THE LAST DESTINY 第二十八話 ラルフ参戦 「うおおおお!!」 ユイスの、もう何度目になるか分からない一撃がゼブライスの一瞬前にいた地面を深く抉る。 ゼブライスは5人が見える位置に移動すると口を開いた。 「どうしたさ。もう終わりなのかい」 ゼブライスの言葉に言い返す余裕をもう5人は持っていなかった。皆、息を切らし、足下も虚ろになっている。 六人のいる地点の、荒野と化した光景を見れば、どれだけの破壊力の攻撃が繰り出されたか想像するのは容易い。 「もうすぐ時間さ。俺っちを早く倒さないと………」 ゼブライスが言い終わる前に5人は駆け出した。ゼブライスは笑みを浮かべ体勢を作る。 「振動烈波!!」 ゴルンの両腕から破壊振動波がゼブライスに向かい、ゼブライスはそれを受け止める。 「さあさあ、それだけかい?」 ゼブライスが耐えて、顔を上げた時に予想外のことが起きた。 ゴルンが振動波によって動きの止まったゼブライスの後ろに回り込み両腕を羽交い締めにしてきた。 「んっな!?」 流石にこれは予想しない動きだったのかゼブライスはゴルンを振りほどこうとする。 だが、渾身の力を込めて羽交い締めにしているゴルンの腕はますます強まり振りほどけない。そこへファルナが突進してくる。 「ハーミット・グレイス!!」 ファルナの腕から光が伸び、それがゼブライスとゴルンに巻き付く。 ファルナはそのままゴルンの後ろにまわった。 ゴルンの腕と、ファルナの光の縄によって手足の自由が奪われてゼブライスは表情を曇らせる。 「お前達………捨て身かい?」 声の調子とは裏腹にゼブライスは焦っていた。 前方ではユイス、ガイ、シュンが自分の最大の一撃をぶつけようとしているのかかつて無い闘気の増加が見られた。ユイスが叫ぶ。 「ゼブライス! 俺達はどんなことをしても貴様を倒す!!」 「たとえ俺達の身を犠牲にしてでも!」 「僕たちは負けるわけにはいかないんだ!!」 ユイスに続けてガイ、シュンが叫ぶ。ゼブライスはもがくのを止めて目を伏せていた。 ゴルンは観念したのかと思ったが、ゼブライスは何かを口にしている。 注意深く聞いてみるとそれは数字だった。 「―――15―――14―――13―――」 ゴルンはその意味は分からなかったが何か凄まじい悪寒がした。思わず叫ぶ。 「兄者! 早くするんだ!! 何か嫌な予感がする!!」 ユイスはゴルンの口調に言いしれぬ予感を抱き、すかさず言い放った。 「行くぞ! ガイ!! シュン!!」 そして三人は一斉にゼブライスに突進していった。 ユイスの周りに目に見えるほどの大きな真空の刃が現れる。 「くらえ! 真空烈斬!!」 ガイの身体を包む炎が猛る。 「猛虎火炎輪アタック!」 シュンが回転させているツインランサーに稲妻が走る。 「雷光波斬!!」 三者三様の攻撃がゼブライスに向かう。そして―――。 「2―――1―――。時間さぁ」 ゼブライスがそう呟くのを迫りくる膨大な攻撃の余波の中でゴルンは聞いた。 そしてその刹那周りは光に包まれた。 ライアスがコラール山にある神殿に着いた時、ネルシス首都の方面で閃光が走った。 「何だ!?」 ライアスは風の結界を解除して神殿に向かおうとしていた時だった。その閃光はしばらく続いた後に収まり、ライアスは不安に駆られる。 「早く戻らなければ………」 ライアスは神殿に向かって駆け出す。だが神殿の入り口には人影があった。その人影はライアスとは反対方向に、つまりライアスの方向へと歩いてきた。そして………。 (!?) ライアスは反射的に横に飛ぶ。その後すぐに地面を裂いて衝撃波が走る。ライアスはオーラテインを引き抜き構えた。人影はゆっくりと歩いてきてライアスと対峙する。 「貴様が『オーラテインの戦士』か………」 「『八武衆』か………」 ライアスは呻く。目の前の相手の体長は2メートルはあり、白髪、鋭い目つき、巨大な片刃の剣を携え、腕いっぱいに広がる盾をつけている。 「私はディオス。『八武衆』の長だ………」 ディオスはそう言うと剣をライアスの方に向けてきた。更に言葉を続ける。 「ゼブライス様の命により、お前に『宝玉』を渡すわけにはいかない」 「それは困るな」 その声は唐突にその場に現れた。ライアスとディオスは辺りを見渡す。すると神殿の向こうから人影が現れた。 ライアスは思わず大きな声を上げる。 「ラルフ!」 人影―――ラルフ=コードウェルはライアス達の方に歩み寄りながら言葉を続ける。 「俺達にとってはライアスが『宝玉』を手に入れるのは最重要事項だ」 ディオスは二人に挟まれるのを避けるために二人から離れる。ラルフはディオスを真正面に見据えて言った。 「ライアスの邪魔をするなら、俺がそれを阻止する」 「貴様が………、面白い!」 ディオスは持っている剣をラルフに向けた。ラルフは眼をディオスから外さずにライアスに向けて言う。 「ライアス、先に行け。レイナが心配だろう」 ラルフは他意はないが聞き手には意地悪く聞こえてしまうことがあった。ライアスは何も変わっていない事に一瞬笑みを浮かべそうだったが自制して頷き、そのまま駆け出す。 ディオスはそれを眼で追うとすぐラルフに視線を戻す。 「まず貴様をしとめてからだ」 ラルフはディオスの言葉には何も反応せずに2本の剣を引き抜いた。 両手を下げたままの構えでラルフは言った。 「さあ………始めよう」 落ち着いたその口調にディオスは何か薄ら寒いものを感じた。 (恐れている………? 馬鹿な) ディオスは内心の不安を振り払うとラルフに突進した。 そしてそのまま手にした剣を振り下ろす。ラルフは二つの剣でそれを受け止めようとしたが、瞬時に判断して剣撃を躱す。 耳障りな音が辺り一面に響く。 ラルフが一瞬前いた地面はディオスの攻撃で深く抉れていた。 「これは………」 ラルフが驚きの声を漏らす。すかさずディオスはラルフに追い打ちをかけるべく向かっていく。その体格に似合わず凄まじく早い動きにラルフは更に後ろに下がるがディオスはまたスピードを上げ、とうとうラルフの間合いに入ってきた。 「くらえぃ!!」 ディオスは剣の巨大さを感じさせることなくラルフに向かって振り下ろす。 ラルフは何とかそれらの攻撃を躱してディオスの懐に入った。 「しまった!」 「くらえ!!」 ディオスの焦りの声とラルフの気合いがこもった声が被った。 「疾風斬!!」 十字に交差したラルフの剣がディオスの胸部に食い込む。苦悶の声を上げディオスがその場に踏みとどまろうとするが、堪えきれず身体が後ろに流れて胸部にラルフの剣の斬り傷がつく。 ラルフはそのまま後ろに周り頭に剣を突き刺そうとするが、その一撃を躱して立ち上がったディオスに今度はラルフが猛攻を仕掛ける。右手の剣を繰り出し、それを相手が受け止めると今度は左手の剣を。後ろに下がってその一撃を躱されると更に踏み込んで今度は二つの剣を振りかぶり、上段から一気に振り下ろす。 だがディオスはその一撃を受け止める。 激しい音が辺りに響き、その衝撃によって剣が弾かれて自然と両者の距離が広がった。 「やるではないか………。だが、この程度では………」 ディオスが言おうとしたその時、身体の数カ所に裂傷が走る。 更に、最初に疾風斬で受けた傷から、魔族の血なのだろう、黒い液体が勢いよく出てきた。 「な………?」 ディオスが訳が分からずにいると、ラルフは右手の剣を突きつけて言ってきた。 「俺の攻撃は受けただけでは防げないぞ。剣圧だけでも十分ダメージは与えることができる」 「おのれ………」 ディオスが呻きながらふとラルフの突きつけている剣が眼に入る。そして苦悶に満ちた顔に更に驚きが刻まれる。 「その剣………まさか!」 その剣はラルフがネルシスにくる間の船上で見ていた刀身が折れた古ぼけた剣だった。 だが、今はその影はなく輝きに満ちている。ラルフは右手の剣はそのままに答える。 「そう、これは『八聖騎士の武器』の一つ、『神龍の牙』だ」 ディオスは何とか立ち上がると『神龍の牙』を見たまま言う。 「相手の属性によって剣自身の属性が変わり、どんな相手でもダメージを与えることができる剣。オーラテインに次ぐ力を持つ剣―――何故貴様が持っている?」 「ディシス様が折れたこの剣を持っていらしたんだ。そしてこの地にいるかつてこれら伝説の武器を創った鍛冶屋の末裔に新たな命を吹き込んでもらった………。そのおかげでここにくるのが遅れてしまったがな」 ラルフは自嘲気味に笑った。ディオスはその笑いに笑いで返した。 「その剣がどうやって折られたか知っているか?」 「………?」 ラルフが答えられないでいるとディオスは自分の持つ剣を持ち直していった。 「この剣―――三種の魔人器『ヴァイセス』だよ。『神龍の牙』を折ったのはな」 ディオスはそう言った瞬間、ラルフに一気に詰め寄った。そのまま『ヴァイセス』を振り下ろす。ラルフはその場で二つの剣で受け止めた。 「400年前のように………折ってやるよ!」 ディオスはまた剣を振り下ろす。だが今度はラルフの行動が早かった。振り上げた時の隙を見逃さずにラルフは横を通り抜けざま何度か斬りつける。 その軌跡は外から見れば光が一瞬走ったかのようにしか見えなかったが、その後すぐにディオスの身体がずたずたに切り刻まれる。 「ぐあがぁ!!?」 ディオスは剣を取り落としてその場に跪いた。 ラルフは両サイドに剣を下げる独特の構えのままディオスに言い放つ。 「折ったのはお前ではないだろう。お前では役不足だ」 「貴様………人間のくせに何故そんな力が………」 ディオスの問いにラルフは少し意外な顔をした。 「知らなかったかのか? 『八聖騎士の武器』には持つ者の潜在能力を高め、引き出す作用がある………」 ラルフは途中で言葉を切り、上を見上げた。丁度ライアスが風の結界を纏ってネルシス城へと向かって行くところだった。 「ライアスも向かったようだ。俺も行かなければ」 ラルフはまだ起きあがれないディオスに歩み寄っていく。 「もう片をつける」 ディオスは恐怖を感じていた。このラルフという人間には何か圧倒的な強さがある。 だがそれは自分が『四鬼将』や魔王に感じるような『強さ』ではない。強いて言えば、 (まるで追いつめられたような強さだ………) ディオスがそんなことを考えている内にラルフは眼前に迫っていた。 |