THE LAST DESTINY

 第七話 リーシス出陣


「!? 動きが変わった?」
 リーシスは玉座の間に設置されたモニターから戦況を把握していたが、魔物の動きが急に変化した。今まではゲリラ戦を展開していた魔物達が近くにいる者同士で固まり始めた。
 そして10個ほどの集団になると今度は迎撃に来た魔法兵団を2組以上の集団で襲い始めたのだ。
「第70、63師団!D地区の46師団を援護だ!」
 リーシスは考えを巡らせる。
(どこかで魔物達を操っている奴がいる………かなりの戦術家だ………)
 リーシスの思考は恐ろしいほどの早さでこの戦況を勝利に導く方法を算出する。それと同時に指示を出す。この動作をできるのは人類ではリーシスただ一人であろう。リーシスの指示により再び魔物達を押し返そうとした時、異変が起きた。突如黒い球が飛来しフォルドを囲む城壁の門を破壊したのだ。
「なんだ!?」
「どうした!」
 いきなりのことにその場のもの皆がパニックになる。だがリアリスとリーシスは冷静にモニターを見ていた。そこには人影が映っていた。
 ただ、普通の人と違うのはその人影は宙に浮いているのだ。
 そしてまるでモニターが見えているようにその方向に目を向けて言った。
「『フォルドの魔人』リーシス王子! 私は魔族『四鬼将』が一人フェリース! 私と一対一で勝負しなさい! 出てこなければこの街を完全に破壊するわ!!」
 そう言ってフェリースは再び黒い球を作り出すと無造作に放り投げた。
 それは近くの街並みを一瞬にして無に帰した。
「あいつ………!」
 リーシスは怒りに拳を握りしめた。リーシスにとってフォルドは自分の分身のような物であり、それを破壊されるのは我慢ならない。
「リーシス、これは何かの罠かもしれません」
 リアリスはリーシスに諭すように言う。冷静さを欠いてはあの魔族には勝てないと分かっている。リーシスもリアリスの意図に気づき、気持ちを落ち着かせた。
「でも母さ………陛下、おそらくあいつはかなり高位の魔族です。今までの奴らとは桁違いでしょう。これ以上の被害を出さないためにも僕が行きます」
 リーシスの瞳はすでに反論を許さない決意があった。リアリスは一瞬寂しげな顔をしたがすぐにリーシスに命じた。
「リーシス、任せましたよ」
「はい!」
 リーシスは立てかけてあった自分愛用の剣。刀身の隅々に魔術の文字が描かれている物を手に取り、素早く外に向かった。
 だが、ふと立ち止まりリアリス達の方へ視線を巡らせる。そして一言、力強く言い切った。
「フォルドは僕が守る!」
 リーシスの足音が聞こえなくなるとリアリスはエリーザにだけ聞こえるような声で言う。
「どうか無事で………」
「………」
 エリーザは兄を心配しつつも別のことも考えていた。
(ライアス様………早く戻ってきて………)
 エリーザは願った。直感で感じていたかもしれない、必ず後にライアスの力が必要になるのを。彼がこの闘いを大きく左右する存在であることに気づいているのは魔族やリーシス達よりもエリーザだった。


「ふふ………来たわね、『フォルドの魔人』………」
 フェリースのつけているセンサーはかなり強力な力を持った者が近づいてくるのをとらえていた。
「さあ、作戦第3段階に移るわよ………」
 フェリースは誰に言うまでもなく呟いた。
 フェリースがそれを実行してすぐにリーシスがやってきた。
「望み通り、来たぞ」
 その口調からは激しい怒りが感じられる。そのプレッシャーにフェリースも思わず冷や汗がでた。
(なんて強い「力」………私一人では流石にやばいわね………)
 フェリースの内心の動揺をよそにリーシスは言葉を続ける。
「まだ時期ではない………おとなしく退くなら見逃してやる」
「時期? なんのことよ?」
「おまえ達を滅ぼすのはオーラテインの力が完全に覚醒してからだ」
「へえぇ、私たちがあの剣でなきゃ完全に滅ぼせないこと、知っているのね」
 リーシスは少し、表情を曇らせた。
「私達、高位の魔族は魔王様が死なない限り死ぬ事は無い。レッサーデーモンのような下級とは違って直接魔王様からエネルギーを貰っているんだから」
 フェリースは勝ち誇った表情でリーシスへと言う。
「しかし、倒せば復活には100年以上はかかるだろう」
 リーシスは怒りを極力抑えた声で言い返す。フェリースは鼻で笑った。
「根本的な解決にならない事も、あなたなら分かるわよね」
 リーシスは強力な、高位の魔族も倒せる力を持っていたため、完全に滅ぼせないことに苛立ちを感じていた。
「でも、オーラテインの力が完全になることはないわ」
「なに………? まさかっ!」
 フェリースの言葉にリーシスは声を荒げる。
「あなたが思っているとおりよ。オーラテインの戦士はもうそろそろ死んでるわ」
 フェリースは余裕を持ってリーシスに言ったが、リーシスは不敵な笑みを浮かべて見返した。
「何がおかしいのよ!!」
「そんなことはあり得ない」
 先ほどとは逆に思わず声を荒げるフェリースにリーシスは落ち着いた口調で返す。
「何故そんなことが言えるの!」
 フェリースの問いにリーシスはさも当然の如く答えた。
「あいつを信じているからさ」
 その瞬間、フェリースの中で何かがはじけた。
 まるでダムが倒壊したかのように激しい怒りが押し寄せてきた。
「殺す! 貴様のような偽善者は殺してやる!!!」
 フェリースは剣を自分の胸の前で構え精神を集中した。その直後、
「はあぁぁぁぁぁぁあ!」
 フェリースの気合いと共にフェリースを中心として半球状の空間が広がっていく。
 リーシスはその空間に飲み込まれた瞬間、少しからだが重くなったような気がした。
 空間は四方5キロほどを完全に包み込み、くすんだえんじ色をしているため外部の様子は分からない。中にいるのはリーシスとフェリースだけである。
「この結界は魔族に力を与え、命ある者には苦痛を与える。確かにおまえは私より『力』は強いがこの空間の中じゃ思うように力はだせないわ」
「僕がやることはおまえを倒すことだけさ」
 フェリースの言うことを聞き流し、リーシスは剣を構え真っ直ぐにフェリースを見据えた。
 フェリースも無言で剣を構える。
 一瞬静寂が二人の間を支配する。そして結界の外から爆発音が鳴り響いた。
「勝負!」
 リーシスとフェリースは同時に駆け出した。




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