プルルルルル……プルルルルル……



 マンションの一室。



 渇いたような、電話の音が響いている。



 どこか気だるそうな少年が電話を取る。



「はい、鳴海です」



『歩か?』



「ああ、兄貴」



『製鉄株が暴落しそうだから、コロ介をザクに改造してキテ家を破壊する』



「えっ?」



『まどかにも伝えてくれ……』



 電話が切れる。歩はその場に立ち尽くした。



 まったく兄の言っている意味が分からなかったからだ。



「え……、なに……兄貴……?」



 ツー、ツー、と切れた電話の音が空しかった。









『NG集@』









 シーン1:



 歩は料理の本を顔に乗せて寝ていた。場所は学校の屋上。



 なかなか気に入っている場所だ。



 軽く眠るつもりだったが、どうやら熟睡していたらしい。



「やべ……寝すぎた」



 顔の上にある本をどけてみると、辺りはすっかり夕焼けに染まっている。



 時計を見ると午後6時。通算5時間は寝ていた計算だ。



「……そうか」



 いろいろと思う事があったが、とりあえず気にせずに先に話を進める。



「そういや、今日だっけな。二年前、兄貴が失踪した『あの日』――」



 屋上のドアのノブを握る。それだけで分かった。



 ドアは内側から閉まっていた。



「あー……?」



 少しの間、どうしようかと思っていたら勝手にドアが開いた。



 警備員が二人、歩を睨んでくる。しかし歩はその二人が警備員ではない事を知った。



「あんたね!」



「へ?」



 警察官の後ろから姿を現した女生徒が指を突きつけ、怒りの形相で歩を怒鳴りつける。



「あんたが突き落としたのね!!」



「ああ〜〜?」



 訳が分からなかった。というか女生徒がいつ出てきたのか全く不明だった。











 シーン2:



「な、なによコレ!!」



 鳴海まどかの叫びが夕飯の食卓にこだまする。



 テーブルの上にはサラダともう一つ。



「カレーだ」



 皿の上に乗っているのはチョコのようなもの。



 カレーはカレーでもカレールー。ご飯はなく直接皿に盛られている。



「そーゆーこと言ってんじゃないわよ!!」



 まどかは歩の襟元を掴みつるし上げた。歩の体が宙に浮かぶ。



「あんた今夜は地中海風ブイヤベースに山菜リゾットって言ってたじゃないのお!!!」



「が……ぐ……」



 歩の顔は一気に青白くなっていくがまどかは更に力を加える。



「サフランの香りは? わらびの食感は!?」



「〜〜〜っせーなぁ」



 歩は息も切れ切れになりながらもまどかの手を外して背を向ける。



「ガラナ党呼ばわりされた日に、そんな手間のかかるもの作ってられるか」



(ガラナ党?)



 何がガラナ党なのか? というかガラナとは何だ?



 まどかは知りたかったが年長者の意地が邪魔をしてごまかす。



「あっ!」



 まどかは歩が後ろ向きで持っているものに気づいた。



「しかもインドカレー!? いやぁ!!」



(ちっ、めざといな)



 そんな激しい言葉のキャッチボールの後で食事は始まった。







 シーン3:



 放課後、歩は音楽室に来ていた。



 置いてあるグランドピアノの一つの鍵盤を軽く押している。



(――兄貴にできない事はなかった。勉強も運動も……)



 歩は座って鍵盤に指を這わせた。



 流れるメロディ。



 ゆっくりとしたテンポに、どこか懐かしい感じがする曲感。



 思わず歩は弾き語りをしていた。



「ぼーくのおーよーぎーをみーつめていたーよー」



 歩の歌は下手だった。









 シーン4:



 歩と結崎ひよのは事件現場に来ていた。



「……あんた、遠くで針が落ちる音さえ聞こえてんじゃないのか?」



「何言ってるんですか。恋愛の話なんて同性間じゃ筒抜けですよぉ」



 ひよのは意味ありげな笑みを浮かべる。



「まあでも、私は男子のも把握してますけどね」



 そう言ってひよのは手帳を開いた。



 歩は危険な香りを感じて汗が出る。



「確か鳴海さんは以前寝言で女性の名を――」



「うあ!」



 歩はひよのの口を押さえようとしたが間違えておでこを押さえてしまった。



 その隙にひよのの口から名前が洩れ出る。



「バーバラ、と……」



(誰だよ)



 情報通なのか何なのか訳がわからんかった。









 シーン5:



 歩とひよのはカフェテリアへと歩いていた。



 ひよのの押しに負けておごる事になったのだ。



 マンションの傍を通った時、下にいた女の子が上の階にいた女の子へと声をかける。



「ゆうー」



 歩はふと女の子の視線の先を見た。



 そこにはベランダに出て女の子へと手を振っているゆうと言う名の女の子。



 きゅぴーん!



 歩の頭の中に電光石火の如く流れる映像。



 壊れた眼鏡。



 歪んだフェンス。



 目の前の土偶と話している野原瑞枝。



 ナイフを首筋へと持っていってる宗宮可菜。



 真っ赤な血で染まっている野原瑞枝の手。



「……なるほどな」



 途中、凄まじく違う映像があったような。



 ほとんどそうだったような気がしたがあえて気にしない。



「これが真実の旋律か……?」



 どこか歩の口調に力は無かった。









 続く!





 次回、遂に鳴海歩最初の事件が解決! そして新たな事件が!!(ありません)