THE LAST DESTINY 第十九話 魔獣、襲来 「市民は城のシェルターに逃げ込め!」 「早く! さあ!!」 オーリアーの兵士の一部が市民の避難を促す声が響く。そしてほとんどの部隊は周りを取り囲んでいる魔族の部隊に向かい始めた。城真正面のブリッジにはジェイルとグロッケン帝が立っている。 「来たか………魔族め!」 グロッケン帝は口を切るくらい歯を食いしばり、ジェイルは表情を崩さぬまま目の前を見つめている。 「ジェイル………。頼んだぞ」 横にいる相手を見ずにグロッケン帝は話し、ジェイルは無言でその場から去った。 (魔族は許すわけにはいかない………。なあ、ジェイル) グロッケン帝はジェイルの立っていた位置を見ながら呟く。そこには点々と血の跡が残っていた。 ジェイルは王座の間から出て淡々と城の出入り口へと向かう。その瞳には固い決意、正確には殺意、といったものを浮かび上がらせていた。 (魔族………) 廊下ですれ違う兵士達は明らかにいつもと違うジェイルを見て驚いて横に避けていく。 それにかまう余裕はシコードにもなく、実際、細かいことは気にする余裕は兵士達には無かった。たった一人を除いては。進行方向に人影が立ち塞がり、ジェイルは立ち止まる。 ジェイルはふと思い出した。 (あの青年と一緒に来た者だ………) 前に立ちふさがった女、ティリアは言葉を放つ。 「魔族が来たのね。ライアスは?」 「知らんな。『宝玉』を取りに行ってから会ってはいない」 「そう………」 ティリアが嘆息したその時、一人の兵士がジェイルの元に走ってきた。 「大変です。先ほどの閃光は宝物庫の方に直撃しました! 中にはライアス様が残ったままです」 その報告を聞きティリアは顔が青くなる。 だが、ジェイルは顔色も変えずにそうか、とだけ答え先に進んでいく。 「おそらく今回はあの『四鬼将』が相手だ。出てきたら私に任せておまえ達は雑魚の相手を頼む」 他の兵士達はジェイルの言葉に躊躇しながら頷いて後に続く。ティリアは兵士達が去った後もしばらくその場に立っていた。不思議とジェイルの行動に腹は立たなかった。ジェイルは人一人の生死よりも今の魔族への対応を優先したのだ。そしてティリアも走り出す。 「この程度で死んじゃったら見損なうからね!!」 内心の不安を声を上げてかき消してティリアは入り口に向かった。ティリアが城から出ると目の前には『精霊の森』の中で魔族とオーリアー兵団との戦いが繰り広げられている。 森の中のため姿は見えにくいが、どうやら何百体ものレッサーデーモンをほぼ同じ数の兵士がうち倒しているようだ。だがティリアはその目の前の光景よりも見えない気配に戦慄を覚えていた。 (どんどん気配が強くなっている………) ティリアは気配の発生源を探そうと意識を集中した。そして向かってくる大きな魔気の方向を見つける。 「こんなのを近づけさせるわけにはいかない!」 ティリアはその方向に向かう。その間にも何体ものレッサーデーモンが襲いかかってくるがことごとく切り伏せる。そうしている内に、木をなぎ倒してくる大きな影を見つけた。 兵士達が次々と吹き飛ばされていて、ティリアの方にも飛んでくる。その兵士を抱えながらティリアは兵士を蹴散らしてくる怪物を見やった。 「なんなの………あれ………?」 思わず声に出す。 簡単に表すと大きな蛙のようだがその怪物は大きな鍵爪をもち、口には巨大な牙があり、背中からはコウモリのような羽が生えており、同じく背中から生えている触手のようなもので兵士をなぎ倒し、突き刺して進んでくる。体長は6メートルを超えている。 「あ………。あれは………」 ティリアの手の中にいた兵士がとぎれとぎれに話す。 「話さない方がいいわ。後は私に任せて」 ティリアが行こうとすると兵士はやっとというように引き留める。 「あ………。あれは、『ヴァルギオン』だ………。並大抵の武器じゃ、倒せない………」 兵士の心配そうな口調にティリアはふっと微笑んだ。 「なら、並大抵の武器じゃなきゃ良いんでしょ」 「………?」 不思議そうな顔をする兵士をそのままにティリアはヴァルギオンに向かって駆けていく。 ティリアは剣を抜くと一気にヴァルギオンに接近した。ヴァルギオンは触手を使ってティリアを襲うが、それを軽く躱して右前足に斬りつける。 「ぐぎゃああああおおおお」 ヴァルギオンは耳障りな叫び声をあげてもがく。兵士からは感嘆の声が上がる。 「みんな! 援護お願い! こいつは私が倒すわ!!」 ティリアが兵士達に言い終わり、ヴァルギオンの方に体を向けた時、ティリアは自分の目を疑った。切り裂いたはずのヴァルギオンの前足が見る見るうちに再生していく。一瞬後には完全に傷跡は無く、ヴァルギオンは口を大きく開けた。ぞくりとした感覚を感じティリアはとっさに横に避ける。すぐ後にヴァルギオンの放った光熱波が通り、数名の兵士を声も上げさせずに蒸発させた。ティリアは体勢を立て直すとヴァルギオンをじっと見据えた。 (もう! こんな時にライアスの奴、ほんとに死んでたら恨むからね!!) 内心不安になる心を無理して奮い立たせ、ティリアは叫んだ。 「身の程を教えてあげるわ!!」 |