THE LAST DESTINY

 第十八話 脅威、接近


 ジェイルとライアスの右拳が真正面からぶつかり合い激しい音を立てる。威力が互角だったのか、双方の拳が後ろに弾き飛ばされると、ジェイルはすかさず左フックを放つ。ライアスはそれを屈んで避け、そのままアッパーを繰り出した。その拳は後ろに退いたジェイルの鼻先を掠める。その事でできたライアスの隙を逃さずにジェイルは突きを放つが、ライアスは大きく後ろに飛び退いて間合いをとった。一瞬にして繰り広げられた攻防にティリアは思わず感嘆する。
「これはライアスに任せて正解だったわね………」
 とてもじゃないが自分の手に負えるレベルではない、そうティリアは確信していた。ティリア自身、格闘には自信があったが二人の繰り広げている戦いははっきり言って普通のレベルを軽く超えている。
(流石、『オーラテインの戦士』………。でも)
 ティリアは内心呟く。
(この程度じゃないはずよ………。あなたの力、見せてみて………)
 ティリアが考えている間にも二人の戦いは休み無く続いている。ライアスが繰り出した右ストレートをジェイルは体を回転させて相手の右側に移動し、回転の勢いそのままに右肘をライアスのこめかみに向けて振り下ろす。ライアスは右足でその場に踏みとどまり少しだけ体勢を低くしてジェイルの右肘を躱すと、踏みとどまった右足で今度は後ろに飛び退き、右肘をシコードの脇腹に向けて打ち込んだ。
「くっ!?」
 流石にその反応は予想外だったのか避けるのが一瞬遅れて、脇腹にライアスの肘が掠めた。そのままジェイルは間合いを取る。互いにファイティングポーズを崩さない中、ライアスが話しかけた。
「精霊の力というのは使わないんですか」
 ジェイルは表情を変えずに言う。
「『精霊武闘』はオーリアーに伝わる古流武術に精霊の力が融合したもの………。お前がただの格闘戦を望むのなら私もそれに答えるのが礼儀だろう」
 ジェイルは顔に笑みを浮かべた。先ほどライアスが言った事に対しての皮肉を言った事にライアスも自然と笑みをこぼす。
「以外といい性格していますね」
 ライアスは言い終わるとすかさず隙のない構えを取った。ジェイルは真っ直ぐにライアスを見すえて言った。
「次で最後にしよう」
 ジェイルはゆっくりと息を吸い込むとライアスに向かって駆け出した。ライアスもしっかりとジェイルの動きを見、そして駆け出す。二人の姿が重なった時、ずだんっと大きな音がしたかと思うと、二人はぴったりと体をくっつけて動きを止めていた。
「なに………?」
 ティリアは意味が分からなかったが、よく見るとライアスの右拳がジェイルの鳩尾に突きつけられている。
「………良い判断ですね、とっさに動きを止めるなんて。どうやら『寸打』を知っているようだ」
 ライアスがジェイルに密着したまま口を開く。ジェイルも微動だもせずに言葉を紡ぐ。
「まさか打てる者がいるとは思わなかったがな………」
「そこまで」
 突如、声が響いた。ずっと静かに見守っていたグロッケン帝が玉座から立ち拍手を送る。
「流石とでも言っておこうかな、『オーラテインの戦士』よ」
「………ライアスでかまいません」
 ライアスはジェイルの体から離れてグロッケン帝に向き合って跪いた。ティリアもそのそばによって跪き、ジェイルはグロッケン帝の傍らに戻る。
「おまえの力の程は判った。見くびったことは謝ろう。兵士に『宝玉』の納めているところまで案内させよう。その間、連れの者も休んでいるが良い」
 グロッケン帝は奥の扉に控えている兵士の方に向かっていった。ティリアはライアスの傍に寄るとこっそり耳打ちした。
「ああ言って全然反省してないじゃない」
 ライアスは気づかれない程度に笑った。


 ティリアはいわゆる客室のようなところに通された。ソファがあり、テーブルがあり、お茶のポットまである。王座の間からライアスとは別々に兵士に連れられてこの部屋に通された訳だが、連れてきた兵士は終始むすっとした顔をしてこの部屋の前に来たらさっさとどこかに行ってしまった。
「何なのよ! 全く!」
 ティリアは一人愚痴をこぼした。


 オーリアー帝国―――歴史的にはフォルド公国と並んで有史以来続いている国家。
 魔法を駆使するフォルドとは違い、兵士の肉体の力を最大限に生かし、白兵戦によっての戦いを主とするオーリアーは、『災厄の終末』直前に増大する魔族に対抗するため精霊と契約を結び『災厄』を乗り切った。元来自分の力で戦ってきたため自分達の国家以外の者を基本的に信用しないような風習が根付いてしまっていて現在に至っている。


「ああーもう! 分かってたけど気分悪いわ!!」
 ティリアはいつか読んだ歴史書に書かれていた記述を思い出す。
 ふつふつと怒りが込み上げてきて叫んだ。だが、妙な胸騒ぎに心が乱れ、言葉を切った。
(この気配は………)
 ティリアは備え付けてあった窓から外を見た。それと爆発の閃光があたりを照らすのはほぼ同じだった。


 少し前、ライアスは『宝玉』があるという宝物庫に案内された。兵士はここで待機しています、と言って扉の横に立った。ライアスは中に入ると下に行く階段を見つけ、そのまましたに降りていく。そこには『風』の宝玉と同じようにうっすらと光を放つ宝玉があった。
「………」
 ライアスは無言でオーラテインを引き抜いた。剣と反応して宝玉は光を強くする、そして今、正に宝玉がオーラテインの中に取り込まれようとした時、ドガァア、という破壊音と大きな揺れが辺りを襲い、凄まじい量の瓦礫がライアスに降り注いだ。


 同時刻、『精霊の森』周辺、そこにはまさに一瞬にして魔族の大部隊が姿を現していた。
 空間転移を使い、ゴルネリアスから一斉にここに現れたのだ。大部隊の後ろにはアイオスが腕組みをしてオーリアー城を見ている。そこは大きな煙を上げていた。
 ついさっき魔族の攻撃が命中したのだ。
 アイオスは言葉を紡ぐ。
「まだまだ6割ほどだな………。フルパワーまでもう少し。『ヴァルギオン』が完全に力を取り戻せばここも楽に落とせるだろう………」
 アイオスは口に笑みを浮かべてさらに続けた。
「フェリースの失敗は取り返させてもらうぞ! 『オーラテインの戦士』!」
 アイオスは進軍を開始した。




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