THE LAST DESTINY

 第二話 最初の戦い


 ライアスが屋敷から出ると、村の入り口辺りから火の手が上がっていた。村人が次々とディシスの屋敷の方へ逃げてくる。
「ちぃ!」
 ライアスは広場の方に向けて走り出した。村の構造はディシスの屋敷まで入り口からほぼ一直線になっている。村の中央にある広場で魔物をくい止めなければさらに民家に被害が及ぶ。
 広場に近づくと道に何体かの魔物の死体があった。
 おそらくラルフが倒したのだろう、切り口が×字になっている。ラルフは本来二刀流であり、倒した魔物にはたいてい同じような形の切り傷がついていた。
 そしてライアスが広場に着いた時、
「うわっ!」
 ラルフの声だ、とライアスが認識した瞬間、目の前を何かが通り過ぎ、広場を囲っている塀に激突した。
「ラルフ!」
 通り過ぎた何かはラルフだった。ライアスはラルフに駆け寄った。
「ラルフ! しっかりしろ」
「ライアス、気をつけろ・・・・・・、やつは、今までの魔物とは格が違う」
 ラルフの声に命に関わるダメージは受けてないと安心したライアスは、広場の中央に目を向けた。
 そこには一匹の魔物が立っていた。
 背丈は約2メートル程、身体は金色の毛で覆われていて指先からは長いものはロングソード並、短いものはダガーほどの爪が伸びている。
 背中の辺りからは6本の触手のようなものが生えていた。その魔物は真っ直ぐにライアスたちの方に近づいてくる。
「グフフ、ミツケタゾ・・・・・・」
 魔物はたどたどしく人語をつかって呟いた。
「どうしてこの村を襲う!」
 ライアスはオーラテインを構えて魔物に問いかける。魔物は立ち止まり答えた。
「グフフ・・・・・・オレノナワ、ゲオルグ。マオウサマニツカエル『ハチブシュウ』ダ。マオウサマノ、メイニヨリ、マオウサマヲ、オビヤカスヤツヲ、シマツシニキタ・・・・・・」
 ゲオルグと名乗った魔物はそう言うと、突然体勢を低くし、ライアスに向かって突っ込んできた。ライアスはかわそうとするがラルフがまだよけられる体勢ではない。
「こうなれば………」
 ライアスはオーラテインを正眼に構えると「気」を集中した。するとライアスの身体と刀身に光が纏われていく。
「グガァァァァアアア」
 すぐそこにゲオルグの爪が迫ったその時、ライアスの身体が動いた。
「疾風斬!」
 ライアスは身体と刀身に「気」を纏ったままゲオルグに突っ込んだ。
 ゲオルグの爪とオ―ラテインが耳障りな音を立てて激しく鍔迫り合う。
「ウ………ガァア」
 ゲオルグは一気に広場の奥まで押し戻されていき、そのまま倒される。
 ライアスは少し離れた場所に止まると、ゲオルグの方に向けまた剣を構えた。
「ウ………グ………」
 見るとゲオルグの肩口から血が出ている。倒したときにライアスがその勢いを切り裂いたのだ。
「あれがオーラテインの力・・・・・・」
 ラルフが体勢を立て直して言う。「疾風斬」―――ライアスとラルフがディシスから授かった剣技の一つで、刀身と身体に自分の「気」を纏い相手に突撃する、というものだ。
 だが、ラルフが驚いたのは普通の剣でこれを繰り出したときに比べて遙かに威力が上がっているのだ。普段は一匹の低級魔物を貫ける程度だが今の威力だと3〜4体は一撃で倒せるだろう威力がある。それでもゲオルグが生きているのはゲオルグが並の魔物ではないということだ。
「いくぞ!」
 ラルフはゲオルグに向けて走り出した。そしてその最中、手に持った剣を振る。すると剣から握り拳状の光の玉が出てきた。それは剣を振る度に数を増していく。ライアスもその様子を見て剣を振り、光の玉を増やしていく。
「………ナニヲスルキダ………」
 徐々に高まってくる二人の闘気に戸惑い、ゲオルグはどちらに攻撃するかためらう。そして二人の闘気が爆発した。
「閃光烈弾!!」
 二人の声が同時に響き剣をゲオルグに向かって振り下ろすと、二人の周りに集まった光の玉は一斉にゲオルグに向けて飛んでいった。そしてゲオルグに当たると爆発を起こした。
「グギャァァアアアア」
 ゲオルグの絶叫が響く中、次々と爆発が巻き起こりゲオルグの姿は噴煙の中に紛れて見えなくなった。
「よし! やったぞ」
 ラルフは剣を納めてライアスに駆け寄る。ライアスも剣を納めようとした時、ライアスは奇妙な感覚を覚えた。
(これは・・・・・・まさか!)
 反射的にライアスは叫んでいた。
「ラルフ! やつはまだ生きてる!」
「なっ!?」
 ラルフが言葉を返しかけたその時、噴煙の中から何かが飛び出しラルフの右腕と両足を貫いていた。
「ぐわぁぁ!」
 ラルフは苦鳴をもらす。ラルフを貫いたのはゲオルグの触手だった。ライアスは触手を斬ろうとしたが、触手はオーラテインを跳ね返した。
「なに!」
 ライアスは驚きの声を上げた。
 さっき「疾風斬」でゲオルグの身体を切り裂いた時は手応えと共に切り裂けたのに、今回は斬ることすらできない。
「くそっ!」
 ライアスがまた触手を斬ろうとすると、触手はラルフの身体から離れまだ残る噴煙の中に戻っていった。
「大丈夫か! ラルフ!」
「ああ………だが、これじゃあ、戦え……ない………」
 ラルフは急所ははずれていて命に別状はなさそうだが重傷に間違いなかった。ライアスが噴煙の方を見ると歩いてくるゲオルグの影が見えた。
(どこか、巻き添えにならないところにラルフを運ばなくては………)
 ライアスはラルフを肩に担ぐと広場の端の方に駆け出した。
(!)
 一瞬、背筋にうすら寒いものを感じあわてて横に飛ぶと、元々走っていた場所に触手が迫った。後ろを見るとゲオルグが触手を伸ばして追ってくる。
(くそっ)
 ライアスは内心焦っていた。このままではいずれ触手に捕まってしまうがラルフがこの状態では戦えない。そして何度目かのゲオルグの攻撃をかわしたとき、ライアスは地面に足を取られた。
(しまった!)
 ライアスはもろに体勢を崩しその場に倒れ込んだ。ゲオルグはそれを見て笑いを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。
「グフフ………スグニ、ジゴク、ニ、オクッテヤル」
(万事休すか………)
 ライアスもあきらめかけたその時、
「ッギャア」
 ゲオルグが短いうめき声を上げてライアスたちから少し離れた。ライアスがどうしたのかと見るとゲオルグの背中に一本剣が刺さっている。そしてライアスたちの所に2、3人の人が駆け寄ってきた。
「みんな!」
 ライアスは近寄ってきた村人たちに安堵の声を上げる。
「ライアス、ラルフは大丈夫か?」
 近寄ってきた村人の一人が心配そうに尋ねる。
「大丈夫です、手当をお願いします」
 ライアスはラルフの手当を村人に頼み急いでこの場から離れさせた。その間うめいていたゲオルグは背中の剣をやっとの事で抜くとライアスの方に憎悪のこもった視線を向けた。
「キサマ………コロス………」
「やれるものなら………やってみろ!」
 ライアスはゲオルグに向けて駆け出した。ゲオルグも走りお互いの距離が縮まる。
「疾風斬!」
 再びライアスは疾風斬を放ちゲオルグに突っ込んでいく。
「オナジテ………クワナイ!」
 ゲオルグはそう言いその場に立ち止まる。そして触手がゲオルグの前半身を覆った。そこにライアスは突っ込み、ゲオルグを勢いに任せて押す。
「うぉおおおお!」
 ライアスはさらに押すが触手がオーラテインをゲオルグの身体に届くのを防いでいる。そしてついにライアスの周りを覆う「気」の光が消えた。一瞬無防備になるライアス。
「ッシャァアアアアア!!」
 ゲオルグはその隙に前を覆った触手を一斉に開いた。反動で鋭さが増した触手5本がライアスを襲う。
「くっ!」
 ライアスは何とか後ろに飛んでかわすが完全にかわしきれず左足を浅く薙がれた。
「グフフ………グフッァアアア」
 ゲオルグは奇妙な哄笑を上げる。だがライアスもゲオルグを見て薄く笑みを浮かべた。
「なるほどな………その触手が『閃光烈弾』を防いだんだな」
「グフフ………ソノトウリヨ………」
 ゲオルグは自分の優勢を疑っていなかった。だがライアスはかすかに笑みを浮かべる。
 その様子にゲオルグは声を荒げて叫ぶ。
「ナニガオカシイ!! オマエノワザ、モウ、ツウヨウシナイ!!」
「そう思うなら、もう一度やってみるか?」
「ナニ?」
 ライアスはなおも余裕を見せてゲオルグを挑発している。ゲオルグは少し考える素振りを見せた後、ライアスに向けて叫んだ。
「コンドハコロス!!!」
 そして再び触手で前半身を覆う。ライアスは剣を構えた。
「いくぞ!」
 ライアスは三度ゲオルグに向かう。だがゲオルグは気づいていなかった。今回の攻撃は前のものとは違うことに。
 ライアスが放つ気は今度は刀身だけに収束されていく。それはゲオルグが目の前に来た時点で最大になった。
「破邪剣聖!」
 ライアスは剣を上段に振りかぶり、渾身の力で振り下ろした。
「滅殺!!」
 そしてオーラテインは、ゲオルグが悲鳴を上げる間もなく身体を真っ二つにしていた。

 ―――とさっ、

 軽い音をたててゲオルグの真っ二つになった身体は地面に崩れ落ち、そしてそのまま黒い灰になり風の中に消えていった。おそらく斬られた事さえも気づかなかったであろう。
(予想通りだったな………)
 ライアスはゲオルグの性格から自分の挑発を絶対受け、その場から逃げないで自分の技を受け止めようとすること、そして自分の持つ最大の技、「破邪剣聖滅殺」―――刀身に自分の持てる気を全て集めて相手を切り裂く―――をオーラテインで繰り出せば必ず触手を切り裂けるだろうということを自分の中で確信し、ゲオルグを挑発したのだった。
 ゲオルグのいた場所からライアスは村の入り口の方に視線を移す。次第に火の手は収まり魔物も全て他の村人が退治したようだ。
「終わったな………」
 ライアスはゲオルグを鞘に収めるとディシスの屋敷へと戻っていった。




戻る  進む

Indexへ