夢  それは幻?  それとも現実?  一瞬にして現れて、同じように消えていく  夢に包まれていた少女がいた  夢に囚われていた少年がいた  一瞬の内に二人を襲った悪夢  再会への道標  終わりなき夢を終わらせるために  そして、終わらない夢を始めるために  一つの奇跡が、訪れた。  それはある『約束』と共に―― 『Little fragment』(前編)  ボクが望んだ小さな奇跡。  二度と訪れる事が無かった時間が、再びボクの中で動き出す。  眼を開けると、白い天井が見えた。 「天国……じゃ、ないんだ」  そう呟いたと思ったけど、うまく言葉が出ない。  口の筋肉が麻痺しちゃってるみたいだ。  口だけじゃない。  体が動かない。  力が、入らないよ……。  怖い。  怖い。  コワイ……。  目線だけ動かすと看護婦さんが入ってきた。  そして悲鳴をあげると廊下に出て行った。 「先生! あの娘が眼を覚ましました」  お医者の先生は凄く驚いていたけど、凄く嬉しそうだった。 「目が覚めて、本当に良かった」  ボクには分かる。先生は心からそう思ってくれているんだ。  それだけでボクは嬉しかった。  自然と涙が出てきた。  すると廊下を走る音が聞こえてきた。  ボクの耳にこれだけ大きな音が入るんだから、きっと余程うるさいんだろうな。 「あゆ!」  廊下を駆けて来た人がボクの病室に飛び込んできて叫んだ。 「おい君、病院は静かに――」 「あゆ! 良かった! 生きていて……、ほっん……と……うに……」  入ってきた人はお医者さん達の言葉を聞かないでボクのベッドに寄ってきて、涙を流していた。  その顔を見てボクは、何か懐かしい感じがあった。  ずっと、ずっと、心の中にしまっておいたナニカ……。  でも、ボクには……。 「あなた……誰?」  ボクが思った事を言った瞬間、その人の顔が驚愕に染まった。 「え……、何、言ってんだよ……あゆ……」 「あゆ……それが、ボクの名前?」  ボクはこの時初めて、自分の記憶がない事に気付いた。  何故だろう? それでもこんなに冷静だ。  この人はボクの事をいろいろと知っているんだろうか? 「この娘は長く眠っていたから記憶がないんだ」  お医者さんがその人に説明してる。  ボクは苦しそうな顔をしているその人を見るのが辛くて、一生懸命思い出そうとした。  どうしてこんなに胸が苦しいんだろう?  この人の苦しんでいる姿を見たくない。  この人は、ボクのなんなんだろう? 「――分かりました」  お医者さんとその人が話し終えると看護婦さんも、みんな出て行った。  残ったのはこの人だけ。 「改めて、自己紹介するよ」  その人は笑顔を見せた。  その顔が凄くやさしそうで、ボクは心が休まるのを感じた。 「俺は相沢祐一。そしてお前は月宮あゆ」 「月宮あゆ……」  ボクの名前。  あゆ  しっくりくる。  やっぱり忘れてても自分の名前だからかなぁ?  そしてこの人が、いてくれるからかなぁ?  お医者さん達や看護婦さんがいる時よりも、この人―― 「祐一君って……呼んでいい?」 「……そう、呼んでいたよ」  祐一君がいるから、こんなにも暖かな気持ちになれるのかなぁ? 「忘れて、ごめんなさい」  ボクは自然にそう言葉を吐き出した。  祐一君ははっとなって僕の目を見つめてくる。 「……あいこだよ」  祐一君が言った言葉は小さくて聞こえなかったけどその顔を見ると、怒ってはいないようだった。  照れくさそうに下を向いている状態からボクの頭を撫でてくる。 「……気持ちいい」  祐一君が撫でてくれるのは本当に気持ちよかった。  これも失っている記憶の中にある感覚なのかな? 「ゆっくり、思い出せばいい」  祐一君が言った。 「これから、あゆには時間が一杯ある。もし、記憶が戻らなくても、これから新しい記憶を育てていけばいい」  祐一君の手が優しくボクの頭に添えられる。ボクは動けなかった。  祐一君の瞳が、とても綺麗だったから。見とれてしまった。 「俺は、もう……」  祐一君の顔が近づいてくる。  ボクは自然に眼を閉じた。 「お前を、放さない」  祐一君の唇がボクの口に重なる。  その瞬間、風景が見えた。  大きな建物が見える。  周りに人が何人かいたけど、そこで祐一君とキスをした……気がする。 「祐一君」  唇が離れた後、彼の顔を見る。  真っ赤だった。きっとボクの顔も同じようなんだろうな。 「きっと、記憶戻るよ。祐一君の事、思い出してみせるよ!」  あまり体が動かないけど精一杯の元気を見せる。  祐一君の笑顔を見たいから。 「……ああ!」  こうして、ボクの新しい人生が始まった。  次回予告  覚醒したあゆ。  病院でのリハビリの最中に祐一はあゆの元へと通いつづける。  徐々に開けられる記憶の扉。  そしてあゆは自分を襲った悲劇を思い出し、その恐怖に押しつぶされそうになる。  はたして祐一はあゆを救えるのか?  後編をお楽しみに。
 あとがき  でもないんですが。  前後編にする長さではないんですがなんとなく切りが良いんで。  後編はなんとか「ええ話や」となるものを書ければいいと思います。  ではまたいつか〜。  作者・紅月赤哉