E-listBBSSearchRankingPlaytown-DominoGo to Top

ゴースト・トラブル

 

 

「鳴海さん、鳴海さぁん!」

ガタンというドアを思い切り開ける音と共に現れたのは二年の結崎ひよのだった。

「な、なんだよ。あんたは!?教室まで来るなって言ってん・・・・・・」

「それどころじゃないんです!」

バンっと何かの書類の束を鳴海の机の上に置く。

「・・・・何だこれは?」

――嫌な予感がする・・・・・。

この二年の結崎ひよのにつきあうと、ろくなことにはならない。

分かってはいるのだが聞かずにはいられなかった。

「よくぞ聞いてくれました、鳴海さん!私はてっきり『面倒だ』とか何とかいって相手にしてくれないものかと・・・・・。やっと私の日頃の努力が報いる日がきたんですね!鳴海さんがここまで快く引き受けてくれるなんて、私は嬉しい・・・・・」

「ちょ、ちょっと待て!誰も引き受けるなんて・・・・」

「それじゃぁ、今日の放課後新聞部に来てくださいね!来なかったら―――」

そこで制服の胸ポケットから何かを取り出す。

「分かってますよね?」

にっこりと微笑みながら取り出したのは、ペンは剣よりも強し、あのメモ帳だった。

「・・・・・・・・・・・わかった」

 

 

 

「で?何なんだよ。それは」

授業が全て終わり、部活に入っていない生徒ならばもう校門をくぐっている時間だ。

「ふっふっふっ。聞いて驚かないで下さいよ」

怪しげな笑い方をしながらひよのは自信気に話す。

「いいからさっさと話せ」

「む〜。鳴海さんはほんっとうにノリが悪いですね〜」

「いいから話せ」

ひよのはまだ何かいいたそうだったが、気をとりなおして書類の束を机の上に置く。

「最近学校で騒がれている噂の検証をするんです」

「噂?」

「知らないんですか?鳴海さんて本当興味ないものには疎いですよねぇ」

「ほっとけ」

たいして気にした様子もなく言う。

「で、何の噂の検証なんだ?」

「七不思議です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「な、何ですか!?その顔ぉ!?あ、またバカにしてますね!って、ちょ、鳴海さん、待ってくださいよ〜」

「離せ!そんなくだらんことにかかわってられるか!俺は今日新メニューに挑戦するんだ。離せって!」

「うっ・・・・・・・・。ひ、酷いです、鳴海さん・・・・」

ひよのは床になよなよと倒れこむ。

「この三年間、雨の日も風の日もいっしょーーーー懸命に鳴海さんに尽くしてきたのに、この仕打ち・・・・・。酷すぎます!」

「あんたと会って一年も経ってないだろうが!ったく、もう帰るからな」

鳴海がドアを開けたときだった。

「これは何なんだ!!!」

ゴン!

『〜〜〜〜〜っ』

「あら、これはこれは浅月さん。どうなされたんですか?」

「・・・どうなさったじゃねぇよ!!」

額を抑えながら浅月香介がひよのに詰め寄る。

「これはあんたの仕業だろ!!」

「あら、やっぱりお嫌いではないんですね。となると、後は何が・・・・」

浅月の手にはおもちゃだと思われる蛇が握られていた。

「蛇が大丈夫ならクモですか?足がないのとたくさんあるのどちらかが苦手なはずですから・・・・・」

「・・・・・・何をやったんだ、あんたは」

鳴海があきれた声でひよのに問う。

「あぁ、いえ、浅月さんの弱点を探ろうと思いまして・・・・・。蛇を机の引き出しの中に入れて・・・・」

「だからって教科書全部取り出してまでいれるか!入りきれなくて椅子の方にまで落ちてたぞ!」

「・・・・・・・・・・・」

「分かりました。今度はロッカーの方に入れて置きますね」

「殺すぞ、てめぇは!!」

「・・・・・帰るぞ」

と、鳴海がドアを再び開けようとしたときだった。

「?」

ガタガタ

「鳴海さん?」

ガタガタガタ

「何してんだよ、鳴海弟」

「・・・・・開かない」

「は?」

浅月がすっとんきょな声をあげるが、ひよのは瞳を光らせて立ち上がる!

「やっぱり!鳴海さんに協力を申し出て正解でした!」

『・・・は?』

鳴海と浅月が声をそろえてひよのを見る。

「この学校の七不思議の一つ、開かずの扉!」

「・・・いや、それ意味違――」

「さぁ、早速検証しましょう!幽霊の気が変わらないうちに!浅月さんも手伝ってください!」

「な、何で俺が・・・・」

「何で幽霊の気を気にしなきゃいけないんだよ・・・・・」

ひよのはもう止まりそうにもなかった。

新メニューはあきらめるしかないな・・・・。

鳴海がそう思ったときだった。

「で、どうすればいいんでしょう?」

『・・・・・・・』

どうして俺はこんなにも不幸なんだ・・・・・・・・。

鳴海はなんだか泣きたくなった。

 

 

カチカチと時計の音が響く。

誰も話さないからだ。

蛍光灯の電気が時々点滅している。

「・・・なんか、つまんないですね」

『・・・・・・』

「そうだ、ババ抜きでもしませんか?」

『・・・・・・』

「あ、しりとりとかどうですか?」

『・・・・・・』

「・・・もう。なんで黙ってるんですかぁ?」

「・・・この状況で何を話せと?」

「・・・・・まったく。もうこんな時間じゃねぇか。今日は理緒の見舞いに行くように言われてたんだぞ?あんたのせいで・・・・」

「ちょっと、何で私のせいなんですか?」

「あんたが俺の引き出しにあんなもん入れなかったらこんなことにはならなかったんだよ!!」

「あぁ、姉さんにまた怒鳴られる・・・・・」

「理緒に怒鳴られる・・・・・・」

ひよのは頭を抱え込んで机に突っ伏す二人を交互に眺め、言った。

「・・・・似てますね。二人とも・・・」

『一緒にするな!!』

「あぁ、もうなんで開かないんだよ!」

浅月がガタガタとまたドアを開けようとする。

もう誰も七不思議のせいだとは思っていなかった。(もともと思っていたのはひよのだけなのだが)

「あんたがドアを荒々しく開けるからだろ?」

「・・・・・なんだよ。俺の生だって言いたいのかよ。鳴海弟」

「・・・前々から思ってたんだけどな、その弟って呼び方止めろよな。鳴海だけでいいだろうが」

「弟だから弟って言ってるだけだろ」

「だからそれを止めろっていってるだろ!」

「ケンカしてる場合じゃないですよぉ!」

『誰のせいだと思ってるんだ』

「うっっ・・・・」

またもや沈黙が流れる。

いつまで続くのだろうか・・・・・。

誰もがそう思ったそのとき――――――――

ガンガン!!!

『!』

ドアがいきなり揺れ始めた。

ガタン!ガン!ガタガタガタ!

『・・・・・・・・』

三人がドアを離れて見守る。

ガターン!

最後にひときわ大きな音を出した後、それは止まった。

「・・・・ま、まさか本当に七不思議の?」

「そんなバカなことあるわけ・・・・・・・」

ドガン!!!

ガラン、と音を立ててドアが手前に倒れた。

全員が身をすくませ、壊れてしまったドアを見つめる。

見るも無残な形に変形している。

ゆっくりと、視線を上げていく。

そこにいたのは―――

「やっぱり・・・・。ココにいたのね、香介・・・・・!」

額に青筋の浮いた高町亮子だった。

「香介、あんた・・・・。今日は理緒んとこに行くって言うから一緒に行ってやるって部活まで休んだってのに・・・・!何遊んでんのよ!!!」

「ちょ、ちょい待て。俺は遊んでたわけじゃ・・・・」

「問答無用!!!」

       

 

 

「そ、それじゃぁ、気をつけて・・・・」

「ふん」

すたすたと高町は向こうの通りの角に消えていく。

その手には哀れな浅月の服の襟を掴んでいる。

ほとんど失神状態でひきずられている。

街灯がその姿をうつし出していた。

「・・・・・何か、そう嫌な奴でもないなとか少しだけ思ったぞ。俺は・・・・」

「・・・・すごかったですね。あんなにお強いなんて思いませんでした」

ほんの少しだけ浅月に親近感を覚えながら、鳴海は星がまたたく空をみつめた。

――今日もさんざんな一日だったな・・・・・。

 

 

ただいま、と言おうとしたときだった。

「いやぁーー」

「!」

「姉さん!?」

今から義姉の声が聞こえる。

「どうしたんだ!?姉さん!」

「歩・・・」

「・・・?何かあったのか?」

見たところ姉には何の以上も見られなかった。

ただ今にも泣きそうにしていることしか分からない。

「?」

困惑しているその時――――

『さぁ、今度はあなたのところに来るかもしれません。どうぞ、お気をつけて・・・・・』

ちゃらら〜とテレビから音楽が流れる。

「・・・・・」

「歩!何であんたこんなに遅いのよぉ!」

「・・・さっきの悲鳴はこれか?」

テレビの番組はどうやら怪奇特集もののようだ。

「そうよ・・・。あんたがいなくってお腹すいてて気を紛らわそうとテレビつけてたらこれがあって・・・・・」

「・・・・・叫ぶぐらいなら見るなよ」

「だって!目が離せなかったんだもん!」

「・・・・・・・」

今日は厄日だ。

頭を抱えながら鳴海は思った。

 

 

 

おまけ

 

「香介君、おっそ〜い!」

「・・・・まったくだ」

「・・・なんであんたがいるんだよ。ラザフォード」

「リオにこれを持ってきただけだ。リョウコ」

そう言ってラザフォードが指したのは網目模様のメロンだった。

「それよりも、その傷はどうしたんだ?」

「あ、ホントだ。どうしたの?香介君」

「・・・・・・・別に」

「?」

「まぁ、大体想像はつくがな」

「え〜?どういうこと?」

「どうだっていいでしょ。そんなこと。・・・って何?その雑誌」

「あ、これ?アイズ君が、暇だろうからってもって来てくれたの」

「なになに?『怪奇特集〜学校の七不思議〜』ラザフォード、あんた何持ってき・・・・」

「だぁぁぁぁぁ」

「こ、香介君!?」

「香介?」

学校なんてもううんざりだ・・・。

頭を抱えながら浅月は思った。

 

 

 

・E・N・D・