火柱と共に山が崩れ落ちていくのをラーレス達は見ていた。

「このまま近づけば俺達の身が危ない!」

「ええ、でも……」

 フェナは接近するのを躊躇していた。実際、溶岩が流れてきていてすでに降り積もった

雪と溶岩の熱さによる水蒸気が辺りに満ちている。非情に視界が悪い。

「! あれは……」

 引き返そうとしたフェナの視界に微かに映った物。フェナは全速力でそれに近づいていった。

「あれは!」

 ラーレスもようやく気付く。

 その、緑色の球体に。

「ルシータ……」

 フェナはその懐かしい名前を呼んだ。





 それはいつからそこにあったのか分からない。

 気付いた時には、それはその場所にずっと浮遊していた。

 大きめな島ほどの大きさがある『大陸』

 それが空中に浮いているのだ。

「なんだ、ありゃ……」

 漁をしていた老人がその大陸を見て腰を抜かした。

 そしてそこからやってくる化け物達を見ても、何が起きているのかは理解できなかった。

 化け物に体を貫かれても、理解できなかった。





「もうすぐです」

 ミスカルデは背中を向けて立っているアルスランに声をかけた。

 レディナルドとガルナブルはどこかに行っていてその場所にはいない。

「我々の目的がもうすぐ果たされるのです」

 ミスカルデはポケットから物を取り出した。それは本当に小さなオルゴール。

 開けると音楽が流れてきた。

 物悲しい……円舞曲。

「そうだ」

 アルスランがミスカルデへと向き直る。その瞳は決意の力強い光に覆われている。

「もうすぐ、私の……我々の望みが叶う」

 アルスランはミスカルデの傍までくると腕の中に抱いた。

「――」

 耳元で呟かれた言葉にミスカルデは何の反応もせずにただ頷いた。アルスランは満ち足り

た表情でミスカルデから離れる。

「忘れられし鼓動。けして消えることの無い存在」

「全ての事物が生まれ、消えゆく楽園」

「生も、死も、全ては決められた輪廻」

「繰り返す時間の輪をいつまでも、歩いて行く」

「その魂が満たされる事がなくても」

「その願いが届かなくても」

「「全てのモノに祝福を」」

 淡々と口から紡がれる詩。

 この計画が成功するか失敗するかは半分以上が運だろう。

 後は……ヴァイス=レイスター。彼にかかっている。

「ヴァイス……」

 その呟きは風の音にかき消されていった――。



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