羆戦隊ドサンコジャー

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(画面の前の良い子のみんな! ドサンコジャーからのお願いだ! 画面を見る時は部屋を明るくして、画面に近づき過ぎないように見てくれ!)


『羆の頭上に太陽を!』
 作詞・月代奏 作曲BURN 
 編曲RinRin
(ボーカル音桐奏
 1st・鏡柘榴
 2nd・作楽遊希
 3rd・黒島宮城
 ベース夏目陽
 ボーカルパーカッション・祭樹神輿)
 ギター・薔薇百合菊梅 デジタルマスタリング・朝霧夏樹


 じゃんじゃーん……じゃじゃじゃじゃじゃーじゃーじゃー!
 じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!

(ギター間奏30秒)

 溢れ出ーすー汗にー。燦然と輝く太陽光。
(TURARATURATURATURARATURA〜♪)
 今日も雪原駆け抜けるー。五つの足跡靴脱げる。
(TUTUTUTURATURATUTUTURARA〜♪)
 五人の想いが一つになればー。悪を滅ぼす鉄鎚へ。
(でも疲れるからコタツで寝てたいのー♪)
 変身変心変体編隊。邪悪な『M・O・H・U・N』を倒すんだー。
(だからマイナス五十度って何よ寒いよー♪)
 光の剣を抜き放ち、希望の架け橋作り出す。
 聞けよ! 我等を! 称える声をー♪

(視聴者の声)
「あ? 誰? タレントですか?」
「ていうか、ドサンコジャーなのに道民一人だけじゃないか」
「道の税金なんでしょ? 役に立ってるの?」
「羆関係ないだろう。胸のマークは猫だし」


 ……闘えー!(ひゅっるっるー)
 戦えー!(ふっふっふー)
 闘え! 戦え! ひ・ぐ・ま戦隊ー!
 闘え戦え闘え戦え闘え戦え闘え戦え! ひ・ぐ・ま戦隊ー!

 ドサンコジャー!

 じゃんじゃーん……じゃじゃじゃじゃじゃーじゃーじゃー!
 じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!

(ギター間奏30秒)

 


「おーっほっほっほ! 皆のもの、ひれ伏しなさい!」
 縦横に長大な駅の頂点に位置するタワー。某土地の首都を象徴するタワーの先に、両足をしっかりとすえて立つ女性がいた。髪の毛は真紅。腰まであるそれは先まで瑞々しい感触を保っていた。そこに触れて得られる女性の柔肌のような感触を味わって篭絡されない者などいない。切れ長の少し危険な香りをほのかに漂わせる瞳と細い鼻。言葉を紡ぎ終えた小さい口元から覗く笑みは心を溶かされる。
 ただ、その威力を発揮する機会が二度しかない。
「って、聞きなさい! 愚民ども!」
「聞こえないさ!」
 道行く人々に届かない声に答えたのは、一人の男ボイスだった。全身を赤いスーツ――礼服で包みこみ、一対の瞳を覆うのはサンバイザー。胸には金色に輝く猫のマーク。いる場所が場所だけに髪を風が振り回す。スポーツ刈りのため、ステップ草原だが。
「お前、いつも高すぎるんだよいる場所が! この前は大雪山だったろうが! 人に聞こえる前に風で流されるわ!」
「何を言う! 天に最も近いこの鏡柘榴の言葉を聞かぬとは……支配するに値しない家畜以下よ!」
 そう言って鏡柘榴――悪の秘密組織『M・O・H・U・N』のリーダーはわざわざ前方に飛び、足をしっかりと伸ばしてつけながら三回転。慣性を無視して静かに着地する。
「決まったわ。審査員の方々が十点をくれているし」
「ていうか、いつもの部下二人じゃないか」
 赤いスーツの男は額をぱちぱちと打ちながら気配を感じさせずに審査員席を用意し、十点の札を十人分掲げた二人を見た。怒髪天を突くというのを表現している青と緑の髪の毛。しかし服は互いに紺色の礼服。特に髪の毛の固さは凄まじく、吹きすさぶ強風の中でも動く事はない。鏡が魅力の威力を発揮する二度の機会。二人の男だった。
「天に輝く一番星! 『M・O・H・U・N』一の美青年! 朝霧夏樹たぁ、おいどんのことだ!」
 両手を突き出して十本の指を立てる。その先に灯るのはオレンジ色の炎。そのまま思い切り横に広げ、男は勢いをつけて飛ばした。
「うお!」
 赤いスーツの男は両手で円軌道を身体の前で描く。うっすらと光り輝く防壁がそこに生まれ、迫り来る炎の球を次々と叩き落していく。赤い男は「ほあぁああああ!」と無意味に咆哮し、十個の火の玉を落とした時点で腕の動きを止め、額の汗をぬぐった。
「またつまらぬ火の球を落としてしまった」
「音桐さんだけ目立ちすぎです」
 誰もいない空間に響く第三……第四の声。鏡と朝霧、そして緑の男が辺りを見回すと赤い男――ドサンコジャーリーダー音桐奏の後ろに延びる影から出てきたのは背丈が音桐の肩くらいまでの女の子だった。ショートカットの下にはつぶらな瞳。サンバイザーで隠れているが音桐はその細胞の一つ一つまで想像できた。もちろん服は礼服。しかし、色は黒。
 少しふっくらしたほっぺたをぷにぷにと指で突付きながら、女の子は叫ぶ。
「私達は五人で羆戦隊ですよ! シンボルが太った猫だからって一人で突っ走らないでくださいまし!」
「どういう突っ込みなのかいまいちなんだけれど、作楽」
 作楽遊希は頬をぷくっと膨らませて怒りを露にした。その様子がやけに可愛く、音桐は思わず頬を赤らめる。
(ほっぺた、突付きたい)
 その衝動を抑えるのは大変だった。しかし、最中に作楽の後ろから延びた手――正確にはそこから繰り出された指が作楽のもちほっぺたを突付く。深く沈みこんだことにたいして作楽が「きゃぁ」と叫び、裏拳を繰り出した。

 ぼぐし!

 風を吹き飛ばし、鏡まで届く音。顔面を思い切り叩き倒されて、作楽の後ろにポジショニングした男――『M・O・H・U・N』二大幹部の黒島宮城が回転しながら宙を舞う。しかし回転したまま黒島は姿を消し、次の瞬間には朝霧の傍へと着地していた。
「ふむ。いつもながら見事なほっぺただな。だが、あと三パーセント弾力性を増せ」
 自らの頬は裏拳によって腫れさせつつ、黒島は語る。黒という色が入っているにも関わらず、髪の色は山吹色。細面は毎回作楽にちょっかいを出しているためか、膨らんだままだった。
「これ以上柔らかくなったら、お嫁にいけません!」
 作楽は両手を前でぱんっ! と合わせると自らの足元にたたきつけた。そして息を思い切り吸い込み、同じ速度で吐き出しつつ決められし言葉を紡ぐ。
「秘奥義! 影召喚!」
 音桐と作楽の影から火花が散ると、爆音と共に火柱と三人の人影が飛び出した。服に燃え移った火を熱い熱いと消しながら、三人は辺りを駆け回る。
「猫はコタツで丸くなるんですね」
 つまり、三人は犬らしい。作楽はうっとりして三人の乱走を見ていた。
「いや、相変わらず火柱はいらないと思うんだけれど」
「登場に火柱は正統派です」
 音桐のツッコミも意に介さない。だが、更なるツッコミの魔の手が作楽を襲う。
「火柱熱いからさ! 正統派だけどさ!」
 名(木)刀・三日月丸にオプションでついている血を舐めながら、祭樹神輿は三日月丸を持たない左手で作楽へと突っ込みを入れる。さすがにボディブローは意に介さないわけには行かなかったのか、作楽はぷんすかぷんと顔から湯気を出した。
「何するんですか! 女の子のおなかを殴るなんて! 子供生めなくなったら祭さん困るでしょう!?」
「いや、困らないし! それ以前に殴ってないし!」
 黄金のスーツの袖口を直しつつ祭樹は弁解する。確かに彼は左手で突っ込みをしたが、その手は作楽からは一メートルほど離れていた。ボディブローは単に彼女が自分で喰らった振りをしただけだった。
『まあ、いつものことで』
 そう書かれた看板を掲げているのは紫色の礼服を着た薔薇百合菊梅。ロングヘヤーでイケメンフェイス。その字は微笑みの貴公子と呼ばれている。肩口からベルトで下げたギターをかき鳴らすと、そこから音符が飛び出して鏡達のほうへと向かう。
 触れた瞬間、爆発していく。
「きゃー!」
「ごぶへぇ!」
「あふあふん!」
 次々と爆発していく音符に追いかけられて離れる鏡達を見ながら、菊梅の後ろから出てきたのはお茶を啜っている男。髪の毛は焦げてアフロとなり、その下にある女性に見間違えるほどの顔とのアンバランスさがまた良質である。
 彼の名は夏目陽。口数は少なくサポートに回ることが多いが、手に持つお茶が変形するビームバズーカは強力である。
「とりあえずさっさとすませて執筆したい」
 表の顔は女流作家と偽っている夏目は、締め切り一日前なのだった。
「よし! みんな、変身だ!」
「もうしてるからいいのでは?」
 夏目の冷静な言葉に音桐は止まり、返答を省略して決め台詞を放つ。
「光の剣を抜き放ち、希望の架け橋作り出す。羆戦隊、ドサンコジャー!」
 ジャー!
  ジャー!

ジャャー!
    ジャ!
「ってみんな合わせろ!」
 音桐が振り返り叱責していると、再び甲高い笑い声が響く。鏡が今度は胸をそらして左右に朝霧と黒島を従えている。
「こちらのコンビネーションは最高よ! 二人! 融合!!」
『心得た!』
 朝霧と黒島は同時に上着を脱ぐ。何故かワイシャツを引きちぎってその裸体を晒す。無論上半身だけ。しかし引きちぎるだけあって、鍛え上げられ方は半端ではない。スーツに隠された鋼の筋肉は、血管がまるで葉脈のように広がっていた。
「気持ち悪い!」
 祭樹が突っ込みと同時に斬撃を放つ。木刀からほとばしる雷撃はあの北欧神話の神・トールが使ったと言われる雷撃と同レベル、と当人が言っている。実際にはスタンガンの電流レベル。
「融融合合、完完了了! 朝朝霧霧宮宮城城!」
「聞こえずらい!」
 祭樹は律儀に突っ込むが後ろに下がった。すでに彼以外のメンバーは後ろに下がっている。夏目にいたっては更に数歩ほど後ろに下がって原稿用紙に書き込んでいる。
「これは魔法のペンこれは魔法のペンこれは魔法のペンあははははははははは」
「正気に戻ってください!」
『早く明日天気にならないかなー』
 締め切りに脳をやられている夏目の肩を掴み、ゆらゆらと揺らしている作楽と隣で靴を飛ばして明日の天気占いをしている菊梅。音桐は唯一、顎を伝う汗をぬぐい緊張感を表していた。
「いきなり合体か!」
「そして! 私がここにいる!」
 雷撃を跳ね返したにび色の肉体を持つ巨体――それまでの三倍はあるであろう体長を持った朝霧宮城の肩に飛び乗る鏡。そして、その身体が埋まっていく。
 光が満ち、天空から現れる龍。赤い巨体に六枚の翼。四つある頭部には大きな一つ目。四つの瞳が、朝霧宮城を見つける。
「糖・狂・事・変!」
 飛び上がり、龍の背中に飛び乗るとぼこぼこと現れるウェディングケーキ。朝霧宮城の頭部が鏡へと変わり、三つ一遍に飲み込んだ。
「カロリー摂取完了!」
 言葉と共に巨体が龍へと吸い込まれ、ついに戦闘準備が整った。
「よし! 俺達もロボを呼ぶぞ!」
「はい! 夢・幻・言・霊!」
「いや、なんで今まで黙って見てたんですか!?」
『なかなかこのコード抑えられないー』
「いい場面書けたー。書けるぞ書けるぞー」
 五人の心が一つになり、悪の龍が支配する空間へと落ちる光の柱。舞い降りる、剣。
「超人! 言霊ロボ!」
 顕現する正義の力。悪の根元を断つ、剣。全身を闇色のスーツに包み、ネクタイは紫。髪の毛は金色で天を突いていた。
「とう!」
 音桐が気合を入れて飛ぶ。跳躍が頂点に達したところで言霊ロボの口から光が伸び、吸引される。他の面子もいやいやながら吸い込まれてコックピットに入った。何故か全員イタリアンシェフが着るような白い縦長の帽子と調理服に代わっている。
「なんで料理人!?」
「『コック』ピットだからだ!」
 祭樹の突っ込みに答える音桐。その間もロボを起動するためのスイッチを秒単位で押していく。わさわさと並ぶボタンはAからZ。順番にしかも一秒ずつ押さなければロボが起動しないという代物だ。今回は無事に一度で起動する。
「よし! 言霊ロボいけ!」
『ファントム・ゲイザー!』
 音声反応システムである言霊ロボは音桐の声に反応して、右手からお玉を取り出した。音桐も手に不可視の重みが加わる。後ろでは四人が自転車のサドルらしきものにまたがってえっほえっほとペダルをこいでいる。
『ぼらぼらぼらー!』
 お玉を振り回しながら鏡朝霧宮城へと立ち向かうロボ。だが、敵の龍はその四つの口から光線を吐き出した。
「フォーシーズンス・バースト・フレア!」
 的確に四肢を貫き、爆散するロボの手足。揺れるコックピットで音桐はしゃがみこんで倒れないように手足をふんばる。
『音桐さん。ピンチですよ!』
「菊梅さん、見えてませんよ!」
 菊梅の悲鳴を作楽が遮る。自転車をこぎながら看板を掲げているために背を向けている音桐には見えない。だが、音桐は反応した。
「よし、最終兵器時雨を呼ぶ!」
「どうして薔薇百合さんの分かるんですか!」
 祭樹のツッコミを無視して口の中に親指を入れる。歯で軽く噛んで血を流すと、それを舐める。一度、小さく膨れる赤い珠を見てから音桐は叫んだ。
「しぐれーん!」
「いや、なんだったんですか親指噛んだの!?」
 さらに突っ込みを無視してふるえる右拳を掲げる音桐。その時、言霊ロボを炎が取り囲み、四肢を復活させた。そのまま鏡朝霧宮城から距離を取る。
「なんですの!?」
 頭部にさりげなく残る鏡が辺りをキョロキョロと見ると、空から雨が降ってくる。雨は邪竜の身体を濡らし、次々と炎の花を生んだ。
『ああううううがっ!?』
 三者の声が混ざり合い、空を貫く。降り注いだ雨はやがて言霊ロボの周囲へと集まり、一つの形を表した。
「時と雨を司る男、時雨司参上!」
 翼を広げた黄金の背広に身を包んだ男。それがそのままロボになったような機体。言霊ロボを背中から抱きしめ、強く掴むその腕はしかし女性の柔肌を包み込むように自愛に満ちている。
「うほ!?」
 祭樹のその悲鳴が何から来るのかは音桐は分かっていた。こうして合体する光景は内部からはもろに分かる。音桐も額から汗を流しながら事態を見守る。しかし、これは必要な儀式なのだ。これにて、まるっと事態は解決する。
「装着完了! 究極必殺技!」
『おう! 光速・意志狩ライナー!』
 黄金の輝きからこぼれる粒子を発散しつつ、言霊ロボは突き進む。最狂の敵を倒すために。最強の敵を、滅ぼすために。
「どさんこじゃぁああああああああああああああああああああ!」
「もふーん!!!!!」
 鏡と音桐の叫びがシンクロする。言葉も、音域も違う二人の声が、今この時に一つとなる。
 交差する、殺意。


 爆発が空を覆った。






「あれ? 雪だ」
 道ゆく人々は足を止めて、季節終わりの雪を眺める。掌に載せてみるとすぐに溶けて、その形跡は残らない。そして空を見上げた人々の耳に聞こえてくる音楽があった。
「何が、鳴ってるの?」
 誰もが見上げるも空は雲が点在していて良く見えない。その向こうで、二つの巨大な力がぶつかり合い、消滅したことを、誰も知らないのだった。


* * * * *



『羆の頭上に太陽を! アコースティック鼻歌バージョン』
 作詞・月代奏 作曲BURN 
 編曲RinRin
(鼻歌・音桐奏
 アコースティックギター・鏡柘榴・作楽遊希・黒島宮城・夏目陽・祭樹神輿・薔薇百合菊梅・朝霧夏樹


 ふふーんふふふーんふふんふふふんふんふん♪
 ふふーんふふふーんあふんふふふんふんふん♪
 ふふーんあふふーあふあんふふあんふんふん♪
 ふふーんふあふあんふふあふあふんふんふん♪
 ふふーんふふあーんふふんあふふんふんふん♪
 ふふーんふあふーんふふんふあふんふんふん♪
 ふふーんあふふーんふふんふふあんふんふん♪
 ふふーあふふふーんふふんふふふあふんふん♪
 ふふーんあふふーんふふんふふあへふんふん♪
 ふふーんふあふーんふふんふあふんふんふん♪
 ふふーんふふあーんふふんあふふんふんふん♪
 ふふーんふあふあんふふあふあふんふんふん♪



* * * * *




『つまり、みんな生きてるって事なんだけどね』
 こんな文字が書かれた看板を口にくわえ、パラシュートに吊るされながら菊梅はギターを鳴らしていた。周囲にある十個のパラシュート。ロボで闘うたびに繰り広げられる光景だったが、菊梅は敵味方混じって降下していくこの光景が好きだった。
 世界は争いがあるけれど、こうして同じように過ごすことも出来るんだからと。
「よし、書けた!」
 少し離れたところに降下している夏目陽が原稿用紙を片手に踊っていた。バランスを崩せばまっさかさまだけに気を使ってはしゃいでいるが。
「やっぱり締め切りが近い時はバトルに限るな。うむ」
 とりあえず、菊梅はギターを鳴らし、音桐の鼻歌をサポートし続けた。

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『このあとは! 仮面ライダー・フライトアテンダント!!』



『羆戦隊ドサンコジャー・おわりんりん♪』

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