星降る夜のガチンコ★バトル!

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 宇宙(そら)から隕石(ほし)が降る夜に、私達は向かい合っていた。
 近くに落ちた衝撃でお互いの体が爆風にさらされても、私達は一歩も引きません。
 目の前の相手に勝つ。
 ただそれだけのためにここにいるのです。
 そう思っているのでしょう? あなたも。私と同じように力ある瞳の炎がそれを告げてくる。
「私達にふさわしい決戦の場だよね、美咲ちゃん!」
「あなたのその腸をぶちまけるにはちょうどいい隕石(ほし)がどんどん降りそそいでいるわね、夜空ぷらむ!」
 私達の間にほとばしる熱気が、大気を歪ませて風を発生させます。それぞれ赤と青の色をしたオーラを発動させていたことで、ちょうど境界線が橙色へと変わっていました。
 夜空ぷらむと呼ばれた私。もちろん本名は違います。ぷらむなんて恥ずかしい名前は魔法少女となった私のコードネームです。
 赤いオーラをほとばしらせている私は真っ赤なオーバーオールに中は真っ赤な半袖シャツを着て、髪の毛は腰まで届くロングヘア。色は赤。これで肌まで赤ければ立派な赤人間だったと思いますが、普通に肌色です。
 夜空という苗字には相応しくない赤色の魔法少女。それが私。
 私の前に立ち塞がって、これから腸をぶちまける予定の少女――青色に彩られている女の子は梨本美咲。
 こちらは真っ青なオーバーオールに真っ青な半袖シャツを着て、髪の毛は男と見間違うほどのショートヘア。色は青。これで肌まで青ならば立派な青人間だったと思うんですが普通に肌色です。
 あからさまに『ぷらむ』を意識した服装。まるで自分こそがアンチぷらむだとでも言うように、全てにおいて逆を目指したのでしょう。その瞳から燃え盛る炎まで青色です。
「さあ、決着をつけようじゃないか。我々の戦いの歴史に」
「そだね」
 まだ一回しか戦ってないのに歴史も何もないんだけれど。初めて会った時も「ここで会ったが百年目」とか言ってたし。突っ込んだらチョベリバだよね。
 美咲ちゃんは自分の身長の三倍はある長さの槍を構えます。槍の先は五つに分かれていて、じゃんけんの『パー』みたいな形になってる。槍先の間に光が集まって四つの光の球を形作ると、美咲ちゃんが吼えて槍を振り下ろした。
「ボルカニックブレイザー!」
 よく分からない横文字と一緒にやってくる光の玉。空気を読まずに私達の間を通り過ぎようとした雀さんが玉の一つに触れて一瞬で消滅したのを見ると威力は凄いみたい。だから、私も二つの拳を打ち合わせて防御魔法を発動させた。
「筋肉爆発!」
 文字通り、私の体を支えている筋肉が外側に向かって爆発したかのような衝撃波が放たれて、光の球を一瞬で消滅させた。雀さんを消滅させた光の玉が消え去る。影も形もない。
「ちょっと! それ魔法じゃなくてただの気合いじゃないの!」
「え? 魔法だよ〜」
 気合だけで弾き飛ばすとか格闘漫画じゃないんだから。単純に名前や見た目が私の好みに合っているだけで、れっきとした魔法なのです。
 えへんと胸を張っているところに美咲ちゃんが第二撃を打ちこんでくる。五つ又の槍先それぞれから今度は五色の閃光が放たれた。光は途中で混ざり合い、灰色に近くなる。
「レインボーリバイザー!」
 美咲ちゃんは横文字が好きらしいけど七色でもないし、混ざると黒に近くなっちゃったのを見ても気にしてないらしい。私達の魔法は言葉に関係ないからいいんだけど。
 だから私も思うままに叫べる。
「拳ナックル!」
 一条の灰色の光を右拳一つで受け止めて、地面に叩きつけた。爆風が髪の毛を舞いあがらせて、砂が顔に付く。周りの隕石の嵐の間には一つ爆発が増えた程度だけれど私と美咲ちゃんの間には大きな意味がある。
「どこなの! ぷらむ! 逃げたの!?」
 私の姿が見えなくなって美咲ちゃんはテンパリ始めた。一番初めに私に倒された時の恐怖が浮かんでいるのかもしれない。私は光を叩き落とした右拳に軽く息を吹きかけて、足に魔力を集中させると突進した。粉塵をかき分けて進んだ先には美咲ちゃんの顔。私の姿を認識した美咲ちゃんは目を見開いて口を大きく開けていた。多分「やめて!」と叫んでいたのかもしれないけれど、私は止めない。
 すぐ傍まで近づいて右拳を顔面の直前で止める。そこからが私の魔法。
「筋肉バスター!」
 右拳の前に出現した赤い色の光の玉は一気に美咲ちゃんの姿を包み込む。悲鳴が上がる前に飲み込まれたから、外側に漏れることはなくて、美咲ちゃんの体から血しぶきが上がっていくのを私は外側からずっと見ていた。
「はぁ……気持ちいいなぁ……」
 可愛い女の子が血を噴き出して苦しむ様って気持ちいい。
 赤い球の中で外側に出ようと腕を動かしつつ、血を失っていく美咲ちゃん。顔色の変化は分からなかったけど、やがて崩れ落ちたのを見て私はバスターの呪縛を解いた。
 仰向けで倒れている美咲ちゃんは全身を血に染めているけれど死んでいない。魔法少女の治癒力が発動して血が傷口から体内へと戻っていく。でも、この間は全く動けないから私の手から生まれる赤い刃を見て顔をこわばらせることしかできない。
「あの……や、やめてくれませんか? ぷらむさん?」
「じゃあ、私の本名答えられたら見逃してあげるよ?」
 美咲ちゃんとは戦いの場でしか語り合ったこともないし、本名なんて知るはずもない。見逃す意思が全く見えない問題に美咲ちゃんは目を泳がせたけれど、意を決して小さく呟いた。
 降り注ぐ隕石から吹き荒れる爆風の音にかき消されたその言葉は、しっかりと耳に届いていた。
「見逃して、あげない」
 右腕が振り切られ、腸が――

 * * *

「全く困ったチャンよね」
 良い子に見せられないところは見せないまま、私は変身を解いた。十歳くらいの容姿が、体が光った後で三十三歳の女性に変わる。正体もバレにくいし、別の自分への変身願望は少女だった子の誰もが持ってるものだ。いつの間にか降りそそいでいた隕石が消えている。それだけじゃなくて隕石が着弾して空いた穴も消えている。魔法少女のバトルフィールドは私達の世界とは別の位相にあるらしい。全く世界を傷つけずにガチンコバトルが出来るシステム。今、私がいるのは大きい通りから外れた細い道の真ん中だ。自転車も車も入ってくる心配がない分、変質者が出そうな場所。
「今日もお疲れさん」
「あ、マスター」
 振り向くと、変質者に近い恰好をした男の人が立っている。筋肉質で白いタンクトップは汗で濡れて肌にはりついていた。ショートパンツからむき出しの太ももの肉はほれぼれする。
「今日の相手。以前倒したことがある相手でしょ? 楽勝だったようだね」
「あれだけやって死なないんだから凄いですよねー。ストレス発散しやすいです」
「こっちとしては使い魔みたいに扱ってる分、悪いとは思ってるからさあ。無茶しないでくれよ」
「分かってますって」
 マスターの趣味全開の魔法効果で戦う私達魔法少女。
 美咲ちゃんのマスターもまた、横文字が好きな人に違いない。ただ、気になる点が一つだけ。
「美咲ちゃんは……誰だったんだろう」
 私の名前を知っているなんて、容姿や口調まで変えても正体を知ることが出来たのか。それとも私の近くにいる人なんだろうか。会社の誰かの可能性もある。
 いろいろ考えたけれど答えは出なかった。
「油断大敵ね」
 言葉だけで思考はリセットされて、私は前を向く。
 胸の中に宿る炎は誰にも消せない。もしも私のことを知っている人がこれからも来るのなら、全て倒すだけだ。
 星降る夜のガチンコバトルで。


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