THE LAST DESTINY

 第三十九話 そして最後の運命が始まる


「くそ!!」
 ティリアは光皇翼を輝かせ、ゲリアルに渾身の一撃を振り下ろした。
 だがそれも六枚の翼が簡単に受け止めてしまう。
 驚愕の表情を見せるティリアにゲリアルは無表情で言った。
「この姿になった以上、もう光皇翼は無意味だ」
 ゲリアルは空中にティリアを弾き飛ばし、翼を叩きつけた。
「幟天翼弾!!」
 翼から放たれたいくつもの黒い弾丸はティリアの体を何度も貫く。そしてそのままティリアは地面に叩きつけられた。
「ティリア!!」
 ラルフが即座に駆け寄りティリアを覗き込む。ティリアは既に意識はない。ラルフは軽く舌打ちをして前方に視線を移すとすぐそこにゲリアルが迫っていた。
「喰らえ! 龍鳴乱斬!!」
 ラルフがゲリアルに向かって放った一撃は、ゲリアルの姿をとらえきれずに空を切る。
 ゲリアルはラルフの懐に一気に詰め寄り幟天翼弾を鳩尾にたたき込んだ。
「があっ!!」
 ラルフは後方、ライアスの方に弾き飛ばされてきた。ライアスはラルフの背中を受け止め一緒に飛ばされる。その隙にゲリアルは《ライデント》を持つレイナへと向かう。
 レイナは真正面からゲリアルに向かっていった。
「奥義! 天翔龍!!」
 レイナが飛び込んできたところにゲリアルが叫んだ。
「見せてやる! 我が力を!!」
 ゲリアルの体が凄まじい炎に包まれ、肉薄していたレイナを包む。レイナが苦痛の叫びをあげる前に、ゲリアルがレイナに向かって腕を×の字に交差させた。
 レイナの胸部を覆っていた鎧が粉々に砕け散る。
 衝撃でレイナは吹っ飛び、意識を失ったまま地面に叩きつけられた。
「《ライデント》は貰うぞ」
 ゲリアルがレイナへと近づいていく。
 ライアスはようやく体勢を立て直してレイナへと向かった。
「レイナ!!」
 ライアスが必死に叫ぶがレイナはぴくりとも動かない。ゲリアルが笑みを浮かべながらレイナの間近に迫った時、突如ゲリアルはその場から身を宙に浮かせた。そして少し離れた場所に着地する。
 ゲリアルが一瞬前いた空間を黄金の閃光が通り過ぎる。
 それはティリアの放った一撃だった。
 ティリアは息を切らせて、足を震えさせながらも何とか立ち、剣を構えている。
 剣は黄金の光に包まれてロングソードの刀身にバスタードソード並の光の刃が生まれていた。
「あたしが………み、みんなに………指一本………触れ……さ……せない………」
 ティリアは言葉も絶え絶えになりながらゲリアルと倒れているレイナの間に立ちふさがった。
「ティリア!」
 ライアスがティリアの様子に思わず叫ぶが、ティリアは向かってこようとするライアスを片手で制すると今度はしっかりとした口調で言った。
「あたしがみんなを守る………絶対に………」
 ライアスは動けなかった。
 今のティリアの様子では敗北は明らかだというのが分かっているのにも関わらず体が動かない。
 ティリアはそんなライアスの様子を見ないでゲリアルに立ち向かった。
 ゲリアルはその場から動かずに完全に攻撃を受け止める体勢だ。
 その姿を、もうすでにティリアの視線はとらえてはいなかった。
 ティリアは渾身の一撃を目の前に叩き込むことしか考えてはいない。
 ゲリアルも躱そうと思えば躱せるものをあえて黒光の剣を上段に横にして構えた。
 そこにティリアの一撃が振り下ろされる。
「エナジー・スラッシュ!!」
 ティリアの一撃が黒光の剣に衝突した瞬間、大爆発が起こった。
 激しい爆発にライアスは何とかその場に耐えたが、気を失っているラルフとレイナの体は宙に投げ出される。
「ちいっ!!」
 ライアスは近かったレイナの体を何とか受け止めたが、ラルフは届かない。
「くそっ!」
 ライアスが駄目で元々でラルフの方へ向かおうとした時、ラルフの体はヴァルフィードによって受け止められていた。そのままヴァルフィードはライアスの元に来て地面にラルフを降ろす。
 ライアスが視線をティリアの所に向けると、まだ爆炎はおさまっていなかった。
 再びラルフとレイナに視線を戻すとヴァルフィードが光っている掌を二人に向けている。
 徐々に二人の傷は塞がっていった。
「二人は大丈夫だ。それより………」
 ヴァルフィードは治癒を続けたままライアスに黒い小さな小箱を渡した。
「これは?」
 ライアスが聞くとヴァルフィードは区切りながら言葉を発した。
「これは、転移装置だ。一分経つと、発動するようにする。この近くから離れるな」
 ヴァルフィードは言い終わると、晴れ始めた爆炎の方に歩き出した。
「なにを………」
 ヴァルフィードに言葉を投げかけようとしたライアスは途中で絶句した。
 ヴァルフィードが向かっていくその先に、ゲリアルにつり下げられたティリアの姿を見たからだ。
「ティリア………」
 ティリアの鎧は吹き飛び、全身は血塗れで、襟を捕まれて吊り下げられていた。右手には堅く剣が握られているが意識は明らかにない。いや、ここから見ただけでは命さえもないかもしれない。
「後は、お前だけか………」
 ゲリアルはライアスの方にティリアを投げつけた。途中でヴァルフィードが受け取り、近寄ってきたライアスに優しく渡す。そしてすぐにゲリアルに向かい合った。
「あの箱の近くにいろ」
 ヴァルフィードは同じ言葉を言った。ライアスはすかさず言い返す。
「俺があいつを倒す。あなたはみんなの治療を頼みます」
 ライアスの言葉を聞いてヴァルフィードは首を横に振った。
「今のライアスでは勝てない」
 その言葉にライアスは思わず語気を荒くした。
「どうして!! オーラテインの力は完全に甦ったのでしょう」
「完全ではないのだ」
 ライアスの言葉にもヴァルフィードは冷静に答える。
 ライアスはヴァルフィードの言葉に絶句した。
 ヴァルフィードは再び背を向けると何か呪文のようなものを唱えた。
 その刹那、ライアスの視界が暗くなりすぐに回復する。
 そこは先の黒い小箱のある辺りだった。
 すぐに動こうとしたライアスの体を何かが押さえつける。
「これは………」
 ライアスはヴァルフィードを見た。ヴァルフィードはもうライアスを見てはいない。
 ゲリアルをじっと見つめていた。
 だが、後ろのライアスへ言葉をかけた。
「真実は直に分かる。その時まではお前を生きながらえさせなければ」
 ヴァルフィードはその言葉を最後にゲリアルに戦いを挑んだ。ライアスはただ見ているしかない自分に、今までで一番の無力感を感じていた。怒りのあまり、手を握り締めてそこから血が流れてきている。
 戦いは圧倒的にゲリアルが押していた。ヴァルフィードは空間転移を利用して攻撃を躱していたが完全には避けきれずに負傷していく。
「ライアス」
 ヴァルフィードの戦いを見ていたライアスに声がかけられる。その声の主、ラルフは立ち上がり戦いの場に向かおうとしていた。
「ラルフ………行くな」
 ライアスはラルフに懇願するように言った。転移装置の時間はすでに三十秒を切っている。
 ラルフは少しだけライアスのほうに顔を向けた。
 そして唇から言葉を紡ぎだす。
「じゃあな」
 ライアスの心はその言葉を拒絶した。
 だがゲリアルに向かっていくラルフの背中を見て、その言葉がライアスの心を深く抉っていく。
 ライアスの目からは涙が零れ落ちた。
 そして渾身の力を体中に込めて呪縛を断ち切ろうとする。
 ラルフは閃光烈弾を放ち、ゲリアルがそれを弾き飛ばすのに翼を覆った瞬間、ヴァルフィードはゲリアルに後ろから組み付き、羽交い絞めにする。
「!!?」
 ゲリアルは翼を開き幟天翼弾をヴァルフィードに浴びせる。ヴァルフィードは苦鳴を洩らすが、より力強く羽交い絞めにする。そしてラルフに叫んだ。
「私ごとゲリアルの心臓を刺せ!」
 ヴァルフィードの言葉にラルフは無言で頷き、『神龍の牙』を構えてゲリアルに走る。
 その様子に違和感を感じてライアスは目線を横に滑らせる。
 ラルフの剣―――幼いころから愛用していた剣が、そこに置かれていた。
「ラルフ!!!」
 ライアスは声の出る限りラルフの名を呼んだ。なぜか走馬灯のように記憶が駆け巡ってくる。ライアスは涙を気にすることなく叫びつづける。だがその叫びもむなしくラルフは何発もの幟天翼弾を受けて血まみれになりながらも剣をゲリアルの胸に突き刺した。
 ライアスの叫びとラルフの咆哮、ゲリアルの絶叫が重なり合う。
 そしてライアスの視界がブラックアウトする直前に閃光が起こったのをライアスは感じていた。


「―――フ!!」
 何度目かの呼びの後、ライアスは別の場所へと転移していた。そして耳に大音量の爆発の音が響く。
 顔を上げると遥か遠くに光の柱が見えた。ライアスはその柱が立っている場所が創界山だと確信する。ライアスは風の結界を張ってそこに向かおうとしたが、足元を見るとティリアとレイナが倒れていた。
 レイナの傷は龍戦士特有の『気』によって徐々に塞がりかけているが、ティリアは血塗れのままピクリとも動かない。
『光皇翼』の力ならもう傷は回復してもいいはずなのだが、その力が少ししか、いやまったく働いていない。
(このままだとティリアが………)
 ライアスは結界を張るのを止めてティリアを回復させようとオーラテインの力を使おうとした。
 その時、オーラテインが突如光り輝いた。
「何だ?」
 ライアスはオーラテインの光が強まっていくと共に力がみなぎってくるのを感じていた。
 今まで以上の力、宝玉を集めたときとは比べ物にならない力が自分に集まってくるのを感じる。
 ライアスはある考えが脳裏によぎり創界山の方を見やった。
 光の柱はもうすでに消滅していた。
 あの熱量ではその場にいたものは既に息絶えている事は明白であり、それはすなわちヴァルフィードの、ラルフの命が尽きたということを意味する。
「ライアス………」
 意識の中にいたライアスを不意に現実に連れ戻す声が響く。視線を向けると意識が戻ったレイナがライアスに心配そうな視線を向けている。
「ティリアが………」
 レイナの言いたいことが分かったライアスは無言でオーラテインをティリアの上にかざした。オーラテインから放たれる光によってティリアの傷はすぐに塞がっていった。
 完全に傷がふさがったティリアはそれでもまだ意識を戻さない。
「かなり衰弱しているな」
 ライアスは無理もない、と思う。みんなを助けるためにティリアは自分の持てるすべての『光皇翼』の力を使ったのだ。命を削るほどの力だったのだろう。ライアスはティリアを背中に担ぐとレイナに言った。
「ティリアの容態が心配だ。村まで行こう。そこで医者に見てもらうんだ」
「でも、近くに村なんてあるの? それに………」
 レイナが言いかけた事はライアスにも分かった。だからレイナに先んじて言う。
「ラルフは………おそらく死んだ」
「えっ………?」
 レイナはライアスの言ったことの意味を即座に理解できなかった。
 少しして顔が驚愕に覆われる。
「えっ………、そ………んな………」
 あまりの驚きに言葉を詰まらせるレイナにライアスはもう一度はっきりと言った。
「ラルフは………死んだ」
「どうして………分かるの………?」
 レイナの疑問ももっともだった。レイナはあの瞬間、気を失っていたし、気づくとこの場所にいたのだ。ラルフが死んだという事を信じられないのも無理はない。
 ライアスは説明している時間も惜しいというように歩き出した。慌ててレイナも後を追う。
「俺も確証はないんだ。でも、その答えを知っている人物がいる」
 ライアスはレイナを見ずにまっすぐ進行方向に目を向けたまま言う。レイナは無言でそれを聞く。
「君も知っている人物さ」
 小高い丘を抜け眼下に広がる景色を見たときレイナは思わずあっ、という声を洩らした。
 眼下に見える村―――『隠れ里』を見ながらライアスは呟いた。
「全てはディシス様が知っているはずだ」
 二人は疲労しきった足を動かして、眼下の村へと歩みを進め出した。


 全てがなくなった創界山山頂、大きな岩などがごろごろとしていたその場所はすでに平たい大地となっていた。
 爆発の衝撃で山頂部分はかなり吹き飛んでいる。そこにいたものの形跡も残っていないその場所にひとつの影が降り立った。
「ゲリアルも相応の働きをしたようだな」
 侮蔑の念を込めてその言葉を口にするのはシュタルゴーゼンだった。
 爆発の余波でリアリスが張った結界の、創界山の真上の部分がぽっかりと穴が開いた状態になったのだ。
 シュタルゴーゼンはゆっくりと目的の物へと近づいていく。
 そして目的の物、《ライデント》を拾うとほくそえんだ。
 レイナがゲリアルの一撃を受けた時に首にかけてあったものが衝撃で外れたのだろう。
 鎧が砕けるような一撃を加えられても《ライデント》には傷ひとつついていない。
「これで準備は整った。最後の時だ、人間どもよ………」
 シュタルゴーゼンはおぞましいほどの笑みを浮かべて空へと消えていった。


 消えた真下の地面には一振りの剣が、泥にまみれて転がっていた。


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 急展開な第六部、終了です。
 本当に急展開でエネルギー使います。
 さあ、いよいよ最終第七部、最後の運命、です。
 全十二話予定!
 読んでくれている人、最後まで見てくださいね〜。

 感想くれたら嬉しいのです〜




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