『音夢と初詣』


「何故だ?」
 ここは、町はずれの神社。10人に聞けば7人くらいはそんな場所あったけ? とこたえるような場所だ。
「それが、どうしてこんなに人がいるんだ?」
 そう、この場所は今かなりごった返していた。どこを見ても人、人、人。まさしくこの場所は人であふれかえっていた。
「かったりい」
 オレは、なんだか無性にめんどくさくなったので、回れ右をして帰ろうとするが……
 がしっ
 何者かに襟首を捕まれたのでそれを実行することは出来なかった。
「どこに行くんですか、兄さん?」
「よう、音夢。こんなとこで会うなんて奇遇だな」
 とりあえず、オレは出来るだけさわやかに話しかけてみる。
「そうですね。
 一緒に家を出て同じ神社に向かって一緒に歩いてきた兄さんが、いきなり帰ろうとするのを見かけるなんてすごい偶然ですね」
「いや、それはまあその……。だって、おまえ周りを見て見ろよ」
 オレにいわれた通り音夢は辺りをぐるりと見渡す。
「おまえはこれを見て何も思わないのか?」
「人がいっぱいいますね」
「だろ。かったりいだろうが」
「そうはいってもお正月の神社なんですからこんなものだと思いますけど」
 事の起こりは今朝音夢が一緒に初詣に行こうと言い始めたことだ。この初音島には神社は一つしかない。つまり、今日は島の全人口の半分くらいはこの場所に集まってるわけで、出来ればそう言う場所にはわざわざ行きたくなかったんだが、あの笑顔で頼まれるとな。アレははっきり言って凶器だ。
「だいたい、毎年行ってないのに何で今年に限って行きたいとか言い出すんだよ」
「だって、私は島の外に進学しちゃって、去年までのようにずっと一緒じゃないですし……」
 恥ずかしいのか音夢の声が段々小さくなっていく。
「それに、せっかく私がお節を作ろうと思ったのに、兄さんいつの間にかコンビニでお節セット買ってきてるし」
 当然だ。音夢にお節なんか作らしたら、正月から気分が最悪になってしまう。体調も最悪だろうけど。
「私だって兄さんとの思い出がもっと欲しいんです」
「なるほど、要するに寂しかったってわけか?」
「え……その…そうじゃなくてですね」
「あっ、朝倉くん」
 オレが図星? をつかれて何とか弁明しようとする音夢を見ていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「萌先輩……と眞子か」
 声のする方を振り向くと、着物姿の萌先輩と眞子がいた。
「朝倉くん。あけましておめでと〜」
「萌先輩もおめでとうございます」
「ねえ、朝倉。何か私の扱いがおざなりな気がするんだけど?」
 眞子が拳に炎を宿しながら聞いてくる。
「きっ、気のせいだろ」
「そう? なら良いんだけど」
 眞子が拳をおろしたのを確認して、オレは胸をなで下ろす。こいつの拳は音夢の次に強力だからな。
「それはそうと、まだ言ってなかったわね。あけましておめでとう」
「おめでとう」
「そう言えば、弟は来てないのか?」
 たしか、萌先輩と眞子の下にもう一人弟が居るって前話してた気がする。この2人の弟だからぜひ見てみたかったんだが……。
「あの子はですね〜」
「調子に乗ってお屠蘇飲み過ぎちゃって酔っぱらってるから、家においてきたのよ」
「実は、そうなんですよー」
「なるほど」
 実は、オレにも経験があったりする。
「今日は、妹さんと2人で初詣ですか?」
「ええ、まあ」
「ところで、音夢どうしちゃったの?
 さっきから真っ赤な顔してうつむいて、ぶつぶつ言ってるけど」
 真子に言われて音夢の方を見てみると、音夢はまだ立ち直っていなかった。
「まさか朝倉、着物姿の音夢についに我慢出来なくなって……」
「朝倉くん、大胆ですー」
「んなわけあるか!」
 萌先輩もいったい何を想像したんだ?
「ふーん。そう」
 眞子が音夢の方へと近づいて話しかける。
「音夢、音夢」
「アレ、眞子……。あっ。あけましておめでとう」
「うん。おめでとう。それより音夢、朝倉があなたの着物姿が可愛くないって」
「…………」
「おい、待て! そこまでは……」
 ぴくっ
「そこまでは?」
 やっ、やばい! 音夢の怒りゲージをさらに上げてしまった。くっ、眞子めなんて事しやがる。さっきの仕返しか?
「……まあ、私なんて、可愛くも何ともない、ただの目覚まし代わりのお節介な妹ですから」
 音夢がこめかみをピクピクさせながら、依然聞いたことのあるセリフを呟く。
「そんな私が着物なんて着ても、そりゃあ可愛くないとは思いますけど?」
 にっこりと笑いながら言う音夢。その笑顔が恐怖を数十倍に膨れさせる。
「ごめんなさい。可愛いです」
 オレに残された道は泣きながらそう呟くことしか残されていなかった。


 アレからもなんだかんだあったが、ようやくオレたちは最前列まで辿り着いた。
「音夢。おまえは何を頼むんだ?」
「にっ、兄さんにだけは絶対に言いません」
 音夢が顔を赤らめながらこたえる。
「そう言う、兄さんこそ何を頼むんですか?」
「オレか? オレはな……」


1「もちろん『世界が平和でありますように』だ」
2「『このまま、音夢とずっと居られますように』かな」
3「こういうのは人に言うものじゃないだろ?」
 
 何故選択肢が? まあ、無難に3だな。


「こう言うのは人に言うものじゃないだろ?」
「だったら、私にも聞かないでください」
 音夢がふくれっ面をしながら文句を言う。
「私は、兄さんのことだからてっきり『世界が平和でありますように』とかいうかと思いました」
「そっ、そんな分けないだろ」
 オレは選択肢の一つを当てられて少し動揺しながらこたえる。
「なに動揺してるんですか? それより、早くすませないと後ろの人に迷惑ですよ」
「それもそうだな」


 ぱんぱん


 賽銭を投げて手を叩いた後祈る。願い事は

(みんなが、元気で暮らせますように)



あとがき
みすず「あけましておめでとうございます」
美春「あけまして、おめでとうです!」
みすず「今回初のダ・カーポSS。キャラの口調や正確が微妙に違うのは気にしないでください」
美春「美春が出て無いじゃないですか〜」
みすず「ホントは全員出る予定だったんだけどね」
美春「だったら、きっちり出してくださいよっ!」
みすず「ほら、予定は未定って言うし……」
美春「そんなこと聞きたくありません」
みすず「こんど、バナナパフェでも奢るから」
美春「ホントですか!? 約束ですよ! 絶対ですからね!!」
みすず「そんなこんなで、このSSは終了させていただきます」
美春「ああ、魅惑のバナナパフェ……。待っててくださいね」




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