THE LAST DESTINY

 第十一話 新たな旅立ち


 魔族襲撃から一日が経過した。あの後、魔族が再び襲ってくることもなく街は今復旧作業で大忙しである。魔法兵団は全てそれに参加している。まだ闘いの傷跡を残す王座の間にはリアリスにエリーザ、リーシス、そしてライアスの4人だけがいた。
「………以上戦闘報告でした」
 リーシスは今回の戦闘の報告をしていた。戦闘は激しかったが幸い死人は出なかった。
 リーシスの采配の賜物である。リーシスの報告が終わるとリアリスはリーシスにねぎらいの言葉をかけると少し陰鬱とした表情で話しだした。
「エリーザが首にかけていた十字架は400年前、神の使い、伝承ではヴァルフィードという名前でしたが………その方がその当時からあった巨大国家、フォルド、オーリアー、ネルシスの3国家にこれを託したそうです。魔族の口振りからしてあちらにとっては大切な物のようですが、用途はわかりません」
「ということはオーリアーやネルシスにも近い内に現れると」
 リーシスが言うとリアリスはうなずいた。ライアスはリアリスに向けて言った。
「それなら一刻も早く宝玉を取りに行かなくてはいけません。俺はこれから出発します」
「えっ………」
 エリーザは小さく驚きの声を上げた。ライアスやリーシスには聞こえない。だがリアリスには、はっきりと聞こえていた。
「今日はこの城に泊まっていきなさい。これからが厳しい旅になるのだから」
「そうだよ。今日は最後の晩餐だ」
「………分かりました」
 リーシスの願いも受けてライアスは躊躇しながらも合意した。
 そしてライアスは復旧作業を手伝い、そうしている内に夜は更けていった。


 ライアスは部屋でベッドに横になりながら物思いに耽っていた。時間はもう深夜にさしかかるところである。村を出てからいきなりの魔族との本格的な戦闘、『八武衆』2体との闘い。《ライデント》の謎、次に行くオーリアーに魔族が現れるのは確実だということ、そして何より、その後に訪れるはずのネルシス共和国にはライアスの思い人であるレイナがいるのだ。これから起こり得るいろいろなことが次々と浮かび上がってきてどうにも眠れないのだ。ライアスがなんとか寝ようと布団を被ろうとしたとき、ドアがノックされた。
「………はい」
 こんな時間に誰だろうかとライアスが不思議に思いながらドアに向かうと相手から声をかけてきた。
「あの………エリーザです」
「エリーザ姫?」
 王女がこんな夜更けになんの用なのか、ライアスはよけいに混乱してしまったがとりあえずドアを開けた。そこにはドレス姿ではなく町娘のようなラフな格好をしたエリーザがいた。
「こんな時間に………」
「しっ!」
 エリーザは静かにするように言うと部屋の中に入ってきた。ライアスは止めようとしたが結局部屋の扉を閉めてしまった。
 ライアスはあきらめたような表情をすると、エリーザに椅子を勧めた。
 エリーザはそれに座る。
「こんな夜更けになんの御用でしょうか? 姫」
「………」
 エリーザは何も答えない。ライアスはそれにつられて押し黙る。エリーザから言い出すのを待った。少し時間がたつとエリーザは口を開く。
「ライアス様………もう少しここにとどまられるわけにはいけないのですか………」
 エリーザの声は消え入りそうだった。だがその声には強い哀願の響きがあった。エリーザは言葉を続ける。
「叶わない願いというのは分かっています………でも私は………」
 エリーザは俯いて言葉が続かない。ライアスは静かに言った。
「急がなければオーリアーやネルシスも魔族の攻撃を受けてしまいます。少しでも被害を押さえるため、そして一刻も早く魔族を滅ぼす力を手に入れるためここに余りとどまるわけには行きません。そして何よりも………」
 ライアスは一旦言葉を切る。エリーザは顔を上げてライアスを見る。
「何よりもネルシスには俺にとって大事な人がいるのです」
 エリーザはその言葉に驚いたような顔をする。
「それは………あなたの思い人ですか………?」
「ええ」
 ライアスのその言葉を聞いた瞬間、エリーザはライアスの胸にすがりついて泣き始めた。
 ライアスは困ったようにそのままの体勢でいる。そのまま時間が過ぎていった。少ししてエリーザはライアスから離れる。その顔には初めてあったときの笑顔があった。
「ごめんなさい………こんな夜更けに………。これからの旅でのあなたの無事をいつでも祈っています」
 エリーザはそう言って部屋から出ていった。
 ライアスはそれからしばらくその場にたたずんでいた。


 次の日の朝、ライアスはリアリスに呼ばれて王座の間に来ていた。
「ライアス、ぼろぼろになったマントの替わりにこれを与えましょう」
 リアリスがそう言うと、横にいた召使いが真新しい白いマントを持ってくる。ライアスが身につけてきたマントはライネックやズレイスとの闘いでぼろぼろになっていた。
「このマントには耐魔結界の力が含まれていて、かなりのレベルの魔族の攻撃を防ぐことができるはずです」
「ありがとうございます。リアリス様」
 ライアスはそれを身につける。エリーザはリアリスの横で寂しそうにその様子を見ている。
「オーリアーとの国境にある町、センザの町まで馬車で遅らせましょう」
 ライアスはそこまでは、と拒否したが結局リアリスに押し切られる形になり送ってもらうことになった。数分後、馬車が用意されてライアスが乗り込む。
「頼みましたよ。ライアス」
「君が真の力を手にしたら僕も魔族を滅ぼす力になる」
 リアリスとリーシスがライアスに話しかける。ライアスはそれぞれに返答する。
 エリーザは少し離れて見ているだけだ。
「では、行きます」
 そして馬車は走り出した。その瞬間、エリーザは力一杯叫んでいた。
「ライアス様! どうかご無事で!」
 ライアスは馬車の窓から身を乗り出すと手を振りながら叫んだ。
「皆さん! お元気で!」
 馬車は瞬く間に遠ざかって行き、見えなくなった。
 リアリスはエリーザに近づいてそっと言った。
「これが最後ではないのだからそんなに悲しむことはないわ………」
「………」
 エリーザは何も答えることはできない。しかしその瞳には翳りもなく青空のように澄んでいた。
(どうか………ご無事で………)
 エリーザは心の中で再び願う。自分の愛する人に向けて。エリーザは生まれて初めて人に恋し、その喜びと切なさを知った。
(あなたが思い人と幸せになれることを祈っています………)


 遙か南、ゴルネリアスには先ほどから絶叫が響いていた。その声の主はフェリースである。
「………あああああああああああ」
 激しい雷撃を喰らい、体はもう限界に来ていた。
「《ライデント》を持ってきたのはいいが………なんだあのざまは!」
 制裁を加えているのはシュタルゴーゼンである。その顔には怒りが沸々と現れている。
「四鬼将たるものが人間ごときに後れをとるなどとはなんと言うことだ。分かっているのかこの馬鹿者がぁ!!!」
 シュタルゴーゼンはさらに雷撃を強める。フェリースは更に声を上げた。
 だがその時、雷撃が空中で一刀両断にされていた。
「………アイオスか」
 見るとアイオスがフェリースの元に駆け寄っていく。
「大丈夫かフェリース」
「ア………アイオ………」
 フェリースは安堵の表情を浮かべそのまま失神した。
 シュタルゴーゼンはアイオスをにらみつけている。
「アイオス………貴様はフェリースのような事にはならないだろうな………」
 アイオスはシュタルゴーゼンを真っ直ぐ見返して言う。
「フォルドの魔人は人間のレベルではない。我々といえども苦戦は明らかだ」
「我々………? それは貴様らだけだ!!!」
 シュタルゴーゼンは吐き捨てるように言う。
「人間のような下等生物に苦戦するなどあり得ないことだ。魔王様が知ったら、この程度ではすまんぞ!!」
「わたしはかまわんぞ………」
 不意に声が二人の後ろから聞こえたかと思うと「魔王」ギールバルトが姿を現した。
「アイオス………《ライデント》を手に入れる準備はできているのか」
 アイオスは体が固まる。ギールバルトの体から出る魔気が体を硬直させてしまうのだ。
 なんとかアイオスは平気を装って答える。
「はい………つきましては『ヴァルギオン』をつれていきたいのですが」
「『ヴァルギオン』を………」
 シュタルゴーゼンは眉をひそめる。対称的にギールバルトは平然と言った。
「いいだろう。お前の好きにするがよい」
「はっ!!」
 アイオスはギールバルトに敬礼するとフェリースを抱き上げてその場から消え失せた。魔王もそこから消えてその場にはシュタルゴーゼンだけが残った。
 シュタルゴーゼンは思わず呟いた。
「昔の魔王様なら………あのようなことは言わないのだが………」
 シュタルゴーゼンは今の魔王の様子を不思議に思った。


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 あとがき
 フォルド編、終了です。
 一応、主要キャラクターのリーシス初登場編ということで。
 このキャラはかなり気に入っているので終盤でもがんばってくれるでしょう。
 十話が明らかに長くなってなんてこったって感じでしたが………。
 今度は均等になるようにしたいです。
 では、次からは新章です。




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