THE LAST DESTINY

 第三十話 激動は続き――――――


「喰らえ! イレイザー!!」
 シルヴェルは両腕から光熱波を放った。だが、
「はああああああ!!」
 レイナの身体が突如光り輝き、レイナは刀で光熱波をはじき飛ばした。
 はじき飛ばされた光熱波は王座の間の壁を貫いていった。
「『龍闘気』………」
 シルヴェルは呟いた。見るとレイナの周りには赤い光が溢れている。
 シルヴェルは言葉を続ける。
「やはりあなたが『龍戦士(ドラゴン・ウォーリアー)』でしたか………」
「コラール山に住まうとされるドラゴンの力を自由自在に操ることができる『龍戦士』
 その力を十二分に発揮するためにこの『龍闘気』によって力、スピードが飛躍的に上がる。
 私は簡単には倒せないわ、シルヴェル!」
 レイナはシルヴェルに向かっていく。シルヴェルは身構えて迎撃しようとした。
 そこでレイナが吼えた。
「龍巣!!」
 レイナが高速で繰り出す斬撃がシルヴェルに襲いかかる。
「ぐお!?」
 シルヴェルはその場から離れるが、避けきれなかったのか肩口に傷を負っている。
 レイナは間髪入れずに飛び上がる。
「龍槌!!」
 レイナの上空からの渾身の一撃は、シルヴェルのいた床を破壊する。
 間一髪その場から離れたシルヴェルは顔に冷や汗を出していた。
(ここでは、まずい………)
 しかし実際焦っていたのはレイナだった。
 このままではこの部屋自体を破壊してしまう。
 何とか外に相手を連れ出したいが王を一人にしては危ない。
 レイナがなんとか手を考えようとした時、玉座の間の扉が開いた。
 それと同時に声が響く。
「光よ!!」
 突如迸った光はレイナの方向を向いていたシルヴェルの背中に命中し、シルヴェルはレイナのいた場所を飛び越えて吹き飛んでいった。
 レイナは唖然として扉の方を見る。
 そこには人が立っていた。
 少しオレンジがかった髪を三つ編みにして後ろに下げている。
「何とか間にあったぁ。何かあったらライアスに起こられちゃう」
 その場に似つかわしくない緊張感のない声で、どうやら女らしいその人物が呟くのをレイナは聞いた。思わず声を出す。
「ライアス?」
 その女―――ティリアはレイナの方を見やると駆け足で近づいてきた。
「あなたがレイナね。あたし、ティリア=ノクターン。ライアスの仲間よ」
 そう言って視線を前に向ける。レイナも目を向けるとシルヴェルが立ち上がってティリア達の方を見ている。
「やってくれますね小娘………。殺してやりますよ………」
 シルヴェルは口調は穏やかだが眼は憎悪に燃えて近づいてきた。
 実際、ダメージはそんなに無いようではあったがティリアは気にせずに剣を構えて言い放つ。
「上等よ! 身の程を教えてあげるわ!!」
 しかし意気込むティリアの前にレイナが立ち、振り向かずに言う。
「あなたは王についていて。こっちは私がやるわ」
 レイナはティリアの答えを待たずに足を踏み出す。ティリアが何か言おうとするとレイナは顔だけを振り向いて言ってきた。
「それにライアスにみっともないところを見せられないしね」
 レイナはそれだけ言うとシルヴェルと対峙した。
 ティリアはその言葉に笑みを浮かべつつシターンの隣に移動した。
 シターンは目を伏せたままじっとしている。
 ティリアは何か違和感を感じたが、それにかまわずに眼をレイナに向けた。
 ふと手にした剣に眼をやる。
 剣は共鳴しているかのごとく光り、振動していた。
 再びティリアはレイナに視線をやる。その手に持つ刀をじっと見やった。
(雷光刀?)
 レイナの手に収まっている刀は、赤い光りに包まれているレイナの剣とは違い、金色に輝く光に包まれていた。まるで刀身が光でできているかのように鍔もとから切っ先までが光に包まれて揺らめいている。
 そして、レイナは動いた。
「なっ!?」
 シルヴェルが驚きの声を上げる。
 レイナは先程とは比べものにもならないような速さで接近してきて首を空いている方の手で掴んできた。
「な、何を!」
 シルヴェルは為すすべもなく壁を突き破り外に放り出された。
「くっ」
 シルヴェルは体勢を立て直してレイナを見る。レイナもシルヴェルと同じように宙に浮いていた。
「それも『龍戦士』の力か………」
「そう、この力でお前を倒す!」
 レイナはシルヴェルに向かっていった。


「これで終わりだ」
 ラルフは淡々とした口調で話し、ディオスの目の前に立った。
 両腕に持つ剣はラルフの気が集まっているために光りを発している。
 ラルフが右手の剣を振り上げた時、
「まだだ!」
 ディオスは瞬時に身体を動かしてラルフと距離を取ると、即座に突っ込んでくる。
「俺は『八武衆』最強なのだー!」
 ディオスの眼にはすでに正気はなく、剣をむやみやたらに振り回して向かってくる。
 ラルフはそれを見ながら嘆息して言った。
「終わりと言っただろう」
 そうして剣を構えるとディオスの攻撃を避けながら切っ先をディオスの身体に刻み込む。
「龍鳴乱斬!!」
 ラルフの繰り出した斬撃が通り過ぎた後、ディオスの身体を穏やかな風が吹き抜けていった。
「な………んだ………!?」
 それがディオスの最後の言葉となった。
 ディオスの体は次の瞬間にずたずたに引き裂かれる。
 両手、両足、そして頭が胴体から離れ、そのまま黒い灰となり宙に消えた。
 ラルフはそれを見送ると無言で辺りを見回す。
 先程から感じている強力な魔気。
 その位置をすぐに発見すると、全速力で走り出した。


 ライアスはもう何度目にもなる攻撃を受けた。
「ぐっ………」
 痛みに耐えてオーラテインを振るが、ゲリアルは後ろに大きく飛んで躱す。
 その直後、いくつもの光の球が通り過ぎた。
「ライアス!」
 ライアスが横目で見るとラルフが駆け寄ってくるのが見えた。ゲリアルはそれを見たまま動かない。ラルフがライアスに話しかける。
「大丈夫か」
「………見ての通りさ」
 ラルフが見た限りでは、ライアスは相当の裂傷を負っていた。
 両手足に幾本もの切り傷が走っている。
 それ一つから流れる血は大したことはないが、何十本もの傷口から出る血液の量はけして軽視できない。
 ラルフはゲリアルとライアスの前に立ち塞がった。
「次は俺が相手だ………」
 ラルフの言葉にゲリアルは不思議そうに視線を向ける。
「『オーラテインの戦士』がこの様なのに格下のお前が挑んでくるのか?」
 ラルフは無言で構える。ゲリアルはその動作に反応もせずに言葉を続ける。
「お前達は死なん。我が主の命だからな。だが、ネルシスという国は邪魔だ。ゼブライスが滅ぼすだろう」
 その言葉を聞いてライアスの身体は震えた。
「所詮この国は《ライデント》を守るためだけの国………。これで役目は終わりだ」
 言葉を終えるとゲリアルは構えを取ってラルフに相対しようとする。その時、ラルフの肩にライアスの手が置かれた。
「………?」
 ゲリアルは動作を止めてライアスの行動を見ている。
 ラルフも、ライアスがどういうつもりなのか分からないでライアスを見た。
 ライアスは静かに言ってくる。
「ラルフ………、お前は城に向かってくれ。レイナや俺の連れが心配だ。こっちは俺がやる………」
 ライアスはラルフの前に出て、丁度ゲリアルとラルフの間に入る。
「ライアス」
 ラルフが言葉をかけてくるがライアスは少々顔を向けただけで言う。
「"本気"が出せそうだ」
 その言葉を聞いたとたんラルフの顔から血の気が引いた。すぐに色は戻ったがラルフは動揺を隠し切れてはいなかった。
「………分かった」
 ラルフは何とか動揺を抑えて同意し、城へと行こうと走り出す。
「行かせん」
 ゲリアルがラルフの前を遮ろうと移動しかけたその刹那、ゲリアルの前に突如ライアスが現れた。
「なに!?」
 ライアスからの一撃を何とか黒光の剣で受け止めるが、その重さに後ろに下がる。
「お前は許さん………」
 ゲリアルの顔をライアスの殺気みなぎる瞳がとらえた。
「………ネルシスがもう必要ないだと………? この国は《ライデント》を守るために建国されたかもしれないが、この国に住む人々にはそんなことは関係なかったはずだ」
 そう言うやいなや、ライアスの姿が不意にかき消えた。
「なに!?」
 ゲリアルは空気が流れるのを知覚した。そして黒光の剣ですぐ横に現れたライアスの振るったオーラテインを防ぐ。しかしライアスはかまうことなく次の斬撃を繰り出してきた。
 そのスピードは先程とは比べものにならない。
(なんだこのスピードは)
 ゲリアルは、混乱はしなかったが少なからず動揺していた。
 ライアスの斬撃は繰り出される度に激しさを増していく。
 ゲリアルにもその軌跡が見えなくなってきていた。
「貴様は絶対に許さん」
("本気"………)
 ゲリアルの胸中に先程のラルフの言葉が浮かんだ。


(ライアスが"本気"を出すと言った………)
 ラルフはネルシス城に向けてコラール山を全速力で駆け下りていた。胸中で呟く。
(ライアスが相手を『倒す』ではなく『殺す』戦い方をした時………)
 コラール山の入り口を抜けると今度は森になっていた。スピードを落とさずに目の前の木々を躱しながら進む。
(オーラテインの力なしでも、この世界に敵はいない………)
 ラルフの見上げる先には遠く、ネルシス城がそびえていた。その周りで何か閃光のようなものが煌めくのが見える。
(レイナ………?)
 ラルフはその光りはレイナが戦っているのだと確信した。




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