THE LAST DESTINY

 第三十六話 試練T


「かあっ!!」
 アクリュシエイトが口から吹雪を吐く。ライアスは剣を氷に突き刺してその反動で横に移動する。しかし滑るために体勢が安定せず、体制が崩れているところに続けて吹雪のブレスが押し寄せた。
 ライアスは何とかそれを躱す事しかできない。
「あれじゃあ完全に不利だよ!」
 ティリアが戦いの様子を見て叫ぶ。そんなティリアをラルフはなだめながら言った。
「ライアスは今、自分自身の力を試されているんだ。オーラテインの力無しで、どこまでできるのかを………。これを乗り切れなければ、世界なんて救えない」
 ティリアはラルフの声に少しの苦悩を感じた。
 ティリアは思う。
 ラルフの心の中はライアスの力になれないことで悔しい想いで満たされているんだ、と。
 ティリアは一瞬ラルフに視線を向けてからライアスに叫ぶ。
「負けるなー! ライアス!!」
 ラルフもレイナもティリアを見て苦笑を漏らしながら戦いの行方に注目した。


 相変わらずアクリュシエイトが吹雪のブレスでライアスを攻撃している。ラルフはあることを気付いた。
(あいつ………)
 ラルフはライアスがやろうとしていることに気付き、感心した。
(戦いの駆け引きはお前の方がやはり上だな)
 そうしているうちにライアスの動きが止まる。
「どうした? 逃げ回るのは止めたのか?」
「ああ」
 アクリュシエイトはライアスの絶望を感じさせない口調にたじろいだ。ライアスは剣を突きつけて叫ぶ。
「これからは全て俺の反撃だ!!」
 ライアスは先程までは考えられないスピードでアクリュシエイトに向かう。
「まさか!?」
 アクリュシエイトも気付いた。ライアス達が戦っている辺りの氷は吹雪のブレスによって大小さまざまな突起ができていた。これによりライアスは滑ることなくアクリュシエイトに向かっていける。アクリュシエイトが驚きと期待が混じった瞳でその様子を見ていると、一瞬にしてライアスは間合いを詰めてきた。
「くっ!!」
 アクリュシエイトは攻撃を躱そうとするがライアスが一瞬速い。
「くらえ!!」
 ライアスの斬撃はアクリュシエイトの右腕を切り落とした。アクリュシエイトは苦痛に顔をゆがめた。
 激痛に耐えながらアクリュシエイトはライアスから離れて体勢を整える。
「一つ聞きたい」
 アクリュシエイトを見据えたままライアスは問いかけた。
 その声の内に一種の虚しさを感じさせながら。
「この勝負は、倒す、のか、殺す、のか………」
 ライアスは言葉を区切りながら言う。アクリュシエイトは顔をライアスに向けるとはっきりとした声で言った。
「殺せばいい。我はお前の力を測るために生まれた。お前が我を殺すことが我の存在した証となる」
「そうか………」
 ライアスはもう顔に表情はなかった。アクリュシエイトの体が光り、人型になっていく光景も無表情で見つめている。
 アクリュシエイトは青い髪、青いコートを来た人間へと変貌した。
 肌の色も青である。
 おもむろに手を前にかざすとその手に氷が集まっていき剣のようになった。
「いくぞ」
 アクリュシエイトはそう言ってライアスの元へと走る。ライアスもアクリュシエイトの方へと進む。いつもと段違いのスピードで持って。ライアスとアクリュシエイトの剣が交差し、激しい音をたてて離れる。
 ライアスは即座に光球を体の周りに発生させた。
「閃光烈弾!!」
 光球は剣の人振りによって一斉にアクリュシエイトへと向かう。アクリュシエイトも体の周りに氷の球を発生させた。
「シャッ!」
 光球と氷の球が凄まじい音を立ててお互いを相殺しあう。それがすむとすぐにお互いに詰め寄り、剣を打ち合う音が何度も何度も洞窟内に響きわたる。
「シャアア!!」
 アクリュシエイトが渾身の一撃をライアスに向かって振り下ろした時、ライアスは超反応を見せ、剣の柄頭で斬撃を受け止め、上に向かって振り抜いて弾き飛ばした。
「!?」
 流石にこの反応はアクリュシエイトも予測できなかったようで驚愕の表情を浮かべる。
 剣を上に弾かれて無防備になった上半身に爆音と共にライアスの寸打が叩き込まれた。
「ぐがぶっ!!」
 アクリュシエイトは数メートル吹っ飛び、洞窟の壁に激突した。それを追い、ライアスが斬撃を浴びせる。
 今度は完全に肩口から上半身を斬り裂いた。
 ライアスと、人間と同じ赤い鮮血が迸る。
 アクリュシエイトは最後の断末魔もなく絶命した。
 しばらくその姿を見てからライアスは剣を鞘に収めてラルフ達の方を見る。
 その顔が驚愕に染まった。
「なに………?」
 ラルフ達はいなくなっていた。アクリュシエイトが人型になる前までいたのは覚えている。それに、それから今まではほんの少ししか時間は経っていないはずである。動揺しているライアスの頭に声が響いた。
《仲間は頂上にいる。助けに来るんだな》
 それだけ言って声は消えた。ライアスは見えない声の主に叫ぶ。
「必ずいくからな。仲間に危害を加えて見ろ、どんな手を使ってでも貴様を殺す」
 ライアスは洞窟の奥へと走っていった。


「凄まじい闘気だ。さすがオーラテインに選ばれただけのことはある」
 遙か雲の上、創界山頂上にたたずむ男はそう呟いた。腰まである金髪、緑の瞳で白いローブのような物を纏っている。男は空のある一点を見つめていた。そこにはライアスの姿が映っている。
「ライアスなら必ず来ます」
 後ろからラルフの声が男にかかる。男が振り向くとそこにはライアスの前から消えた三人がいた。男はラルフへと言う。
「彼は今までオーラテインの力、仲間の力と共に戦ってきた。彼自身の力だけで戦った事は少ない。私は彼の力を確かめたいだけだ」
「何のために?」
 ティリアが言うと、男は懐かしそうにティリアを見つめながら言う。
「約束のため。君の父、オーキスとの。そして………ディシスとの約束のため」
 そう言って男は不意に何か思いついたように表情を崩した。そしてラルフ達に改めて向かい合う。
「自己紹介がまだだった。私はヴァルフィード。この聖域の主だ」
 神の使いは淡々と自分の名前を告げた。




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