06.そもそも夏休みとか気の抜けている期間に大量の課題をやれというのが、間違っているのだと叫びます。

 八月●日 晴れ
 夏休みに入ってから日記を書こうとしましたが、一日目から既に書くのを忘れてしまったので最終日に一気に書こうと思います。文責は私、白川アルセルバリエルです。
 夏休みというのは学生が青春を謳歌する期間のことだそうです。制服も夏服に衣替えしてうなじを流れる汗が制服の背中へと入っていき、うっすらと見えるブラジャーのラインにハァハァするとお父様は言っていましたが、その度にお母様に鉄槌を喰らっていました。そんな生活も少しの間終わりのようでした。終業式というものを済ませてから、私はお父様とお母様に連れられてカラオケという歌をうたう場所に行き、ファミリーレストランという場所にいってご飯を食べました。それで一日目は終わりました。
 そこからお母様のところに毎日お父様が来ました。お父様は「恋人らしいことしようよぅ」とお母様に迫るんですが、お母様はいつも「勉強しなさい」と殴り返していました。私はそれを見て母親と子供みたいと言ってしまい、漢字の書き取り百六十文字を命じられてしまいました。中途半端なところが逆に真面目にならないと危険です。
 お父様はお母様を篭絡しようと私にいろいろとちょっかいを出してきました。具体的に言うと、甘味所桃華堂で売られている夏限定ジャイアントブレイクストロベリーパフェというものを私にあげるから、お母様を海に連れ出してくれないかということです。私も海に行きたかったし、ストロベリーパフェを食べたかったので、同意して、ちゃんと食べさせてもらってからお母様と海に行きました。他にも、学校で仲良くなったてんてこ舞さんや熱海さんが一緒に行きました。実は海ではなく、近くに出来た海を模したプールでしたが、楽しかったので良しとします。何しろ他の人のスクール水着が盗まれたので犯人探しをしたりしたのですから。結局、適当に見つけた人が実は犯人だったという凄い展開でした。
 帰ってきたところで、お母様の家の前でお父様が泣きながら「どうして!」と叫んでいたのが印象的でした。何がどうしてなのかさっぱり分かりませんでした。異性の思考を読むのは難しいです。思春期の青年の心の闇というやつでしょうか?
 夏休み半ばに差し掛かるとお母様の両親がお仕事でしばらく家を空けるようでした。お母様は腕によりをかけて私に味噌ラーメンを作ってくれました。市販のインスタントは不味いという人がいますが、私は味が安定していて好きです。お母様は卵と葱を独自で入れてくれるので更に好きです。お父様は今こそ自分の出番といわんばかりに勝手に乗り込んできて、キッチンで醤油ラーメンを作ってしまいました。スープから作るという本格的なものでした。五十歩百歩だと最初は思いましたが、お母様のものより美味しかったです。何が違うのかなと考えていると、お父様は言いました。
「愛だよ。愛」
 お母様が殴りたくなる気持ちが分かったので、実践してみました。顎にとても良い一撃が入ったのか、私の腕が痛くなりました。痛くて涙が出てしまって、お母様がシップを貼って撫でてくれました。それだけで痛さや悲しさや寂しさなんてなくなりました。お父様の姿はもう見えませんでした。
 夏の思い出と呼べる物は宿題をせっせとやっているお母様の後姿。
 お母様に自分の存在をアピールしようと頑張るお父様。
 たまに遊んだ時にいつもいた舞さんは会うたびに人が変わったようですが、私にはどの人でも優しかったです。
 熱海さんはいつも汗をかいていて、会うたびに体重が減っているようでした。昨日会った時には百キロくらい痩せたんじゃないかなと思いましたが、ゆでがえるの原理でそんなに気にしないですみました。ゆでがえるの原理とは徐々に温めることで温度の上昇に気づかず蛙は気づいた時には死んでいるという原理です。つまり体重が減っていても徐々にだから気にならないということです。
 いろいろあった夏休みでしたが、諸行無常の響きあり。いつか楽しい時も終わってしまう。だから人生って尊いんだなとこの日記を書きながら思ったのでした。
 お父様が隣で泣きながらお母様がやった課題を写しています。徹夜して明日に間に合わせることが出来るかは分かりません。
 直接言ったら怒られるので言いませんが、やっぱりお母様はお父様が好きなんだろなと思います。ちゃんと宿題見せてますし。
 まだまだこの二人を見守って行きたいです。

 さて、私の課題もこれで終わりです。この日記の中にある漢字で書き取りが終わりました。最後はこの文字で締めます。

 完
Copyright (c) 2012 sekiya akatsuki All rights reserved.