THE LAST DESTINY 第三十四話『仲間』 「あたしの父はかつて、魔族『軍王』だった、オーキスという魔族。歴史から抹消された魔族」 「確かに、オーキスという魔族は僕達に伝えられている歴史には登場しない」 リーシスの言葉に頷いてからティリアは話を再開する。 「そう、オーキスは皆に知られてはいけない存在だった。何故なら………」 ティリアは一度、言葉を切ってからはっきりと言った。 「何故なら、オーキスは魔族を裏切ったから。人間の側についたから」 リーシス達は少なからず戸惑いを感じたようだ。ライアスだけは何も感情を感じさせない顔でティリアの顔を見つめている。 「オーキスは最後まで残った魔族の一体だった。そして彼は前オーラテインの戦士、ディシスと戦い、半死半生になった。そこで、キャラに救われた」 「キャラ?」 リーシスが始めて出てくる単語に不思議そうな声を上げる。そこにラルフが口を挟む。 「ディシス様の妻だった人です」 「そう」 ラルフの説明に間髪入れずにティリアは言う。 「半死半生で近くの森の中に潜んでいた時に、偵察隊として来ていた部隊の指揮官。当時、ディシスの側近として活躍していたキャラに見つかり、傷の手当を受けたの。本人から聞いた話をそのまま言うと、そこでオーキスは人間の優しさに気付いたそうよ。オーキスも他の『四鬼将』同様に人間が転生した人だったから………。その時に人間の心が戻ったのね。それからは身分を偽って一緒に戦ったそうよ。そしてその後すぐに『災厄の終末』は終結した」 ティリアは烈光の剣を引き抜くと高くかざしてみせる。 「その後、ディシスはオーキスの所にこの剣を持ってきた。そして、また復活するだろう魔王に対抗できるオーラテインの戦士を守ってほしいと言ってきて、この剣を託した。そうしてオーキスは神の使いヴァルフィードの住む創界山に身を隠して時がくるのを待った」 「じゃあ、君はライアスを守るためにライアスに近づいたのか」 ラルフは静かに言う。ティリアは無言で頷き言葉を続ける。 「オーキスもう限界だった。そして彼は人里に降りて一人の女性と子供を作った。それがあたし。オーキス―――父さんはあたしに自分最後の力、『光皇翼』を託して死んでいった。あたしは最初、父さんを恨んだ。あの人はあたしの母を愛してはいない。自分の………自分の愛した人、キャラのためにあたしの母を利用したんだって」 ティリアは記憶をたどりながら思い起こす。 「でも、それは違った。母は父さんを愛していたし、彼も母を愛していた。たとえ、一人の女性が心の内にあったとしても。あたしはそれから必死でライアスを探したわ。父の目的がいつのまにかあたしの目的に変わっていた………」 ティリアは話し終えるとうつむいて座り込んだ。リーシスもラルフもレイナも、そんなティリアを見たまま動かない。そんな中、ライアスが言った。 「俺には………今言った事なんて関係ない。魔族だろうとなんだろうと、ティリアはティリアでいいじゃないか。だから………」 ライアスははっきりと殺気立った声で言った。 「ティリアをそんな目で見るのは止めろ」 ラルフ達は思わずすくんだ。レイナとラルフは少しうつむき気味になり、リーシスは上を見上げている。リーシスは急に呟いた。 「そろそろだな」 「え?」 リーシスを除く4人が疑問の声を上げると同時に空に何かがよぎった。それはまるで透明なドームのようにすっぽりとライアス達を、いや大地そのものを包み込んだ。 「いったい………」 ラルフの呟きにリーシスはすぐさま答えをだす。 「リアリス女王陛下が結界を張られたんだ」 「結界?」 レイナが不思議そうに言う。 「結界はせいぜい城を包み込めるぐらいの大きさしかないはず。それなのに………」 「フォルドにある魔力増幅装置の力で結界の大きさを広げて、全ての大陸を結界で包み込んだんだ。これで強力な魔族、四鬼将クラスの魔族はこちらの大陸には入ってくることはできない。逆にこの中に元からいる魔族は出ることはできるが………先程の奴らの強力な気は感じないから、もうゴルネリアスに戻っているはずだ」 レイナの言葉を遮りリーシスは一気に結界の説明をやってのけて、またティリアに向き合う。 「ティリア」 リーシスの呼びかけに、おびえた子供のように身をすくませたティリアをリーシスはしばらく観察して間を取ってから話し始める。 「確かにライアスの言う通りだっただろう。すまない」 リーシスは深々と礼をする。それを見てティリアは何をすればいいのか分からなかった。 リーシスは顔を上げて言葉を紡ぐ。 「君を信じよう。僕達を導く者が、君を信じるのなら、心から僕達も君を信じることができるだろう」 その言葉にライアスは照れて俯いた。レイナとラルフもティリアの側に行き、共に握手を交わす。 「よろしく」 「これからも」 「………うん」 ティリアは二人の手を交互に握った。その眼には涙が浮かんでいた。 一通りお互いの事情を話し、次の日のためにみんな眠りについた。城の瓦礫の中から何とか使える毛布を持ち出してきてそれぞれくるまって寝る。 流石に季節は秋に変わり始めているところなので、何も着ないで寝るというのはいささか不安だった。 そんな中ティリアはふと目覚め、ライアスとレイナの姿が見えないのに気付いた。 (どこいったんだろ………) ふと気になり、自分も毛布から這い出して辺りを歩いてみる。 しばらく歩いたところで二人を発見した。 ティリアが更に近づこうとすると後ろから手を捕まれ、瓦礫の後ろに引き戻される。 「出場亀はいけないな」 危うく叫びそうになるのを堪えて見るとラルフだった。ティリアは声を押し殺して言う。 「驚いたじゃない! 気になるでしょ! 二人のこと」 「ああ、気になる」 ティリアは拍子抜けした。 何かと文句を言われて連れ戻されると思ったが、言った当人が一緒になってライアスとレイナの様子をうかがっている。 「だから、隠れていた方が面白い」 真面目に表情を変えずに言うラルフにティリアはいい性格してる、と思い破顔した。 二人は視線をライアス達に向け、耳を欹てる。 何とか言葉は聞き取れた。 「一年か………以外と長かったな」 「うん………」 ライアスは残っていたベンチにレイナと座った。レイナが俯き加減で言う。 「私にとっては何年にも感じたわ。どれだけ会いたかったか………」 そう言ってレイナはライアスの肩にもたれかかった。 ライアスは動かずにレイナの重さを受け取る。 「でも………、寂しかったけれど………平気だった」 レイナは潤んだ目をライアスに向ける。 「ライアスをずっと信じていたから………。あの時の言葉を………、『いつまでも待ってる』って」 穏やかに風が通り抜ける。 二人の空間は同じような雰囲気に包まれていった。 月明かりに照らされて、二人の影が伸びていく。 そして、二人の影が一つに重なった。 「残念だったな」 「うっ………」 ラルフの呟きに思わずティリアは呻いて足元の石を蹴飛ばした。 ライアスとレイナの姿を見ていられずに、ティリアは先ほどの場所から移動していた。 後ろからラルフもついてくる。 「君があいつのことを好きだっていうのはさっき気付いたが………あいつの心はレイナ一筋さ」 「………分かってるわよ」 ぶすっとした表情でティリアが言うのをラルフはさも面白そうに笑みを浮かべて言う。 「俺とあいつはだいたい同じくらい村でも人気があったが………圧倒的にあいつに告白する奴が多かったよ。ライアスは下心なしに誰にも優しくできる奴だからな。それこそ好意を抱いてくれているんだと、誤解されるぐらいな」 「ラルフはどうなのよ。恋人いるってライアスが言ってたわよ」 「あいつもおしゃべりだな。俺はあいつほどではないが女性には優しいよ。でもやはり一番の女性と他の娘では差が出るさ。ライアスはそれが殆どない」 「ライアスらしい………」 最後の言葉はラルフに向けた言葉ではなかったが、ラルフはそれに相鎚を打つ。 「まったくだな」 二人はライアス達を照らしているであろう月明かりの下をしばし無言で歩いていった。 やがてティリア達が寝ていた場所に戻ってくる。 ティリアが口を開いた。 「あたしはライアスが幸せになるならそれでいい」 ラルフは穏やかな笑みを浮かべてティリアの頭に手を置いた。 「いい娘だな、ティリアは」 置かれた手に心地よさを感じつつ、ティリアは荒い口調で言ってしまう。 「何か馬鹿にしてない?」 ふふ、とラルフは妙に嬉しそうに言い返した。 「俺は認めた奴にはこういう言葉遣いなんだ」 「ふーん、でもやっぱりあなた、損な役回りだね」 「そうだな。まあ、再会の祝いはもう少し先でもいいさ」 二人はこうして会話を重ねていった。 ライアスとレイナが戻ってくるまで。 それぞれ抱えた傷が、少しでも和らぐように………。 夜が更けて月明かりさえも呑み込むような深い闇が辺りを支配する。 コラール山山頂もそのようなものだったが、そこにふと人影が見える。 大きな岩に背中を預けて腕を組んでいた。 「全ては戯れ言。出口の無い輪」 闇により見えない顔から言葉が紡がれる。 その中何かがきらりと光った。 二つの光は時に明滅していることから眼の光だといえる。 「運命は変わらない」 人影は月明かりの元へ出た。その体全てを月明かりが照らす。 「《ライデント》はもらうぞ」 人影―――ゲリアルはそう静かに呟いた。 闇はいっそう増していく。 これからのライアス達に待ち受ける未来を暗示するかのように………。 あとがき ネルシス共和国編、終了。 やっとメインキャラが総登場しました。 ていうか人が死ぬ描写が一番多くて疲れました。 今回はあまりいいところが無かったライアスも次はかなり出番ありますよ。 折り返し地点も過ぎて、残すはあと二部。 がんばるぞー |