THE LAST DESTINY

 第十五話 魔の山


 噴煙がまだかなり周りを覆っている。ガルガテスの技によって周りが爆発した後、もう晴れてもいいはずの噴煙はいっこうに収まらない。ライアスは風の結界を操作して空中に浮かんでいた。ここでも爆発の衝撃はかなり風の結界を揺らした。
 あのまま地面にいれば結界も保たなかっただろう。
「あいつは………?」
「わからない………」
 ティリアの呼びかけにライアスは警戒を崩さずに答える。ガルガテスには大岩を粉々に粉砕する程のレーサーブレスを持っているのだ。しかしいっこうにそんな気配はなく噴煙もやっと晴れてきた。そして眼下に広がる光景にライアスとティリアは言葉を失った。
「なんて奴だ………」
 そこには何もなかった。今まであったはずの草木、転がっていた大岩の群、全てが大きなクレーターになっていた。その中心にはガルガテスがいる。ガルガテスは視線をこちらに向けた。
「そんなところにいやがったか! おりてきな! これでやりやすくなったろう」
「えっ………」
 ライアスとティリアは同時に小さく声を上げる。
(もしかしたら………)
 ライアスの脳裏にある仮説が浮かんだ。それはティリアも同じらしい。
 風の結界を操作してゆっくりと地面に着く。
 ガルガテスは満足そうに周りを見渡しながら言う。
「俺は余計なもんが嫌いでよ。これですっきりしたぜ」
 ガルガテスは笑い始める。ライアスとティリアは自分達の仮説が正しいのか確かめるすべを考えているが、それを見透かしたようにガルガテスは言ってくる。
「さあ、姑息な手なんて通用しないぜ! とっとと決着をつけようじゃないか!!」
 ガルガテスは再び戦闘姿勢をとる。
「考えていたら殺られるな………よし! いくぞ、ティリア!!」
「………オッケー!!」
 ライアスとティリアは再び離れる。ライアスはオーラテインを振り、光の球を出現させる。
「またその技か! きかねぇぜ」
 ガルガテスは嘲笑うが、ライアスは次々と光の球を出現させていく。
「おまえにぶつけるんじゃないんだよ! 閃光烈弾!!」
 ライアスが放った光の球はガルガテスの周りに炸裂し、凄まじい爆発と共に噴煙をまき散らす。
「ぬうぅ………、目眩ましか!! だが無駄だ!!!」
 ガルガテスは再びバースト・バズーカを放つべく力を集中しようとする。しかしその時、ガルガテスの視界に光が飛び込んできた。黄色―――それよりもなお輝かしい黄金の光がガルガテスに向かってくる。
「なんだ………?」
 ガルガテスは目を光に向けた途端、驚愕の表情を浮かべた。
「まさか!!!? そ、それは………」
 ガルガテスが驚愕の余り動きが止まった一瞬に、光はガルガテスの側を通り過ぎ、両足を切断していた。
「ぎゃあおおおおお!!!」
 ガルガテスは呻き地面にうずくまる。視線は光が去った方へ向けたままである。
「思った通り、気配を読めないようね!!」
 ガルガテスの視線の先からティリアの声が聞こえてくる。しかし、ガルガテスの耳には届いていないようだ。放心したように言葉を繰り返している。
「あれはあれは………」
 ガルガテスの思考はそこで途切れた。
 風の結界を纏ったライアスが真上からガルガテスを真っ二つにしたのだった。


 爆発が収まりティリアがライアスのところに駆けてくる。
「やったね! ライアス」
 嬉しそうに言うティリアを横目にライアスはまだ警戒を緩めない。
「どうしたの………?」
 流石に不審に思ったのかティリアは不安げに尋ねる。するとライアスは視線を向けずにある一点を見つめながら言った。
「まだ魔気が消えてない………。むしろ強くなっている」
「えっ………? ほんとだ………」
 ティリアもライアスの言ったことに気づいた。ガルガテスが倒れた今、強大な魔気を放つ者などいないはずなのだ。それなのに魔気はますます強くなっている。そう、強くなっているのだ。そして、
「! ティリア!!」
「えっ?」
 ライアスが叫ぶのと地面から何か棘のような物が飛び出してくるのはほぼ同時だった。
「あ………危ない………」
 ライアスとティリアは間一髪、空中に逃れた。眼下には何十本もの巨大な棘がつきだしている。
《避けたか………さすがだな………》
 ライアスとティリアは声がした方に顔を向けると正体が分かった。前には巨大な龍がいた。いや、龍ではないようだが何かの巨大生物だというのは分かった。首は地面の方から伸びている。
「なるほどな………この地面そのものがお前の体というわけだ」
 ライアス達が地面に降りるとその首は高らかに笑った後に言った。
《その通り、俺の名はピース。フィレーネ山の地獄の案内人だ》
 ライアスが言うとピースの巨体も応えた。
「あんたがフィレーネ山の怪物の正体ね! あたし達はとっとと山を下りたいのよ! 通してもらうわ」
 ティリアが言うとピースは軽く笑みを浮かべただけでかまわずに言葉を続ける。
《ガルガテス様を倒せるような奴らをこのまま行かせたのでは、フィレーネ山の番人、ピースの名が廃るわ!》
「だがあいつは本当の力じゃなかったろう」
《何》
 ライアスの言葉にピースはじっとライアスを見つめる。
「今まで俺が闘った『八武衆』の 奴らは気配を読むことができたのにガルガテスはできなかった。なにか力を押さえられていたと考えるのが普通だろう」
 ピースは喉を絞ったような笑い声を出した後、口を開いた。
「確かに、俺とガルガテス様は400年前、この地に封印され、ガルガテス様は下級の魔物と融合させられてしまった。そのおかげで力が前の半分ほどしか出せてはいなかったのよ」
 と、話が終わるとピースは険しい表情になり怒鳴りつけた。
「話は終わりだ! 死ねぇ!!」
 すると再び地面から棘のような物が飛び出してくる。ライアス達は再び風の結界によって空中に浮かび上がる。ピースはライアスに向けて言う。
「その状態では大した技は使えまい!」
 そうして今度は口から光線をレーザーブレスをはいてきた。ライアスはそれを躱すが執拗にピースは放ってくる。
「お前を倒すぐらい、手はあるさ!!」
 ライアスはピースの巨体を眼前に収める。
 オーラテインが光を強めていった。




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