それはいつからそこにあったのか分からない。

 気付いた時には、それはその場所に浮遊していた。

 大きめな島ほどの大きさがある『大陸』

 それが空中に浮いているのだ。

「なんだ、ありゃ……」

 漁をしていた老人がその大陸を見て腰を抜かした。

 そしてそこからやってくる化け物達を見ても、何が起きているのかは理解できなかった。

 化け物に体を貫かれても、理解できなかった。





「あれが……『魔大陸』」

 アインは窓から遠くに見える浮遊大陸を見て呟いた。

 直径約10キロになろうかという巨大な島。

 それが空中にいつのまにか浮いている。

 周りには黒い雲のようなものが纏わりついていた。

 しかしそれは雲ではなく、数千、数万に達する魔物達であった。

「『最終章』、か」

 隣にいたライはそう呟き、鎧を着始める。顔には何の表情も浮かんではいない。これか

ら起こる事態に対する希望も、絶望も浮かんではいない。

「シール、お前……『最終章』を止めたいんだろ?」

 ライの言葉にシールは無言で頷いた。ライは満足したように笑みを浮かべて声を張り上げた。

 彼は今までの経験で分かっていた。感情のままに行動する事こそ、正しい人間の生き方だと。

 今やるべき事は考える事ではなく、行動するという事だと。

「なら! そんな落ち込んでないで、さっさと阻止しに行くぞ!」

「え……」

 シールはその言葉が最初、信じられなかった。『最終章』を阻止するという事ではなく、

自分と共に戦うという事に驚きを感じていた。仲間を欺きつづけた自分にそう言ってくる

この男達は一体何なのか?

「真実がなんだとか、そういうのは関係ない。今は、この世界を守りたいのか? そうで

ないのかのどちらかだ」

 アインはライの言わんとした事を先んじて言った。ライの性格上、絶対に憎まれ口を叩

くと思ったからだ。

「シール。君はどちらだ?」

「わたしは……この世界を守りたい」

 アインの問いかけにシールは、今度は迷わなかった。立場は違えど、自分は世界を救う

ために闘っていた。

 そう。

 目指していた場所への道が今、一つになっただけなのだ。

 シールはアインの言葉を信じてみようと心から思った。

「なら、行くぞ。今後《リヴォルケイン》の指揮は俺が取る。城の皆を起こして各地の団

員に連絡! 行動開始だ!」

「おう!」

「……了解」

 シールは気付かれないように涙を拭った。何故か、心が熱くなり、安心感が持てた。

(きっと『最終章』は防げる)

 何の根拠もなかったがそう思えた。





 ソトガサワガシイ

『それ』は自分の意識の外側からくる不快な音に気付いた。

 マタ、ワタシノネムリヲサマタゲルノカ

『それ』は自分の意識がやけに混濁している事には気付いてはいない。

 人間にたとえるなら体がだるいといった程度にしか認識できていない。

 そしてそれは些細な事だった。

 セカイ、コノ、デキソコナイノセカイ

 深い眠りの中で浮かび上がってきていた映像。

 小さき生き物達の争いの歴史。

 殺戮と破壊の歴史。

 次々と流れていく映像のバックに音楽が流れる。

 ウウウ、ウルサ、ウルサイ

 その曲はあわただしく切り替わる映像に全くミスマッチな、静かに流れていく曲だった。

 ヤメロ……!

 思考が逆に落ち着いてくる。眠気が、『それ』を包んでいった。

 ヤ……

 そして『それ』は再び眠りについた。

 だが、『それ』は既に気付いている。

 覚醒がもうすぐ傍まで来ていることを。

 ――『最終章』の、始まりを――



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