『クリスマスで意中のあの娘に告白するには?』

 俺の名前は北川潤。

 Kanonの名脇役だ。しかし人気は天野美汐に負けている。

 まあ、佐祐理さんは別格だから気にしないけどな。

 俺は今、一大決心をしていた。

 すなわち美坂に告白する、という事だ。

 もう三日もするとクリスマス。

 おそらく美坂は毎年通り水瀬の家でクリスマス会のはずだ。

 それが終わって帰るときこそチャンス!

 必ずや美坂の心をGETだぜ!

 相沢の野郎なんかには渡さん!!!

「う、うはははははははっはははははははっははああ!!!」

「何時だと思ってるんだ!」

 親父の声と同時に頭に鈍い衝撃。

 ……花瓶だ。しかも粉々だ。

「まだ、七時だろぉ……」

 理不尽だった。

 俺の意識は闇に落ちた。







『俺が主役だ!』〜クリスマス死闘篇〜







「相沢〜。今年、水瀬の家でクリスマス会するんだろ? 俺も仲間に入れてくれ」

「どうしようかな」

 ……即答で悩むんじゃねぇよ。友達だろが。

「なぜそこで悩むんだよ」

 俺は怒りを隠して、ふざけて泣きそうな顔をして聞いてみた。

 相沢は全く見ようとしないで言う。

「呼ぶメンバー結構多いからもう人は入れないかもしれないんだ」

「どんな奴等が来るんだ?」

 分かってはいたが聞いてみる。

「元から家にいるのが俺と名雪と秋子さんとあゆと真琴だろ。

 それから呼ぶのが香里に栞に舞に佐祐理さんに美汐に久瀬」

「……ちょっと待て」

「? どうしたんだ? 顔が真っ赤だぞ?」

 ああ、そうだろうよ。これが怒らずにいられるかよ。なめとんのか?

「お前! どうして俺じゃなくて久瀬先輩が呼ばれるんだぁ!」

 確か生徒会長をしていたはずだ。

 久瀬。

 名前は知らないっていうか、無い。

「なんでシナリオのチョイ役で名前さえ無い野郎が俺よりも優先的に呼ばれてるんだよ!」

「いや、だってな。佐祐理さんと舞が久瀬と和解してな。二人呼んだらついてきたんだよ」

「俺は名前だってあるし! 最初のほうは普通に学校生活に出てるだろ!?

 久瀬先輩は川澄先輩達のシナリオやってないと出てこないだろ!?

 これを見ればどちらが優先か分かるじゃないか!!!」

「……血の涙を流しながら言うな。分かった。まだ入るか秋子さんに聞いてみる」

「たのんだぞ! 絶対だぞ!!」

 俺の嘆願を聞き入れて相沢は帰っていった。

 ……今、いったいどんな時間なんだ?

「自習時間よ」

「? 美坂」

 答えてくれたのは麗しの君、美坂香里だった。相変わらず美しい……な?

「自習時間って、なんの?」

「周りを見てみなさい」

 俺は言葉通りに周りを見てみる。視線は俺に敵意を向いていた。

 机の上には教科書やノートが広げられている。

「……テスト前の勉強、か」

 俺はいたたまれなくなって教室から飛び出した。

 くっそー! なんかいつも貧乏くじ引いてるぜ。

 しかし、クリスマス会は負けないぞ相沢〜!





「皆、来てくれて嬉しいよ〜」

「叔母様、呼んで頂いてありがとうございます」

「あら、香里ちゃん。秋子お姉さんって呼んで」

「うぐぅ。おいしい。おいしい!」

「あうぅ〜。やっぱ秋子さんの料理はおいしいねぇ」

「美汐さん。ケーキにお茶って合ってますか?」

「なかなかおいしいですよ。一口どうですか?」

「あはは〜。佐祐理もこんなに料理が上手くなりたいです」

「わたしも……」

 ……賑やかな面子だ。

 久瀬の野郎は俺のしかけたトラップにはまって今頃病院のはず。

 ふふふ、なんで立ちグラフィックの無いキャラにまで遅れをとらなくちゃいけないのだ。

 それにしてもあの人、ちょっと聞き捨てなら無い事を言ったな。

 視線を移動させるとちょうど目が合う。

(……余計な事を言ったら滅殺ですよ?)

(はい【一秒】)

 素直に従う俺。

 Kanonの因果律を支配してる人に逆らうのもなぁ。

 ――と、本来の目的を果たさなくては。

「相沢ぁ!」

 俺は食べ物を食べてソファに横になっていた相沢に声をかける。

「なんだよ?」

「腹もいっぱいだろ? 俺と体を動かさないか?」

「……何やるんだよ?」

 俺は待ってましたとばっかりに荷物の中から『それ』が入れられた箱を取り出す。

「……それ」

 相沢はどうやら恐怖に声も出ないらしいな。

「そうだ。『ツイスター』だ!」



『ツイスター』



 縦横四つずつ赤青黄緑丸がシートに書かれ、ランダムに両手足を順番にその色円に置いていく。

 やがて体がこんがらがり色円から手足が離れたら負け。

 女性とやるとくんずほぐれつになるといういろんな意味で使い方が難しい遊び道具である。





「何故、ツイスターを男とやらねばならん?」

 相沢は至極真面目な顔で言ってくる。しかし瞳が言っていた。

《誰か女を混ぜよう》と

「神聖な俺達の勝負にこれはぴったりなのだ」

「だから、どうしてクリスマスと言う日に、男二人で、ツイスターを、しなければいけないんだ?」

「じゃあこうしよう」

 俺は隠していた切り札を出した。

「お前が勝ったら誰か好きな奴とやるがいい」

 その瞬間、相沢の瞳が輝いた。『観る』目から『狙う』目になったのだ。

「……その言葉、後悔するな」

「安心しろ。お前にその権利は渡さない」

 妙な熱気が部屋を満たしつつあった。





「右手、赤」

 ルーレットが回り、最初の行動が告げられる。

 ルーレットを回してるのは真琴ちゃんだ。読み上げてるのは水瀬。

 俺と相沢中心に女性陣が周囲を囲んで見ていた。

「左手、青」

 俺も今気づいたのだが、高校生の男二人でツイスターをやるのは、はっきりいって狭い。

 最初から頭を突き合わす形になってしまった。

(負けん)

(丼、丼……)

 相沢は一つ間違えば放送禁止な事を呟きながら進めている。

 俺も負けん!

「右手、黄色」

「右足、青」

「左足、緑」

「左足、緑」

「右手、赤」

「右手、青」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 そして三十分が経過した。

「う、うおおおおおおお」

「が、が、がががががが」

 俺と相沢は硬直状態に入った。

 相沢の体勢は蛙のような体勢。

 しかも両手の位置が少々股を越えて後ろに行っている。

 このゲームは一度手をついたら離れられないので手を入れ替えてタッチする事は出来ない。

「ぐおおおおおおおおお」

 後ろに倒れそうに鳴る体を背中を反って前にぎりぎり重心を持ってきている。

 しかし俺も辛かった。

 左手は後ろ手。

 両足に挟む形で右手は端の色にタッチしている。

 自分の両足で右手をキメている。

 あと数分も同じ体勢でいれば右手が危ない。

「じゃあ、次行くよ〜」

 月宮がルーレットを回す。次は俺の番だ。

 ここを乗り切れれば……。

「右手、青」

 その瞬間、俺に絶望が降り注いだ。

 俺の両足がついているのは青。

 右手がついていたのも青。

 つまり、一番遠い所にある青にしか、右手をつく事が出来ない。

「北川君。チェックメイトじゃない?」

「……美坂、男にはやらねばならぬ時がある!」

 俺は苦しい体勢でも外した右腕を口元に持ってきて親指を立てる。

 キラリーン。

 歯が光るぜ。

「外れない程度に頑張ってね」

「何が?」

「関節」

 ……悲しい。

「北川、早くしろ。俺の腕が持たん」

「そうよ! 早く行動しなさい。できないなら降参」

 ……悲しいぜ、美坂。お前は相沢を支持するなんて。

 ――やってやるぜ!

「うおおおお!」

 最後の力を振り絞り、俺は右手を伸ばした。

 届け! 届け! とどけぇ!!!!!!

 そして――





「右手、黄色」

「左手、青」

「祐一、どこ触ってるの!?」

「あ、悪い……」

 空しい。

 ……空しい。

 ……空しいぞ!

 結局こうなのかよ。

「そうなのよ」

 突然のひやりとした感触に俺は視線を巡らせた。

 美坂が俺の左手に氷を当てていた。

 結局、耐え切れなかったのは左手だった。

「まあいいんじゃない? あれ持ってきたおかげでみんな楽しんでるんだし」

 ぼんやりと俺は視線を巡らせる。

 確かにみんなわいわい騒いでいる。

 いつのまにか久瀬が佐祐理さんと川澄先輩の間に入ってるし。

「さって、わたしも混ざってくるわ」

 そう言って美坂は俺から離れていこうとした。

「美坂」

「? 何?」

「……来年もよろしくな」

「もちろんよ」

 美坂は笑みとも普通の顔とも言えない表情を俺に向けて、ゲームに向かった。

 俺は天井に視線を移してぼーっ、とする。

 まあ、今日は勝負の勝ち負けに関わらずに楽しめたからいいか。

 しかし相沢! 必ずお前に勝っていいところを見せて、美坂を恋人にしてやるぞ!!

 と決意を新たにしつつ俺は喧騒を聞きながら眠りについた。

 その直前にやはり思ってしまった。



『何故に久瀬がいるのか?』と







『俺が主役だ』〜クリスマス死闘篇〜  終幕







 おまけ

 香里「もう、相沢君たら! どこ触ってるのよ!」

 あゆ「うぐぅ〜、祐一君のエッチ〜」

 名雪「祐一、やっぱりこのスペースに四人は無理だよ〜」

 祐一「わはは! わははは! わははははははっははははははははは!!」



 北川「くかー」





 秋子「みなさん、良いお年を」




 あとがき  クリスマスSSです。  北川君メインのSSはギャグしか作れません(笑)  これをクリスマス記念として送ります。  作者・紅月赤哉