『おとな』になった子供





「お前、まだサンタクロース信じてんのかよ! ばっかじゃねぇ〜」

 頭を丸坊主にした鈴木輝が大声で笑う。取り巻きの子供達も口々に「ばっかじゃねぇ〜」

と笑っていた。彼等も示し合わせたように丸坊主だ。冬の寒い空気に触れていても、特に

気にするところがないのは若さゆえのことなのだろう。

 何人かは自分の白い息が空に昇っていくのを笑いながら見ている。

 彼等の視線を受けているのは一人の子供。

 同年代の子供が目に涙を浮かべて輝達を睨みつけていた。拳を握り、精一杯怒りを表わ

そうとしている。握り締めた両手を振り回して少年は叫ぶ。

「馬鹿じゃない! サンタさんはいるんだ! じゃあ誰が枕元の靴下にプレゼントが入れ

てるんだ!」

 中島明夫は涙声で絶叫する。

 喉の奥から搾り出すように絶叫する。

 そんな彼を見て輝達は更に笑った。まるでお笑いの劇でも見ているかのように、明夫の

言葉に対して反応している。つまりは全く気にしていない。

「何、マルコメ坊主のくせに生意気言ってんだよ」

「お前だって『まるこめ』だろ!」

 マルコメの意味を良く分かっていない明夫だったが、自分の事を馬鹿にしている意味と

は感じて、言い返した。

 売り言葉に買い言葉。輝は顔を赤く怒らせて明夫へと飛び掛った。

「十円禿げの事は言うな!」

 輝の後ろ頭に確かに十円禿げはあったが、もちろんそんな事は全く言ってはいなかい。

しかし輝と明夫の喧嘩は始まり、輝の取り巻き全てが参加した結果として数分後、明夫は

雪にまみれて地面に沈んでいた。

「ふん。三年二組の『はしゃ』、輝様に逆らったからだ〜。やーい、子供子供!」

『こどもこども〜』

 覚えたての響きがかっこいい言葉を用いて輝が笑い、取り巻きが言葉を唱和する。

 輝達が去っていくのを雪に埋もれた状態で見ながら明夫は見ていた。自分の信じていた

ことを真っ向から否定され、喧嘩にも負けた事が自分の完全敗北を意味しているようで明

夫は泣いた。

 泣いたからといって気が晴れるわけではない。

 とりあえず冷たいので明夫は起き上がった。雪を払い、涙で濡れた目を擦る。

「くそ〜。輝め。サンタさんはいるんだぞ。サンタさんを馬鹿にしたらプレゼントもらえ

ないんだぞ……」

 一人で家に帰る道すがら、明夫は輝へと呪詛の言葉を呟き続けた。しかし所詮は小学三

年生。語彙が少ないものだから「まるこめめ……」や「馬鹿」「あほ」「あんぽんたん」

「ばいきんまん」「ぶりぶりざえもん」など定番の物やよく分からないものくらいしか浮

かんでこない。しかし言いながら歩いていたことは明夫の気を少しは紛らわせた。

 家に着く頃には輝達にからかわれた事は気にならなくなり、元気よく家の扉をくぐる。

「ただいま〜」

「おかえりなさい、明夫ちゃん」

 母親の都子が居間から顔を出し、微笑んでくる。

 短めに切った髪と、年齢よりも若い肌を持つ顔は同年代の母親と並んでも際立って綺麗

で、明夫の数少ない自慢の一つだった。その母親の笑顔だけで明夫は幸福を感じ、勢い良

く家に入った。と、居間へと入った瞬間にまた不機嫌となってしまう。

 視線の先には小さめのクリスマスツリー。今日、終業式が終わり、五日後にはクリスマ

スが待っている。クリスマスとサンタが結びついて明夫は先ほどの屈辱を思い出した。

「どうしたの? 明夫」

「おかあさん……サンタさんはいるんだよね?」

「ええ。いるわよ? どうしたの?」

 柔らかい母の声に明夫は気持ちが溢れ、目から流れ出した。涙を流して言葉に濁点をつ

けながら言う。

「輝が……サンタさんはいないって!」

「そう……輝君はサンタさんを信じていないのね?」

「うん。僕悔しい……」

 都子はしばらく明夫の体を抱いて、頭を優しく撫でていたが、やがて体を離して明夫の

目を真正面から見ながら言った。

「いい、明夫。世の中にはね、自分の考えとは違う人がいるのよ。だから、そういう人が

いるからって気にしないで。明夫がいると思うならサンタさんはいるのよ」

「……?」

 まだまだ幼い明夫には都子の言っている意味が良く分からなかった。しかし、サンタが

いるということを肯定されたような気はして、明夫は泣き止んだ。しかし、母親の腕の中

は気持ちよくてしばらく泣き真似をして心地よさを味わっていた。

「サンタさんはいるんだ! 今年のプレゼントは何かなぁ〜」

 明夫が元気に言った言葉に、都子はただ微笑んでいた。

* * * * *
 明夫が寝てから、都子は夫である博文と食卓で向かい合っていた。互いに少し遅い食事 をすませた後の雑談。その中で都子は昼間の昭夫のことを博文へと教えた。 「そうか。サンタがいるいないで喧嘩になったんだ……明夫も大人への階段を上り始めた ってことかな?」 「あなた。ふざけないで下さい。明夫にとっては大問題なんですから」  博文は食後に飲んだビールが少し回っているのか、顔がほんのりと赤い。都子はあまり 真面目に聞いていない夫に嘆息したが、それでも本当に明夫が大変な目にあっている時に は我が身を惜しまず手助けをする事を知っている。 「まあしかし。いつか真実は分かる事だし。でももう少し子供でいてほしいしなぁ……そ うだ!」  博文はぽんっ、と両手を叩いて立ち上がった。面白い悪戯を考えついた子供のような顔 を見て都子はまた嘆息する。今度は別の理由だったが。 (あなたも子供みたいじゃないですか……)  悪戯好きの一面も持つ夫が何を考えたのかは分からない。今までの経験から思いついた ことを教えてはくれないだろう。それが実施されてから自分は驚くのだと、都子は分かっ ている。だからその件については何も言わずに都子は立ち上がった。 「じゃあ、もう寝ましょうか」 「うん。都子。クリスマスの日を楽しみにしてるがいい〜」  鼻歌を歌いながら自分の前を歩いて行く博文を見て、都子は今日三度目のため息をつい ていた。 (疲れてるのかしら。結構酔ってるわよね)  都子の予想通り、博文はビール一杯で予想以上に酔ったのか、ベッドに入るとすぐに寝 てしまった。寝顔を横で見ながら都子は隣の部屋で寝ている明夫に思いを馳せる。 (もう少しサンタを信じてるような子供でいてほしいわね)  子供が成長していく様子を見る事も楽しいが、やはり親としてはまだまだ子供には幼く いてほしかったのだった。
* * * * *
 冬休みは明夫にとって楽しくもありつまらなくもあった。一日学校に行く事もなく、一 時間くらい冬休みの宿題をした後は全て遊びに費やす。しかし仲がいい友人は年末旅行に 行くなど都合があわず、結果的に一人でかまくらを作り、雪だるまを作っていた。その遊 びも四日もすれば飽きる。結局五日目には家の中でテレビゲームを一人でしていた。それ も二時間もすれば母親に禁止される。 「ひまぁ〜」  テレビをつけても、既に冬休み子供劇場は終わっていて、昼のニュースが流れていた。 明夫にとっては難しくて何を言っているか分からない。父親が着るようなスーツを着て座 っている人物がすらすらと言葉を発していく。 『年末』『乾燥』『火事』『強盗』『渋滞』『交通事故』『クリスマス』―― 「クリスマス!」  ぼんやりとニュースの内容を聞いていた明夫の耳に聞きなれた言葉が入ってきた事で急 激に脳が動き出す。テレビに近づいて見てみると、そこにはサンタクロースの格好をした 人間がケーキを持って立っている。  ケーキ、美味しいですよ。  今ならこれだけの値段が――円。  サンタクロースが皆様をお祝いいたします……。  明夫の目にはサンタクロースが何人も映っていた。 「サンタさんっていっぱいいるんだ!?」 「これはサンタさんじゃないわよ」  後ろからの都子の声に、明夫は驚いて振り返った。都子は少ししまった、という顔をし た。明夫の顔に広がっていく失望の色を見て取ったからだ。しかしすぐに都子はいつもの 笑顔を取り戻して明夫に近づいて言う。 「この人たちはね、サンタさんの格好をしているだけ。本当のサンタさんは別にいるのよ」 「そうなんだ……やっぱりサンタさんはいるんだね! だからみんな真似してるんだ〜」 「そうよ」  母親に肯定されれば明夫は何もかもが正しいように思える。  母親だけではなく父親も同様に思えるのだが、やはり母親に肯定される方がより明夫は 自信が持てた。それは母親が子供の小さな世界に君臨する神だから。  普段はいつも仕事に行っている父親よりもいる事が多い母親に明夫は全面的な信頼を寄 せていたのだ。だからこそ、サンタの存在をより強く信じる事が出来た。 「わーい。今日の夜楽しみだなぁ〜」  クリスマスの夜。  サンタクロースが自分の元に来てくれる夜。  明夫は小学一年の時から貰ったものを反芻していた。  一年は大きな犬のぬいぐるみ。  二年の時は家庭用ゲーム機だった。  なら三年目は何をくれるのか? 明夫の胸は高鳴っていた。 「どうしてサンタさんは僕が欲しいものが分かるのかな?」 「サンタさんはこっそりみんなが欲しい物を調べてるのよ」 「へぇ〜。じゃあいつも近くにいるんだね!? どこだろう〜」  明夫は興味を持って周囲を見回す。その様子を微笑みながら郁子は見ていた。そして明 夫の手を取って言う。 「いい子にして待ってましょうね。ちょっと手伝ってくれる?」 「うん! 僕、偉い子にしてる〜」  明夫は上機嫌で母親の家事手伝いをしていく。少し早い大掃除である。  都子の力で絞られた雑巾を手に持って椅子や机を拭いていく。  休憩時間には都子の若い時代の面白い話を聞いて笑った。その中に出てくる単語はあま り理解できなかったが、楽しい部分は明夫にも分かるように都子が説明したために充分楽 しむことができた。  楽しい時間はあっという間に過ぎて夕食を二人で食べる。  父親の博文は残業で遅くなるとのことで、明夫は『ざんぎょう』というのはきっとクラ スの放課後の掃除と同じ事だと思う。それを母親に説明すると、都子は笑いながら「そう よね……そんなものよ」と言うだけだった。  夕食後は特に面白いテレビもなく、風呂に入った明夫は二階の自分の部屋に入った。時 刻は午後九時。明夫は最近買った子供用のダンベルで筋力トレーニングをしながら思う。 (そうだ。今日は夜更かしして、サンタさんがくるのを待ち受けよう。いつもありがとう って言いたいし。輝夫は信じてないからプレゼントをあげちゃ駄目って言わないと)  輝達と喧嘩しても負けないように買ってもらったダンベルだが、明夫はすぐに飽きてベ ッドの下に置く。電気を消してベッドに潜り込んだ。いつもはベッドの横にある小さい本 棚の上に置いてある目覚し時計を持って。  見ると時刻は午後九時十五分。 (早くこないかなぁ……何時にくるんだろう?)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる様子をじっと見つめる。  ――時刻は午後九時十六分。 (いつも十時には絶対寝てるんだっけ? 心臓ドキドキしてるなぁ……)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる様子を更に見つめる。  ――時刻は午後九時十七分。 (ふえ? 目がシパシパする……)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる様子を何度かまばたきしながら見つめる。  ――時刻は午後九時十八分。 (ふ、ふわ……。眠らないようにしないと!)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる様子を身体を緊張させて見つめる。  ――時刻は午後九時十九分。 (早くこないかなぁ……)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる様子をぼんやりと見つめる。  ――時刻は午後九時二十分。 (……)  両手で目覚まし時計を抱え込み、時間が流れる文字盤をじっと見るようにして、明夫の 意識は闇に包まれた。  物音に、明夫はふっと目が覚めた。暗い部屋の中で目を開けると暗闇に慣れているから か配置がぼんやりと眼に映る。と、自分が抱えていたはずの時計がない事に気付いて顔を 上げる。すると時計はいつもの小さい本棚の上にあった。明夫はぼんやりと寝る前の記憶 を呼び起こそうとする。 (……僕、置いたのかな?)  それとも母親が置いてくれたのか。たまに自分がベッドの中に目覚し時計を入れておく と郁子が寝る前に部屋へと入ってきて、元の場所へと戻してくれる事があった。今回もそ うなのかもしれない、とまだある眠気にぼんやりとしながら考え、明夫は時刻を見た。  午後十一時三十分。  上体を布団から出した事で、明夫は部屋が冷たい空気に包まれている事に気付いた。身 震いして視線を窓に向けると微かにカーテンが揺れている。どうやら窓が開いているらし い。明夫は特に何も考えようとせずにベッドから降りた。寒いのなら窓を閉める。ただ、 生理的なものにしたがっていた。  その時、明夫は微かに揺れるカーテンに映る人影に気付いた。どうやら外は晴れている ようで、月明かりがカーテン越しに部屋の中に入ってきている。その光に浮かび上がるよ うに人型の影が部屋の床に映っていた。 (――あ!!)  明夫は恐怖に襲われてよろめいてベッドにぶつかった。 (知ってる! あれは――)  ふらついた足に触れた物を条件反射でしゃがんで掴み、明夫は渾身の力でカーテンに投 げつけた。 (『ごうとう』だ!)  昼間のニュースで微かに聞いた言葉。そして流れた映像。  人の家に夜中に窓から入ってくるイコール強盗。  混乱する明夫の頭の中で直結した公式は、明夫に自己防衛の行動を取らせた。カーテン に投げつけた子供用のダンベル。それはカーテンに映った影に真っ直ぐに吸い込まれ、直 後、影の姿が消える。 「うわあああ!?」  悲鳴と、続いて鳴る鈍い音。明夫はしばらく震えたまま立っていたが、やがてゆっくり と窓際へと歩いて行く。揺らめくカーテンを開いてみると、やはり窓は全開になっていた。  寝る前には閉まっていたはずのカーテンがどうして開いていたのかは分からない。明夫 は窓の縁に手をかけて下を覗いた。  そこには男が倒れていた。  頭に見覚えのあるサンタクロースの帽子を被っている。そして、帽子の付近の雪が徐々 に赤く染まっていくのをじっと見ながら、明夫はしばらくの間佇んでいた。
* * * * *
『奥さん、災難だったわねぇ』 『ええ……』  十二月二十六日。午後三時。  熱に浮かされてぼんやりとしている明夫の耳に壁を隔てた玄関にいる母親と近所に住む 人の会話が聞こえてくる。この冬の夜にしばらく窓を開けっ放しにしていたことで当然の 如く風邪を引いた明夫は世話もしやすいからと一階の部屋に布団を敷いて寝ている。  朝からつい先ほどまで何人かの知らない大人達が明夫に会う目的で家に来ていた。明夫 は良く分からなかったが、何人かはみんな男で、やけに優しい顔をして明夫へと話し掛け てきた。内容をほとんど理解しはしなかったが、昨夜のことを覚えている分だけ話すと、 大人達は満足した様子で帰っていった。対応する母親の声は聞こえていたが、父親の姿は 朝から見ていない。  しばらく母親と近所の人は話していたようだったが、玄関を閉める音が聞こえると、そ のまま母親は明夫の所に戻ってきた。 「大丈夫?」 「……うん」  都子は少し青ざめた顔をしていたが、言葉はいつものように柔らかかった。明夫はその 事に安心してふと視線を移した。移した先の壁には赤い帽子がかかっている。  サンタクロースの帽子。  あの窓の傍で見た帽子と同じ帽子。 「ねえ、お父さんは?」 「お父さんは……」  都子はどう言っていいのか分からずに、しばらく明夫を見つめた。明夫も黙って都子を 見つめていたが、喉の奥から咳が出てくる。何度も咳き込む明夫に都子は頭を撫でながら 言った。 「休みなさい。お父さんは――後で、帰ってきますから」 「うん……ねえ、おかあさん」  喉に負担をかけないようにと小さく、ゆっくりと明夫は都子に言う。 「サンタさんは、お父さんだったんだね」 「そうよ。お父さんだったの」 「そうかぁ……」  一つ、自分の信じていた物が消えた。  それでもさしてショックを受けないのは何故だろうと明夫は考える。しかし熱に浮かさ れた頭では特に意味のある事を考える事は出来なかった。きっと熱のせいだと明夫は思っ てとにかく寝ようと決めると、布団に少し深く潜り込んだ。 「お休み、お母さん」 「お休みなさい。明夫」  明夫が眼を閉じると同時に都子は立ち上がり、部屋から出て行った。寝ようとは思った が今まで寝ていたからか睡魔が襲ってこず、ぼんやりとしたまま横たわっていた。  夢と現実の狭間に揺れる。  起きているのか寝ているのか分からない時、明夫の耳に玄関の扉が開く音が聞こえた。  都子が出て行って何かを話している言葉が聞こえる。その言葉に対して返された言葉は 自分の知っている物だった。 『大丈夫だよ。泥棒も意識を取り戻したし、明夫は正当防衛になるみたいだ』  声を聞いて夢現の中で思い出したのは、窓際にいた時に部屋のドアから入ってきた父親 だった。  サンタの帽子を――この寝ている部屋にかかっていた帽子を被り、手には大きな箱を持 って入ってきた博文は、箱を落として即座に明夫に駆け寄ると彼を抱きしめていた。  そこで明夫は何となく気付いてしまったのだ。  どうしてサンタは自分の欲しい物をくれたのか。  どうして窓もドアも閉まっているのに親にも気付かれずに入ってこれたのか。  それはサンタクロースが本当はいなくて、父親が毎年部屋にこっそりと入ってきてプレ ゼントを置いていくからなのだと、気付いてしまったのだ。  呆然としていた明夫を少しの間抱きしめてからてきぱきと動いていた父。  震えながら自分を抱きしめている都子を感じながら、明夫は一つの信じていた物の終わ りと、新たな事実の確認をしていた。 (お父さんがサンタクロースだったんだ)  意識は過去から現在へと戻り、隣で話す両親の会話が耳に入る。 『明夫、やっぱりサンタは父親だって分かったみたいですよ』 『そうか……今回の騒動で無事だったし、サンタの事も分かったし、無事に大人への一歩 を踏み出したって事だな』 『もう……でもそうよね、多分』 (そうか……僕は『おとな』になったんだ)  母親は子供の小さな世界に君臨する神だった。  そして両親が肯定したものは子供には絶対だった。  両親がサンタが父親だと言う事を知ることは大人になることだ、と言うならば、自分は 『おとな』になったのだと疑問なく信じる事が出来る。 (僕は『おとな』になったんだ。今度、輝に自慢してやろ……)  一つの幻想の終わり。  そして新たに得た『おとな』に満足感を抱きつつ、明夫は心地よい暗闇に身を任せた。   『おとな』になった少年・完


短編ぺージへ