THE LAST DESTINY

 第二十話 ジェイルVSアイオス


 ジェイルは一番激しい戦場である城門前から少し離れた場所に立っていた。目の前には人影がある。『四鬼将』アイオスである。
「俺の位置を一早く掴んで待ち伏せとはな………。なかなかやるじゃないか」
「………」
 ジェイルは答えない。唯、左腕を前にかざし、右腕を脇腹に構えた。
「この俺を一人で止められると思っているのか………」
 アイオスは腰から剣を抜き青眼に構える。ジェイルがすうっ、と息を吸い込むと周りに青白い光が纏わりつき始めた。
『精霊武闘』(スピリット・アーツ)は精霊の力を借り身体能力を高め、なおかつ通常持っている技の破壊力を何倍にも上げる。通常技以外に八式と呼ばれる真正継承者だけが使えるという技がある―――アイオスが自分の知識を思い出していた時、ジェイルがアイオスに向けて駆け出した。体全体を青白い光で包み突き進んでくる。
 尋常なスピードではなく、人間が出せる速度ではなかった。
「八式!」
 ジェイルの声が響いた。
「爆砕崩拳!!」
 凄まじい爆発が辺りを揺るがす。アイオスは横っ飛びでジェイルの突進を躱したが、ジェイルが飛び込んだ地面は小規模のクレーターができていた。クレーターの中心から飛び出たジェイルはそのままアイオスの下に迫る。アイオスは剣を青眼に構え、向かってくるジェイルに振り下ろした。ジェイルは左足で思い切り踏み込むとその剣の腹を叩き、横に反らしてアイオスの懐に入り込んだ。
「なに!?」
 流石に焦りの声を上げてアイオスは後退しようとするが、ジェイルは力を結集させた右肩をアイオスの鳩尾に当てて思い切り右足を踏み込んだ。
「八式! 轟雷爆!!」
 爆発的な音を立ててアイオスが声も上げずに吹っ飛ぶ。森の木々を数本折ってアイオスの体は地面に落ちた。ジェイルは眉一つ動かさずに倒れているアイオスに近づく。
「効いているとは思わない。さっさと立て魔族」
 ジェイルの言葉を聞いてアイオスは体を浮かせて余裕で立ち上がる。
「人間の3強………。『フォルドの魔人』『龍戦士』そして、全ての格闘家の頂点『カイザー』ジェイル。
 流石に一筋縄ではいかないが………所詮人間だな………俺には届かない」
「なんだと………」
 ジェイルの顔には変化がなかったが、明らかに怒りがわき上がっていくのをアイオスは見ていた。
「こんな狭いところではお前も力を発揮できないだろう。少し片付けるか………」
 そう言うとアイオスは剣を地面に突き立てて意識を集中し始めた。ジェイルは何か悪寒を感じ叫んでいた。
「やめろ!」
 その瞬間、アイオスの体を中心に光が溢れた。ジェイルは思わず目をつぶる。
 無音の衝撃。自分の体を貫いていく『何か』を知覚しながらジェイルは心の焦燥感が宿る事を阻止できなかった。
 光はしばらくすると消え、ジェイルはゆっくりと目を開けた。そして叫んだ。
「うわあああああああああああああ」
 そこに広がっていたのは何も無い広場だった。アイオスを中心にして半径1キロの範囲の木々は消失し、まっさらな大地になっていた。
 アイオスは突き立てていた剣をまた青眼に構える。
「さあ、これでやりやすくなったろう」
「き………貴様………」
 ジェイルは今度は怒りを露わにして構えようとしたが、ふと気づく。
「左腕が………?」
 ジェイルの左腕はあがらなかった。電気が走ったようにしびれている。
「俺の剣を腕一本で捌いて無事でいるとでも思っているのか?」
 今度はアイオスが素早くジェイルの元に向かう。
「ちい!」
 ジェイルは左腕をかばうように構えるとアイオスと相対した。アイオスが上段から剣を振り下ろす。ジェイルは半歩ずれて剣を躱し、また懐に入ろうとする。だが、
(――――――!)
 気配を感じたジェイルはすかさず横に飛ぶ。ジャケットの横を掠めてアイオスの剣が振られていた。そのままアイオスは体を回転させながらジェイルに迫る。
「くそっ!」
 遠心力を利用して次々と斬撃を繰り出してくるアイオスにジェイルは防戦一方だった。
 躱しきれずに裂傷が増えていく。
「どうした………その程度なのか………」
 アイオスが技の激しさとは正反対の静かな声で語りかけてくる。ジェイルは思い切り後ろに飛ぶと、急に方向転換しアイオスの剣撃の進行方向から外れて間合いを取る。
 流石に息が上がっている。
 息を整えながらジェイルは構えを取った。アイオスも青眼に構える。
「もう痺れが回復したか………」
 言葉内には感嘆が含まれていたが、ジェイルは気にも止めずに力を集中させる。
「さあ………、撃ってこい………。貴様の無力を思い知らせてやる」
「………」
 ジェイルは無言で駆け出した。アイオスが眼前に迫る。
「八式! 連辺束射撃!」
 右フック、右肘、左フック、右ストレート、右肩での痛打、後ろ回し蹴り、と連続コンボを放つジェイル。
 凄まじい風斬り音。
 だがアイオスはすべてを躱し、あるいは受け止めた。
「なに!」
 心底驚愕の表情を出すジェイル。技の隙を逃さずにアイオスはがら空きになった体の全面に剣を振り下ろした。
「――――!?」
 だが今度はアイオスの方が驚愕の表情を浮かべた。回し蹴りを放った時点で体の真正面をアイオスに見せ、体も浮いていて躱せるはずがない状態からジェイルは回し蹴りの反動を利用して半身をずらし、縦に振り下ろされた剣を躱した。着地して今度はジェイルが隙ができたアイオスに接近し両掌をアイオスの横腹にあて、力を解放する。
「八式!」
 力強い右足の踏み込みと共に体中に広がったエネルギーが掌に集まり放出される。
「炎烈掌!!」
 放出された熱エネルギーはアイオスの体を突き抜けて内蔵を抉る。
「ぐ………、はあ!!」
 技の衝撃によってアイオスが後方に弾き飛ばされる。それを追ってジェイルはさらに追い打ちをかけた。
「八式!」
 体中にエネルギーを漲らせ、凄まじい加速でアイオスに迫る。
「爆砕崩拳!!」
 凄まじい突進突きが、今度はアイオスの腹にヒットする。
「ぐあああ」
 地面にクレーターを作り、アイオスの体がそれに埋もれる。凄まじい爆発が収まらない内にジェイルは次の行動に移る。両腕にエネルギーが集中する。
「八式! 雷光神拳!!」
 凄まじい速度で連続した突きが放たれる。アイオスの顔から胴体にかけて衝撃が駆け抜ける。だが、圧倒的に有利なこの位置でジェイルは悪寒を感じ取った。
(!?)
 とっさにクレーターから飛び出る。
 汗が体中から噴き出てきた。
 今の一瞬までに体中の殆どの力を込めていたからだ。
 脱力感と共に膝をつく。そして気づいた。
 着ているシャツの前に亀裂が走り少し腹が切れていることに。
 アイオスがクレーターから出てくる。何も無かったかのように悠然と歩いてジェイルとのの距離を詰める。ジェイルは動けなかった。明らかに前よりもプレッシャーが増していた。
「ふむ………」
 アイオスが声を漏らす。それには少し感嘆が混ざっていた。
「なかなかの攻撃だ………少々堪えた。だがやはり届かん」
「ならば、届くまで撃ち続けるだけだ」
 ジェイルはアイオスを鋭い眼差しで見据える。だがアイオスは剣を足下に突き刺した。
「?」
 ジェイルが困惑しているとアイオスはそれを面白がるようにジェイルに言う。
「おまえは何故、そこまでして俺を倒そうとするのだ?」
「………貴様が魔族だからだ」
 ジェイルは困惑が続いたまま口を開く。アイオスは笑みをこぼすとそのまま話す。
「おまえは魔族が憎いようだな………。それは何故だ?」
「………」
 ジェイルは無言で言う事を拒否した。自分の心が見透かされたようで言葉が出なかった。
 アイオスは気にした様子もなくさらに言う。
「話す気が無いのなら俺から話してやろう」
「………なにをだ?」
 ジェイルが言うとアイオスは急に目つきを鋭くして言った。
「俺は人間が憎い………。根絶したくなるほどにな」
 静かにアイオスは自分の過去を話し始めた。




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