「天知る地知る人が知る! 予想をしろと俺を呼ぶ! 呼ばれて出てきたぜ! 俺が、新川義明だぁあああああああああああああああああ!」
「昼間からバス停で騒音撒き散らさないでよ。警察に捕まっても私、知らない男って言うわよ」
「ぐぐ。そんなこと言うなんて! 俺の予想を聞いて驚いてからにしろ!」
「驚いた後なら見捨てていいの?」
「いや、見捨てないでくださいお願いします」
「……まあいいわ。で、今日は何を予想するの?」
「天気予報さ!」
「天気予報」
「そうさ! いいか!」
「うん」
「昨日の時点で今日、雨が降る確率……八十パーセント。ふふ。完璧な計算だ。まず空気中の湿気が昨日に比べて五十パーセント増している。次に空を覆う雲の割合が七十パーセント。白を侵食する黒さ率が九十五パーセントだ! つまり雨が降るということだ!」
「でも今日は普通に晴れてるわよ。雲ひとつない良い天気ってやつでしょこれ、どう見ても。雨合羽着てて熱くない?」
「いや、これから降るんだよ。きっと降る。俺の予想が間違っているなんて――」
「義明の予想は当たらないわよね。百戦百敗。競馬の着順でも予想当たれば少しは儲かるんだけど。全レース全敗記録を普通に更新してるわよね」
「競馬は馬と心通わないから無理なんだ! 俺は深夜にお天気おねーさんと会話を交わして天気予報の真髄を得たんだ!」
「それは深夜のエロドラマでしょうが。私が隣で寝てるところでそんなの見てたの? 帰ったら話し合いが必要ね」
「……もちろん冗談だって。脳内妄想というか夢だよ夢。お天気おねーさんは咲子だったよ。それはもう手取足取り首とり腰取り脚取り叩きつけで教えてくれたんだ……それに、昨日は確かにさっき言った感じだったんだ。誰もが見たら降るって思う空模様だったんだよ」
「それって私達の地元のことでしょ? 電車で三時間も行けば天気も変わるって。いい動物園日和じゃない」
「それはそうなんだが。でも、ここで引き下がっちゃ予想GUYと呼ばれている俺の名が廃る!」
「義明って頭の良さは私達の講座で一番だけど、それが予想外のパクリってことには気づかないのよね」
「褒めてくれてありがとう。夜はサービスします」
「寝させないわよ」
「……は、話を元に戻すとさ! 前に咲子の黒髪が少し濡れてたら前は雨降ってたよ。今も触ったらちょっと濡れてるし、降るよ」
「これは部屋出るときにちょっとシャワー浴びたからでしょ。急がないと動物園混むって言われたから慌てて出たんだから。荷物あるから先にチェックインしたけど、微妙だったかな。もう後悔してきた」
「せっかくの婚前旅行なんだからもっと朗らかに」
「なら雨降るなんて祈らないでよ。めんどくさいでしょうが。それに婚前って何年後から遡ってるのよ」
「え、一年後とか」
「早いから。大学卒業してないじゃない。就活中」
「学生結婚は学費安くなった気がするけど」
「それは考えてもいいかもね」
「うっわ。お金に厳しいね。咲子が貯金している確率百パーセントだ」
「貯金してない成人なんていないでしょ。予想ですらない」
「う、ぐ……そろそろバスが来るからその前に一つ、予想を当ててやるよ」
「凄い自信じゃない。あれだけ意地張ってた雨合羽脱いでまで」
「いや、普通に暑いし。これはあそこのベンチに置いておくよ。どうせ百円ショップで買ったものだし」
「もったいないわね。私もすぐ捨てられそうね」
「捨てないよ。俺も」
「……も?」
「咲子が――俺を捨てない――確率。百パーセント」
「なんか三回転回って指差されるのって無駄に腹立つんだけど。よく断言できるわねー。自信過剰?」
「無論、愛のなせる業だ。夢にコスプレして出てくるくらいだしな」
「そのコスプレの元のビデオはちゃんと返しておいたわよ」
「すみませんすみません申し訳ありません」
「あ、バス来た」
「そんな。まだ謝りきれてない」
「寝言、じゃなくて言い訳は後で聞くわ。よいっしょっと。あと、やっぱり連敗中よ」
「……捨てない確率、百パーじゃないのか!?」
「そうよ。だって」
「だって?」
「決まりきったことは予想してるうちに入らないもの。てか、早く乗り込まないとバスが出――」
「……待ってくれよ、僕のえんじぇーる!」
* * * * *
「聞いてみたかったんだけど、なんでそんな予想好きなの?」
「はっ……がっ……み、未知の……物、を! 想……像するって。楽しいじゃ……ない、か!」
「普通の答えだったわね」
「俺はまともだ!」
「自覚がないのが予想外よね」
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