王道戦隊キングロード

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  第二話『五人が戦隊になったんだってさ』  


 赤井豪が警察官になったのは、テレビドラマの刑事に影響を受けたからである。
 テレビの中のその刑事は、犯人の行動に怒りを隠さず、甘い同僚に憤り、警察という組織に対して縛りつけられる自分に叫ぶ。その内に上司にも逆らい個人捜査をして見事に犯人を確保。仲間達と共に笑いあって家に帰っていく。
 いつも熱さを振りまいていたその刑事にあこがれ、そんな刑事に憧れて、赤井は警察の試験勉強を猛烈な勢いで行った。大学の卒業研究を適当にこなし、警察試験の過去問を手当たり次第に解く合間に体を鍛え、見事に面接もパス。念願の警官となった。
 しかし警察に入れたはいいが、そこに待っていたのは夢見ていたような激しい捜査などではなく、退屈だった。
 そもそも警察官は、警察学校でしばらく訓練をつんでから交番勤務となる。そして数年実地研修をこなしてから希望の部署に配属されるという仕組みだった。元々鍛え方が尋常ではなかったので警察学校では訓練で彼にかなう者はおらず、卒業した頃にはドラマを見て感じた熱い思いは冷めかけていた。
 そこに入った緊急召集。特殊部隊に選出されたという。
 凶悪犯でも取り押さえる事が出来るのかと、赤井は正直、高鳴る胸を頑張って抑えながら集まる場へと来たのだった。
『えー、みなさんにはこれから戦隊をしていただきます』
 石島という警部補――ここでは司令官らしいが――が言ったのは突拍子もない事だった。流石に熱い事件を追いたいという気持ちはあるが、得体の知れない異星人と戦うなんてという思いのほうが強かった。
 確かに子供の頃から戦隊物の番組を見てきて、今もはまっているのは事実だけれど。
 石島は「しばらく五人で話してみてよ」と言い、この場からは消えている。別に扉に鍵もかかってはいないし、このまま出て行っても何も悪い事はないと思える。
「ぶっちゃけ言うとさ」
 そこで口を開いたのは出っ歯チビ(仮)だった。
「とりあえず自己紹介とかしておかね? 戦隊とやらになるにしろならないにしろさ」
「なんでそんな馬鹿なことしないといけないんだよ。こういうのこそ、自衛隊の仕事じゃないのか……?」
 出っ歯チビの言葉に太め猫(仮)がその大きな身体を緊張させて言う。出っ歯チビは少しため息をついて、自分の倍はある体格の男に何の気負いもなく言った。
「さっきのVTR見ただろ? あいつらは別に自衛隊が出て行くほどの事をしているわけかないんだよ。せいぜい空き巣とか小学生にいかがわしい行為をしようと声をかける大人と同レベルなんだ。だから警察にお鉢が回ってきたんだろう」
「なら、何故わざわざ戦隊になる必要がある? 警察としてあのふざけた星人達を捕まえればいいじゃないか。テレビじゃあるまいし、五人でどうにかなる問題か」
 吐き捨てるように言って出て行こうとするのはニヒル男(仮)だ。しかし出っ歯は悪意の塊みたいな彼に対して平然と答える。
「なんでそうなるのか俺も分からないけど、多分俺達には選択権無いよ。なるにしろならないにしろって言ったけど、俺達が公務員なのは変わらないから、いくら嫌がっても強制的にやらされるだろうさ。今、俺達に渡されてる時間は、戦隊になるのに出来るだけ納得してほしいっていう時間だと思うよ」
 出っ歯チビの分析は的を得ていた。ニヒル男も反論が浮かばないのか、しばらく黙って出っ歯チビを見返していたが、結局は足を室内に戻した。そこからしばらく沈黙が入る。
 十分ほど誰も話さず、重苦しい空気が場を支配し始めたその時、紅一点(仮)が口を開いた。
「そうね。ここで顔を突き合わせてても仕方が無いわ。とりあえず自己紹介くらいしましょうよ。私は桃白伊織(ももしろいおり)よ。大学時代は空手で全国制覇したくらい強いわよ〜」
 伊織はそう言って力こぶを作って見せた。男達から見て、さほど盛り上がっているようには見えながったが、先ほど灰皿をへし折ったところを見ているので何も言えない。
「じゃあ……俺は緑川栄太(みどりかわえいた)。格闘とかは苦手だけど、足は速いかな」
 出っ歯チビから栄太となった男。
 本人は言ってないが、物事を分析して言葉に出来るのは栄太が持つもう一つの力だろう。
 口には出さないが、誰もが納得した。
「俺は黄門大作(おうもんだいさく)です。変わった苗字でしょ〜。一応柔道有段者ですね。あいつらと戦う時はぶん投げてやります!」
 太め猫だった男は乗りやすい性格なのか、自己紹介をすると共に戦隊をやる気になってるらしい。栄太に拒否権は無いだろうと言われたこともあるのだろうが。
「……ふう」
 ニヒル男へと自己紹介が回ってきたところで、彼は息を吐いた。その嘆息には『付き合ってられない』という感情が多く含まれていたが、現状に拒否権がないことも十二分に理解出来ているのだろう。
 そして、自分の名前を言いかけたその時――
『緊急指令! 緊急指令! ドクソー星人が出現しました。出没地点はは○○××ポイントです!』
 機械的な女性の声で繰り返される指令。五人はあっけに取られていたが、突如ドアを開けて出てきた石島によって意識を集中させられる。
「王道戦隊の初陣だ! 出動!!」
 どうやら栄太の指摘は正しかったようで、やるのかやらないのかなどの質問なしでいきなりの出動命令だ。五人はそれぞれ石島に何かを言おうとしたが、諦めの表情を浮かべて次々に石島の横を通り過ぎていく。
 残ったのは赤井だけだった。
「石島さん……」
「今のお前は、もう赤井豪ではない。キングレッドだ」
 赤井はその言葉に驚き、真意を確かめようと石島の瞳を見つめる。その中にあるのはただ一つの意思だった――ように思えた。
 ただ、誰かを守りたいと願う瞳。
 通常の国家機構では守りきれない相手への、唯一の対抗策を持っている者が抱く、苦悩を秘めた瞳。
 何故か赤井は、石島の感情が全て自分に流れ込んでくるように思えた。
「赤井豪。お前の熱い魂が、必ずドクソー星人を倒すと信じている!」
「……はい!」
 赤井は自分の中に生まれる高揚感を感じていた。
 誰かに必要とされ、守る。助ける。
 それこそが自分が目指してきた物ではないのか? 欲しかった物ではないのか?
 急激に広がっていく意識に、赤井は――燃えた。
「うおおお!! やるぞ〜!!」
 先に行った仲間達に遅れまいと走っていく赤井を、石島はしばらく見送っていた。
 完全に姿が消えたことを確認して安堵のため息をつく。
「サブリミナル効果って結構いけるんだな」
 石島は部屋にある巨大なディスプレイを見上げた。先ほどまでドクソー星人のことを映していた物。
 その映像の合間に破壊の限りを尽くす彼らの映像を作って差し込んでおいたのだ。
 また引き受けなかった際に減俸される彼らの映像も。
 出来るだけ酷いことになるという雰囲気を出すために、わざわざ有名な映画監督にお願いして爆薬などを凝って作った映像。
(無駄にならなくてよかった……)
 石島はまた、安堵のため息を吐いた。





「いー! いいー!!」
 奇怪な声をあげて四歳くらいの子供達と共に遊んでいるドクソー星人。それを遠巻きに見ている母親達の姿を確認して、五人は戦闘の緊張に包まれた。
「俺は赤井豪! キングレッドってことで皆のリーダーなんで! よろしく!!」
「……なんで今、自己紹介してるんだ?」
 栄太が突っ込むも赤井は拳を握り、震わせながら答える。
「さっき紹介できなかったから!!」
「下らん……」
 ニヒル男が呟くも赤井は気にしない。
「よし! みんな、変身だ!!」
 五人は支給された服装に着替えている。上は背中に炎のプリントの上に『王道』と書かれたジャケット。下は五色のジャージ。
「変身はいいけど、どうして下がジャージなのよ」
「動きやすいからだろ!」
 伊織の疑問を机のゴミを吹き飛ばすかのごとく突っぱねて、赤井は変身ポーズを取って――
「どうやって変身するんだろ?」

 変身セットの使い方を教えられていなかった。

 支給されたのは変わった形をしたブレスレッド。やけにごつごつしていて、円上の表面にはいくつかの数字が踊っている。
「……これって、『豊作戦隊ベジタブル』の変身ブレスレッドに似てるね」
 大作が呟いた言葉に他の四人が視線を向ける。そしてすぐに互いに視線を交わらせた。
「まさか」
「知ってるの?」
「君も?」
「あたしはDVDを買ってるわ」
 彼らの中だけで伝わる会話なのか、一言二言だけの言葉が生まれる。その後にその場を包んだのはある種の一体感だった。
「なるほどな。それなら話が早い」
 赤井が一歩前に踏み出す。
「覚悟は決まりました」
 大作が腕を胸に打ち付けながら後に続く。
「乗りかかった船というかなんというか」
 言葉は否定的だったが、口調は明るく、乗り気であることを隠し切れずに栄太が進む。
「面白くなってきたじゃない」
 伊織は髪をかきあげて、不適に笑った。と、そこでニヒル男を見る。
「あなたも、その気になってきたんじゃないの?」
「まさか」
 歩いていく他の面々を半ばさげすむように見ているニヒル男に、伊織は問い掛ける。その言葉を鼻であしらって、彼は逆方向へと歩き出した。
「俺は……降りるぜ」
「あっそ。じゃあね」
 伊織は前に行く三人に追いつこうと走っていく。その姿を立ち止まって男は見ていた。
 その顔に浮かぶのは悲しげな感情。
 それはむなしさという物だった。
「……くそ。まだ、俺の名前を言ってないじゃないか!」
 ニヒル男は地面を一度思い切り蹴り、それから歩き出した。駆け出さないことで自分が持っているプライドを傷つけないようにして……。




「おい! そこのお前ら!!」
 赤井が叫んだことで、ドクソー星人の戦闘員らしき者達は振り返った。ちょうど子供に『大人の紙芝居』を読ませようとしているところだ。何故か何人かの母親達もいるが。
「いたいけな子供達にあんなことやこんなことを教えるとは! 俺なんて一度も体験したことないって言うのに!!」
「……童げふんげふん」
 栄太が何かを言うところにすかさず背中を叩く大作。そのために咳き込む栄太に微妙な視線を向けてから、赤井は戦闘員達に意識を戻す。
「これ以上お前達の好きにはさせない! いくぞみんなあ!!」
『おう!!』
 四人はそろってブレスレッドに手を伸ばす。その上面の円形に手をやると、思い切り回転させた。急激に光が発せられて世界を黄金に書き換える。数秒の後に光が消えた頃には、すでに変身が完了していた。
「キングレッド!」
「キンググリーン!」
「キングイエロー!」
「キングピンク!」
「キングブラック!」
 変身を終えて五人の戦士が並び立つ。その光景を見ていた奥様達は、彼らのうち一人が小さく呟いてこそこそと変身していることに気づいていたが、子供に付き添って戦隊物を見ている経験からか、突っ込んではいけないところに来ていると直感して動きを止めている。
「五色の光が、敵を穿つ! 王道戦隊! キングロード!!」
 五人が叫んでポーズを取った。
 レッドは中央に陣取って両手を前に広げて仁王立ち。
 その横に、左右対称になるようにブラックとイエローが腰を落として半身を前に向ける。
 さらに横にはグリーンとピンクが背筋をぴっと伸ばした状態で半身を前に向けていた。
 叫びとともに彼らの背中についていた打ち上げ花火が上がった。
 それに伴う熱さは着ているスーツが解決しているらしく、彼ら自身には何も感じない。
 大音響とともに空に散った花火は『王道戦隊』の文字をかたどった。
「たーまやー」
 奥様方の一人が呟いた。



『続く!!』






 次回予告!
 ついに戦隊としてドクソー星人の前に姿を見せた五人。
 だがそこには最初の強敵、幹部クラスの一人が待ち構えていた!

 次回、『王道戦隊キングロード』第三話。

『初戦闘の匂いはほんのり火薬の香り』

 五色の光が、敵を穿つ!!

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