THE LAST DESTINY

 第六話 フォルド大戦、開戦


 太陽はほぼ真上に上がり初夏の日差しがフォルドの街並みを照りつける。街は人で賑わっていた。ちょうど昼飯時で、商店や料理屋などにも人がごった返している。
 城も例外なく昼食をとる者も多く、残っているのは王族や宰相、そして交代制で残っている兵士だけだった。一人の兵士がそれを見つけたのは正にそんな時だった。
「なんだ………ありゃ………?」
 兵士の視線が見つめる先には海があった。フォルド公国はゴルネリアスを監視できるよう海の傍とは言わないまでも監視塔から十分に海が見える位置にある。
 兵士が見つけたのは海の上にある巨大な雲、いや、雲のようなものだった。
 なぜならそれは赤。そう、血のような赤い色をしていたのだ。そしてそれは段々とこちらに近づいてくる。この得体の知れない物に恐怖を感じた兵士はリーシスへ連絡を入れようとした。だが兵士は赤い雲へ再び視線を走らせたとたん硬直した。赤い雲は視覚で完璧に捉えられる所まで来ていた。
 それは羽の生えたレッサーデーモンだった。100や200は下らない。
 すさまじい数の魔物がフォルドの街に空から進入した。その内の一頭が火球を吐き監視塔を直撃した。その轟音に人々は逃げまどうだけだった。


「状況を報告しろ!!」
 リーシスが険しい声で兵士に問いかける。玉座の間にはリアリス、エリーザの姿も見え、前にあるモニターを静かに見つめている。このモニターは法力によって映し出されている映像でいろいろな視点に即座に替えることができる。
「現在魔物は空から火球で単発な攻撃を展開しています。その数………確認できる限りでも数十万かと………」
 通信兵の言葉を聞き周りの兵士から驚きと恐怖の声があがる。未だかつてない数の魔物が一斉にフォルドに押し寄せていた。だがリーシスは冷静に自ら通信機で準備が整っている魔法兵団に指示を送る。
「第3師団は国民を城に避難させるように誘導しろ! 第34師団は引き続き魔物の迎撃! 第―――」
 リーシスは的確に指示を出していく。リーシスは一瞬にして魔物達を撃退するのにどのようにするか頭の中で戦術を展開した。彼は希代の戦術家でもあったのだ。
「お兄さま………」
 不安げな表情でエリーザはリーシスを見つめる。リーシスはそんなエリーザに場にそぐわない笑顔で
「大丈夫だよ、エリーザ」
 と言葉を返す。
 そして一通り指示を与えると最後に付け加えた。
「なんとしてでもフォルドを守るのだ!」
 その顔には先ほどの笑顔ではなく強固なまでの決意があった。


 フォルドに魔物が押し寄せる少し前、ライアスは「宝玉」がある聖堂へと着いていた。
 そこを守っていた兵士が中に入るよう即す。ライアスが応じて中に入ろうとしたその時、遠くからはっきりと爆音が聞こえた。監視塔が魔物の火球によって破壊されたのだ。
「なんだ!? あの音は!!」
「フォルドが攻撃されている!?」
 兵士達はすっかりパニックになっている。ライアスは兵士達に言った。
「後は俺だけで大丈夫ですから、あなた達は早く城へ!」
 兵士はライアスの言葉に落ち着き、馬車を走らせて戻っていった。ライアスも急いで聖堂の中に入る。入り口から真っ直ぐ行くと前に大きな扉が見える。それを半ば蹴り上げるように開けると、ライアスの目に入ったのは光り輝く宝玉だった。その輝きに呼応するかの如くオーラテインも輝きを放っている。
「これが………」
 ライアスが「宝玉」とろうと手を伸ばすと頭に声が響いた。
{オーラテインの戦士よ………}
 ライアスは一瞬動きが止まる。何か懐かしい声だった。
{力が欲しければ………オーラテインを我にかざせ………}
 ライアスは言われた通りに「宝玉」の前にオーラテインをかざした。すると「宝玉」は光を放ち、その光はオーラテインに吸い込まれていく。
 光が完全に消えると剣の柄と刀身の付け根にある玉が青く染まった。
 その刹那、ライアスの体の中にエネルギーの波が急激に入ってきた。
「っうぅぅああああああああ」
 ライアスはあまりの激痛に叫んだ。そこにまたあの声が聞こえてくる。
{これにうち勝たなければおまえは死ぬ………}
 ライアスは必死でその流れを押さえ込む。
「俺は………負けない!!!」
 ライアスが叫んだ時、体から光の柱が天井を突き破った。けたたましい音を立てて天井が崩れる。それが収まった後にライアスは肩で息をしながら立っていた。しかしその体からは確かに前よりも強い「気」の力が出ていた。
「これが………オーラテインの力………」
 ライアスはディシスの言ったことが分かったような気がした。これだけの力が個人の物となるのだ。確かな志、人を守るという確固たる意志がなければ力に酔い、暴走してしまうだろう。しかもこれはまだ「宝玉」一つ分の力、まだ3つの「宝玉」があるのだ。単純に考えてもどれだけの力が手にはいるか想像に難くない。ライアスは改めて自分の巻き込まれた運命の大きさを知った。
「これほどの力が必要になるのか………」
 ライアスは迷いが生まれた、このような力を自分は使いこなせるのか、だがそのような迷いを考える時間はないのだ。
「今は………人々を助けるのが先だ」
 ライアスは出口へと向かった。何よりも今は人の命が大事だ、悩むのは後でいい、ライアスはそう割り切った。だが聖堂を出て少し行った所に先ほど城へと向かったはずの馬車があった。ライアスはまさか、と思い駆け寄る。
 そこには予想した通り血塗れの兵士の姿があった。
 オーラテインが光り出す。
「あなたがオーラテインの戦士ですか」
 ライアスが驚いて振り向くとそこには黒いコートを着て、手には鞭を持っている男がいた。後ろにはレッサーデーモンが十数体ついてきている。
「お前………何者だ!」
 ライアスは身構えて問う。黒いコートの男は笑みを浮かべて答える。
「失礼………私はライネック。『八武衆』の一人です」
「八武衆って、ゲオルグが言っていた………」
 ライアスの言葉にライネックは驚きを露わにする。
「ゲオルグを知っているということは………おまえがあいつを!」
 ライネックはライアスを凝視している。ライアスはその眼を見据えて言った。
「ああ………あいつは俺が倒した………」
「くくくく………っははははははははは」
 ライアスの言葉を聞くとライネックはいきなり笑い出した。まるで狂っているように。
 笑うのをやめると殺気を帯びた眼でライアスを見た。
「ではその力………ためさせてもらう!」
 その言葉を合図にレッサーデーモンの群がライアスに襲いかかった。


 空から街を襲っていた魔物達は地上に降りてゲリラ戦を展開していた。住民は魔法兵団の行動が早かったので被害は受けずにすみ、魔物達は徐々にその数を減らしてる。だが、やはり数が圧倒的に違うために戦況は停滞している。そのように保っていられるのも絶えず的確に魔法兵団に指示を送っているリーシスの、正に神がかり的な戦術眼のおかげだった。
 そして遠くからその様子を見ている影がある。フェリースだった。
「へえ、やるわねぇ。さすが『フォルドの魔人』。わくわくしてきたわ」
 フェリースは笑みを浮かべて、ゆっくりとフォルドに向かった。意識はつけている眼帯のようなものに集中させている。それはフォルド全景を映し出しており、魔物一体一体の動きも把握できるようになっている。
 フェリースはそれを見て戦術を状況に応じて変えているのだ。
 動きをしばらく見てフェリースはうなずくと飛行速度を上げた。
「作戦第2段階。いくわよ!」
 高らかにフェリースは叫んだ。




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