一瞬の奇跡

TOP



 それは一瞬の出来事でした。




 あまりにも速くて、わたしも目で追うことが精一杯でした。




 悪夢のような運命が、彼女の元を訪れ、去っていったのです……。




 彼女は呆然と力無く地面に座り込んでいました。




 わたしはどう声をかけていいか分からずに、そして周りの人々もどう声をかければいいのか分からないようで、結局通り過ぎるだけ。




 その中で、一人彼女に歩いて行く人がいました。




 そう、鳴海歩さんです。




 彼女は鳴海さんを見て困ったように笑いました。




 鳴海さんも彼女を見て苦笑いを浮かべました。




 そして、鳴海さんが口を開いたのです。




「俺の弁当、少しやるよ」




 彼女は申し訳なさそうに言いました。




「申し訳ありません……」




「しょうがない。犬だしな」




 鳴海さんは少し離れた場所を指差しました。




 そこを見ると、犬が彼女から強奪したパンを食べていました。




 それは一瞬の出来事だったのです。




 彼女の昼食のためのパンを犬が強奪していったのは。










 わたしもご飯を取られようかしら?


TOP


Copyright(c) 2006 sekiya akatuki all rights reserved.