THE LAST DESTINY

 第八話 宝玉の「力」


 リーシスとフェリースの闘いが始まる少し前。
「グギャアァア!」
 ライアスの一撃は最後のレッサーデーモンを葬り去った。
「さすがだねぇ」
 ライネックは不気味な笑みを浮かべながらライアスに近づいていく。
「後はおまえだけだ」
 ライアスはオーラテインを構えなおして身構える。体中からすさまじい闘気が出ているが、ライネックはそんなことはお構いなしといわんばかりに平然と近づいていった。
「元々、お前を倒すのにレッサーデーモンなんぞ必要ない!」
 ライネックがそう言った瞬間、何かがライネックの懐から飛び出した。
「!?」
 ライアスはそれを反射的に躱す。それはライアスのいた場所の地面をえぐっていた。
 ライアスがライネックに視線を戻すとすぐにそれの正体が分かる。
「鞭か………」
 そう、ライネックの手には鞭が握られていた。だがその破壊力が普通の鞭を遙かに越えている事は地面にできた溝から楽に推測できる。
「こいつはただの鞭じゃない。『四鬼将』のゼブライズ様からいただいた『三種の魔人器』の一つ《デルグリス》、半径数キロ以内の敵を攻撃できるのだ」
「へぇ………わざわざ説明をありがとう」
 ライアスは皮肉を返すが内心焦っていた。
(あの鞭相手じゃ懐に潜り込めない………)
「死にゆく者へのせめてもの礼儀だ。自分が何にやられたか分からないのも無念だろう」
 そんなライアスの同様を見透かすようにライネックも余裕で言葉を返す。そしてライネックの魔気が膨れ上がった。
「話は終わりだ………いくぞ!」
 言葉の終わりと共にライネックの鞭が飛ぶ。ライアスはオーラテインで向かってくる鞭を叩き落とすとそのまま振り始めた。そのたびにオーラテインから光の球が生まれる。
 ライネックの連続攻撃をかいくぐりながらしばらくすると、ライアスの周囲は光の球で包まれた。
「閃光烈弾!」
 ライアスの一振りによって周囲の球が一斉にライネックへと向かっていく。
「こんなものでぇ!」
 ライネックは光の球を叩き落とそうと鞭を振るう。
 大きな爆発音と共に噴煙がライネックの姿を覆い隠した。その中でまだ爆音が続いていく。
 そしてしばらくして爆音がやむと、立ちこめる煙の中から人影が出てきた。
 その体には傷一つついていない。
「あれだけの攻撃を防ぎきったか………」
「今度はこちらの番だな………」
 ライネックはそう言うと再び鞭を操る。しかし今度は前のとは違った。
「なに!?」
 鞭はライネックの周りを取り囲み地面を抉りながらライアスの方へ近づいてくる。
「『スネークバイト』受けてみろ!」
 鞭の射程は徐々に伸びライネックを中心に円状に広がっていく。
(どこからくる………?)
 ライアスは迂闊に動くと鞭の波状攻撃を受けることをすぐに読んだ。『スネークバイト』は一度敵を捕まえると360度、どの方向からも攻撃を加えられるように展開している事を見向いたのだ。そんなライアスにライネックは余裕をもって話しかける。
「ほう………どうやら『スネークバイト』の特性を見向いたようだな。さすがゲオルグを倒したことはあるねぇ」
「おまえはゲオルグよりかなり強いよ」
「ふふっ、ありがとう。では………」
 ライネックの言葉が終わらない内に鞭がライアスに向かって放たれた。
「くっ!」
 ライアスは間一髪でそれを躱すが、ほとんど休みなく鞭の嵐がライアスに襲いかかる。
 肩に、足に、腕に、正に大蛇の首が獲物をねらうかの如くライアスを執拗に追いかける。
 ライアスはあるいは避け、あるいはオーラテインではじき返しながら何とかチャンスをうかがっている。
(何とか懐に潜り込めれば………)
『スネークバイト』は普通の鞭同様、その性質上使い手の周り数メートルは鞭の効果が及ばなくなっている。そのため接近戦には非常に弱い。
 ライアスはそこを突こうとしたが、隙が見あたらなかった。
 そして焦燥を感じ始めた時、鞭を躱して着地すると同時に地面が激しく揺れた。
「なんだ!?」
 ライアスはとっさのことにバランスを崩す。そこに今度は土の柱がライアスを包み込むように生えてきてライアスの動きを封じてしまった。
「くくく………動けまい………」
『スネークバイト』を展開しているライネックがゆっくりと近づいてくる。
「これが俺の『力』。土を操れるのだ」
「くっ………このっ………」
 ライアスは必死で逃れようとするが土の柱の束縛からは逃れられない。
「これでおわりだ!」
 ライネックの言葉とともに『スネークバイト』の一撃がライアスに放たれた。
 その一撃が届く瞬間。
「うぅおおおおおお」
 ライアスの気合と同時にオーラテインの宝玉の一つが青く光り輝いた。そしてライアスの周りを突如竜巻が包み、向かってきた鞭をはじき飛ばした。
「なに!?」
「な!?」
 ライネックとライアスは同時に声を上げていた。全く予想外のことが起こったのだ。そんな中最初に我に返ったのはライアスの方だった。ライアスはディシスの言葉を思い出していた。
(オーラテインは世界中のエネルギーを扱える………)
「『風』の宝玉の力で風が操れるのか………なら!」
 ライアスは自分の周りに風を集め始めた。
 風の柱が立ち、ライアスの姿が見えなくなる。
「何なんだこの風は!? お前の仕業か?」
 ライネックは心底困惑していた。
 ライアスがこの風で何かをしようとしているのは、感じる闘気からも分かる。
 しかし、何をやる気かが分からない。
「あいつ、何らかの手で『スネークバイト』を攻略………そうか!」
 突如ライネックの脳裏に一つの考えが生まれた。それと同時にライアスも動く。ライアスはライネックに向かって突進していた、上空から。ライネックは即座に狙いを定める。
「風を使って俺の真上に跳ね上がるとは、なかなかやるが詰めがあめぇ! 今度こそ死ね!」
 ライネックは『スネークバイト』を繰り出した。だがそれこそライアスの狙いだったのだ。
「爆風障壁!」
 ライアスがそう叫ぶとライアスの周りに風が渦巻いていき、鞭の攻撃をことごとく打ち返す。
「なんだと!」
「おまえが『スネークバイト』を使う時の隙を狙うのが俺の本当の狙いさ!」
 ライアスは風の結界の力で加速し一気にライネックの懐まで飛び込んだ。そのままオーラテインを振り下ろしライネックの腕を切り裂いた。
「うぎゃあああああぁああ!」
 ライネックの切り落とされた腕は瞬時に灰になり消えていく。ライネックは憎悪に満ちた眼でライアスを見返す。ライアスは地面に転がった《デルグリス》をライネックと反対方向に蹴り飛ばした。
「もうお前の負けだ」
 ライアスは憎悪むき出しのライネックにオーラテインを突きつける。
 だがライネックは素早くライアスと間合いをあける。
「まだ………終わらん!」
 そう言うとライネックの体の周りに地面から舞い上がった土がまとわりついていき、鎧のようになった。
「貴様を………殺す! ボンバータックル!!」
 ライネックは渾身の力を込めて突進してきた。ライアスも身構えて闘気を溜める。
「疾風斬!」
 ライアスは闘気の光に身を包みライネックと正面からぶつかった。けたたましい音を立てて押し合いが展開される。そして―――
「滅びろ!!」
 ライアスの一撃はライネックを一刀両断にした。ライネックは悲鳴も上げずに灰と化し、ライアスはそのまま少し離れた場所に着地した。振り返るとすでにライネックの体は跡形もなくなっている。それが『八武衆』ライネックの最後だった。
「手強い奴だった………」
 ライアスは安堵の溜息をつくとすぐに気を引き締め直しフォルドの方へ視線を向ける。
「急がなければ………」
 ライアスは風の結界に身を包み、その力を利用して空へと舞い上がる。
 そのままフォルドへとその身を飛ばした。


 少しして、空間に突如穴が開いたと思うと人影が出てきた。ゼブライスである。
 ゼブライスは落ちている《デルグリス》を取ると、ライアスの飛んでいった空を見上げた。
「なーんかおーもしろーくなーってきーたねー」
 ゼブライスは笑いながら空間にできた穴に戻る。穴はそれからすぐに消えてしまった。




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