「ザ・サード」感想文

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 別の創作サークルサイト「Rhapsody In Blue」にて書いたお題の中で「評論」を書こうとなったので、評論というか感想文書きました。


 ◇ ◆ ◇


1.要旨

 今回取り上げた「ザ・サード」という作品は富士見ファンタジア文庫から発行されている星野亮氏の著作である。
 科学技術の発展の先に起きた破滅。砂漠と化した世界で生きる人々の物語を高い描写力で描いている。本感想文は稚拙ながら「ザ・サード」という作品の魅力を伝え、願わくばこの文章を読んだ人に興味を持ってもらいあの砂漠を、世界を共有したいという意図の下書くものである。



2.「ザ・サード」の世界

「ザ・サード」の世界はほとんどの地域が砂漠である。かつて人類は宇宙を航行するほどにまで科学技術を成長させたが、その魔法のごとき技術を結集させた勃発した「大戦」と呼ばれる大規模破壊により、滅ぶ寸前まで減退する。しかし、そこで生まれてきた新種族――額に第三の瞳を持つ『ザ・サード』が特異な能力を操ることができるサードアイ【天宙眼】によって失われた超科学技術を用いて滅ぶ寸前だった人類を復興させる。
『ザ・サード』は人間達には生きるために最低限必要な食糧生産のための技術や街を形成する生体建材という技術などが与えられるが、砂漠に潜む凶暴に変化した生態系に対抗するために本来ならば違法となる武器技術が流通している。しかし、現在の人類のパワーバランスを大きく崩しかねない技術でなければ『ザ・サード』は黙認している。それは、あくまで『ザ・サード』は統治するものであり支配するものではないからである。砂漠に住む者の苦労はそこに住むものしか分からない。自分達が与えるものだけでは暮らしていけないのならある程度の自由は認めよう、という地方自治である。
「ザ・サード」が住むハイペリウス。広大な砂漠の中でぽつんと存在する都。 そこと、人間が住む砂漠。
 この二極化した世界に「ザ・サード」の登場人物たちは生きている。



3.キャラクターについて

 ここからは作中に登場する主要なキャラクターについて簡単に語る。短的に特徴をまとめて魅力を伝えたいと思う。


3−1.火乃香(ほのか)

「ザ・サード」の主人公にして無敵の居合少女。第一巻時点で十七歳。
 姿は黒髪ショートカットに黒瞳。無駄のない筋肉に小さい胸。強靭な下半身を包むアーミーパンツとコンバットブーツ。そして、額のバンダナと刀が彼女を最も良く表している。
 気を自在に操り、刀にコーティングすることで最新鋭の自動歩兵の装甲さえも斬り裂く。ある事情により育った村を追われ、引き取られたキャラバンで居合の師であり良き祖父であったウォーケンや義母レオノーラと出会い、この時から彼女の中で砂漠の中で生きる、ということへの強い気持ちが育ったと考えられる。
 性格は居合の達人ということも関係しているのか真っ直ぐなもので、プロの何でも屋として言うことはずばっと言う。だが、ホームタウンであるエンポリウムに住む少女ミリィと触れ合う時は年相応の少女の一面も見せる。
 年にそぐわぬ強靭で成熟した精神と、年相応の少女らしさが同居した正に主人公という存在だろう。



3−2.ボギー

 義母が長を務めるキャラバンのメインコンピューターから株分けされた人工知能。火乃香が幼いときから傍におり、何でも屋として独立するようになってからは砂上戦車を移動させることや金銭面などを主に担当する。
 口調は変わらないように見えるが、火乃香のピンチに自爆までしようとしたほど彼女との絆は深く強い。
 クールと見せかけて熱さがある。ここにもギャップの魅力がある。



3−3.イクス

「ザ・サード」一作目に登場した火乃香への仕事の依頼人。仕事を終えたところで火乃香たちに世話になることになる。
 金髪のセミロングに白いデューンスーツと特に普通の人間と変わらないが、「大戦」前の超科学技術の知識やヒーリング能力など常人とは違ったものを持つ。
 火乃香が淡い気持ちを抱いているが、朴念仁であり全く気づかない。物語が続く中でいつの間にか何でも屋での仕事仲間と思われるようになる。



3−4パイフウ(白虎)

 元辺境最強の暗殺者。現在はエンポリウムタウンの小学校で保健室の先生をしている。暗殺の腕は全く落ちずに、気の扱い方は火乃香に出会ってから格段に上昇した。
 整った顔立ちはあまりにも綺麗で背筋が凍るほど。豊満な胸にくびれたウエスト。形の良いヒップと彫像のようである。だが、羽織るコートの下には長いライフルが隠されていて抜く様を見せない。
 火乃香と同じく気を操り、渦巻く気流を貫いて放出する龍の気を用いて敵を倒す「龍気槍」が最高の技。
 極度の男性嫌いで何人も女性の恋人がいた。火乃香もその中の一人にしようという程度で近づき、そして想像以上の実力と魅力に引き付けられていく。暗殺者として育てられて無感動症となっていたが、小学校で子供達と触れ合うこと、そして火乃香と触れ合うことで徐々に暖かな感情を表せられるようになっている。



3−5.浄眼機

「ザ・サード」側の事実上ナンバーツー。若いながらもその能力の高さから現在の「ザ・サード」を束ねるものの後継者として注目を集める男。
 ある事情から火乃香に興味を持ち、彼女をエンポリウムへ連れて行こうと誘いをかけるも断られ続ける。そのやり取りを楽しんでいるようにも思える。
 自分達が「統治する者」だという意識は誰よりも強く、人類を守るために非常に徹するなど指導者として不足はない。


 以上、長編で主に活躍する登場人物達を上げた。



4.テーマ

「ザ・サード」から私が読み取るテーマは「生きる」である。
 長編では火乃香が次々と遭遇する危機の中で、絶望に沈まず未来を一振りの刀に託して振りぬく物語を描いている。そして彼女だけではなく、作中の人々は砂漠と化し、明日生きることさえ不確かな世界の中で笑顔を忘れることなく明日を夢見て生きている。
 また、世界を統治する役目を持つ『ザ・サード』達は自らの責を全うしようと常に己に厳しくして生きている。
 登場人物達はけして気負っているわけではない。ただ、自分達の生まれた時期を当然のことと受け止めて、ならばどうするかと考えている。
 過去は過去。それはけして消えない大きな傷だけれど、だからといって自分達が絶望に沈むことはない、と無意識にも考えているのではないかと私は読み取る。
 状況に恨みごとを言ってしまうのは、言う人物に弱い部分があるからだと私は思っている。しかし、作中で火乃香は怖さに震えることはあってもけして逃げずに立ち向かう。生きるために。大好きな人々と一緒にいるために。その凛々しさ、真っ直ぐさがテーマを引き連れていく。テーマの中に火乃香がいる。火乃香の中にテーマがある。
 正に主人公たる所以であろう。

 テーマについて残念なところは、長編が数多く出ている中、全て同じテーマであり、パターンが同じになってきていることであろう。
 大きなテーマは変わらなくてもいいと思うが、その表現手段がピンチ→「生きる!」→居合抜きというパターンになっているために、マンネリといえばマンネリである。私はそれでもテーマ自体も好きであり、同じような展開だとしても燃えることは変わらないのでいいと思う。

 以上、テーマの魅力とその短所をあげた。



5.終わりに

 今回は長編についての感想を論文形式で書いた。
「ザ・サード」には短編も存在し、そこには火乃香たち以上に魅力的な登場人物もいるが、今回は作品世界に入る取っ掛かりとして長編の感想だけにした。少しでも「ザ・サード」について知ってもらえればと思う。

 最後に長編と短編の既刊を上げる。

<長編>
 蒼い瞳の刀使い(ソード・ダンサー)
 虚ろなる幻影の墓碑(グレイヴ・ストーン)
 還らざる魂の蜃気楼(ミラージュ)
 天翔ける螺旋の乙女(フェアリィ)
 惑いの空の凶天使(ハーフ・ウイング)
 異界の森の夢追い人(プロメテウス)(上)
 異界の森の夢追い人(プロメテウス)(下)
 死すべき神々の荒野(ゲヘナ)(上)
 死すべき神々の荒野(ゲヘナ)(下)


<短編>
 いつか時が流れても
 夜明けまで
 黒髪のジャンヌ
 風のままに、歌のままに
 今日の午後は
 風花の舞う街で(外伝長編)


 以上、感想論文を終わる。


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