THE LAST DESTINY

 第十六話 ティリアV


 ピースのレーザーブレスを、ライアスは結界を巧みに動かして躱していく。
「ティリア………」
「?」
 ライアスは小声でティリアに話しかけた。
「俺の最大の技ならあいつの巨体も切り裂ける。だがそれにはこの結界を張っていては無理だ。結界を解いてあいつに向かうしかないが、その間何とか逃げ切れるか?」
 ティリアはライアスに向けて目を光らせて言う。
「大丈夫よ! 私があいつの注意を引きつけておくわ」
「それは無茶だ! ガルガテスの時みたいにうまくはいかないぞ」
 ティリアの発言にライアスは焦るが、当のティリアは気にした様子もなく、
「大丈夫! 私の力、見せてあげる。風の結界解除して」
 と、言ってくる。ライアスは少しの沈黙の後
「………分かった。頼む」
 と言って、地面近くで結界を解除した。すかさずティリアはピースに向かって走る。
「馬鹿がぁああああ!!!」
 ピースは棘を一斉に二人に突き出した。しかしティリアは次々と躱していく。
 そしてもう少しでピースの首の所、という所でティリアは剣を振り上げて叫んだ。
「光よ!」
 するとティリアの声に呼応したかのように、振り上げた剣が眩いばかりの黄金の光を放った。
「なに!? それは!」
 ピースの顔に恐怖の色が浮かび上がる。
「はあっ!」
 ティリアが剣を振り下ろすと黄金の光がピースの顔に向かっていき、そのままピースの左目に直撃した。
「ぐおおおおおおおお」
 ピースは絶叫し、痛みに首をのたうち回らせる。
「今よ!」
 ティリアが叫んだ。
 ピースが苦悶の叫びを上げつつ棘を突き出した。
 その内の一つがティリアを弾き飛ばす。遠くにまるで木の葉のようにティリアの体は飛ばされていった。
 その時、既にライアスはピースに後ろから接近している。
 ピースが気づき振り返るとライアスは目の前に迫っていた。
「これで終わりだ!! 破邪剣聖!」
 ライアスが振りかざしたオーラテインは輝きに包まれている。それがピースの見た最後の物だった。
「滅殺!」
 オーラテインはピースの巨大な首を跳ね飛ばした。首はけたたましい音を立てて地面、正確にはピースの体だった物の上に落ちた。先ほどまでの轟音が嘘のように静けさが回りを支配する。その沈黙を破ったのはティリアの歓喜の声だった。
「やったね! ライアス!! 流石だよ」
 弾き飛ばされた事で体に幾つかの裂傷が見られたが、満面の笑みを浮かべてティリアはライアスの下に駆けてくる。
「大丈夫だったか………」
 ライアスはそのティリアの姿を見ると力が抜けたように崩れ落ちた。
「!? ライアス!!」
 ティリアは驚いて急いでライアスに駆け寄る。ライアスは苦笑を浮かべながら言った。
「いや………、大丈夫。流石に疲れたよ。君が無事でよかった」
 声からは明らかに疲労の色が伺えるが、酷い傷などは見あたらないためティリアはほっと息をつくとライアスの隣に腰掛けた。
「しばらくこのまま休んでいこう! しばらくは魔物も来ないでしょう」
「………そうだな………」
 ライアスは地面に寝転がった。
 しばらくしてティリアに話しかける。
「さて………聞かせてもらおうか………」
「何が?」
 ティリアは平静を装って聞く。しかしライアスはかまわずに問いかける。
「とぼけても無駄だ。オーラテインを扱うのに昔の神話を知らないとでも思ってるのか? オーラテインのことなんて書物に詳しいことなんか書かれていないさ………。それにその剣」
 ライアスはティリアが腰に差している剣を指さして言った。
「その剣はただの剣じゃない。普通、魔族にダメージを与えるには強い精神力をもって刃が当たる瞬間に相手に相手を滅ぼす、という意志をたたき込む。それは生半可な意志力ではどうにもならない。より洗練され、研ぎ澄まされた意志力が必要になる。それでも、純魔族を切り裂くには………やはり何か特殊な武器が必要なんだよ」
 しばらくティリアは黙ってライアスを見ていたが、やがて溜息をつくと話を切りだした。
「しょうがないなぁ………。これは『烈光の剣』よ」
「なっ………『烈光の剣』だって!?」
「そっ。400年前の『災厄の終末』でフォルド八聖騎士達が使ったと言われる、八つの神器。
『烈光の剣』『飛龍の槍』『神龍の牙』『雷光刀』『風塵刀』『疾風の爪』『光魔の弓』そして『オーラテイン』
 紛れも無く、その中の一つだよ」
 ライアスは平然と文章を読むように続けるティリアに疑問の声を投げかけた。
「神器は使いこなせば一人でも魔族の大群でも引けを取らないと言われていた。そのために、その使い手以外が使うには凄まじいまでの精神力が必要なはずだ。現にこの世界に確認されている神具を使える物は未だにだれもいない。発見されてる物もごく僅かだ」
「フォルドの『光魔の弓』とネルシスの『雷光刀』でしょ?」
 口調が熱っぽくなってきているライアスを尻目に、ティリアは落ち着いた様子だ。
「どうしてこんな物を持っている? そして俺に近づいた目的は何だ?」
 遂に詰問口調になったライアスに、ティリアは少し考えてから口を開いた。
「私の父はトレジャーハンターをやっていて、ある日偶然にもこれを見つけたの。その場所は教えてはくれなかった。私はある目的のためこの剣を使いこなそうと血の滲むような特訓をして、今は立派なこの剣の主って訳」
「じゃあどうして俺に近づいた?」
「それは………」
 ティリアは口ごもった。その様子をライアスはただ何も言わずに見つめている。そして、
「それは………」
 ティリアが言おうとしたその時、
「やっぱりいいよ」
「えっ?」
 ライアスは急に顔を綻ばせると土をほろいながら立ち上がる。
 ティリアはキョトンとしてそれを見ていた。
「何の目的であれ、どうやらティリアは俺の味方らしいしな。無理に理由を聞くこともないだろう………」
「どうして味方だと言い切れるの? 実は敵かもしれないでしょ」
 ティリアの問にライアスは振り向かずに答える。
「八つの神器に選ばれた者が邪な心を持つような人ではないだろうし、それに………」
「それに………?」
 ライアスはティリアの方を向いて言った。
「俺はお人好しだからね。君を信じる事にした」
 ライアスの顔には満面の笑みが広がっていた。そして純粋な心を持つ者の瞳。ティリアはその瞳を見つめて何故か胸の高鳴りを感じた。自然と顔が赤くなる。
(なんでだろ………)
 ティリアの戸惑いを知らずライアスは向こうを向いて言う。
「さあ、早くこの山を下りてしまおう。こんな闘いの後だから早く宿に泊まりたい」
「………そうだね。じゃあ、行こうか」
 ティリアは平静を装って立ち上がるが内心はまだ戸惑っているが、気を取り直して思う。
(まあでも………いずれ話さなきゃね………)
 二人は再び歩き出した。
 オーリアー帝国領はすぐ傍に見えていた。


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 あとがき
 はい。
 新キャラ、ティリア登場です。
 とりあえず物語の進行には欠かせないキャラなのです。
 今までで十六話。いつ終わる事やら―――――――(汗)
 では、また新章で。




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