THE LAST DESTINY 第二十七話 到着 「着いたぞ!」 ライアスとティリアはネルシス首都の『ゼールの門』に着いていた。風の結界を操作してそのまま城壁の上を飛び越えようとする。とその時。 「なんだ!?」 風の結界の上に何かが唐突に現れて風の結界ごとはじき飛ばす。 何とかライアスは結界を操作して地面に着陸した。 「何なのよ!! 誰!」 ティリアが叫んで上空を見るとそこには二つの人影が映った。一人は身体がライアスと比べても2倍はあるような体格の男。腕の太さはライアスの太股よりも太い。手には鎖のついた鉄球を持ち、頭は仮面で覆われている。 身体を包んでいるのは動き安さのためかライトアーマーのような左肩と胸が隠れるようなもの以外は特に防具はなく衣服、鎧共に緑色をしている。 もう一人は逆に細身の男。こちらは防具のようなものは身につけておらず、身体全体を同じく緑の服で覆っている。むろん普通の人間は空を飛ぶことは不可能だ。 「『八武衆』か………」 ライアスの呟きに細身の男が反応する。 「そう、我等は『八武衆』。我はグレイター」 「俺はドルー」 細身の男、グレイターの言葉につられるように大柄な男、ドルーが言った。グレイターはドルーが言うのが終わるのを待つと続けて言う。 「我等がお前達を倒す。そしてゼブライス様がこの国を滅ぼす」 グレイターはそう言うと行動を開始した。その姿が瞬時にかき消える。 「!?」 ライアスは急いで剣を引き抜いた。その瞬間オーラテインに衝撃が走る。 「うわっ」 ライアスは後方に吹き飛ばされた。ティリアはライアスに駆け寄ろうとするがそこにドルーの鉄球が放たれる。 「ちょっと! 危ないじゃない!!」 ドルーはティリアの言葉に耳も貸さずに連続して鉄球を放ってくる。ティリアは鉄球を避けながら徐々にネルシス首都から離れていった。ライアスはそれを目で追いながら目の前の敵に意識を集中する。 「そう、あなたの相棒はドルーが始末してくれます。我があなたを殺します」 グレイターはそう言うとまた姿がかき消える。ライアスは意識を完全にグレイターのもとに向けるとその場を飛び退いた。 「………このスピードがお前の武器か」 ライアスはすかさず体制を立て直すと同時にグレイターの攻撃がくる。衝撃を受け流しながらライアスも徐々にネルシス首都から離れる。 間断なく続く攻撃の中からグレイターが話しかけてきた。 「我の武器はこの目にも留まらぬスピード。攻撃と回避を同時に行うため正に無敵。お前にこの動きはとらえ切れまい。スピードならこのグレイターは誰にも負けない」 グレイターの話を聞いている時もライアスは攻撃を躱し続けていた。 上空からの攻撃を受け止めた後、すぐに横に飛ぶと横を風圧が通り抜けていく。 そのままライアスは後ろに飛び退くとまたしても風が走り抜ける。 ライアスは余裕でそれを躱していた。 その事をグレイターも気づき始めたのか口調に不快感を含み始める。 「何故当たらない。貴様にこの動きが見えるはずがない!」 グレイターの焦りをあざ笑うかのようにライアスは攻撃を躱し続け、そして話し始める。 「お前の動きは確かに完全には見えないよ。残像が眼に残るくらいだ。だが………」 ライアスは顔に戦いの最中には珍しく笑みを浮かべた。 「このオーラテインのおかげでこの世界の大気を身体に敏感に感じることができるんだ。お前ほどの動きなら大気の動きはより顕著になる」 もちろん言い続けている間もライアスはグレイターの攻撃を躱している。そして遂にグレイターはライアスの前にその体を表した。 「もう攻撃は終わりか?」 ライアスの言葉にグレイターは答えない。ライアスはそれをYESととらえると言葉を続ける。 「一対一の戦いにおいて確かにスピードは必要だがありすぎても自滅するだけだ。本当に必要なのは一定以上持っているスピードを最大限に操れる判断力」 ライアスはオーラテインをグレイターに向ける。 「俺が見せてやるよ」 ライアスの言葉にグレイターは顔に怒りの表情を露わにしていた。 ドルーの攻撃を躱していたティリアは思わず怒鳴った。 「うっとーしいわね!! 身の程を教えてあげるわ!!」 ティリアは『烈光の剣』を引き抜くと一気に跳躍してドルーとの間合いを取る。ドルーは鉄球を右手に持ち直す。 「ふん………俺の相手はこんな小娘か………。全くもってやってられん」 ドルーは深い嘆息を示す。ティリアはその態度に顔を怒らせた。 「何よその態度! あんたなんてライアスの敵じゃないわ」 「なにを………」 ドルーが口を開きかけた時、ドルーが持っていた鉄球が音と共に真っ二つになる。 流石にこの事にはドルーの顔に驚きの表情が浮かんだ。 「これでも不足かしら………」 ティリアが剣を肩に乗せながら言う。ドルーは鉄球とティリアを見比べてから言った。 「ふん………。確かに失礼だったな。これからは全力で貴様を倒す」 ドルーが言い終わると鉄球が独りでに鎖の上に現れる。 「何よ! それは!!」 ティリアはたまらずに叫ぶがドルーは意にも介さずに言う。 「この鉄球は俺の一部なんでな。何度でも………再生できるのさ!!」 言いながらドルーは鉄球をティリアに向けて投げつけてきた。 向かいくる鉄球を剣で斬り裂いてそのままティリアはドルーへと接近する。 「馬鹿め!!」 ドルーはそう叫ぶと体の周りに人の頭ほどある光球を出現させ、向かいくるティリアに放つ。ティリアは気を切っ先に集中すると前方に向けて放った。 「烈光よ!!」 ティリアが剣を振ると幾本もの光の線が走った。 光の線と光球がぶつかり合い激しく爆発する。が、相殺しきれなかった一つの光球がティリアに向かってきた。 「この!」 ティリアはそれを剣で斬り裂いた。その瞬間、 「!?」 ティリアが斬り裂くと同時に光球が大爆発を起こした。凄まじい爆発にティリアは声を上げる事もできずに数メートル先まで吹き飛ばされた。 地面に叩きつけられてゴムまりのように体が跳ねる。 「あ………かは………」 爆発の衝撃と地面に叩きつけられた衝撃でティリアは一時的に呼吸困難になった。 ドルーが笑いながら近づいてくる。 「俺の作り出す光球は触れただけで大爆発を起こすのだ。効いただろう」 「く………あ………う………」 ティリアは何とか立ち上がるがまだ足下は安定していない。ドルーはそんなティリアにも容赦せずに鉄球を放つ。ティリアは何とか躱すが、体制が崩れてすぐには立て直せない。 そんな様子を見てドルーは気味の悪い笑みを浮かべた。 「フン………虫の息だな。なぶり殺しにしてやる」 ドルーは体の周りにまた光球を出現させる。 「くっ!」 ティリアは何とか逃げる体勢を整えるが、ドルーはティリアの目の前の地面に光球を放ち、その爆風でティリアは吹き飛ばされる。 「あう!!」 また地面に打ち付けられてティリアは呻く。そんな様子を見てドルーは顔全体に笑みを浮かべて言い放った。 「当てはしない………。何度も吹き飛ばされて立てなくなるまでな!」 そして一斉に光球がティリアの周りに集まりだした。 グレイターは攻撃方法を変えて接近戦を挑んだ。だが、ライアスの攻撃は当たらないが自分の攻撃も当たらないという先程までと何も変わりがない状態だった。 「どうしてだ! どうしてだ!!」 遂に半狂乱になって攻撃を繰り返すグレイター。ライアスはあざ笑うかのようにグレイターの攻撃を躱していく。グレイターの攻撃はその移動速度こそ尋常ではないが、腕や足の動きはライアスとはさほど変わらなかった。 ライアスはグレイター最大の武器であるスピードを奪い、自分と同程度の戦場にグレイターをおびき寄せたのだ。 そしてもう何度目かのグレイターの攻撃を躱した時、ライアスはグレイターの懐に入った。オーラテインを持っていない左手をグレイターの脇腹に突きつける。 「!!」 グレイターは驚き急いで離れようとしたが、動いた瞬間、ライアスの足下で爆発音に似た音がすると、グレイターは数メートルほど吹き飛ばされて地面に倒れていた。 「ぐ………、い……今………のは………」 グレイターが顔をしかめつつ聞いてくるのにライアスは答える。 「相手が押すか引くかの反動を利用して打撃をたたき込む………『寸打』」 オーリアーでジェイルとの戦いの時に撃たなかった『寸打』―――相手が押し返してくるならカウンターで、後ろに行くならそれを追撃するような形で、決まれば相手に通常の数倍は威力のある打撃を与えることのできる近距離戦闘での切り札。 実際には戦闘中にこれを決めることのできる者はほとんどいない。 それほどタイミングが微妙だった。 「相手の一瞬の動きに反応して一撃を放つ。接近戦には動きの素早さや攻撃力はあまり関係はない。必要なのは相手により効果的に攻撃をたたき込む判断力と実行力だ」 ライアスは地面に伏しているグレイターにオーラテインを突きつける。グレイターは即座に遠くに移動するが今までのスピードがなくなってきている。 動きが止まった両者の耳には遠くで起こる爆発の音が聞こえてきた。 「ティリアが心配だ………。決着をつけさせてもらう」 ライアスはオーラテインに気を集中させた。グレイターはその刹那、ライアスに向かう。 「はっ!! この瞬間を待っていた!」 グレイターはライアスが気を集中する一瞬の隙なら自分のスピードでとどめを刺せると考えたのだ。力をためた最大限の加速でライアスに迫る、がふとその姿がかき消えた。 「何!?」 グレイターがライアスの姿を見失った瞬間、グレイターの身体は真っ二つになっていた。 絶命の絶叫もあげずに、グレイターは加速の反動で空中に浮いたまま黒い灰となって風に舞った。 そしてライアスがその場に立ち上がる。 ライアスはグレイターが突進してきた時、オーラテインを上段に構えてそのまま膝を落として地面に屈んだのだった。グレイターはそのまま掲げられていたオーラテインに自分から突進して切り裂かれたのだった。 グレイターが消えていった中空に向かってライアスが呟く。 「言っただろう。必要なのは状況判断なんだ」 「ははははは………死ね死ね!!」 ドルーは絶え間なくティリアに光球を浴びせ続ける。ティリアはその爆発に翻弄されて何度も地面に打ち付けられた。そしてとうとう立てなくなる。 「う………」 ティリアは立とうとして前のめりに突っ伏した。その様子にドルーはさも満足そうに笑いティリアに近づいていく。 「ふん………小娘の分際で俺と相対したからだ。最後は俺自身の手で殺してやる」 ドルーは倒れているティリアの前まで来ると右腕を振り上げる。だがドルーはそのまま硬直した。その耳に笑い声が聞こえてきたからだ。見るとティリアが手を前について座り込み、笑っているようだった。 「狂ったか………」 ドルーが言うとティリアはしっかりした声で言い返してきた。 「誰が狂ったって………? しっかりしてるわよ」 ティリアはふらっとその場に立つ。まだ足はふらふらしているがとても先程まであれほどの猛攻を受けた者ができる行動ではなかった。 そしてドルーは何故か振り上げた腕を振り下ろすことができなかった。 何かがドルーの身体を縛り付けている。 「あなたの悪いのは………殺せる時に私を殺さなかった事………」 ティリアがドルーの顔の方へ視線を上げる。そして、ドルーは自分の目を疑った。 ティリアの双眸が黄金に光り輝いている。さらにティリアの身体全体を黄金の光が包み込んでいった。 「そう………こんな風に周りが土埃で外からじゃ何もわからないなんて、丁度いいじゃない」 ドルーは言葉につられて辺りを見回した。ドルーが光球を地面に炸裂させたために生じた粉塵が辺りを支配している。ドルーは今、自分が滅びに面していると悟った。 自分が今、どういう状況下にあるかというのが目の前の少女の変貌によって明らかになる。 「何故………お前が………」 ドルーは何とか声を出すがティリアはそれにかまわずに剣を振り下ろす。ドルーは全く抵抗できないまま真っ二つになり黒い固まりとなって燃えた後、灰と化した。 そしてティリアの体の周りから黄金の光は消え去った。 「………ふう」 ティリアはその場にしゃがみ込む。ドルーに受けたダメージでもう身体が動かなかった。 とそこに人が駆け寄ってくる気配を感じる。 「ティリア!」 まだ辺りを包んでいる粉塵の中から現れたのはライアスだった。ティリアは内心穏やかではない。 (気付かれたかな………) ティリアは何とか表情に内心の動揺を出すまいと努めた。 「大丈夫か? 結構傷があるようだけれど」 「うん………。なんとかね………あうっ」 言葉に詰まったのは内心の動揺からではなく本当に苦痛のせいだった。言葉を出す度に身体が悲鳴を上げる。ライアスは心配そうな顔を向けてからティリアに向けてオーラテインを構えると目を閉じて気を集中する。 「?」 ティリアは何をするのか分からずにライアスを見ていると、オーラテインから光が出て、それがティリアの身体を包み込む。そしてティリアの身体に徐々に体力が戻っていく。 「………すごい」 光が消える頃にはティリアの身体にあった傷がすっかり癒えていた。体力も完全に回復している。流石に戦いでついた服の汚れは取れないが。 「もう大丈夫だろ。行くぞ」 「うん」 ライアスはティリアを近くに寄せてから風の結界を纏い、再びネルシス首都の中に向かった。そして今度は何も妨害もなく中に入る。 「ティリア、君は城で王を守ってくれ。俺は直接『宝玉』を取りに行く」 「取りに行くって、場所判るの?」 ティリアが聞き返すとライアスは即座に答える。 「この首都の北側にあるコラール山。そこにはこの国の守護神が住むと言われている。 『宝玉』を安置するには丁度いいさ」 ライアスはネルシスの城の一区画に着くと風の結界を解いてティリアに言った。 「王は王座の間にいるはずだ。ここからそこまで行って王を守っていてくれ」 ライアスはそう言ってすぐ風の結界を展開しようとする。ティリアは気になったことを聞いてみた。 「どうして王が王座の間にいるって判るの? もう脱出してるかもしれないじゃない」 「今回の襲撃はおそらく予想外だ。もし、予想していたのなら市民が逃げていないわけはない」 ティリアは風の結界の中から見た、市民が逃げ惑う様を思い出した。 「ここを統治しているなら、市民を見捨てて逃げはしないさ」 そしてライアスは風の結界を纏う。 「頼んだぞ!」 そう言い残してライアスはコラール山に向けて飛んでいった。 (大丈夫だったかしら………) 答えはむろん出るはずもなくティリアは自分の秘密がばれてはいないとして、今ある問題へと取り組む事にした。急いでその場から王座の間に向かう。 だが、ライアスは気付いていた。ティリアを助けに行った時に極わずかな時間だが、ドルーとは異質の、かなり大きな魔気をオーラテインが感じ取ったということを。 |