アライブ・ライブ序章

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 どんな名前が良い? と彼は言う。
 優しく強い。そんな名前が良い、と彼女は言う。
 大きく膨れたお腹の内側から、同意するかのように衝撃が二つ。両の足で蹴られたのだろうと彼女は思い、頬を緩ませた。
 病院のベッドにゆったりと身体を預け、静かな音楽を聴きながらその時を待つ。傍らには連れ添う夫。大学時代から付き合い、三年だけ社会人として離れて過ごした末のゴールイン。
 そして、愛の結晶。何も恐れることも、不安なこともない。今この時、二人を邪魔するものなど何もない。
「とても嬉しそうだね」
 夫の言葉に微笑みだけで返す。
 まだ彼氏と呼んでいた人。それがまだ一年前でしかないことに彼女は内心驚く。それでも一年の間に彼は成長し、一家の主となり、今、息子の追う背中を持ったのだ。
 そう、息子だ。
 すでに臨月を向かえる前から性別は分かった。便利な時代だと思う反面、推理小説の犯人が途中で分かってしまう様な物悲しさを彼女は感じる。それでもこれからの未来への光が悲しさを消し去った。
「きっと俺に似てかっこいいぞ」
「あら、私に似て綺麗よ」
「じゃあ中間を取るか。こりゃモテモテだな」
「お互い学生時代はモテたものね」
 互いに高校時代は有名人だった。いわゆる「ミスコン」のようなもので二人とも一位になるほどの容姿。言い寄る異性の数は二桁は行ったが、結局は高校時代に誰とも付き合わず、大学時代にその二人が結ばれた。
 容姿も、性格も。同じレベルを求めれば必然だったのか。
「で、結局どんな名前が、っ……!?」
「洋子!」
 何かを求めて必死で伸ばされる手を、彼の手が掴む。それだけで彼女は大きな力を得たように、苦しげに歪んだ顔を少しだけ緩ませた。
 急に苦しみだした彼女に、彼は語りかける。
 大丈夫だ。必ず元気な子供が生まれる。医者達がちゃんと生ませてくれる。
 痛みに耐えながらも笑顔を絶やさないのは自らの内にはぐくまれてきた彼との愛と、今なお自分に注いでくれる愛の二つがあったからだ。
 急いで駆けつけてくる看護師達に運び出されながらも、彼女の瞳を見ていた。
(行って来るわね)
(ああ、行ってらっしゃい)
 アイコンタクトで交わされる言葉。それが正しいかどうかはお互いに知ることはない。それでも信じていられる。自分が思い浮かんだことを相手が語ってくれるということを。
 深い繋がり。長くを共に歩んできた自分の両親よりも、身近に感じている。
「旦那さんも来てください」
「はい」
 看護師の一人に促されて病室を後にする。検査入院の間に通い慣れてしまった場所。おそらくあと数日すれば入ることはなくなるだろう部屋。
 少しだけ名残を惜しむように眺めた後で、扉を閉めた。

 それは絆の話。
 何年も、おそらく何百年も続いていくだろう繋がりの話。
 人から人へ。物から物へ。
 たとえ記憶から消え去っても、身体の中に確かにある何かを伝えていく。
 いつか世界が終わる時が来るとしても、無限とも呼べる遠き未来に続く道を、歩いていく。

 大きな惑星の小さな国の、小さな男の話。




 四月十二日。

 その日、生を受けた男の子を見ながら雨宮誠一(あまみやせいいち)は微笑んでいた。ベッドと、乳幼児用のベッドに横たわる母子はどちらも同じ顔をして眠っている。命を生み出すために必死になっていた自分の妻を思い起こし、首を振る。分娩室に入るのは覚悟がいると聞かされて、相応のものは身に着けていたと思っていたが、そんなものは紙くずのように妻の絶叫にかき消された。それでも共に生きていく男として。夫として踏みとどまり、出生の瞬間を共に見た。その安堵で妻は眠りに着き、誠一は精神的に疲れながらも立っている。
(あれを見たら、二人は欲しいと言えないよな)
 結婚した当初は子供は二人がいいとお互いに言っていた。男と女ならば大満足。どちらかに偏っても十分だと。
「ああでも、可愛いな……」
 自分の手から肘くらいまでしかないのではと思える身長。体重は乳幼児用ベッドに貼られたシールによれば3080グラムらしい。三キロしかない子供がいずれ五十にも六十にもなる。二人の体型から遺伝すると考えれば太ることはないだろうが。
「ん……」
「起きたか、聖子」
 一瞬だけ瞼を強く閉じ、ゆっくりと開いた雨宮聖子は周りを見回して自分の夫の姿を見つけた。そしてすぐ傍に寝ている自分の息子も。
 顔に広がるのは安心感。特に何事もなく生まれたのだという。看護師も「ほれぼれするくらい順調だった」というほどに。
「よかった。目が覚めたら『お子さんは既に……』とか言われるかと思っちゃった」
「馬鹿。ドラマの見すぎ」
 穏やかに笑いあう二人には、怖いものなどなかった。新しい命。これから護っていく命が誕生したという喜びは何もかもを覆い尽くす。この病院でも今日、亡くなる人がいるかもしれない。それでも、新たな命は生まれ続けるのだから。
「ねえ、この子の名前、何にする?」
「決めてた名前があるんだ」
「何? まさか、やっぱり『彼方(かなた)』にする気じゃないでしょうね。ちょっと嫌よ」
 頬を膨らませて否定する聖子を見て、誠一は心の中で一息つく。お産の影響というのは男には分からない。
 だからこそ体調が不安だったが、心配ないようだ。
「いや、実は彼方もいいなとは思ったんだが、これにしようと思う」
 誠一はそうして、聖子が寝ている間にメモ帳に書いて隠していた名前をかざして見せた。
「……護?」
「そう。雨宮護。大切なものを護り続けながら一生を終えて欲しいという願いだ!」
 誠一は隠していたことを発表したという開放感で、テンションが上がっている。逆に聖子は冷静に名前を見ていた。傍らで騒いでいる人がいれば自分は落ち着くというのは本当だと思いながら。
 メモ帳の「護」という文字を眺める。自分の性である雨宮との呼び方の相性を探ってみる。
「姓名判断とかしたの?」
「とりあえず凶は一個もない。悪くても吉だ。不幸になる名前ではないよ」
 自分が見たわけではないが、誠一の自身を見て信じることにする聖子。普段は少し甘えたがりの夫でもしっかりすべき時はする。自分の子供が不幸になるような名前はつけない。
 だから、一つ疑問に思ったことを口にする。
「なんで『守』じゃないの? これだと防衛するって感じの護る、でしょう?」
「個人的趣味。守よりも見た目がよかった」
「見た目、か……」
 先ほど浮かんだ誉め言葉を否定しようとした聖子の耳に、誠一の言葉の続きが入る。
「やっぱり護って欲しいんだよな、俺は。守るんじゃない。護るんだ。そんな強い男になって欲しい」
 同じ言葉の繰り返しのようで、漢字は異なる。あまり強調しなくてもニュアンスの違いは理解できた。未来はどうなるか分からない。だからこそ希望を込めて名前はつけられる。
 名前とは、両親が子供に託す想いだ。
 この世界に生れ落ちてから、人生を始めるために開く扉だ。名前が付いて、人間の歩みは始まる。
「護、かぁ」
 聖子も誠一の言葉に納得し、生まれたてのわが子を見守る。
 守ると護る。
 響きは同じで、違うもの。
「いいわね。うん。私もこの子を、護って呼びたいな」
「じゃあ決まりだな。お前は今日から護だー」
 後半は愛すべきわが子に向けられた言葉。空気の振動を感じ取ったのか、まるでマネキンのように動かなかった身体がぴくりと動く。慌てて離れて口を塞いだ誠一は恐る恐る赤ん坊の姿を見る。
 ブレは一瞬だけ。再び動かなくなる赤ん坊を確認し、誠一は深く息を吐いた。
「お前は今日から護だ。よろしくな、護」
「ふふ。自分の子供によろしくなんだ」
「そうだ。生まれてくれてありがとう。よろしく、だよ」
 次に聖子に向けた視線も穏やかに。
「生んでくれてありがとう」
 何十度目になる、ありがとうを送った。
 誠一の顔に宿る幼さを久しく見ていなかったように聖子は思う。お互いに恋人の関係だった頃。結婚したての頃は外で見せることの無い甘えた声や言動を見せていた誠一だったが、聖子が身ごもってからはそれは見えなくなっていた。子供が出来たことで本格的に一家の主となることへの誠一なりの決意の表れなのかは聖子には分からない。
 しかし、今までの衝動を抑えていることも伝わってきたし、何より聖子自身が物足りなかった。子供が恥ずかしいと思えるくらいまでとは言わないが、これまで通りに甘えて欲しかった。
 二人でいる時に甘えてくる彼の可愛らしさも聖子は気に入っていたのだ。
「誠一さん」
 だから、聖子は少し夫をからかうことにした。わざと甘えた声を出して誠一の気を引く。案の定、どうした? と近づいてきた誠一の手を両手で包み込むように握り、頬に引き寄せるとすり合わせ始めた。
「え、あの、えと、聖子?」
「誠一さんとスキンシップが足りない気がして」
 これもまたわざとらしくため息をつきながら、手の甲に口付ける。
「な、なな!?」
 誠一は動揺し、思わず聖子の手から逃れた。頬は赤く染まり、目は手の甲を見ている。ちょうど、聖子がキスをした部分を。
「ふふ。子供の目に毒かしら」
「ん……さすがにまだ見えていないんじゃないかな」
 赤ん坊は目を閉じたまま。先達いわく、眼が見えるようになるのは一年、まではいかないが先の話。まだほとんど寝ているような自分の息子に、誠一は思う。
(健やかに、育ってくれよな)
 赤ん坊に微笑を向けた時、ふと眼に入ったのは乳児ベッドの前にある札。
 白く何かが描かれることを待っているそれは、何なのか想像に難くない。
「もう書いちゃう?」
「んー、とりあえず私の両親や義父さん達にも顔を見せてから発表、でいいんじゃないかな」
 聖子は身体を起こして我が子を見る。それだけで体力をかなり消耗していたが、笑顔は絶やさない。
「ほんと可愛い。私、姉の子供が凄く可愛いと思ったけれど、親の言った通りだった」
「何?」
「自分の子供が生まれたら、その子が一番可愛くなるんだって」
「そうかもな」
 二人の愛の結晶、という言葉使いはもう古いのかもしれない。
 それでも、そうとしか言い表せない。
 愛しい我が子
「護」
 優しい響きに呼応するかのように、少しだけ、護は身体を動かした。


 * * * * *


 病院から出る間、護はずっと眠っていた。ほとんどの時間を寝て過ごし、たまに泣いたところで母乳を飲ませる。その度に誠一は部屋から出て時間を潰した。自分の妻とはいえ、授乳という行為はどこか触れてはいけないことのように思えたから。
 そんな数日が過ぎて、退院の日。

 四月二十日・日曜日

「ようやく家に帰れるのね」
「これからももっと大変だろうな」
「仕事も早く復帰したい」
「無理するな」
 数週間を過ごした病院。世話になった看護婦達に見送られて二人は外に出る。春先の陽気は誠一達にも赤ん坊にも穏やかで、これから始まる彼らの人生を祝福するかのよう。
 晴れ渡る空を斜めに見上げながら、誠一は呟く。
「空って名前も良かったかもな」
「雨宮空? なんか漢字にしたら変になりそうよ」
「ならひらがなはどうだろう?」
「二人目はもう少し護が落ち着いてからにしてね」
 二人の口調は軽い。手厚い看護から離れて、今後は二人で護の世話をしなければいけないのに、心は温かさで満ちていた。夜二時や三時に泣き叫ぶ護をあやして授乳させる聖子を誠一は知っている。週末になって特別に病室に泊まらせてもらった時、明らかに寝不足でも護に笑顔を向けていた聖子。そこに誠一は母の強さを見る。
(よく、養子を取る時って審査厳しいとか言うけど、そりゃそうだよな。自分の子だからこそ頑張れることもあるだろうな)
 仕事に疲れながらも共にいる。その中で赤ん坊の夜泣きというのはかなり堪えるはずだ。昨今、テレビを騒がせている若い親の子殺しの原因を遠からず考えた、その時。
「あ、先生退院したんですか!」
 病院の敷地から出る寸前、かけられる聞きなれた声。聖子にとっては数週間ぶりに。誠一にとっては一昨日聞いた声。
「おめでとうございますー」
「赤ん坊、可愛いですね〜」
 三人の女子はいずれも高校の制服を着ていた。時間を考えると部活動を終えて帰るところだろう。誠一のクラスの生徒達は、同じくらい保険医だった聖子に世話になったという理由で度々産休の聖子の元へと訪れていた。
 三人と聖子が話しやすいように、誠一は少し距離をとる。
(女性が三人寄れば姦しいと言うが、本当にそうだな)
 騒がしさに護が起きてしまわないかと不安になる誠一。その予感は的中し、ぐずる声が聞こえたかと思うとすぐ次の段階に移行した。びゃー!と泣く護の声と共に「よしよし」と聖子があやし始める。生徒達も口々に謝罪をしながらも微笑みを浮かべながら新しい小さな命を見守っていた。まだ十代とはいえ同じ女性。いつか自分が生み、育てることになる生命を見て何かを感じているのかもしれない。
 まだ外の世界を知らない護。目も見えず耳もほとんど聞こえていない。それでも肌は病院の中から外に出た変化と、母親の匂い以外が存在していることに驚いていたのかもしれない。それも数分経てば慣れたのか、泣き声は収まった。ちょうどいい頃合だと誠一が前に出る。
「じゃあ、俺達はそろそろ行くから。きてくれてありがとうな」
「ありがとう」
 誠一と聖子の感謝に三人娘は顔を見合わせながら照れる。そのまま別れの挨拶をして離れていった。間に何か口にしていたようだが誠一には聞き取れない。聖子には聞き取れたのか、頬を緩ませて笑った。
「あいつらが何か言っていたのか?」
「並ぶとお似合い、ですって」
「最近の子供はマセてるな」
「あら。若い時の誠一さんも十分マセてましたよ」
 若い時――と言っても大学一年時のことである十年ほど前だ。それでも高校卒業してすぐ後。初めて出会ってからのことを語られると誠一は耳を塞ぐしかない。忘れてしまいたい若気の至りを聖子は忘れていない。
「誕生日にバラの花束貰ったの、初めて――」
「さあ早く帰ろう。護も早く俺達の家に連れて行きたいしな。な」
「はいはい」
 完全に主導権を握られた誠一はせめてもの抵抗で前を歩く。それでも時折横を見ては聖子の移動に支障はないか確認。タクシーが運悪く拾えなかったために少しの間あるくことになったが、結局は病院前の道で拾う。短い間だが、誠一の行動の裏にある聖子への愛情を、当人は十二分に感じていた。
(よかった。よろしくね、おとうさん)
 まだ恥ずかしくて言えない言葉を送る。今日は近くに住んでいる義父母が来る。護を寝かせてから料理の準備もしなければ。
「親父達が来てもそこまで凝らなくていいぞ? 無理して身体壊すと意味ないからな」
「やーね。私の職業言ってみなさい」
「保険医だから格好つかないってことさ」
 タクシーの中で今日の今後の予定を反芻しつつ、聖子は護の様子を見る。先ほど少しぐずったが、今は気持ちよさそうに寝ていた。タクシーの運転手も似たような状況を体験したことがあるのか、必要以上に車を飛ばすこともなく、丁寧に道路を進んでいく。
 結局、スムーズに家に辿りつく。タクシーの運転手の笑顔に見送られて、二人は久しぶりに自宅の扉を二人でくぐった。
「何か、自分の家じゃないみたい」
「でも、お前の家だよ」
 誠一が先に靴を脱ぎ、聖子の前に手を差し出す。真正面から顔を見つめ、呟く。
「おかえり」
 聖子の腕の中にある、新しい家族。その内に未来への可能性を溜め込んでいる男の子。二人の愛しい存在。
 出て行く時は二人だった。
 そして、帰って来る時は三人になった。
「ただいま」
 聖子の脳裏に去来したのは、今後生きていく三人の生活。あるいは四人か。まだそこまでは考えられない。
(まずは一人育てられないと、ね)
 護のおでこに少しだけキスをしてから、靴を脱いだ。中は聖子が病院に入った時と比べて特に変わってはいない。むしろ綺麗になっているほどだ。良く見れば床やテーブルはきちんと拭かれている。
「もしかして誠一さん。掃除ばかりしてたの?」
「ああ。夜はどうせ俺一人なら料理は作らないし。返ってきてからは掃除に時間を費やしたよ」
(変な方向に努力よね)
 半分関心、半分呆れながら胸を張った誠一を見る。最後には良くやったと誉めるのだが、それまでは無駄な方向に突き進む彼を子供を見守るように見つめている自分に気づく。
(まだまだ子供が二人かもね)
 護を出産するために入院する前から買っておいたベビーベッド。そこにはすでにタオルケットが幾枚か積み重ねられ、赤ん坊を抱きとめる準備が整っている。それも全て誠一の気遣いの結果。
「ありがと」
 傍を通った時に背伸びをして頬にキスをする。動揺している誠一を尻目に聖子は護を静かにベッドの上に置いた。一瞬だけぐずる気配を見せたが、すぐに眠りについた。
「ああ、可愛いな」
「後で沢山抱いてもらうから今は体力温存して」
 赤ん坊は母乳を飲むことと寝ることが仕事。聖子が言っているのはそれ以外の泣く時間のことだろう。
「任せとけ!」
 誠一は胸を張って言った。
「さて、まずはお義父さん達が来るのに合わせて料理作らないとね」
「俺がやるよ?」
「誠一さんはカレーしか作れないでしょ」
 聖子はそう言って台所へと向かう。その足取りは自然と静かに抜き足となった。護を起こさないための気遣い。誠一も習って後ろについていく。
「何がいいかしらね」
「久々に帰ってきたんだから、聖子の好きな料理でいいと思う」
「お義父さんとお義母さんは何を食べるかしら」
「あの二人は好き嫌いないよ」
 会話を交わしながら冷蔵庫を開けてみると、入っている材料は少ない。自分が入院する前にたくさん入れてしまうと痛むと判断し、聖子は食材をその日その日で買っていた。だから今は何も入っていないはずだと思っていた。
 それだけに、中に玉ねぎやジャガイモがあることなど意外だった。
「これって誠一さんが入れたのよね」
「ああ」
 悪びれもなく頷く。確かに二人暮らしなのに聖子に入れた記憶がないならば、誠一が犯人だろう。
「そんなにカレー食べたかったんだ」
「聖子のカレーは結婚を決めた理由の一つだからな」
「他にいくつあるの?」
「百八つ」
 どこまでが本気か他者が聞けばまるで分からない会話。しかし、聖子の顔には呆れ半分愛しさ半分といったもの。
「しょうがないわね……今夜はカレーね」
「聖子のカレー大好きだよ。もちろん聖子も」
「はいはい。私も大好きよ」
 やる気がない口調の中に、確かな愛を乗せて紡ぐ。聖子の言葉に満足したのか誠一は護の下へと歩いていった。


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