THE LAST DESTINY 第十三話 ティリアU 朝食を食べ終わってライアスとティリアはフィレーネ山に向けて歩いていた。すでにセンザの街から出て街道を歩いている。 周りは丈の長い草原、目の前には見るからに暗い―――邪悪な感じがある山がある。 「本っ当に嫌な感じの山ねぇ」 ティリアはうんざりしたように言う。ライアスもそこから流れ出てくる魔気に嫌な気分を感じずにはいられなかった。 「かなり魔物が密集しているみたいだな」 「そうみたいね………」 二人ともしばし無言で街道を歩いていく。しばらく進んでライアスは足を止めた。それにつられてティリアも足を止める。 「ティリア」 「わかってる」 二人の周りに見えるのは草原だけだったが明らかに二人に向けられた殺気が満ちている。 「わかってるわよ! 出てきなさいよ!」 ティリアが言うと草むらからぞろぞろと男達が出てきた。昨日ティリアが倒した破落戸も何人か含まれている。 「小娘………ただで街から出られると思ったのか!!」 「仲間の敵とってやる!!」 出てきたのは全部で20人、どの男も手には抜き身の剣が収まっている。 「小娘によってたかって多人数で襲うんじゃ、凄んだって説得力ないわよ」 「なにを………」 突っかかろうとした破落戸に一人を押さえて一人の男が一歩踏み出す。昨日最後に倒された男だ。どうやら街の破落戸達のリーダーらしい。 「おらぁよ、勝てない喧嘩はしない主義でね。実力が分かっている相手に意地張って少数で襲うってぇのはしねぇのさ」 話している内にも破落戸どもはライアスとティリアの周りを取り囲む。 「おう、そこに兄ちゃん。無関係ならとっとといきな」 リーダー格の男はライアスに向かって言った。ライアスは腰から鞘ごとオーラテインを抜き構える。 「一緒に旅すると言った以上、もう無関係じゃないさ」 「ほう………まあいいさ。その剣は抜かないのか」 「ああ。おまえ達のような奴を斬るための剣じゃないんでね」 「なに!!」 破落戸全員から怒りの声が上がる。 「なめやがって!! 二人まとめてぶっ殺す!!」 そして一斉に3人がライアスに襲いかかる。だがライアスの手がかすかに動いたかと思うと、次の瞬間、破落戸達の体は数メートル吹き飛ばされていた。 「な………な………」 リーダーは声も出ない。ライアスはすっかり竦んでいるリーダーに向けて言う。 「主義は立派だが、相手の力量をその場で見抜く訓練もした方がいい。これでもあばら2,3本はへし折れる」 ライアスが視線をティリアに移すともう既に4人地面に倒れている。 「へぇ………やっぱりすごい強いね」 ティリアが感心したようにライアスに向けて言う。 「ありがとう」 まるでいつもの会話をしている二人に破落戸リーダーは我に返る。 「やろうっ! やっちまえ!!」 「おおおおおおお………」 残りの破落戸達が二人に襲いかかる。ライアスとティリアはあっさり攻撃を避けながら当て身を入れていく。 数分後、破落戸全てが地面に倒れ伏した。 「ま、食後の運動ってとこね」 「ああ、軽いウォーミングアップだな」 ライアスは鞘を腰に納めると歩き出す。ティリアは並んで歩きながら疑問を口にする。 「そう言えば何で剣を抜かなかったの? あいつらだったら武器でもへし折れば逃げて行くわよ」 「じゃあ、これを抜いてみなよ」 ライアスはそう言ってティリアに剣を渡す。ティリアはいぶかしみながら柄に手をかけた。だがオーラテインはぴくりとも動かない。 「どうして………?」 ティリアは不思議そうにしながらライアスにオーラテインを返す。ライアスは腰に納めて言った。 「この剣は魔気を感じ取り、それを絶つためだけにこの鞘から抜けるんだ。この鞘はこの剣と一緒に遙か昔から伝わっているんだけど、この鞘がそうさせているのか剣自体がそうしているのか、いずれにしても不思議な剣さ」 「ふーん………さすがオーラテインね」 「………えっ!」 ライアスは驚いてティリアの方を見る。ティリアは突然のことに面を喰らっている。 「なんで………これがオーラテインだって………」 ライアスはこれが一度もオーラテインだと言っていない。ライアスの疑問を投げかける視線にティリアは落ち着きを取り戻し答える。 「あら………だってその剣、昔話に出てくる魔族を封印した勇者の持っていた剣の記述とそっくりなんだもの」 「そう………なのか………?」 ライアスはオーラテインを見やる。ティリアは形式じみた言葉遣いで歴史書を読むように語る。 「………その剣の柄には五つの宝玉、中心の宝玉を囲むように4つの宝玉が埋め込まれている。それぞれ『風』、『水』、『火』、『土』の力を表し、それにより世界の全ての力の源を操ることができる。その刀身は翳ることのない煌めきで包まれ、魔族を闇へと返す………って言う感じだったかな」 ティリアはライアスに向かって人なつっこい笑顔を見せて言った。 「魔王がいるんだもの、オーラテインの勇者がいたっておかしくはないでしょ」 「………そうだな」 ライアスは納得するとまた歩き出した。ティリアに向かって 「本番は次からだ」 と言った。ティリアは何のことか一瞬分からなかったがすぐに気づいた。 「フィレーネ山か………」 ティリアは気にかけている振りをして内心話題を乗り切ってほっとしていた。オーラテインの形など伝説にはせいぜい魔を絶つ剣、としか書かれていないのだ。 (まだ、時期じゃない………) ティリアは何も感じていないように後を追う。しかしやはり甘かった。ライアスは伝説を知っていたのだ。当然、オーラテインの記述など詳しくないことは知っていたのだった。 (この娘は一体何なんだ?) ライアスは気づかれないようにティリアの横顔を見る。 (とりあえず、敵じゃないみたい………だな) ライアスは疑問をとりあえず置きつつ、フィレーネ山を視界に収めた。 |