THE LAST DESTINY

 第三話 運命の始まり


 その城からはすさまじいほどの魔気が放たれていた。「絶望の大陸」ゴルネリアスに突如そびえ立った城、そこには入り口周辺には何千、何万もの魔物がひしめきあっていた。
そしてその光景を玉座の前にある水晶から見つめる5つの影があった。その影は5つとも人間の形をしている。
「ふん、醜悪な………これだから獣風情はいやなのだ」
 言うか否や影の一つが実体を帯びる。髪は金髪で、顔つき、目つき共にがっちりとしておりその身体からは全ての者を見下すかのようなすさまじい威圧感を放っている。それに併せて残りの影も人間の姿になる。
「まーあ、いーんじゃなーい。あーんなやーつらもやーくにたーつんだから」
 間延びした口調で言う魔族は、ぼさぼさの薄い水色の髪をぼりぼりとかきながら、そばかすだらけの顔をにたりとほころばせている。
「ああ、捨て駒にはちょうどいい」
 そういい放つ魔族は、銀髪に鋭い目つきでどこにも隙を感じさせないいかにも武人風な雰囲気がある。
「ところで先程わかったことがあります」
 燃えるような赤い髪で、それに負けないほどの紅の瞳、そして片方の眼にはなにか機械的な眼帯をつけている女性の風貌の魔族が玉座の方を見る。他の魔族も一斉に玉座を振り返る。いつの間にかそこには人影が座していた。その人影が問いかける。
「なんだ? フェリース」
「はい」
 フェリースと呼ばれた魔族は一歩前に踏み出すと神妙な顔つきで言った。
「ゲオルグが死にました」
「本当かフェリース?」
 銀髪の魔族がフェリースに尋ねる。だがその口調はゲオルグを失った事よりも倒されたと言うことについて驚いている様子である。
「ええ、本当よアイオス、確かについさっきゲオルグの魔気が消えたわ」
 アイオスと呼ばれた魔族はやはり驚きを隠せない。
「だがあいつは仮にも『八武衆』だぞ、それを倒せる輩がいるなんて………」
 残り2体の魔族も話題には触れないが内心は動揺しているようだ。
「それはつまりだ………」
 突然玉座に座る影が立ち上がった。それは完全に人型をなしている。全身に青い甲冑を纏い、兜で顔は見えない。だが心なしか笑っているようだ。
 立ち上がる動作だけで旋風のように魔気が過ぎ去る。そしてその魔族―――『魔王』ギールバルトは言った。
「それはつまり、四百年前の決着をつけることができる、ということだ」
 そう言ってギールバルトはフェリースとアイオスの横にいる二体の魔族に問いかける。
「シュタルゴーゼン、ゼブライス、あれの準備はどうだ?」
 そう言われて金髪の魔族、シュタルゴーゼンが一歩前に踏み出す。
「はい、ほぼ完成しております」
 シュタルゴーゼンがそう言うと今度はゼブライスが一歩前に出る。
「あーとは、《ライデント》がそろえばかーんぺきです」
「そうか………」
 ギールバルトはそれを聞き今度はフェリースの方に視線を移す。
「フェリース」
「はい」
 フェリースはギールバルトの持つ威圧感に体が固くなる。「魔王」の放つ魔気は同じ魔族でもまったく桁違いの強さのためフェリースはギールバルトを直視できない。
「フェリース、命令だ。フォルドにある《ライデント》を取り戻してこい」
「はっ」
 フェリースは命令を聞くと、すぐさまきびすを返し玉座の間から退出した。昔、四百年前から「魔王」の命令は絶対なもの。口答えは許されない。そう思い命令だけを聞き退室したのだ。
 だがフェリースは何かおかしな感覚を覚えていた。
(昔の魔王様とは………何かが………)
 しかし不意に浮かんだ考えはすぐさま命令を遂行するための計画を考えるべく思考の外に追いやられていった。


 フェリースが去った後、残ったシュタルゴーゼン、ゼブライス、アイオスの三体の魔族も玉座の間から去った。
 残るは「魔王」ギールバルトだけである。
「さあ、人間よ………お前達の真実を見せてみろ………」
 そう呟いた「魔王」も声は先ほどの声とはまるで違っていた。


 魔物に襲われた後始末を終え、ライアスが旅立ちの準備を終えたのはもう昼を回ったところだった。
 村の入り口に村人たちとライアスが集まりそれぞれ別れの挨拶を口にしている。ライアスの両親とは家を出るときに別れはすましてきてある。今この場にいると引き留めたくなるからと言ってここにはいない。だがライアスは充分だった。今ライアスが纏っている服装、青いバンダナに白銀のブレスト・メイル、黒いマントに濃青色のズボンというのは両親が用意してくれたものだ、どうやらディシスから前から事情を聞かされていたらしく、両親はさして驚くことなくライアスから旅に出ることを聞くと旅支度を調えるのを手伝いただ一言、気をつけて、と言ったのだった。
 ライアスはその時のことに思いを馳せていたが、ラルフが話しかけてきたのでその思いは断ち切られる。
「俺ももうすこし修行をして力をつけてからすぐ後を追うよ」
 ゲオルグにやられた傷は回復魔法によりほぼ完治しているようだ。ライアスは笑顔で
「ああ」
 と答えた。
「ライアスよ」
 ディシスがライアスに向かって話しかけてきた。
「これだけは覚えておけ」
 ディシスは諭すように言う。
「先ほど話したように、オーラテインの真の力を発揮すれば想像を絶する力が手に入る。しかし忘れるな、お前は………」
「俺は一人の人間です」
 ディシスの言葉を遮りライアスは言う。
「世界のため、なんて大それた事を口にするつもりは俺にはありません。一人の人間ができること、それは目に映る人々をその場にある苦難から守ることだけです」
 ライアスははっきりとディシスに向かって言った。ディシスは満足げな表情を浮かべて
「それでいい………」
 と呟いた。
「では………いってきます」
 ライアスは見送る村人のエールをうけて彼を巻き込む運命の荒波の中へと乗り出した。
 次第に遠ざかっていくライアスの姿を見ながらディシスはラルフに向かって話しかける。
「ラルフ………話がある」
「? はい………」
 ラルフが振り向いたその先には悲痛な顔をしたディシスがいた。
 今、物語の幕が開く。


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あとがき

 新シリーズ、始まりました。
 といってもこれは僕の処女作を加筆修正したものでして、新しいというわけでもないのです。
 エンドレスワルツよりも先に書いてるので一部ネタが被ってしまうような所もあるようなないような。
 まあ話数はかなり長くなりますが頑張って修正していきますのでよろしく。
 ではでは、また新章で




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