THE LAST DESTINY

 第二十一話 魔獣、消滅


(………あたたかい………)
 ライアスは夢現にそう思っていた。自分が気を失う前に何をしていたかゆっくりと思い出してみる。
(そうだ………。確か、宝玉を取り込もうとして………)
 彼はゆっくりと目を開けた。淡い光が彼の眼を刺激して少し痛みを感じる。が、それもすぐに収まりぼやけていた視界が全快する。まず眼に入ったのは光を放っているオーラテインだった。どうやらそこから光がライアスの体全体を包んでいるようだった。
「これが、守ってくれたのか………」
 よく見ると、光の外側には土砂崩れのようになっている部分があり、周りを見ると気を失う前にいた位置から少し移動しているようだった。ライアスがオーラテインを取ると周りの光は消滅し、はっきりと周りが見えるようになる。分かる事は入り口が完全に塞がって出ることは今のところ不可能だということだった。ふと、オーラテインを見てみる。
 水色の宝玉が柄の部分に現れていた。
「力の継承は完了しているみたいだな」
 ライアスは視線を瓦礫の山に移した。どう考えても外には出られそうもない。だが息苦しくもないため、どこかに透き間でも空いているのだろう。ライアスが探すとすぐにその場所は分かった。微かに光が射し込んでいる所がある。
「ここを突き破れば出られるな………」
 ライアスは『疾風斬』を使って出られないか、と考えた。だが周りが脆く、突き破る前に周りの瓦礫に埋もれるだろう結論に至り諦める。
 周りを一気に吹き飛ばす方法が必要だった。
「何かないか………」
 ライアスは目を閉じてオーラテインに意識を集中した。そうすれば分かる、といった確証もなく、ただ、この剣にある記憶の中になら何かあるのではと思いほとんど無意識にした行動だった。するとあるイメージがライアスの頭の中に宿る。
「そうだ!」
 ライアスは瓦礫の山から遠のいてオーラテインの力を解放する。
「オーラ・ブリザード!」
 柄の水色の宝玉が光り、刀身から吹雪が放たれる。少しして完全に瓦礫の山は凍り付いた。
「いくぞ! 疾風斬!!」
 ライアスは以前よりもより強い光を纏って氷の瓦礫の中に突っ込んだ。


「これじゃあ、きりがないじゃない!!」
 ティリアはヴァルギオンを前にして焦っていた。これといって決定打もないまま次々と兵士は倒れ、少しづつだがヴァルギオンは城へと近づいてきていた。
「ぎゃあ!」
 また一人、ティリアの近くにいた兵士がヴァルギオンの触手の餌食になる。
「こうなったら………」
 ティリアはヴァルギオンから少し離れて真正面に立った。剣を青眼に構えて意識を集中する。
「はあああああああ………」
 ティリアの周りに黄金の光が集まっていき、今度はそれが刀身へと移る。ティリアの周りの大地が震えてきていた。莫大なエネルギーがティリアの周りに渦巻く。
「みんな離れて!!」
 ティリアの声に反応し兵士達がヴァルギオンから離れる。ティリアは剣をヴァルギオンへと向けた。
「くらえ! 『大閃光(ライト・ノヴァ)』!!」
 ティリアの剣から膨大な量の光の奔流がヴァルギオンへと突き進み、接触した瞬間大爆発する。何人か兵士が吹き飛ばされるがティリアは何とかその場にとどまる。爆炎が辺りを覆う中、今の衝撃で怪我をした兵士はいないことを確認すると、ティリアは前方のヴァルギオンがいたところへと視線を移す。汗がどっと噴き出し、肩で息をして剣を前方に突き立てながらも視線だけは前から離さなかった。予感があった。
(まだ………、終わってない)
 爆炎が晴れるとそこにいたのは体の前半分を吹き飛ばされたヴァルギオンだった。ピクリとも動かない姿を見て兵士達は歓声を上げながらヴァルギオンに近づく。が、ティリアは叫んだ。
「だめ!」
 その瞬間、ほんの数秒にしてヴァルギオンの前半分は復元し周りに衝撃波をまき散らした。
「きゃああああああ」
 ティリアは衝撃波に吹き飛ばされて木に衝突した。
「う………うう………」
 何とか立ち上がり視線を前方に向けると倒れている兵士を触手で突き刺し、絶命させながらこちらに近づいてくるヴァルギオンが見えた。ティリアは何とか身構えるがもうほとんど力が残っておらず、今のままではせいぜいあと一撃加えるのがやっとだった。生命の危険にさらされているのにも関わらず頭は妙に冴えていてふと別なことを考える。
(まったく、ライアスったら肝心な時にいないんだから………)
 ヴァルギオンの触手がティリアの方を向く。
(まだあの力を使うわけにもいかないけど………。でも、死ぬわけにはいかないわよね)
 と、ティリアが何かを決心したその時、城の方から爆音が響いた。
(!?)
 思わずそちらを振り返る。見ると、空高く光の固まりが浮かんでいた。そしてそこから今度は光の球がヴァルギオンの元へ命中する。
「グギャアアアオオオ」
 叫び声を上げて悶えるヴァルギオンを見るティリアの目の前に、その光の固まりが着地する。ティリアはそれを見て思わず安堵のため息を出した。
「全くなにやってたのよ!」
 光の消えた中からは青髪の青年が姿を見せた。そしてティリアに近づいて言う。
「騎士はヒロインがピンチの時に現れるものだろう」
 ライアスは笑顔でティリアに言葉を返した。思わずティリアは赤面する。
 それを隠すようにより大きな声でティリアは言葉を紡いだ。
「そんなこと言ってないであの怪物を倒す方法でも考えてよ!」
 ティリアはライアスに掴みかかるように言うが、ライアスは静かにヴァルギオンを見つめていた。
「ヴァルギオンか………」
「え?」
 ティリアは驚いた。兵士が知っていたのだからライアスが知っていても当然だったかもしれないが、驚いたのはその声音に何か余裕が感じられたのだ。
「俺の師に聞いたことがある。あいつの倒し方は一つしかない」
 ライアスが離している間にもヴァルギオンの体は再生し、こちらに向かってきている。
「ティリア、これから俺があいつを凍らせて破壊する。そうしたら『核』を叩き斬るんだ」
「『核』………?」
「説明してる暇はない! いくぞ」
 ヴァルギオンの触手を躱してライアスは言った。ティリアも何とか躱して体勢を整える。
 なおも迫りくる触手を切り裂きながらライアスは叫んだ。
「オーラ・ブリザード!!」
 オーラテインから放たれた吹雪はあっという間にヴァルギオンの体を包み込んで凍らせていく。そして一瞬後、ヴァルギオンの体は完全に凍り付いた。
 ライアスの体が光り輝く。
「疾風斬!!」
 ライアスが光を纏ってヴァルギオンに向かって突き進み、そして衝突する。そして何の抵抗も見せずにヴァルギオンの体が四散する。
 ティリアはヴァルギオンに向かって走った。
 早く『核』を探して斬らなければと思い、全力で駆ける。
 そして宙に浮く小さな物体を発見した。
「たあ!」
 ティリアはその物体に斬りつけた。だが次の瞬間ティリアの顔に驚愕が走る。小さな物体にもかかわらずその物体を切り裂けなかったのだ。
「な………」
「ティリア!」
 ライアスの声が響く。見るとライアスがこちらに向けて駆けてくる。ティリアはライアスの意図したことが分かり、剣を振りかぶる。
「破邪剣聖滅殺!!」
 ライアスのオーラテインが振り下ろされると同時に、ティリアも剣を下からすくい上げるようにして『核』に斬りつけた。ちょうど『核』を挟み込む形になる。
 そして、がきっ、という音と共に『核』は真っ二つになった。
『核』を失ったヴァルギオンは瞬く間に溶けていった。跡形もなく地面へと帰っていく。
「………やったね、ライアス!」
「ああ」
 ティリアとライアスは互いの掌を軽く打ち付けた。ふと、ライアスの表情に陰りがさす。
「どうしたの………?」
 ティリアが不思議そうに聞くとライアスはティリアとは違う方を見て言う。
「まだ安心はできない」
 ティリアもライアスの視線を追うとそこには無数のレッサーデーモンが出てきていた。
「ティリア、ここは任せた」
 そう言ってライアスは城に向けて駆け出した。
「ちょっと! ライアス!」
 ティリアは声をかけるがライアスはもうすでに風の結界を纏って城へと飛んでいった。
「まったく………。しょうがないわね」
 ティリアは気を取り直してレッサーデーモンの群へと突っ込んでいった。




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