『四月三十一日の忘れ物』


 まだ半分寝ていた頭が、一気に覚醒した。
 次の瞬間には目の前が暗くなり、脳を駆け巡る血の軌跡が目の前に広がった暗幕に浮かび上がったように思える。それがただの立ちくらみなんだと理解できるほど思考は身体の異常から切り離されていて、俺は冷静に「倒れるかもしれない」と思った。結局は、新聞を持ったまましっかりと絨毯に足をつけていたが。
 動揺に震える歯を食いしばって押さえつけ、ぎこちない動きながらもソファに腰を下ろす。目の前のテーブルに新聞をゆっくりと置き、ようやく手を離した。
 目を閉じて一度、二度、三度と深呼吸を繰り返すと、俺の身体にあるエネルギーみたいなものが正常に循環していくように感じる。
「智治(ともはる)! 朝ご飯は?」
「……うん。新聞読んでから食べるよ」
 声の調子は明らかにおかしかったけれど、母さんはそれに対して何も言ってこない。おそらく気づいていないんだ、この、不思議な状況に。でも、そのことは今の状況が十年前と同じ物だと俺に確信させる。
 十年前の今頃だったか? 幻の日が現れたのは。
(夏……秋……? いや、春だ)
 遠い昔のある日。あの時は『あいつ』と桜を見て「すげぇな!」とか言っていたはずだ。今の時期に間違いない。きっと、これは最後のチャンスに違いない。過去に置いてきた大事な物を取りに行く、最後の。
(明弘……お前、まだあそこにいるのか?)
『あいつ』の――明弘の姿が完全に形になったところで、映像を断ち切る。ここで悶々としていても仕方がない。腹ごしらえして、探しに行くしかない。
「智治! ご飯!」
「……分かったっ!」
 余りにもいつもと同じの母さんに苛立ちがつのった。でもこの明らかにおかしい状況を理解できないからこそ、明弘は消えてしまったまま見つからなかったんだ。よく考えれば得体の知れない状況に少し身体がすくむけれど、自分を勇気付けようと新聞の一部分を睨みつけた。
 新聞の上の方に書かれた日付。
 平成十×年四月三十一日。
 あるはずのない一日の始まり。
(必ず……見つける。俺が)
 意識を胸の疼きからそむけつつ、俺は食事へと手をつけた。

* * * * *

 久しぶりに市内に入ってみると、人の流れがほとんどないことに気づく。
 時刻は午前十時。学生達は部活で学校か、家で寝てるかだろうし、買い物をするには早い時間かもしれない。
 昔によく通ったおもちゃ屋の前に差し掛かって、走らせていた自転車を止めた。降りないままにぬいぐるみが飾られてる場所へ視線を移すと、うっすらとガラスに俺の顔が浮かんでいる。スポーツ刈りの下に少し細い目。特に告白されたことはないけれど、整ってるとは言われる顔が。
 俺の動作と共に映っていた顔も下がっていき、足元に立つ子どもの残像が目に入る。
 十年前の自分。今の姿がそのまま小さく、幼く映っていた。その目はお金が無いからと欲しかった玩具を見ているはずだった。他のたくさんの子ども達と共に。
 でも、ガラス越しに見えるおもちゃ屋の現実の中には子どもは一人もいなかったし、再び自転車を走らせて街を見回しても人は見えない。
 今日は曜日の上では日曜日だ。本来なら五月一日が来るはずの日。このありえない日が居座っているとしても、日曜日には変わりないはずだ。曜日は忘れたけれど、十年前のこの日は人が道を歩いている中を明弘と自転車で駆け抜けたはず。
 やはり人の姿がないのは、この街がだいぶ廃れてきていることを意味しているんだろう。
(ほんっと、寂れたなぁ)
 いつもは電車で少し離れた街の大学に通ってるから、市内に入ることはほとんどない。
 自分の買い物もこの街より大きなところで買ってるし、休日の両親の買い物にも付き合いはしないから、最近では初めてこの街の現状を目にしたようなものだった。視線をいろいろ移して行くと、子供の時に行ったことがある床屋やデパートが無くなっていた。後に入った美容院やケーキ屋にも、外から見る限りほとんど人はいない。昔、確かに感じていた街の活力みたいなものが、確実に消滅へと向かっていることが分かった。
 寂しさが胸を掠めるけれど、俺にはどうしようもないだろう。新しい物、大きな店へと人が集まるのは当たり前だし、過去から未来に時が流れていく中で淘汰されていく物と残る物とに分かれていくんだろうから。
 その中で、俺は過去に残してきた物を取りに行こうとしている……。
「って回想に浸ってる場合じゃないよな」
 誰かに言うつもりはなかったけれど、語りかける口調になった。誰に向けて言ったのかと考えても、そんな相手は一人しかいなかった。
 商店街を抜け、少しずつあの場所へと近づいていくと、昔の記憶が更に甦ってくる。
 ペダルを機械的に漕いでいく。徐々に心臓が高鳴って、背筋を汗が滑り落ちた。
 明弘に逢うためにこうして自転車を進ませているのに、心の中では帰りたいと叫んでる。
 もうあいつには触れてはいけない。行ったところで俺に出来ることなんてあるわけがない。俺は、明弘に逢って何を言おうというのか。

 久しぶり。会いたかった。ようやく見つけた。寂しかった……。

 思い浮かぶのは長く離れていた友達にかける言葉ばかり。
 ただ一つだけ、思い浮かびそうになると胸が痛む言葉がある。考えることさえも怖くて、俺はペダルを漕ぐことで想像を霧散させた。
 一気にあの場所まで行こう。そこで逢えたなら言う言葉を考えればいい。今の時点で考えてても仕方がない!
 進むことに意識を集中したからか、徐々に街の姿はのどかなものへと変わってきた。人家が立つ間隔がまばらになり、畑もちらほらと見えてくる。大学生になった今でさえこれだけ時間がかかるのに、小学生の時の自分達は元気だったんだと感心する。汗だくになりながらたどり着き、汗まみれになるまで遊び、時間をかけながら帰った子供時代が甘酸っぱいような不思議な気持ちと共に甦る。
 そんな記憶がリフレインされたところで、目的地が俺の前に姿を現した。そびえ立つそれは十年前に比べて更にボロボロになっていた。当たり前といえば当たり前だ。それよりもまだ壊されていなかったことが驚くところだろう。自転車から降りて、疲れた足を片足ずつほぐしながら近づく。入り口傍にある立て看板を見てみると、半月後に取り壊すという知らせが書かれていた。
「……本当、驚きだ」
 言葉がスムーズに出て行かない。自分が思ったよりも疲れていることが分かって、まだ二十歳だっていうのに歳だなと思う。自転車から降りて風を感じなくなったからか、それまでの行程で発散した熱が生み出す汗が、春用のトレーナーに滲んでいた。まだ寒いだろうと思って着てきたのに逆効果だ。脱いで自転車のかごに放り込むと、Tシャツ一枚の上半身に風が冷たかった。風邪を引く前に明弘を探し出そう。
「明弘ー」
 軽く名前を呼んでみる。目の前に立つ薄汚れた廃屋からは返事は返ってこなかった。少し戻れば人家があるのにここだけは世界から隔離されたかのように静かで、心臓をわしづかみにされたような気がして震える。よく子供の頃にこんなところで遊んだもんだ。
「俺だよ。智治だよ」
 アパートだったらしい廃屋の中にゆっくりと足を踏み入れる。体重に耐え切れずに床が崩れてしまいそうだったから、入り口から少し入ったところまでしか進めなさそうだった。ここまで来たけれど、このままじゃ明弘探しはすぐに終わってしまう。そんなことは嫌だった。
「いるなら出てこいよ! 明弘!」
 奥に向かって何度も名前を呼びかける。でも応えてくる声もなく、俺の呼び声は沈殿した空気に吸い込まれるだけ。
 どうして明弘を見つけることが出来るとすんなり思ったんだろう?
 十年前に俺達が紛れ込んだ『あるはずのない日』
 それが再びやってきたのは、明弘が俺に「探してくれ!」と言ってるからだと思った。
 明弘を飲み込んだ『四月三十一日』の中で、明弘を探し出せるのは俺しかいないと思った。
 そうするだけの、思うだけの理由が……俺にはあった。
(――まさか)
 そこまで考えて、不意に恐怖にかられた。
 もしかしたら明弘は俺を許せずに、自分と同じように『あるはずのない日』に閉じ込めようとしてるんじゃないだろうか? この世界に閉じ込められたのは、俺のせいだと思って……。
「俺のせいじゃないよ……そんなわけ、あるかよ」
 また生まれる独り言は、確かにこの場にいない相手へと向けたものだ。今すぐ回れ右をして、数歩も動けば廃屋から出ることが出来る。でも、身体は言うことを聞いてくれない。何度も頭では動けと思っているけれど、身体は何かを待つように入った時のままの姿勢を保っていた。
 会いたいと願う気持ちと、逃げ出したいという気持ち。相反する二つの感情が、俺をその場に縛り付けている。
「……明弘!」
 だから、俺は叫ぶように明弘の名を呼んだ。旧友との再会を喜ぶことも、旧友から恨みを言われることも。どちらでもいいから早く結果を出して欲しいと願った。今の状態のままだと、緊張で意識を無くしてしまいそうだった。気を失うのはこの状況ではけして好ましいことじゃないだろうと感じていた。
「明弘!」
「智治ー」
 答えが、返った。すぐ後ろから。
 背中にひんやりとした感触と共に、重さが加わる。首に回された手は子供のものだ。でも、まるで大き目のおもちゃを持たされたように、重さはほとんど感じられない。
「智治! 逢いたかったよ〜」
「あきひ――」
 首を回して明弘の顔を見ようとした時、急に身体が動かなくなった。首だけじゃなくて、身体が俺のものじゃなくなるかのような感覚。
 このまま、首を締められるんじゃないだろうか?
「ごめん。僕、酷い顔してるから見られたくないんだ。このまま背中にしがみついてるけど、顔は出来るだけ見ないで欲しいな」
「わ、分かった……よ」
 直前に覚えた恐怖が薄れていく。明弘の声もその柔らかな気配も、十年前と何も変わっていない。
 いつも一緒だった。いじめっ子にも二人で立ち向かったし、皆で遊ぶ時も中心は二人だった。親友ってこういうものなんだって、子供ながらに思った。
 その明弘が……十年前の四月三十一日に消えていった明弘が、背中にいる。
 込み上げてくる物を抑えきれずに、俺はその場にうずくまった。
「泣いてるの? 智治」
「……だって……だってさぁ! お、おれ……が……」
 嗚咽に阻まれて、言葉が出てこない。明弘の体温を感じさせない腕が、俺のをきゅっと抱きしめる。
「でもさ、智治来てくれたじゃん。探しに来てくれたじゃん。僕さ、ここから出たかったんだ。出るだけでよかった。なんかもう、死んでるんだって分かってたから」
 ずいぶん軽く死を言う。それがまた悲しかった。あの頃の俺達は死ぬなんて考えもしなかった。テレビゲームで敵を倒したりアニメでロボットが爆発して、登場人物がいなくなるものなんだくらいにしか思ってなかった。多分それが当たり前だと思うし、そこから先、歳を取るたびにいろんな事を覚えていくのが、俺達の人生だったはずだ。
 でも――
「俺がお前を置いて帰らなかったら! お前は生きてたはずだろ!」
「智治……」
 悲しそうな明弘の声色に、罪悪感が増していく。胸をかきむしって、叫ぶ。
「俺がかくれんぼで、お前をほっといたまま帰らなかったら……ここに閉じ込められることもなかったんじゃないか!?」
 もう前なんて見ていられなかった。必死に目を閉じて、流れる涙を堪えて、下へと拳を叩きつける。床はミシミシと物騒な音を立てたが、少し穴が空いたくらいで意外と頑丈だった。一瞬、痛みに開けた眼に何かが見えた気がしたけれど、すぐに拳の痛みに負けた。それでも何度も何度も叩きつける。
 この痛みなんて、明弘の心の痛みに比べればたいした事はないだろうから。
「止めてよ……止めてよ、智治」
 涙声の明弘。きっとあの時も泣きながら俺が探しに来るのを待っていたんじゃないだろうか?
 あの日。
 十年前の『あるはずのない日』
 まだ暦を覚えかけの俺達は、その奇妙さに気づくこともなく、いつものようにここへと遊びにきた。そして、この廃屋を使ってのかくれんぼ。俺は一つの悪戯を思いついた。
 何の事はない。隠れている明弘を置いて、先に帰ったんだ。そして次の日に怒った明弘に笑いながら謝って、近所の駄菓子屋で好きなお菓子をおごってやる。明弘を怒らせることをするなんて結構いつものことで、その時の悪戯も何回も行われ、その後もするだろう物の一つに過ぎないと思っていた。
 次の日に、明弘が行方不明になったことを知るまでは。
 当然一緒に遊んでいたことも話したし、遊んでいた場所も教えた。警察も捜索したけれど見つからなかった。
 そして『神隠し』という言葉を祖母から聞いて、俺は四月三十一日の意味を知った。そして、真実を心に閉まった。
 明弘は幻の日に取り残されたんだ。俺が探しに来るのをずっと待っていて、そのまま帰れなくなったんだ。
 そして十年間もこの場所にいて、俺が探しに来るのを待っていた。
「ごめん……ごめん……ごめん!」
 俺は馬鹿みたいに一つの言葉しか言えなかった。さっき、再会の時の言葉を思い浮かべて、胸に痛みを走らせた言葉。俺の中の罪悪感をたっぷり含んだ、謝罪の言葉。一言一言が俺の胸を切り刻む。叩きつける拳とシンクロして、血塗れの自分を想像する。でも明弘は背中からゆっくりと俺の頭を撫で始めた。すると悲しい気持ちが掌へと吸い込まれていくように、気持ちが楽になる。
「しょうがないよ、智治。ああいう悪戯っていつものことじゃない。僕の運が悪かったんだよ。寂しかったけど、智治に会えたからいいんだよ」
「明弘……」
 その時、背中越しに伝わってくる熱を感じていた。それは体温じゃなくて、もっと深い所からの熱。それは身体の中心へと入ってきて、俺を幸福感に満たしてくれる。思わず溜息が洩れて、明弘がくすくすと笑った。
「は……ははは」
「あはは……」
 明弘につられて、洩れる笑み。何か久しぶりに明弘のことで笑った気がした。廃屋に、この不思議な世界に響く二人の笑い声。何かそれがとても楽しくて、また涙がこぼれる。
「智治。お願い聞いてもらっていい?」
「なんだい?」
「街を見てみたいんだ。自転車に乗って、回ってくれる?」
 頷くしかなかった。明弘の言葉はさっきまでと変わらないように思えたけれど、些細な変化を感じ取ることが出来たから。淡々と話していたけれど、やっぱり明弘は一人で寂しかった。俺を責めていないけれど、きっと心の中では責めているはずだ。もしそうなら、出来るだけのことはしてあげたい。後で、罪を償えと言われようとも。
「お安い御用だ!」
 わざと声を張り上げて、俺は自転車に駆け寄った。トレーナーを着ないまま、汗に濡れたTシャツを風になびかせて街へと走り出し――

* * * * *

 ……寝巻き代わりのTシャツとジャージ下が、汗でぐっしょり濡れていた。
 自分の部屋の白い天井を見て、今のが夢だったのだとようやく悟る。激しく動いていた心臓もゆっくりになって、小さく刻まれていた呼吸も整う。
「……明弘」
 手を伸ばして目元を触ると、涙の跡がくっきりと残っている……気がする。鏡を見ないと流石に分からない。気だるい身体を起こして、鏡を探した。
「あ――」
 息が、出来なかった。
 ちょうど開いたクローゼットの鏡。そこに、背中を向けた子供が映っていた。でも黄色のシャツに青い短パン。その後姿は間違いなく明弘だ。明弘から視線を逸らして、ゆっくりとベッドから降りる。そして壁にかけられたカレンダーへと視線を移す。
 三十日までしかないカレンダーをめくると、五月が幕を開ける。その始まりの日、五月一日は日曜日。幻の四月三十一日は、そこにはなかった。
「五月一日、か」
 最初から四月三十一日なんてなかった。
 明弘が見つからなくなったあの日も、本当は四月三十日だった。でも、当時の俺は現実を見たくなくて、幻の日を作り出した。その日に紛れ込んでしまって、明弘はこの世界から消えてしまったんだと思い込もうとしたんだ。
 自分が置いていかなければ、明弘は行方不明にならずにすんだかもしれない。
 そんな罪悪感に、幼い俺は耐え切れなかった。
 あの日から何回も同じ夢を見てきた。十年後の自分があの廃屋に行って、明弘を見つけようとする夢。
 夢見て。起きて。カレンダーを確認して。
 三十一日なんて本当は無いんだと痛感して、それを否定する。
 幻の日はあった。明弘はそこに閉じ込められたからいなくなった。そう、何度も自己暗示をかけて、俺はずっと罪の意識から逃げてきたんだ。
 そして今年でちょうど十年。夢と現実が追いついた今回の夢の、いつもと少し違う点が覚めた今なら分かる。
 鏡へ視線を戻すと、明弘が少しだけ顔を俺のほうに向けていた。それでも口元が見えるくらいで、その口元が笑みの形に変わってる。それから頷き、明弘の姿は消えた。
「――っ」
 途端に溢れ出す涙。溢れ出す悲しさ。胸を締め付ける感情のままに、俺は泣いた。
 俺はあいつを残してきたことからずっと逃げていた。だから、明弘は俺の夢の中に出てきて、俺に自分を探すようにとずっと言ってきたんじゃないだろうか。
 前に進むために。明弘の居た昨日から、明日に進むために。
 幻の日に本当に捕らわれていた俺が、そこから抜け出せるように。全て俺の妄想なのかもしれないけれど、そう思えるだけのものが夢にはあった。
 そして、やっぱり寂しかったのかもしれない。夢の中の明弘は淡々と話していたけれど、やっぱり明弘は一人で寂しかっただろう。俺を責めてはこなかったけれど、きっと心の中では責めているだろう。そうされても仕方がないことを、俺はしたんだから。
 なら、俺は何をすればいいか。
 答えは一つだった。
 探しに行こう、あの廃屋へ。
 夢の中で床に拳を叩きつけた時に一瞬だけ見えたもの。いつもの夢と違ったもの。本当に微かだったけれど、あの、人の頭蓋骨のように見えたものを探しに。
 夢といえばそれまでだけれど、きっと明弘は見つかる。
 俺はもう、幻の日が来なくても明弘を探しに行けるはずだ。
 だから、今は少し泣かせて欲しい。後ろ向きの感情を全部洗い流すまで。
『街を見てみたいんだ。自転車に乗って、回ってくれる?』
「ああ……一緒に、行こうな――!」
 両手で自分を抱きしめてうずくまる。そして背中を撫でる柔らかな手を、確かに感じていた。冷たくも暖かくもないけれど、確かに存在する、その手を。



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