「ぎゃあ!」

「がっ!!」

 月の光が差す中で鋼の鎧に身を包んだ兵士がまた一人地面へと崩れ落ちる。

 ここはどこかの屋敷の前だろうか? 周りは森に囲まれていて、ちゃんとした通路は

屋敷の玄関の真正面にしか存在していない。

 だがそのたった一つの入り口のところには既に数十体もの死体が落ちており、血の海

が広がっている。

 全て一撃で致命傷になるような傷がつけられていた。

 そんな累々たる死体の中で佇む男が一人。光が当たっていないために顔ははっきりと

は見えてはいない。

 分かる事は闇夜に溶け込む漆黒の黒い髪、同じく強固な意志の光が宿っている瞳。

 その瞳は暗がりの中だというのにぎらぎらと光っているように錯覚してしまう。

 鎧などはつけてはいなく、軽装のためその下にある鍛えられた肉体が際立って見える。

 かなりの戦士のようだ。

 その男に相対するようにして立っているのは女だった。肩まで流れる美しい黒髪に妖

艶なマスク、だがその眼はまるで獲物を狙う蛇のように鋭く細められている。

 体にフィットした黒い戦闘服に身を包み、手には剣の柄のようなものを握っていた。

「ここまでやるとは流石ね。アイズ」

 女は口の端をにいっ、と吊り上げて笑った。その顔さえ美しく女癖の悪いような男な

らすぐに落とされているだろう。

 だが前の男――アイズと呼ばれた男はなんの反応も見せずに剣を下段に構えたままだ。

「一個大隊100人を息も切らせず皆殺しとは恐れ入ったわ。やはり私がじきじきに相

手をしなければいけないようね……」

 女は手にしていた剣の柄のような物を一振りする。するとそれの先から光が伸び、ま

るで剣のようになってしまった。

「『古代幻獣の遺産』《クルノクロス》をこんなところで使う事になるとはね」

 女はゆっくりとアイズに近づいていった。近づくに連れてアイズを包む闘気は強くなっていく。

 そんなアイズをあざ笑うかのように女はふざけた口調で言ってくる。

「時間稼ぎのつもりでしょうが、貴方の生き残った仲間にも追っ手を差し向けたわ。そ

して貴方も死ぬ……。無駄死にするのよ」

「黙れ……」

 アイズは初めて口を開いた。怒りを十二分に含んだ口調で女へと言う。

「妹達には手を出させたりはしない。貴様もここで殺す」

「やってみなさい!!」

 アイズの言葉に女がふざけた笑みを浮かべたまま答えた瞬間、アイズは女へと突進し

ていた。

「楽しませて見なさい! この私を!!!」

 甲高い鍔迫り合いの音が辺りに響いた。



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