THE LAST DESTINY

 第四話 フォルド公国


 フォルド公国―――オーリアー帝国、ネルシス共和国と並んで世界の三代国家として世界に文明が生まれたときからある最古の国家。王は女性で代々その王族の長女が即位する女王陛下の国であり、血筋なのか優れた人格者が多く今の女王、リアリスも慈母の精神、同じように人を愛し慈しむまさに「人類の女王」と言っても過言ではない―――。


 今まさにライアスは眼下に見える城塞都市を見てディシスから教わったことを反芻していた。ディシスに教わった通りフォルド公国は見渡しただけで生活が豊かなのが分かる。
「まさに理想郷だな………」
 ライアスは感嘆して呟いていた。ライアスはしばらくたたずんでいたがまた歩き出した。
 ライアスがディシスに命じられた旅の目的。それはフォルド、オーリアー、ネルシスにあり、もう一つどこにあるか分からないオーラテインの力を取り戻す鍵となる宝玉を手に入れる事であった。
 四百年前、魔王を封じた後、神は再びオーラテインを扱う者が技術的、精神的にも十分な実力をつけさせるために旅をさせることでそれを養わせるため、離れていて力がある三つの国家に預け、残りの一つを自分の力で見つけさせようと世界のどこかに隠したのだった。
 オーラテインの本当の力、それは世界中のあらゆるエネルギーを吸収し無限の力を発揮し操ることのできる、というもので神は世界の四大元素である「風」「水」「火」「土」の力を四つの宝玉に分けた。
 これがディシスから旅に出る前に教わったことだった。だがライアスは疑問を感じていた。
(四百年前にはオーラテインの本当の力は発揮されなかったのか?)
 ディシスの話が本当なら四百年前にオーラテインの力が発揮されていたのなら魔王も滅んでいるはずである。なにか釈然としないものを抱きつつ、ライアスは、今自分にできるのは宝玉を手に入れることだ、と割り切りフォルドに向かったのだった。


 ライアスが昼半分以上すぎた頃に一つ小さな街を越えてフォルドへの門の前に行くと、そこには人の列ができていた。
「なにかあったんですか?」
 ライアスが最後尾の商人に聞くと不安げな顔をして言った。
「なんでも女王様の予言が出て、『真紅の絶望』が来るってぇ言って足止めを食らってるんだ」
「真紅の………絶望?」
「ああ、まったく参ったよ」
 その商人はあきらめてライアスが来た道を戻っていった。この一つ前の街は武器などに使う鋼の産地なのでそれを他の街に売りに行こうとしていたのだろう。他に並んでいる人も少しずつあきらめて戻っていく。ライアスは門の前に近づいていくとそれに気づいた門番の兵士の一人が話しかける。
「おい! そこの! しばらくここからは立入禁止だ」
「リアリス女王陛下に用があるのですが」
 ライアスがそう言うと兵士は少し警戒を強めた。無理もない、とライアスは思う。『真紅の絶望』などというものがくるかもしれない、という時に女王に何かあっては困るのだろう。
得体の知れない者が女王に近づくのは警戒するのももっともである。
「リアリス女王に何の用なのだ?」
 門番の一人が少し声のトーンを低くして問いかける。ライアスは特に気にせずに言う。
「話せばちょっと長くなるのですが………ここに書状があるだけではいけませんか?」
 ライアスはディシスからもらったリアリスへの書状を取り出した。門番はそれを見て驚いたような顔になる。二人の門番は互いに考えた後に
「じゃあ少し………」
 そう言いかけた時、後ろの方で悲鳴が上がった。ライアスと門番達が声のした方を見るとそこには十匹程のレッサーデーモンがこちらに向かって進んでくる。今までそこに並んでいた人々はちりぢりに逃げ出した。だが………
「わっ」
 並んでいた人々の内、一人の子供が足を滑らせて地面に倒れた。
「ちっ!!」
 ライアスはオーラテインを抜き放ち子供の元へと走る。レッサーデーモンは子供のすぐそばまで来ていた。
「伏せろ!」
 ライアスがそう言うのと子供が伏せるのはほぼ同時だった。レッサーデーモンが手を振り上げる。
「疾風斬!!」
 そこにライアスが飛び込み、一瞬で魔物を切り裂いた。子供は顔を上げ真っ二つの魔物を見ると悲鳴を上げて逃げ出した。ライアスが一体倒した事により他の九体のレッサーデーモンの注意がライアスに集中する。咆哮をあげると魔物たちの体の前に炎の矢が出現した。
 それは一斉にライアスに襲いかかる。
「っおおおおおお!!」
 ライアスは素早く剣を振り光の玉が次々と出てくる。
「閃光烈弾!」
 放たれた光の玉と炎の矢が空中でぶつかりあい爆発。爆煙が吹き荒れる。門番達は救援を呼び、魔物を倒しに行こうとしてその爆風に怯んだ。だがさらに二人を驚かせたことは爆煙がおさまり、魔物の姿が見えるとそこにはもう三体しか見えなかった。他にいた六体はすでに事切れている。
(爆風にやられたのか?)
 門番はそう思ったが魔物たちは首を切りとばされたり腹を薙がれたりして死んでいる。
 ライアスが煙の中で仕留めたのだ。門番たちが驚いている間にもライアスはすばやく二体を切り倒した。残ったレッサーデーモンは怯え、きびすを返して逃げ出した。
「逃がすか!」
 ライアスは逃げる魔物との距離を一瞬にしてつめると胴から真っ二つにした。倒れた魔物の体が消えていく。他の九体も同じように煙となって消えていった。オーラテインによって倒された魔物はこの世から完全に消滅するのだ。ライアスは剣を納めると門へ向かって歩いていき、ちりぢりになっていた人々も安心して集まっていった。だがその時突然オーラテインが光り出した。
(まさか!?)
 ライアスがそう思った瞬間、地面が急に盛り上がりレッサーデーモンが現れた。突然のことに誰もが、ライアスも隙を見せた。そこに魔物の一撃が振り下ろされる。
(よけれない!)
 ライアスは顔の前を手で覆い、次に来る衝撃に供えた。
 しかし魔物の爪が振り下ろされる瞬間、光が魔物に直撃し魔物は吹き飛ばされていた。
 誰もが何が起こったのか分からずに呆然となる。ライアスは我に返り自分を襲った魔物の姿を見ると一目で絶命していると分かった。魔物の上半身は塵一つ残っていなかったのだ。
「リーシス様!」
 後ろで声がした方を向いてみるとそこには一人の男が立っていた。端整な顔立ちで、優しさの中に強固な意志を宿した瞳を持っている。着ているのは神官服のようだが動きやすいように上下は切り離されて普通の服のようになっており白地の服に胸に十字の紋章が入っている。
「お待ちしておりました。聖剣士ライアス様。僕はフォルド公国大神官リーシスという者です」
 その男、リーシスはライアスに向かって笑顔で挨拶をした。ライアスは少しどぎまぎしながら頭を下げる。大神官リーシス―――ディシスから聞いた話によると現女王リアリスの第一子でフォルド公国魔法兵団千万騎を束ねる兵団団長。歴代フォルド、そして世界最高の法力を持ち『守護神』と呼ばれている―――ライアスがとまどったのは、そんな人がいきなり自分の前に姿を現したことに驚いたのもあるが、なにより先ほどの魔物を倒した、
 おそらく魔法であるのだろうが、その力の凄まじさに驚愕したのだ。オーラテインは魔族の魔気を感じ取り、魔気の強さに比例して強く輝く。ライアスが倒した十体の魔物は魔気は弱く低級の魔物だったのだが、地中から現れた魔物は輝き方から見て中程度の力、倒せるが少しは手こずるような相手だったのだ。
 それを悲鳴も上げさせずに一瞬で倒すには並みの法力ではできない。
 そのことをライアスは感じとまどってしまったのだ。
 リーシスはライアスの様子を特に気にするそぶりもなく話で言葉を続ける。
「奥に馬車を待たせてありますのでどうぞ。城へとお連れいたします」
「あの………俺は………」
 ライアスが言いかけると
「分かっています。宝玉を取りに来たのでしょう。一通りの事情は前々からディシス様から聞いておりますのでご安心を。書状はお預かりしておきますね」
 リーシスは書状を受け取り馬車に向かいライアスはそれを追いかける。
 どうやら書状は面会するのに必要だったのではなく、何かリアリス女王への手紙だっただろうとライアスは思った。
 二人は馬車に乗り込み城へと向かった。




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