしか言いようがない衝撃。ヴァイは衝撃が魔術によって軽減されていることにほ

っとしながらも次に訪れる深い絶望に眼を向けた。これだけの空間爆砕を引き起こす相手

とはいったいどんな奴なのか。これまで体験した事のない恐怖に体が震える。

(体験……したことがない?)

 ヴァイはそう思った時、何か違和感を感じた。体験した事がない。その言葉が何か不自

然に思う。そう、この体験は過去に経験している。だが何時なのかはまだヴァイには思い

出せなかった。

 光の螺旋が消える。爆発によって舞い上がった砂煙の中うっすらとヴァイの前方に見え

るものがある。ただ、それは地面には立っていなかった。位置からして宙に浮いている。

 やがて砂煙が晴れた時にヴァイが見たのは中空に浮かぶ一人の人間……。

(違う。人間じゃ、ない)

 その物体は確かに人型をしていた。ただ確かに人間じゃない。瞳は頭の二割ほどの大き

さで紅くそまっている。口はなく、鼻もない。体は水色をしていて人間の皮の内側のよう

に筋肉の筋が体全体に広がっていた。体長はヴァイの目測から二メートル強。そして最も

特徴的なのは胸の部分だった。

「ぐぅぁああああおおおおおおおぉおおっぉぉお!!!!」

 胸部には人がめり込んでいた。体の下半身と大きく広げた両腕が埋没した形でその男は

納まっていた。眼は狂気の色に染まり、もう正気は残ってはいないだろう。

「おるぅぁああ!!!」

 男が咆哮する。それに呼応するように怪物は両手を突き出し、そこに光が集束する。

「『灰色』の使者!」

 ヴァイは怪物が光を放とうとする前に重力で押さえつけようとした。実際、怪物は重力

の檻に捕らえられて抉り取られた遺跡のなれのはてに叩きつけられた。しかし光の集束は

止まらない。

「ぐるぅおああぁあぁぁあぁぁぉぉあぉおあおあおぉあおおぉあ!!!!!」

 その内、怪物の体さえも発光してきた。ようやくヴァイはその意図を悟る。

「この辺り一帯を吹き飛ばす気か!?」

 ヴァイは調査隊員達を遠ざけようと声をかけようとした。しかしもうその場所にはヴァ

イと怪物以外残ってはいない。ヴァイはボスキンスに心底感嘆し、全力で自分の内の魔力

を引き出した。

「『銀』の深淵!」

 ヴァイの魔術によって怪物のいる空間と回りの空間が隔てられる。ヴァイは全力で魔力

を、その空間の檻とでも言うようなものに注ぎ込む。

(大魔術のオンパレードだな……)

 ヴァイは眩暈を起こして倒れそうな自分の体を気力だけで支えながら意識を集中する。

 先ほどから加減もなしに魔術を放っている。普通の人ならば最初の一撃の時点で力尽きて

いたはずだ。ヴァイの桁外れの魔力容量がなせる技である。だが今回はそれさえも足りない。

 この怪物を倒すには、足りない。

(どういうことだ? これが『古代幻獣の遺産』なら、どうしてこんなものを創る必要が

ある? 『魔鏡』に関しても、だ。わざわざ複製を創りだす必要なんて、それこそ戦争を

することにしか使えないじゃないか)

 ヴァイがつい最近関わった大きな事件にはいずれも『魔鏡』と呼ばれる『古代幻獣の遺

産』が関わっていた。使用者の複製を創りだすことができるその鏡はある者によって戦争

の道具に使われようとしたのだ。それがヴァイには不思議でならなかった。

「まあ、考えるのはこれを乗り切ってからにするか」

 怪物の発光は最高潮を迎えているようだった。体の表面に電気のようなものが走っていく。

「ぐろぅろぅぁあああああ!」

(来る!?)

 この間、ヴァイの耳にはあの曲が鳴っていた。

 昔、父親から聞いた曲。そして、つい最近、『遺産』から流れてきた、あの曲が。

 光が、ヴァイを、包んだ。



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