耳の裏から電流が生まれた。
瞼の裏、鼻の後ろ、口の中、食道に出ると一気に体全部。ぞわぞわ、ぶるぶると通ってつま先までしびれていく。形容詞はどうでもいい。ようは耳の裏を舐められた時の感じだ。分からない人は舐めてもらいなさい、なぁああん! はぅ、はっ、はっ……
誰にそんな悪態をついているんだと考えて初めて、自分が寝ていたことに気がついた。昨日は確かマコト君といちゃいちゃしたんだっけ……それから寝て、今は何時だろ?
目を開ければ分かる。意識はぼんやりしたままだけど現状把握くらいはできそうだ。でも、体は目覚めたがってない。電流とか言ってるけどつまりは気持ちよさだ。自分の唇の裏側とか耳の裏とか乳首とか脇の下とかおへそとかあそことか太ももとか足の裏とか舐められると感じるもの。
「……ぁ」
自然と声、が。恥ずかしい声が漏れちゃう。だって今度は両耳が、あ、う……やぁ。快感も二倍になっちゃうよぅ。
「やめな、さいよ」
いったい誰がいるんだろ? マコト君は帰ったはずだしタカユキは今日は彼女のところだ。トウヤ? アクジ? キサク?
思いつく限り名前をあげるけど該当者がいない。だって、だってぇえぇ。
「ぅ、ぁ……ん……」
こ、こんな舌使いが上手い奴いないよぉ、らめぇ……気持ちよくて寝ていられないよぉ。あ、でもこうして気持ちよさに溺れていたいかも、あ、あんぅう。いろんなところがじゅん、となって、も、もう……我慢できない!
「だぁれ?」
もらうだけじゃ悪いもの。私も気持ちよくしてあげ――
「みゅん」
……目を開けて見えたのは猫だった。猫が二匹、目をとろけさせて私の耳をしゃぶっていた。私に「どうもー」って言ってるみたいに鳴いてから、また舐めるのを再開してくる。あ、あん……どこから入ってきたんだろう? 片方は三毛猫。片方は黒猫。どちらも瞳は円らで、私の耳をおいしそうに舐めたりしゃぶったりして……はふぅ。
「みゃー」
「みゃーん」
「ふみゅーん」
違う声がしたかと思ったら、つま先がぺろっと舐められた。ひゃん!? ま、またそんな先っぽ舐められるとくすぐった……あ、気持ちいい、あ、先っちょ、ら、らめぇよぅ。
「だれぇ?」
少しだけ首を傾けたら、三匹の猫が私の爪先を舐めていた。三匹とも色は白。まるで雪の化身みたいだ。親指と人差し指と中指。一本ずつ分け合って丁寧に。それぞれタイミングずらしてぺろんぺろんと舐めるたびに、私の体もペロンペロンになっていく。動く気力なんてなかった。このままこの猫ちゃんたちがいろんなところを舐めてくれればすごく気持ちいい……。
「みゃーん」「みゃーん」
どんどん声がふえていく。そしてなめられる場所も増えていく。ふとももや恥骨。服の中に入ってブラを噛み千切って、むねやちくびのまわりをちゅるちゅると舐めていって……駄目ぇ、おかしく、おかしくなっちゃうよぅ。
じゃり、じゃりとおとがする。
きもちよくてたまらない。
なにかがけずれていくような、わたしのなかで喪失感が大――きもちよくてたまらない。
しびれていくからだ。とろけていく脳。きもちいい海にしずんでいくこころ。ささいなことなんて――きもちよくてたまらない。ああ、こんなのしったらもうほかのおとこなんてあいてにならない。
猫がこんなに舌使い上手かったなんて。
「はぁあああ」
どうでもいい。きもちいい。
感じるためにとじた目をすこしだけ開けてみたら、いつの間にか足から肉が消えていた。
ほねってあんなにし――気持ちよくてたまらない。
びちゃっびちゃっ。
耳の肉がなめとられて、なくなっても。
じゅるじゅるじゅるるるるるるる。
からだじゅうの血をのまれても。
「きもちぃぃ。いいよぉ。はぁぁんあ”」
肺がたべられたのか息ができなくなった。
のどがなくなったのか声がでなくなった。
ほほをなめとられて、ねこの舌にほっぺたのお肉がついてるのが見えきもちいい。
ああ、私、猫に肉食べられていたんだね。なんでだろ。このねこだれだろ?
こんな時でも、
「ひもひ、ひぃ」
きもちよくて たまらない
◆ ◇ ◆
『本日未明、○○市△△区お住まいの田奈華負見子さん宅で白骨死体があるのを訪ねた知人男性が発見しました。現在身元の確認が行われており、前日から行方が分からない田奈華さんがなんらかの関わりがあるとみて捜査が進んでいます――』
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