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● SkyDrive! --- 第百二十話 ●

 バドミントンシューズが床を蹴る音が響き渡る。
 隼人は横へ飛ぶように移動して、コートへと落ちようとするシャトルを打ち返す。
 高く上がったシャトルは、相手コートにアウトとなるかならないかという境界線を通って落ちていく。
 シャトルに追いついた相手――月島は迷わずにスマッシュを打ちこんできた。

「はあっ!」
「――っ!?」

 体勢を立て直す余裕もなく、脇腹にシャトルを打ちこまれた隼人は打ち返すことができなかった。

「ほら隼人! もっと早く追いついて打たないと。今のはレシーブの時点で負けてたんだからね! あんたのコントロールの肝は下半身だってこと理解して! それに賢斗! もう一つ前のレシーブはもっと厳しいところに打たないから隼人へのシャトルが厳しくなるんだから! 二人とも限界まで厳しいコースを狙いなさい!」
『はい!』

 静香の怒り交じりの叫びにも、素直に隼人と賢斗は返事をしていた。
 二人の素直さに溜飲を下げたのか、すぐに静香は月島・野島ペアに向けてアドバイスを送る。隼人はほっとしたが急に力が抜けてふらついた。

「だ、大丈夫?」

 賢斗が慌てて左腕を掴んで倒れるのを抑える。その動作が大きかったために静香も隼人の様子に気付くと、軽く手を叩いて二組に告げた。

「はい。じゃあ少し休憩。次は真比呂と純、理貴入って」
「よっしああ! 待ってました!」
「オーダーは一つ。真比呂は勝ちなさい。純と理貴はラブゲームで真比呂を負かしなさい」

 それは無茶だ、と呟く理貴の声を聞きながら、隼人は二人とハイタッチを交わしてコートから去る。壁際に背中をついてゆっくりと尻もちをつくと同時に横からタオルとスポーツドリンクのペットボトルが伸びてきた。

「はい、隼人君」
「……さんきゅ、井上」
「賢斗君も。だいぶ、ダブルス良くなったよ」
「ありがと……井上さん……」

 亜里菜は二人に笑みを向けて、次は月島と野島のもとへと向かう。その後ろ姿を見ながら、隼人はぼんやりと時の流れを思い返した。

(あれからだいぶ経ったんだな……)

 全国選抜バドミントン選手権大会の火ぶたが切られるのは、いよいよ明日に迫っていた。
 既に栄水第一男子バドミントン部と女子の月島、野島は開催地である北海道札幌市へと上陸していて、三月の寒さに凍えたりしながらも体育館では無事に練習できている。
 最終調整というには負荷が大きいと感じていても、本当に怪我をしそうになった時には休ませるという静香の手腕が冴えていて何とか問題なくやれていた。
 月島が好きだと言って告白を完全に思いを断った形になっても、亜里菜は次の日からは変わりなく接してきていた。その態度は気持ちを整理させてほしいと告げた時よりも更に、深い笑顔を向けてくれるようになったと隼人は思う。
 それが、罪の意識から逃れるための独りよがりの思いなのかは分からなかった。

「いよいよ、明日から全国大会なんだな……札幌は、寒いな」
「三月は一応冬らしいしな。雪もまだまだ残ってたし」
「井波なんて雪玉作って遊んでたし」
「あいつは今日、何もさせないで寝させよう」

 隼人たちは既にホテルにチェックインし、それから市内の体育館を借りて練習している。同じ部屋に割り当てられた隼人は、いかにして真比呂のおちょくりを躱そうかと考えていた。

(あいつがはしゃぐのを躱すのは必須として、無駄に体力使わせないようにしないとな……明日はどういう組み合わせになるかも分からないし。貴重な戦力だし。でも、あいつもバスケでそういうのは理解してるか……)

 真比呂に対しての考えを落ち着かせたところで、隼人は自分でも嫌になるくらいに信頼しているのだと理解し、笑ってしまう。結局、一年を通して真比呂の馴れ馴れしさに悪態を突くということを繰り返してきたが、その中で信頼感は積み重なっていった。
 初心者から始めてバスケットで鍛えた体力と身体能力により、メキメキと力を伸ばした真比呂。好きで挑戦していたジャンピングスマッシュも、神奈川県予選が終わった後から静香の特訓によりかなりの精度を見せていた。もうシングルスならば自分も負けるのではないかと隼人は思う。それを言うと真比呂は嬉しさに抱き付いてくると予想しているため、隼人は意地でも口には出さない。

「はーい、じゃあ、集合!」

 静香が掌で乾いた音を大きく立てる。試合形式の練習をしていた真比呂たちも動きを止めて駆け足で静香のもとへと近づいた。隼人も寄りかかっていた壁から反動をつけて前へと出て、真比呂たちの一歩後ろで止まる。

「少し早いけど、終わるわよ。各自で汗の処理はしっかりしてね。北海道の冬舐めないこと。あなたに言ってるのよ、真比呂!」
「う……お……お……」

 釘を刺されて真比呂は喘ぎ声を出してしまう。その様子に礼緒が笑いだすと波紋が広がるように全員が笑い出した。明日に本番を控えた時期に広がりかけた緊張が上書きされる。
 笑いながらも隼人は真比呂のムードメーカーぶりに感心する。

(これで本当に大人しくしてくれれば最高なんだけどな)

 隼人の脳裏には雪玉を作ろうとする真比呂を止める自分の姿が既に映っていて、ため息を吐いた。

「よーし、じゃあ練習最後ということで、奏と隼人に挨拶してもらおうかな」
「え……」
「先生。俺は、別に……」
「いいからいいから。じゃあ、まずは奏から」

 静香は強引に押し切って月島に視線を注目させる。隼人はそんな静香の様子を見て、胸の奥にため息を飲み込んだ。

(俺らにより近くなって、砕けた口調になって。厳しくなった、か)

 神奈川県予選が終わる前と後で、静香の男子バドミントン部に対する態度が明らかに変わっていた。
 下の名前で呼ぶようになり、口調は砕けて、練習の厳しさと正確さを増す。
 まるで押さえつけていた自分の思いの丈をぶつけてくるように。
 不思議に思って亜里菜へと尋ねた時には「甘えてるのかもね」と返されていた。

「えー、特に言うことは、ないんですけど。私は、自分で精一杯頑張ります。できれば、男子の団体戦と私のシングルス。密とのダブルスは、最後まで試合したいと思います」
『おぉおおおおおおお!』

 月島の静かなる優勝発言に隼人は体を震わせた。照れくさそうに頭を下げて隼人へ次を促しても、余波が残っている。

(…………?)

 激しくは見えなくても、より温度が高い青白い炎のような闘志を見せる月島に隼人は違和感を覚えながらも、咳払いをして気を取り直してから口を開いた。

「初めての団体戦。初めての全国。何もかも未知の領域だけど……皆で、勝ちあがっていこう。次のインターハイでとか、来年の選抜でとか言わないで、今、皆で飛びたいと思います」

 ぐっと右拳を握りこんで全員に向けて言葉を放つ。すると一瞬の静寂ののちに拍手の嵐が吹き荒れた。
 照れくささに頬を染めて全員から目を逸らす。すると隣にいた月島の顔が目に飛び込んできて、微笑みに別の熱が頬を熱くした。

「はい。じゃあ、二人の強気なコメントがあったところで、練習を終わります。直ぐホテルに帰って休むわよ」
「先生。観光は!」
「試合終わってからやりなさい」

 真比呂に呆れながら答える静香を見ていると、隼人も心が落ち着く。
 栄水第一バドミントン部が本当に一つになったという空気が広がり、心地よい。全員が一丸となって目標に向かって突き進む。
 それが、目標の一つだった全国大会に出場することによって叶えられるとは。

「随分、嬉しそうだね」
「え……あ……はい」

 先に行く仲間たちを眺めていると、いつしか隣に来ていた月島が尋ねてくる。既に亜里菜も野島も前を歩き、二人は最後尾を更衣室に向けて歩いていた。

「今日の夜、時間ある?」

 声を潜め、静かに問いかけてくる月島に隼人は声を出すのをこらえて頷いた。隼人に近づいてきて、あえて声を潜めて尋ねてくる月島のまとう空気を察することができないほど鈍くもなかった。

 ◆ ◇ ◆

(――疲れた)

 隼人はソファに腰を下ろして、深く沈みこんだ体を委ねた。
 真比呂と一緒の部屋にあるベッドは少し固く、柔らかいクッション付きの椅子もなかったため居間のソファの座り心地は悪くない。
 ホテルの二階はレストランがあるフロアで、憩いの場としてのスペースが広がっていた。視線の先にはエレベーターの扉があり、右に視線を向ければレストラン。左に顔を動かせば一階に続いている。
 時刻は午後十時を回り、レストランも営業を終えている。
 誰かが来そうな場所ではあるが、特に用事を足すような場所もない。ホテルの中にあるスポットだ。

「井波の奴が勘繰る前に寝てよかったよ、ほんと」

 部屋を静かに出る時に小さくいびきが聞こえてきたのを思い出す。
 真比呂は食事をして大浴場に入ってからすぐに寝てしまった。夜九時を過ぎたあたりで何か遊びを仕掛けてくるかと警戒していたのが馬鹿らしいくらいに、体力の限界を迎えたらしい。
 札幌にやってきて一番はしゃいでいたのも、最後の練習で一番しぼられていたのも真比呂であることを考えると当たり前だと思いなおした。

「いよいよ……明日……」

 ふと右腕を上げると、小刻みに震えているのが分かった。それまで何ともなかったのに、静かなフロアの中に一人でいると急に不安が湧き上がってくる。全員でいる間には気付けなかった心の弱さが一気に流れ出しているようだった。
 震えを収めようと右手首を左手で掴み、胸に寄せる。
 次の瞬間、上へと続いていく階段から降りてくる人影が目の端に映っていた。

「高羽君。大丈夫?」

 少し距離があるにもかかわらず、月島は隼人の状態が分かっていたかのように声をかけてくる。隼人はほっと一息ついて月島の方を向くと笑みに顔を崩した。

「見た目よりは大丈夫だと思います。正直、神奈川県大会の準決勝や決勝の方が緊張してますよ」
「……そうかもね」

 そう言って月島も笑う。だが、その笑みこそ、隼人の知っているものとは違っていた。
 隼人への笑顔は嘘ではない。しかし、陰には心の奥を勘繰らせないという意志が隠れているように隼人は感じ取る。
 雰囲気の変化は口には出さず、月島が近づいてくるまで待つ。
 やがて月島は隼人の傍に立ち、ソファの端に寄って促すと静かに座る。
 月島の恰好は学校指定のジャージ。既に風呂には入ったのか、シャンプーやボディソープの香りが伝わってくる。自分とは違う良い香りに気を取られそうになるが、月島の顔がわずかに隼人を向いておらず、沈んでいることはギリギリ見逃さなかった。

「月島さんは、明後日から、ですね」

 隼人の言葉に月島は体を硬直させる。
 シングルスとダブルスの個人戦は団体戦がある程度進んだ後に行われる。
 初日は団体戦で潰れて、徐々にトーナメントが進むと個人戦が始まる。最終日には男女共にシングルスダブルスの決勝までが行われ、その年最後の実力者が決まる。
 その意味では、隼人たちの初戦はほぼ明日。月島と野島の出番は二日目以降となる。

「明後日から試合なのに、今から緊張してるんですか」
「……見抜かれちゃったか」

 下手な駆け引きなど不要だった。
 月島が隠しているようで見せているのは、自分に見つけてほしいから。
 なぜか、そんな傲慢な考えが頭をよぎり、実行する。
 考えが正しかったかは別にして月島は自分の思いを吐露し始めた。

「練習の終わりには……ああ言ったけど……実は自信がないの」
「練習の終わり……ああ、最後まで試合したいって言う」
「うん」

 隼人が一部を抜粋して告げると顔を伏せる。隼人は月島の横顔を見ながら正確な文言を思い出した。自分でも理由が分からないほどに彼女の言葉が頭の中に残っていた。

『私は、自分で精一杯頑張ります。できれば、男子の団体戦と私のシングルス。密とのダブルスは、最後まで試合したいと思います』

 けして月島の性格を一から十まで分かっているわけではない。それでも、隼人にはその発言に違和感を得たのだと思い返す。それは「月島らしくない」ということだったのかもしれない。

「ここまで来れて、私は嬉しかった。インターハイは、結局は私だけだったし。だから、密とも、男子とも最終日まで試合したいんだ」

 月島の姿勢は徐々に前傾になっていき、前に出した両手を固く握る。力が強まっているからなのか、さっきの隼人のように震えだす。その様子をじっと隼人は見たままで声はかけない。
 月島の抱えている物を全て吐き出すために。

「インターハイは二回戦だったし。もっと上を狙いたい。でもそう考えるほど、怖いの。負けたらどうしよう。一回戦で負けて、私だけ取り残されたらって。谷口先生と二人で来たときは……こんなこと思わなかったのにね。贅沢だね」

 月島の不安げな表情を見て、隼人は抱きしめたくなる衝動にかられる。
 恋心を自覚しても普段の生活や部活で接する時には平然としていて、自分は淡白なのではと考えたが、二人だけの場でこれまで励まされてきた先輩の弱さを見せられると、心が揺れ動く。

(好きと言ってしまいたい)

 弱った彼女を抱きしめて、自分の気持ちを打ち明けたい。そんな衝動を理性でどうにか抑え込みながら隼人は口にした。

「贅沢、じゃないと思いますよ」
「――え」

 隼人は少しだけ尻の位置をずらして月島へと近づくと、震える両手を左手で包み込んでいた。
 小さな掌は一つ年上とはいえ女の子のものであり、隼人の掌が十分にカバーする。顔を赤く染めて見つめてくる月島に、隼人もまた同じくらい顔を赤くして告げる。
 今、自分が思っている想いを素直に。

「俺も、一人で背負えるならいい。他の人に重荷を背負わせたくないって思ってました。でも、お互いに背負いあってきたおかげで、全国大会までこれました」

 隼人の言葉は熱を帯び、少しだけ距離が近づく。重ねていた左手の上に右手を重ねて、月島の両手を顔の位置まで持ち上げると真正面から見て、熱を吐く。

「高校でのバドミントンを諦めていた俺に、光を与えてくれたのは月島さんです。月島さんと出会って生まれた熱をここまで育ててくれたのは、井波たち。だから、今度は俺が、俺たちが月島さんを支えます」
「高羽君……」

 口の中に唾が溜まり、音を立てない様にゆっくりと飲み込むことへ意識を使う。隼人は込み上げてくる自分の想いを抑えられず、月島に解き放った。

「前に言ったか……全然覚えてないんですけど。俺、最初は卓球部に入ろうと思ってて。でも、練習していた月島さんのショットがあまりにも俺の理想通りで、綺麗で……俺の中で限界だと諦めていた理想を魅せられて、まだできるって……思ったんです」
「……そんな凄いこと……してるつもりはなかったかな」

 隼人の言葉に月島は硬直させていた顔を緩め、微笑む。胸の奥を一突きされたような感覚に、隼人は頭の中が真っ白になっていた。

「俺、月島さんが好きです」

 その瞬間、空気が止まっていた。
 月島の表情はそれまでと打って変わって白くなり、強張る。隼人は何が起こったのか理解できずに固まったままで自分の発言を思い返した。

(――何を、言ったんだ俺は)

 月島の弱った姿を見て、助けたいと考えた。
 これまで月島に貰っていた熱量を全て返そうと熱く語った結果、どうやら今のタイミングで告げるには最悪の言葉を伝えてしまったらしい。
 神奈川県予選を終えて自覚した月島への想い。それを伝えるのは、全国大会の後だと決めていた。ただでさえナーバスになっている時期に告白などして月島の心を更にかき乱すことになるのではないかと考えたから。
 隼人は致命的な失敗をしたと悟り、月島の手を離して視線を外した。視界の外から月島が息を呑み、黙り込む気配が届いて心が痛む。自分から去ってしまいたかったがそういうわけにもいかずに隼人は斜め下を向いたまま動かなくなった。

「……私が、始まり、か」

 数十分の時が流れたように思えたが、腕につけた時計を見るとまあ数分しか経っていない。月島は小さく笑うと立ち上がり、ソファから離れてエレベーターに向かっていく。
 隼人は徐々に視線を上げて、去っていく背中を眺めていた。すると、唐突に月島が振り向いて隼人を真正面に見据えた。

「ありがとう。好きって言われて、嬉しい」
「……そう、なんですか」

 月島からの気持ちを告げられても、自分自身の行動に混乱している隼人には何も言えない。ただ、少し頬を赤らめて口にする月島の表情は、さっきまでよりは硬直が解けている。全部とはいわないまでも、自分の言葉や告白が気分を晴らしたのかもしれないと隼人は思う。

「告白……こんな唐突で疑わないんですか?」
「疑うわけないよ。だって相手を分析して、分析して。試合を冷静に進めようとする高羽君が勢いで言ってくれた。それだけで本気だって思えたもの」

 改めて言われると顔が真っ赤になる。心臓が高鳴る音が体の外まで響いているのではないかと言う錯覚。次々と汗が噴き出して、せっかく風呂に入ったのにまた洗いなおさなければと場違いなことを想像する。

「そうだね。私の弱さは密がカバーしてくれる。シングルスの時も、きっとみんなが助けてくれる」

 月島は隼人の前まで駆け寄ると、手を伸ばす。

「頑張ろう。優勝するまで」

 隼人は何も言えずに差し出された手を握る。小さな手はもう震えてはいない。ソファから隼人を立ち上がらせると、月島は手を離して再びエレベーターに向けて駆け出す。
 今度は顔だけ振り向けて「また明日ね」とだけ言って、一気に加速する。エレベーターのボタンを押し、すぐに開いた扉に乗り込んで扉を閉めるのはとてもスムーズに思えた。

「一応……励ましには、なった、のか?」

 一人になると、とんでもないことをしてしまったという思いが湧き上がる。不意にジャージのポケットに入れてあったスマートフォンが震えて、取り出すとメールが一通。すぐに開くと、月島からのメールだった。

『返事は、全国大会の後でね。お互い頑張ったら、良い返事がいくかも?』

 隼人はメールを閉じると天井を見上げる。
 試合は明日からだが、もうしばらくは寝られそうになかった。

 ◆ ◇ ◆

 ホテルから出ると空は青く、雲がぽつぽつと存在しているだけで晴れている。
 入口から出れば道に積もる雪はある。だが、気温は北海道の三月にしては高めらしく、雪も徐々に溶けだしていた。ほんのわずかでも暖かくなるのは本州生まれからすれば助かる。

「さあ、栄水第一の力を見せに行くわよ」
『おう!』

 男子六人とマネージャーの亜里菜。そして個人戦に出る月島と野島が静香の言葉に反応する。朝食のバイキングも無事に腹の中に収まり、栄養補給は十分。睡眠時間は少し不足していたが、それも試合になれば忘れるだろう。

(さあ、行こう)

 用意したバスへと向かう間に、男子と亜里菜を前に見られる位置へと移動する。最前列の静香の隣には野島と月島の姿。そして、一瞬だけ月島が隼人の方を見た気がして心臓がドクンと跳ねた。

「……全国でどこまでできるか。できるだけやろう」

 自分だけで出来ることは限られる。

 だからこそ、仲間たちと共に困難を乗り切る。

 高校に入学した四月からほぼ一年。

 一年間の集大成がどうなるのかは今、この場にいる誰もが分からない。

 それでも、仲間がいれば迷わず進める。

「栄水第一ぃいいいい!」

 隼人が唐突に叫んだ言葉に、前を歩いていた全員が止まる。数秒後には、静香や月島、野島までもが一斉に叫んだ。

『ファイトォオオオオオオオオ!』

 高らかに。鳥が空を駆けるような爽快な気分で、隼人は笑った。

 彼らの挑戦は、これから始まる。


 SkyDrive! 完
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