THE LAST DESTINY 第五十話『真実』 「オーラテイン! その力を解放せよ!!」 ライアスの叫びと共にオーラテインの4つの宝玉はそれぞれ光を放ち、ライアスの体の周りに渦を巻く。 「面白い………こい!」 魔王は《ヴァイセス》を正眼で構えて待ち構える。 「いくぞ!!」 ライアスは神速を発動させて魔王の懐に潜り込み、剣を横薙ぎに振るう。 魔王は簡単にそれを受け止めた後、その反動を利用して《ヴァイセス》を振り上げてライアスの頭目掛けて振り下ろした。 ライアスは体を半回転させてその一撃を躱すと、魔王の胴へオーラテインを這わす。 「ふっ!!」 魔王は後ろに下がり紙一重で剣撃を躱す。そして再び攻撃に移ろうとするが、そこにライアスの攻撃がすぐさま入った。 「オーラ・フレイム!!」 オーラテインから放たれた炎は魔王を飲み込み、弾き飛ばす。 魔王は炎をすぐに振り払い左手を前に突き出した。 「ワーム・クラッシャー!」 魔王の手から二つのエネルギーの塊が飛び出し、互いに巻きつきながらやがて一つになる。そして凄まじい圧力でライアスへと襲い掛かった。 「オーラ・レイ!」 ライアスはオーラテインから貫通力のある光線を放つ。しかしエネルギー塊は直撃を受けてもまったくびくともせずにライアスに迫ってきた。 「こんなもの!!」 ライアスは神速を発動させてその場から移動すると魔王目掛けて突進した。 だが突如後ろから大爆発が起き、吹き飛ばされる。 「なんの!!」 ライアスは吹き飛ばされてもすぐに体制を立て直し、魔王に向かうのを再開した。 魔王はその場で両の足をしっかりと床を踏みしめさせて《ヴァイセス》を構えた。 「ガルフ・カタルシス!!」 《ヴァイセス》を中心にして一気に光が広がる。ライアスは突進を止めて後方へと飛びずさった。何か得たいの知れないパワーが魔王へと集まっていく。 「喰らえ! 『オーラテインの戦士』!! これが、絶望だ!!!」 魔王はライアスに向かって叫ぶと共に凄まじいエネルギーを秘めた球を放った。 「このっ!!!」 ライアスはその場にとどまり迎撃に入る。とてもではないが逃げ切れる速度ではない。 そのエネルギー球は部屋をほぼ埋め尽くしていたのだ。 「崩牙雷刃!!」 オーラテインに長い光の刃が生まれる。 ライアスはそのまま巨大エネルギー球に光の刃を振り下ろし―――そして部屋は光に包まれた。 光の後には耳をつんざく程の大爆発が部屋を包む。 魔王はその場から身動きせずにライアスの攻撃を待ち構えた。 (さあ、どこからくる………) 魔王は意識を最大限に集中して周囲に気配を察知する結界を張った。 爆炎のために視界がほぼゼロの状況で、魔王は確かにライアスの生存を感じ取っていた。 そして、しばらくの間この状態が続いた後、ようやく爆炎が晴れるといった時に魔王はこちらに向かってくる気配を感じ取った。 「正面からか!! 面白い!!」 魔王は《ヴァイセス》にエネルギーを集中してライアスに叩きつけようと振りかぶる。 やがて神速のまま突撃してくるライアスを捕らえた。 「さらばだ! 『オーラテインの戦士』!!」 魔王の《ヴァイセス》がライアスに向けて振り下ろされた。 タイミングは完全に合っている。 魔王はその瞬間、勝利を確信した、が、《ヴァイセス》はライアスの体を通り抜けて床へと突き刺さった。ライアスの姿はその時に掻き消える。 「な………!」 魔王の顔に驚愕が走り即座に回避行動に移る。 しかしライアスの移動速度は魔王のそれを凌駕した。 「疾風斬!!」 ライアスの声を聞くのと体に衝撃が走るのは同時だった。 魔王の体は襲ってきた衝撃に耐え切れずに宙に浮く。 「おのっ………」 「閃光―――」 下からの一撃を喰らわせたままライアスは魔王と共に宙を舞っていた。 闘気が爆発する。 「烈弾っ!!!」 ゼロ距離で放たれた光球は的確に魔王の体を屠っていく。 「ぐっおおおおおおおおおおお!!!!!!」 魔王は苦しみの声を上げて更に中空へと舞い上がった。ライアスが叫ぶ。 「俺にはっ! 貴様を倒せる力がある!!」 オーラテインに力が集束していく。それは光の刃となり、刀身を覆う。 更に巨大な刃となり、その長さはライアスの伸長を超えた。 「崩牙雷刃!!」 高質量のエネルギーの塊をライアスは振りかぶる。 「喰らえ!」 ライアスの、渾身の力を込めて振り下ろされた一撃は魔王に直撃し、大爆発を起こした。 その反動で魔王は吹き飛ばされ、床へと凄まじい音を立てて激突した。 すぐ後にライアスも着地し、油断無くオーラテインを構える。 「これで終わりではないだろう! 貴様を完全に滅ぼしてやる!!」 ライアスの力ある言葉が部屋の中へと響いた。その声に反応したのか、魔王がゆっくりと体を起こす。体を動かす毎に、何かが軋む音がする。 「さすがだな」 魔王の声には今までとは違った感情が含まれていた。 「『オーラテインの戦士』。400年前と同じ………力だ」 それはライアスを困惑させた。 「懐かしい………本当に」 その感情は遥か過去を懐かしむ、まるで人間そのもののような感情の動き。 「ようやく、会えたな」 魔王の兜がはぜ割れて落ちた。 目の前にある光景にライアスは目を奪われて動けなくなった。 そこには魔王が立っているだけ。 兜が割れたその下には暗闇の中で分かるほどの目の覚めるような青い髪がある。 「そん…な……貴様は………」 ライアスは魔王の正体に気づき、体から力が抜けるのを感じていた。 魔王が徐々に距離を詰めてきて、暗闇の中にあったその顔が徐々に見えてくる。 やがて、完全に視認できる距離に来た時、ライアスははっきりとその顔を見た。 そこにはライアスと同じ顔があったのだ。 正確に言えば少々の違いはあるものの、その顔立ちはライアスと同じ。 魔王―――ライアスと同じ顔を持つその男は口を開いた。 「そう………、これが私の正体。私はヒルアス=エルディスだ」 魔王―――ヒルアス=エルディスは静かに言った。 「どういうことだ!! 何故、あなたが魔王なんだ!!」 ライアスは何とか戦意を維持しようと声を張り上げてヒルアスへと問い掛ける。 ヒルアスは冷たい、氷のような視線をライアスへ浴びせながら語りだした。 「私は『災厄の終末』を闘っている内に徐々にある考えが頭を支配し始めた。 『災厄の終末』の前から永遠と続く戦争。弱い者が闘えない事は罪ではないが、他人を犠牲にしてでも助かろうとする人々に私は不信感を募らせ、『災厄の終末』が終わっても人々は変わらない。そう考えた」 「だから魔族になったとでも言いたいのか!!」 ライアスの怒号にもヒルアスは全く取り合わずに話し続ける。 「私は最後の戦いの時、ディシスのかわりに『オーラテイン』の力を使い魔王を自身の体に封印した。その時に魔王とコンタクトを取る事に成功した。 そこで………『閉じた輪(ロジック・リング)』の事を知った」 「ロジック・リング?」 「『オーラテイン』の真の力が発揮されて、魔王は400年前の時点で滅ぶはずだった。しかし神の予想を裏切り、ディシスではなく私が『オーラテイン』の力を使った事により、どういう訳かは分からないが『オーラテイン』の時間軸が始まりと終わりを失ってしまった。 つまり、『オーラテイン』で魔王を滅ぼす事が人間達の運命に組み込まれたのだ」 「………どういうことだ」 ライアスはヒルアスの説明が理解できなかった。 何か回りくどい言い方で核心を突くのを躊躇っているようなのだ。 「はっきりといったらどうだ。つまりはどういうことなのかを………」 「『オーラテイン』は『魔王』を完全に滅ぼさない限り人間の歴史に出現し続け、その度に使う者の大事な人達の命を奪うという危機にさらされるのだ」 今度は、はっきりとヒルアスはライアスへと伝えた。 ライアスは手元のオーラテインを見る。 ヒルアスの言葉を自分の中で反芻し、そして解答を見出した。 「ならば………俺が貴様を滅ぼせば済む事じゃないか………」 「それができないから、『閉じた輪』なのだ。お前はここで俺を封印する。400年前、私がやったようにな。そして、お前が新たな『魔王』になるのだ………」 「ふざけるな!」 ライアスはオーラテインを床へと力の限り突き立てる。 体の奥底から吹き上がる感情を抑えきれない。 神から授けられたこの剣を今、すぐにでも投げ出したい衝動に駆られる。 この剣によってレイナは危うく死ぬ運命で、ラルフとディシスは命を落としたのだ。 「これが『閉じた輪(ロジック・リング)』だ。これはある一つのイレギュラー………私が『オーラテイン』を使った事により現れた『最後の運命』」 ヒルアスは《ヴァイセス》を静かに正眼に構えた。 ライアスは構えを取らない。体から力が抜けていく。 「今のお前はあの時の私と同じだ。私は『オーラテイン』の事を聞いた時、神に失望した。 『オーラテイン』という存在は間違いなく人間に対して害をなす。私は神を許さなかった。 人間と神への絶望。これが、私が魔王と一体となった理由だ」 ヒルアスは凄まじい速さで間合いを詰めるとライアスへと《ヴァイセス》を振り上げる。 「さらばだ。わが子孫」 振り下ろされる絶望への刃。しかし一瞬後、ライアスの姿はその場にはない。 「許せないな………」 ヒルアスは慌てずに後ろを振り向いた。ライアスが立っている。その眼には戦う意志が戻ってきていた。 「人々に、神に絶望したから全てを滅ぼすなんて、自分勝手としか言いようがない」 ライアスの言葉にヒルアスは冷静に―――背筋から落ちる冷や汗に動揺しないように反論した。 「私は魔王と一体になってから400年間、ずっと人間の様子を見てきた。しかし人間は変わらず争いを続けている。いつまでも幼稚な生き物だ。このままでは世界が先に滅んでしまう。お前はこんな人間達を空しいと思わないのか?」 「思わない」 ヒルアスの問いにライアスははっきりと答えた。 ヒルアスはその解答を予想していなかったために怪訝な表情をする。 「俺は神じゃないんだ。『オーラテイン』を授けられようがなんだろうがな………」 『どんなに巨大な力を持っても、俺は一人の人間です』 いつかディシスに返した言葉が脳裏に浮かぶ。 変わらぬ気持ちを胸に、ライアスはヒルアスへと問い掛けた。 精一杯の、自分が持つ想いを込めて。 「俺は何百年も先のことなんて保証できない。俺達にできる事は自分達の時代を正しく使い、後の世代にバトンタッチする事。俺が魔族を滅ぼすのは、俺の大事な人達が暮らしていく世界を守るため。あなたは………たった一人の人間であるあなたは、この世界を変えられるとでも思っていたのか?」 ヒルアスは驚愕の表情を浮かべた。 そのような考えはヒルアスには無かった―――忘れていた。 人のためを思って戦っていたはずの自分。 『どんなに巨大な力を持っても、俺は一人の人間です』 いつか、自分の師匠に言った言葉が甦る。 いつのまにか人間全体を変える事ができると奢っていた事を今更ながら、ヒルアスは理解した。 「闘うのは強い者だけでいい………。でもヒルアス、人間は皆が弱者なんだ。それに皆が気づけばいい………」 「うぅぅぅぐぉぉぉおおおおおお!!!」 ライアスの言葉が終わる寸前に、突如ヒルアスは苦鳴をあげてその場に蹲った。 その体からおびただしい魔気があふれ出てくる。 ライアスはオーラテインを構えた。その瞳には限りない力が満ち溢れている。 全ての力を使うため、全ての決着をつけるために。 「そうか……そうだよ。俺が倒したかったのは、貴様なんだ………」 しばらくしてゆっくりとヒルアスが顔を上げる。 その顔はヒルアスとは違っていた。 何もない。顔があるべき部分には漆黒の闇があるだけ。 「『魔王』ギールバルト」 静かに、ライアスはその名を呼んだ。 |