THE LAST DESTINY 第四十九話 最終戦・リーシスVSゼブライス・シュタルゴーゼンB リーシスがその言葉を発すると、シュタルゴーゼンは戦闘態勢を解いてじっとリーシスを見つめた。そして再び、今度は軽く笑みを浮かべる。 「その通り。俺は初代フォルド大神官だった。つまりお前の遠縁にあたるということだ」 「まさか、流星体法を使えるなんてな。あなたの時代には無かったはずだ」 「お前が出来て、俺が出来ないわけが無かろう」 シュタルゴーゼンは醜悪な笑みを浮かべて言い返した。そのあまりの醜さにリーシスは叫ぶ。 「どうして魔族などに堕ちたんだ!」 リーシスの叫びにもシュタルゴーゼンは顔に笑みを浮かべたまま答えない。 「フォルド公国初期の頃は今よりもより大神官が必要だったというのに、どうして魔族などに………」 「人間など守る価値もない屑どもだ」 リーシスの言葉を遮ってシュタルゴーゼンは言葉を紡いだ。 「俺は人間を守ってやる事に疑問を抱いたんだ。自分達で何もしようとしない。 何か困った事があるとすぐに俺に頼ってくる。 何故そこまでして他の人間のためにしてやらねばならぬのだ!? 俺はそんな事よりも力を望んだ。誰にも負けない強い力を。そしてどうすれば永遠に、より強い力を手に入れる事ができるか考え、そして出た答えが………」 「魔族へと堕ちること」 今度はシュタルゴーゼンの言葉をリーシスが遮る。 「結局、お前はただ力を得るためだけに魔族になったんだな」 「そうだ。人間という器では俺の力は持ちきれないのだ。そしてリーシス、お前もそうだ。お前の力も人間よりは魔族のそれに近い」 「くだらない」 リーシスは一言でシュタルゴーゼンを黙らせた。 シュタルゴーゼンは何かを言おうとしたが続けてリーシスが言葉を発してくる。 「ゼブライスは………おそらくフェリースやアイオスもそれぞれ人間に、世界に絶望して魔族になった。いわば被害者だ。だが、お前は違う。お前は自分の欲求を満たすためだけに魔族となり、人々を苦しめようとしている」 「違わないさ。俺も被害者だよ、愚民に絶望したんだ」 「違うさ。それは口実に過ぎない。やはりお前の本音はさっき言った力への渇望だ。お前の口調でそれは分かったよ。そんな事のために人々が苦しめられようとしているのにお前は何も思わないのか! 初代大神官!」 リーシスは完全に怒りを表に出している。 しかしシュタルゴーゼンは何の同様もせずに言い放った。 「何も思わぬな。あんなサルどもがどうなろうと知った事ではない」 「――――――!!」 その瞬間、リーシスの中の何かが弾けた。 「光・刃・熱・波!!!」 今までとは桁が違う大容量の光熱波がシュタルゴーゼンへと突き進む。 「光・輪・防・鎧!」 シュタルゴーゼンの目の前に現れた無数の光輪が光熱波を受け止める。 だが、それもほんの一瞬しか持たなかった。 光輪は砕け散り、光熱波は少しも威力をそがれずにシュタルゴーゼンへと向かう。 「光・刃・熱・波!!」 シュタルゴーゼンは光輪が光熱波を防いでいる間に次の攻撃を放つ準備を整えていた。 ここまではシュタルゴーゼンの思い通りだったろう。ただ、次からは予想とは違った。 シュタルゴーゼンの放った光熱波はリーシスの放った光熱波にかき消されたのだ。 「なにぃ!!」 リーシスの光熱波はゼゼーナンを巻き込んで奥の壁へと突き進み、大爆発を巻き起こした。 「爆・発・熱・波!!」 続けてリーシスは呪文を放つ。 かなり広範囲で起こった空間爆砕はシュタルゴーゼンの体を宙へと舞い上がらせる。 「お、おのれぇ!!」 シュタルゴーゼンは空中で体勢を整えると、リーシスへと魔術を放った。 「破・壊・聖・音!!」 連鎖する自壊。 呑み込んだ物を崩壊させていく波がリーシスへと進む。 リーシスは何を思ってかその場を動かずに波へと呑み込まれた。 しかしリーシスの体には何の変化も生じず、ただ神官装束が少々ぼろぼろと崩れ落ちた。 リーシスはシュタルゴーゼンへと左掌を突き出して法力を解き放つ。 「冥・王・震・喚!!」 リーシスの左掌に黒い球体が出現する。 それをリーシスはシュタルゴーゼンへと押し出した。 空中で落下体勢に入っていたシュタルゴーゼンはその黒い球体の効果を悟ると迎撃しようとして呪文を放つ。 「光・刃・熱・波!」 だが黒い球体は高熱波を飲み込み、シュタルゴーゼンの胸部の鎧へと触れた。 その瞬間、そこを起点として大爆発が起こる。 「ぐがああああ!!」 シュタルゴーゼンの絶叫があたりに響く。 シュタルゴーゼンは衝撃で凄まじい速さのまま壁へと激突した。 そこへリーシスは最大級の力を使い呪文を仕掛ける。 「破・邪・滅・殺っ!!」 リーシスの体から放たれた光はシュタルゴーゼンへと降り注ぎ、体の構成要素を崩壊させようとする。 「ぐうぅ………おおおおおおお!」 だが、シュタルゴーゼンは凄まじい雄叫びを放ち、光を弾き飛ばした。 リーシスもそのあまりの衝撃に少しだけ後ろへと押される。 「ぐっく……………かはぁ………」 シュタルゴーゼンは体のあちこちから煙を立ち上らせ、胸部を覆っていた鎧は完全に消滅させながらもまだまだ戦えるようだった。 「言葉を返すよシュタルゴーゼン。お前は大した奴だ。僕の持つ魔法の中でも最大級の強さを持つものを何発も喰らって生きているなんて信じられないよ」 「………俺は………最…強だ!」 シュタルゴーゼンはその体の負傷とは結びつかない速さで床に差してあった『三種の魔人器』の一つである《エウリード》を掴み、リーシスへと接近してきた。 「これで決めてやる」 リーシスは背中から剣を抜き、刀身に法力を集中しだした。 そのまま自分もシュタルゴーゼンへ突き進む。 「うおおおおお!!!」 シュタルゴーゼンは高速回転させた《エウリード》を寸分違わずにリーシスの心臓目掛けて突き出した。 それをリーシスが剣の腹で受け止める。 ぎゅいぃぃぃ、という耳障りな音を出しながら二つの武器は均衡状態に入る。 リーシスは刀身へと法力を溜めつづける。普段の量の何倍にもなる法力が刀身に集まってくるのがシュタルゴーゼンにも分かった。 このまま均衡状態が続けばそこから『メキドの火』が放たれるのも時間の問題であろう。 だが、シュタルゴーゼンは笑った。 「俺の………勝ちだ!」 次の瞬間、リーシスの剣は《エウリード》を攻撃を受けていたところからパキン!、という音を立てて折れた。 「!!」 リーシスは咄嗟に体を反転させて《エウリード》の軌道から外れると、シュタルゴーゼンから距離を取る。 その手には剣先が折れた剣が一振り。 『聖・魔・炎・滅』を放つための法力が凝縮された刀身はシュタルゴーゼンの少し先に転がっている。 シュタルゴーゼンは勝利を確信して薄ら寒い笑みを浮かべた。 「これで貴様の切り札は使えまい! これで俺が最強だと言う事がはっきりする………」 しかし、絶体絶命のピンチのはずのリーシスは折れた剣をそのままシュタルゴーゼンの心臓へ向けた。静かに、冷酷さのこもった声で呪文を唱えた。 「天・翔・楼・閣」 次の瞬間、擬似空間転移をしたのはリーシスではなく手に握られていた剣だった。そしてその剣はシュタルゴーゼンを中心にしてリーシスとは反対側にその姿を表す。 それとほぼ同時にシュタルゴーゼンの胸部が、正確には心臓の位置が爆発して空洞ができた。 「な………」 シュタルゴーゼンは何が起こったか分からなかった。 気がついた時には爆発が起き、自分の胸に穴が開いている。 「『切り札』は先に見せるな………」 リーシスの声に反応してシュタルゴーゼンは声のした方向を振り向く。 リーシスはゆっくりとシュタルゴーゼンへと近づいていた。 「見せるなら『奥の手』を持て………。戦闘の基本だ。確かに『聖魔炎滅』は僕の必殺の呪文だが、本当の切り札はこっちだったんだ。擬似空間転移。質量をごまかして絶大な加速をかける事で空間転移にみせているが、完全に消えるわけじゃない。壁があればぶつかるし、普通の人間ならば摩擦熱で焼け死ぬからあまり遠くまでできない。 だが、物質的には存在してはいないわけだから転移させた物が破壊される事はない。だから使い方を変えればたとえ、単なる石ころでも必殺の武器にできる。そして………」 リーシスはシュタルゴーゼンの目の前に来ると表情を変えずに続ける。 「必殺の呪文と言うのは確実に相手を殺すものだ。僕はもう唱えるだけでいい………」 「な…にを………い………て………」 シュタルゴーゼンは自分を襲う混乱の渦に抗う事ができなかった。 何故、こんなに苦しいのか? 何故、負けるのか………? シュタルゴーゼンは、自分が折れたシュタルゴーゼンの刀身を踏んでいる事にまったく気づかなかった。 「自分の今までの罪を………悔いて死ね」 リーシスは静かに呪文を唱えた。 シュタルゴーゼンの体をメキドの火が包み込み、一瞬後には灰も残らなかった。 「………ふう」 リーシスは小さくため息をつくとその場に座り込んだ。今までの戦闘で体力、精神力共に限界だったのだ。 「シュタルゴーゼン、お前が言った事は間違いじゃない。人々には、一つ足りないものがある………」 徐々に薄くなる意識の中で、リーシスは思う。 (それを手に入れなければ、僕達は、『運命』には勝てないのかもしれない) 「ライアス………後は頼む………」 リーシスはその言葉を呟いたかも認識できなかった。 完全に意識が途絶える前、リーシスの眼には丸い球が映っていた。 「………どうだ? 私が演出した戦いは?」 暗闇から嘲りを含んだ声が響く。 徐々に闇から姿を現してきたのは魔王ギールバルト。 彼は中空に浮かぶ長方形の形の空間から眼を逸らして別の場所を見る。 その瞬間、そこの闇も晴れて一人の姿が現れる。 「貴様………」 魔王へ激しい怒りの視線を投げているのはライアスだった。 ライアスは仲間と離れ離れにされてから、すぐにこの魔王の待つ空間へと来た。 そして四方を見えない壁に囲まれて身動きをとる事ができなかったのだ。 「この戦いを俺に見せてどうするつもりだ?」 ライアスは透明な壁を拳で強く打ち据えた。 「すばらしい戦いだったな」 ギールバルトはライアスの様子を気にせずにわざとらしい拍手をする。 ライアスはそれを無言で見つめていた。 「どうした? 怒りで声も出ないか? 悔しければそこから出て私を殺してみるがいい」 「わかった」 魔王の言葉に端的に答えた後、ライアスはオーラテインを抜いた。 オーラテインは光を放ち、そのままライアスの周りの壁を消滅させる。 「………ほう」 魔王は感嘆の声を上げる。 ライアスは一歩踏み出せば剣が届く所まで近づくと立ち止まる。 「そこまでの力があるのならどうして今まで何もしなかった?」 「お前を今、倒したからといって他の『四鬼将』の命が尽きるわけじゃない。 だから皆の戦いが終わって気がかりがなくなってからお前を倒そうと思った。 ただ、それだけだ」 魔王はライアスの言葉に笑みを浮かべながら無言で剣を引き抜いた。 刀身はちょうど成年男子の体格ほどの大きさであり、柄は余計な装飾もなく大きさを除けば正に実用的なものである。 「結局、お前は仲間を見殺しにしたのだ」 ギールバルトは仮面で隠された顔の中で唯一見える口元に、醜悪な笑みを浮かべてライアスをなじる。しかしライアスは毅然として答えを返した。 「俺はどんな事をしても、たとえ仲間を見殺しにしても、貴様を倒さなくてはならない」 闘気が膨れ上がる。 ギールバルトも口元の笑みを無くした。 「これが最後の『三種の魔人器』である《ヴァイセス》だ。これをもって貴様に答えよう。全力でかかって来い」 そして、最後の戦いが始まった。 |