THE LAST DESTINY

 第三十三話 激動の終わり


「ネルシスは独自の機械文明を発展させた国だ。儂は、《ライデント》をこの文明の力を利用して仕組みを解析したのだ。そこには過去の記憶が映っていた」
 シターンの言葉にライアス達は完全にシターンの方を向く。ゼブライスも興味を持ったようで武器を納めてシターンの言葉を待つ。
「儂はそれを見て驚いたよ。我々の歴史には記されていないようなことまで映ったのだからな………。儂はそれを信じたくはなかった。貴様なら分かるのだろう魔族よ」
 シターンの言葉にゼブライスは笑みを浮かべただけだった。シターンは続ける。
「もう一つ、《ライデント》には近い未来を映し出すらしいと言うことが分かった。もしそれが本当のことならば、過去の記憶も真実なのだろうと認めざるを得なかった。そして………、次々とその{未来}は当たっていった。そして儂は理解した………」
 シターンがそう言った時、ライアスは依然感じた嫌な予感を覚えた。シターンが言葉を紡ぐ。
「儂達は、『輪』の中で………」
「逃げろ!!」
 シターンに向けてライアスは叫んだ。次の瞬間、シターンの後ろに人が現れる。
「!!」
 シターンが驚いて振り返ったと同時に、シターンの体から一本の腕が突き出た。
 シターンの絶叫とライアスのうめきが重なる。
「ゲリアル………」
 シターンを腕で貫いたままゲリアルはライアス達を見据えていた。
 ライアス達は誰も動けなかった。
 ラルフも、レイナも、今、起こったことがあまりにもあっさりと起こり、現実感は完全に消え失せていた。
 ライアス達を現実に戻したのはゲリアルの言葉だった。
「ゼブライス………。何をやっている」
「何って、話を聞いてたさ」
 ゲリアルとゼブライスの対話を聞いてライアスは我に返り、ゲリアルに叫んだ。
「何故殺した!!」
 ゲリアルはライアスに視線を向けて言う。
「この男は余計な事を言おうとした。だから消去した」
「なんだと………」
 ライアスの怒りなど気にもせずに4人を見渡してゲリアルは言う。
「さあ、《ライデント》を渡せ」
 ゲリアルはシターンを無造作に投げ捨てた。レイナはすかさず駆け寄るが、シターンの意識はもう無い。
「持っているのはお前か」
 ゲリアルがレイナへと近づいていく。ライアスとラルフはゲリアルへと向かおうとするがそれをゼブライスが遮る。
「あんたらの相手は俺さ!」
 ゼブライスが《デルグリス》でライアス達を弾き飛ばす。
 だが次の瞬間、横からティリアがゼブライスへと突進してきた。
「ライアス、行って!!」
 ティリアはぼろぼろの体にもかからわず、黄金の翼をはためかせてゼブライスを弾き飛ばす。
 ゼブライスもライアス達にかまう余裕は無くなり、ティリアに全力で攻撃を仕掛けようとするが、そこにラルフが介入してきた事で更に後ろに下がっていく。
 ライアスは二人にゼブライスを任せてゲリアルに向かったが、ゲリアルはもうレイナのすぐ近くまで来ていた。
「レイナ!」
 レイナはシターンを抱えて少しも身動きしない。ゲリアルが手に黒光の剣を生み出して振り上げた。
(間に合わない!)
 ゲリアルの剣がレイナへと振り下ろされる。
 しかし、そこに上空から音を立てて光熱波がゲリアルに降り注いだ。
 衝撃でレイナはシターンを抱えたまま吹き飛ばされる。ゼブライスはゲリアルがいた所へとティリアとラルフの追撃を振り切り移動した。
 土埃が収まるとそこには無傷で立つゲリアル。
 その前に、空から人影が降り立った。
「『フォルドの魔人』………」
「リーシス………」
 ゼブライスとライアスは信じられないと言った声色でその言葉を呟いた。
 フォルド大神官。
 人間は尊敬の念を込めて、魔族は恐怖を込めて『フォルドの魔人』と双方から呼ばれる
 人類最強の戦士が今、この場にいるのだ。ライアスは言いようのない安心感に包まれる。
 リーシスは右掌をゲリアルに突きつけながら言う。
「このまま立ち去れ。流石に勝ち目はないだろう」
 なんの感情もこもらない声。感情を極力抑えているのがライアスには感じ取られた。その意味はライアスには分かる。
(怒りが満ちている………)
 フォルドでの戦いでもそうだったが、リーシスの中には当人でも押さえきれない激情があることをライアスは知っていた。この国の惨状を見て、いやがおうにもそれが吹き出してくるのだろう。
 リーシスは微動だにせずにゲリアルの言葉を待つ。ゲリアルが口を開く前にゼブライスが言った。
「『オーラテインの戦士』、『フォルドの魔人』、『龍戦士』そして『光皇翼の後継者』か。
 確かに、もう一人も相当の力だし、勝ち目はないようさね」
 ゼブライスはそう言って空中に浮かんでいった。ゲリアルはその場で姿を消す。
 ゼブライスが上空から言ってきた。
「《ライデント》だーいじーにしてーてね」
 ゼブライスはいつもの口調に戻して言うと姿を消した。
 リーシスはそれを見た後、倒れているレイナとシターンの元に向かう。
 レイナはリーシスを呆然とした表情で見ている。
「しっかりしろ」
 リーシスはレイナに言葉をかけて、シターンの貫かれた傷に手を当てると回復呪文を唱えた。
「癒・陽・傷・痕」
 リーシスの手が光り、シターンの傷を照らす。しかし傷は一向に塞がらない。
 そしてリーシスは呪文を止めた。
「どうして!」
 レイナがリーシスに叫ぶがリーシスは静かに答える。
「もう………、手遅れだった」
 リーシスはシターンを地面に寝かせると、ライアス達に向かって言った。
「瓦礫の中に生き残っている人がいるかもしれない。今から探す」
 リーシスはそう言ってすぐ駆け出した。すこし遅れてティリアとラルフもそれに続く。
 その場にライアスとレイナが残った。ライアスはレイナに優しく言う。
「リーシスだってつらいんだ」
 レイナはライアスの顔を見つめている。
 彼は見ていた。
 リーシスの手が血が噴出しそうなほど強く握られている事に。
 ライアスはレイナに近づき肩をしっかりと掴んだ。
「彼は人類の守護神、とみんなに言われている。彼はみんなの期待に応えて一人でも多くの人を助けなければいけないんだ。でも、彼は決して人の命を軽んじたりはしない。人が死ねば死ぬだけ、リーシスの心は傷ついていくんだ」
 ライアスは言いたかった事を言うとレイナから離れて街に向かった。レイナも立ち上がり、走り出す。
(シターン様を守れなかった………。町の人だけは助けなきゃ)
 内心で叫びつつレイナは瓦礫の山へと向かった。


 昼に始まったゼブライスの襲撃は夕方に入る直前に終わり、ライアス達の探索も夜と共に終了した。街の住民はゼブライスが街を破壊し始めた時には街から脱出していたため、探したのはゼブライスと戦ったネルシス軍兵士に限られた。
 それでも30万いた兵士の中で何とか生きていたのは数十名だけであり、生きていても深い傷を持っていて、リーシスの魔法でももう間に合わなかったという状態の人も多かった。
 一通りの作業が終わったのは月がはっきりと空に昇った時刻だった。
 ライアス達5人は破壊された城の前の広場で薪を囲んでいる。
 救出された人々はネルシス首都近郊の街の病院へとリーシスが運び、丁度帰ってきた所だった。
「ライアス………、説明してくれ」
 リーシスの口調は厳しく、ライアスに向けられている。
「ティリア………と言ったね。何故、彼女が魔気を、しかもかなりの力を持っているのか。もちろんライアスは気付いていたんだろう」
「………ああ」
 ライアスは表情を変えずに言う。ラルフとレイナは視線をライアスの隣のティリアに向け、何も言わない。リーシスも沈黙を保ち、その場の空気が重くなる。その空気を破ったのはティリアの一言だった。
「確かに、あたしは魔族よ」
「ティリア………」
 ティリアの言葉にライアスが寂しげな視線を向ける。
「正確に言うと、魔族と人間のハーフ。とりあえずあたしの知っていることは全て話すわ」
 ティリアはその場を立ち、ライアス達4人から少し距離を取る。
 悲しげな瞳を4人に向けながら、ティリアの告白は始まった。




戻る  進む

Indexへ